〖remember〗Who's "Route"?
【まえがき】
“誰の道なんだ?”
少女は昔から、家の中で遊ぶよりも、外で遊ぶ方が好きだった。何をするでもないけれど、外を駆けまわったりするのが好きだった。
友達はみんな家の中でおままごとをしたり本を読んだりして過ごしていたが、その中でその少女だけは、外遊びに夢中だった。
親の目には、外遊びをすることは健康的で印象よく映ったが、一部のごっこ遊びなどに対して嫌悪感を示すことが、気がかりでならなかった。
ある時、父が尋ねた。
『お外で遊ぶのは好き?』
少女ははっきりと即答する。
『うん! 好き!』
予想通りの答えだった。悟られぬよう努めながら、質問を重ねる。
『おままごとはしないの?』
少女はまた、朗々と言い切る。
『いっつもお父さん役だから、嫌ー』
父は探りを入れる。
『お母さん役、やりたい?』
少女は表情を曇らせて、言葉を濁す。
『んんー……。それより外で遊ぶ方が楽しいから……』
その答えに、父は心配と期待半々の感情を抱いたが、それは徐々に期待に支配されていった。やはり、親というフィルターの補正は根強い。
*****
幾数月が経って。
少女の週末はいつも、父と山に登ることで消化された。綺麗な風景の写真を撮ることが父の趣味だった上、学校の宿題で日記を書かなくてはいけなかったので、少女にとってみれば好都合だった。何よりも、外出して自然とともにあることが、その少女にとっての幸せであることに変わりはなかった。
比較的険しいと評される山々も、少女にとってみれば遊び場に相違ない。
そうして毎週毎週と山に通っているうちに、少女は少しばかり顔の知れた存在になった。
そんなある日のこと。少女と父はいつものように山登りに行っていた。
所は、山の中腹あたりだった。
下山してきた父と少女が休憩をとっていると、登山中の男性が、二人の隣に腰かけた。
「君、いつもすごいね……。おじさん、もうへとへとだよ……」
「はははっ! おじさん、コーチなのにダメダメだね!」
「ははは……。若いっていいね……」
その男性は、登山をトレーニング用のコースの一つとして利用する、スポーツインストラクターだった。毎週通い詰めていた少女は、同じ道を行くその人といつの間にか親しくなっていたのだった。
単に、お弁当を交換したと言う縁で懐いているだけかもしれないが。
「ねぇ、お父さん。休憩、もういいでしょ!」
「いやー……。もう少し休ませてくれ……」
「ははは! 本当に元気だねぇ、君は! 見ているとこっちまで元気になってくるよ」
そうやって、自然と距離が縮まる。焦らずゆっくりと、煮詰めるように親睦が深まる。
山とはそういう場所だった。
少女も幼いながらに、それを理解した立派な登山家の一人である。
「えぇー。先行っちゃうよー」
「それは危ないからダメだ」
頬を膨らますことはあっても、そう言われれば少女は自制し我慢する。
学校でも、先生の言うことはよく聞き、善悪の判断もきっちりと付けられる。少女は、所謂『できた子』なのだ。
そんな様子は、親睦が深まれば自然伝わってゆく。
指導者の瞳にはさぞかし、美しく映ったのであろう。
「ねぇ。もしよかったら、うちのチームに混ざってみないかい?」
「おじさんのチーム?」
「そうさ。おじさんはこんなでも、チームは強いぞー!」
「そうなんだ」
愛想で受け応える少女は、コーチの話にあまり興味がなさそうだった。話の中身を覗いてみれば、あるいは変わるのかもしれないが。
好奇心が薄れていることに勘付いたのか、コーチは話を逸らされないうちに結論を急ぐ。焦燥のために口早になってしまうが。
「登山も軽々とこなしちゃうし、おじさんにお弁当を分けてくれる優しさもある。前に、お父さんから聞いたけど、テストも毎回百点だって言うじゃないか。それに、軸のぶれない歩き方……。どれをとっても、逸材だよ!」
少女は頭の上に「?」を作って、首を傾げてしまう。コーチの剣幕に当てられたというよりかは、意味を理解しての疑問符だろう。
それを聞いていた父が、簡潔に要約する。
「すごい素質があるから、チームに来ないか、だってさ」
結局は、コーチの言った結論に帰結した。
未だ「?」が消えない少女に追い打ちをかけるように、コーチが放言する。この場合、父に追い打ちをかけていることになっているかもしれない。
「楽しくなかったら、全然、すぐ抜けてもいい! その間までの月謝も入会金も、全額免除にするよ! これは登山家のよしみもあるし、君の才能を見込んでのこともある! 一度でいいんだ! やってみてはくれないかい?」
コーチの本気度が通じたのか、父は少し考えた。
答えなど、考えるまでもなく決まっていたが。
「どうだい? やってみるかい?」
父は少女に問うた。
子供に好きなことをやらせて、伸びるものはとことん伸ばしたいという、純粋な親心がそうさせた。
昔から外遊びが好きだった少女。その遊びは駆けっこだったり、それこそかくれんぼだったりした。けれど、その遊びには明確なゴールはない。だからこそ、終わりが無くていいのかもしれないが、遊びは永遠ではない。
そこに、目標を設けることによってどうなるのか――はたまた、突き抜けてどこまでも行ってしまうのか、それを見てみたかったのかもしれない。
少女の答えは、思案の外早かった。
「やって、みたい……かも」
次の瞬間、やまびこが歓喜の声を告げた。
そうして少女は、新しい世界を知ることになる。
【あとがき】
いつも通りのサブエピではありません。
最初から読んでくださっている人は「?」な内容だったと思います。
これから、物語はどんどん発展していきますので、頭をゆっくり整理しながら読んでみてください。




