最終対決(N)
⑦窒素です。
『で……? その作戦とやらはそろそろ功を奏したのか?』
緊迫した状況ではあるが、犬飼颱は萬捫に訊いてみた。そもそも作戦とやらがなんなのか知っておきたかったのだ。
『いいや、今回は単純に俺のミスで失敗した。悪かったな』
萬捫はできればここで、どのような作戦でどのような効果を狙ったのか、そこまで解説してやりたかったが、状況が状況である。TPOをわきまえなかったがためにこのような事態を巻き起こした身としては、無意味に出しゃばるのははばかられた。
ちなみに作戦はこうだった。
窒素酔い――。高分圧の窒素を吸入すると発症する。
窒素酔いの典型的な症状は、多幸感と総称される精神の高揚状態である。窒素中毒の影響が強くなるに従って、楽観的あるいは自信過剰といった傾向が強くなり行動に慎重さが失われる。(一部インターネットページより抜粋)
これによってまず冷静な判断能力を鈍らせ、それからじわじわと酸素分圧を下げていく。こうして呼吸困難に陥れるというのが今回の肝だったが、なかなかどうしてうまくいかないものである。
作戦は見事に失敗――か。
『これより次なる作戦へ移行しようと思う』
フィールドが凍りついているのをみてから、欲張り詐欺師は慎重にいった。
『……早くしろ! それとも牽制として、カマイタチでも撃てばいいのか』
どうやらそうとう焦っているらしい。そのように察してすぐに指示を出した。
『カマイタチはダメだ。技とするにはあまりにもレベルが低すぎるし、それにこちら側の手札をさらすことになりかねない』
『だったら物理的な攻撃は避けたほうが良いのか?』
このようにして作戦を練っていると、
「どうしました? そちらから来ないのなら私から行きますよ」
畄嗣覇阿が挑発をしてきた。
『おい、どうする……』
犬飼颱は取り乱しているが、萬捫はさほど慌てていなかった。
というよりもすでに彼は、畄嗣覇阿の能力を分析し終え、最適解を導き出していたのである。
いくら悪魔界トップセブンとはいえ、欲張り詐欺師のように自己の能力を披歴したがらない者もすくなからず存在する。そして最上級の才色兼備も積極的に能力を開示するタイプではなかった。
だから……である。
だからこそ萬捫は、行き当たりばったりで、イチからプランニングをしているのだ。臨機応変に即決即断で、命令を下している。
そして今度の作戦は、奇妙奇天烈にして奇抜な発想だった。奇抜――まるで奇をてらったかのような案。
『畄嗣覇阿は光の速度で動けるんだよな? だったらとりあえずグーパンしとけ』
グーパン。グーでパンチ。
畄嗣覇阿が攻撃を仕掛けてきたら、グーでパンチをしろというのだ。




