〖decide〗僕を演じる。私が演じる。
【まえがき】
始まりました、新章です。
今回はアカデミー生活初の「文化祭」あたりからのお話となります。
前回加わった仲間サクラを筆頭に楽しい時間が長く続きそうです。
では、冒頭部を先行公開です!
「ふふふっ! かわいいね。やっぱりドレスも似合うよ」
「も、もう。やめてよ……」
白霧が立ち込める舞台の裏で、仰々しくも華やかな衣装に身を包んだ二人の少女が、他愛もない話をしていた。暗がりに映えるスパンコールが、役を待つ周囲の者の貧相な様相を際立たせているとも知らず。
それでも端役の者達は、誰一人として不満を述べようとはしなかった。やはり納得し、理解し、協力しているからなのだろう。
二人は、すぐそこに控えた出番を、二段三段と高くなっている袖で待つ。
少女のうち一人が、沈黙を埋めるように小声で言う。
「別にしてもいいよ」
ステージの状況を逐次確認していたもう一人の少女は、その言葉の意味を瞬時に理解することはできなかった。首を傾げ、訝る。
「なにを?」
端的な答えは、少女の微笑みとともに彼女の心を貫いた。
「キス」
「――っ!?」
思わず声になりそうな心の声を、これでもかというブレーキを盛大にかけて喉に留める。あまりに勢いが強かったせいで、若干噎せてしまった。
劇にノイズが入ることが危惧されたが、ちょうど魔女が咳払いをするシーンだったので、事なきを得る。
事なきを得るかどうかわかるのは、これからだろうか。
「ちょ、ちょっと!? 変な事言わないでよ……っ!?」
「あははははっ。ごめんごめん」
「全く……」
「でも、本当にしてもいいよ。そっちの方がリアルだし?」
「こらっ!」
「ごめんごめん。……あははっ!」
そうして落着する間隙に彼女が口にした「私からしちゃうかも」という言葉は、令嬢の高笑いと観客のどよめきに埋もれて消えた。
その令嬢が役目を終えて、舞台裏に戻ってくる。
慣れない高笑いをしたせいで、喉をやられたらしかった。水を探そうと裏口から出て行ってしまった。声がしわがれていたのと、衣装を着たままだったというのも相俟って、おおよそカルト研究会の一員だった。
続けて、メイドも戻ってくる。
こちらは、普段出さない大声を出したせいで疲弊した様子だった。メイドはメイドらしく、令嬢の行き先を聞いて、舞台裏から出て行った。
その様子を見ていた二人の少女は、顔を見合わせて笑う。
「おかしいね!」
「うん。そうだね」
笑顔の理由は同じだった。
「「全然演技じゃない!!」」
そして二人はまた、堪えつつも笑った。ノイズにならないように声を殺すと、肩が震えた。お腹に力を入れて、互いが互いに凭れかかった。頼り頼られ、支え合うかのように。互いに足りないものを補いあうかのように。
二人の笑顔は、太陽の如く舞台裏を明るく照らす。舞台裏が舞台裏でなくなってしまうほどに。
そんな二人に、スポットが当たる刻が近づいてきた。
二人が登場する時、二人は離れ離れだ。それでも、物語が進むにつれて、近づいていく。そうなる結末を知っていても、知っていなくても、二人は二人を演じられるだろう。そう思わせるような演技を、彼女は――彼女らはしてきた。
不変の正しさなど知る由もない身上、彼女たちの選択は正しかったとは言えない。
それでも、二人は笑っていられた。
何かが巡って今があるという必然こそが、きっと、幸せの正体なのだから。
絶望を知ってこそ、希望はあるというもの。あるいは、涙を流したものだけが笑顔になれると言うこと。だから人は、生まれてくる時に涙する。
その後だってそう。
生まれ、育ち、泣く。それは、泣いた分だけ笑顔になれるよう。
今の二人の笑顔はきっと、過去の涙の裏返し。
「それじゃ行こう。お姫様!」
【あとがき】
まだ「?」な内容でしたね。
私自身の中でも、今章は最も感情移入をした部分だと思います。百合度もかなり高めです(年齢制限も結構きわどい)。まだまだ先入観が抜け切れてない方や、偏見を捨て去れていない方は特に、すべてが覆される三章になるんだと思います。
冒頭部は本編にも深くかかわってくるので、熟考してお待ちくださいませ。




