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ルートモストマック  作者: うさブルー
   三章《また始まりに戻っても。》
63/165

〖decide〗僕を演じる。私が演じる。

【まえがき】

始まりました、新章です。

今回はアカデミー生活初の「文化祭」あたりからのお話となります。

前回加わった仲間サクラを筆頭に楽しい時間が長く続きそうです。


では、冒頭部を先行公開です!




 

 



「ふふふっ! かわいいね。やっぱりドレスも似合うよ」

「も、もう。やめてよ……」

 白霧が立ち込める舞台の裏で、仰々しくも華やかな衣装に身を包んだ二人の少女が、他愛もない話をしていた。暗がりに映えるスパンコールが、役を待つ周囲の者の貧相な様相を際立たせているとも知らず。

 それでも端役の者達は、誰一人として不満を述べようとはしなかった。やはり納得し、理解し、協力しているからなのだろう。

 二人は、すぐそこに控えた出番を、二段三段と高くなっている袖で待つ。

 少女のうち一人が、沈黙を埋めるように小声で言う。

「別にしてもいいよ」

 ステージの状況を逐次確認していたもう一人の少女は、その言葉の意味を瞬時に理解することはできなかった。首を傾げ、訝る。

「なにを?」

 端的な答えは、少女の微笑みとともに彼女の心を貫いた。


「キス」


「――っ!?」

 思わず声になりそうな心の声を、これでもかというブレーキを盛大にかけて喉に留める。あまりに勢いが強かったせいで、若干噎せてしまった。

 劇にノイズが入ることが危惧されたが、ちょうど魔女が咳払いをするシーンだったので、事なきを得る。

 事なきを得るかどうかわかるのは、これからだろうか。

「ちょ、ちょっと!? 変な事言わないでよ……っ!?」

「あははははっ。ごめんごめん」

「全く……」

「でも、本当にしてもいいよ。そっちの方がリアルだし?」

「こらっ!」

「ごめんごめん。……あははっ!」

 そうして落着する間隙に彼女が口にした「私からしちゃうかも」という言葉は、令嬢の高笑いと観客のどよめきに埋もれて消えた。

 その令嬢が役目を終えて、舞台裏に戻ってくる。

 慣れない高笑いをしたせいで、喉をやられたらしかった。水を探そうと裏口から出て行ってしまった。声がしわがれていたのと、衣装を着たままだったというのも相俟って、おおよそカルト研究会の一員だった。

 続けて、メイドも戻ってくる。

 こちらは、普段出さない大声を出したせいで疲弊した様子だった。メイドはメイドらしく、令嬢の行き先を聞いて、舞台裏から出て行った。

 その様子を見ていた二人の少女は、顔を見合わせて笑う。

「おかしいね!」

「うん。そうだね」

 笑顔の理由は同じだった。


「「全然演技じゃない!!」」


 そして二人はまた、堪えつつも笑った。ノイズにならないように声を殺すと、肩が震えた。お腹に力を入れて、互いが互いに凭れかかった。頼り頼られ、支え合うかのように。互いに足りないものを補いあうかのように。

 二人の笑顔は、太陽の如く舞台裏を明るく照らす。舞台裏が舞台裏でなくなってしまうほどに。

 そんな二人に、スポットが当たる(とき)が近づいてきた。

 二人が登場する時、二人は離れ離れだ。それでも、物語が進むにつれて、近づいていく。そうなる結末を知っていても、知っていなくても、二人は二人を演じられるだろう。そう思わせるような演技を、彼女は――彼女らはしてきた。

 不変の正しさなど知る由もない身上、彼女たちの選択は正しかったとは言えない。

 それでも、二人は笑っていられた。

 何かが巡って今があるという必然こそが、きっと、幸せの正体なのだから。

 絶望を知ってこそ、希望はあるというもの。あるいは、涙を流したものだけが笑顔になれると言うこと。だから人は、生まれてくる時に涙する。

 その後だってそう。

 生まれ、育ち、泣く。それは、泣いた分だけ笑顔になれるよう。

 今の二人の笑顔はきっと、過去の涙の裏返し。



「それじゃ行こう。お姫様!」




【あとがき】

まだ「?」な内容でしたね。

私自身の中でも、今章は最も感情移入をした部分だと思います。百合度もかなり高めです(年齢制限も結構きわどい)。まだまだ先入観が抜け切れてない方や、偏見を捨て去れていない方は特に、すべてが覆される三章になるんだと思います。


冒頭部は本編にも深くかかわってくるので、熟考してお待ちくださいませ。

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