戦闘終了(前)
「やっべ、今から学校に行っても遅刻じゃんかよ」
霊体は――現身とはちがって回復が早い。そのため婀崇姆出嫗朱の能力、『憑依』を受けて、限界近くまで能力を引き上げられた犬飼颱も、叩き起こされたくらいで目を覚ますことが出来た。
「もう、起きるのが遅いよ。颱ー!」
ほおを膨らませて――というのは、いささかマンガチックな表現だが、それでもほおを膨らませるようにして、桜乃舞子は怒った。
「べつに良くねーか? 学校の一日や二日、サボるくらい」
「良いわけないでしょ!? 言い訳しないの!」
そんな彼女の説教を無視して、
「ふあーあ、眠ぃ」
と、彼は大きなあくびと伸びをして。
すぐ近くで昏睡している萬門のところへと歩み寄る。あるいは死んでいるのかもしれない。
「こいつがそもそもの元凶っぽいよな。なんかムカつくぜ」
半身を横にする姿勢で眠っている萬捫を、何度か軽く踏みつけているうちに(嫌がらせで足跡をつけるため)、匕首をみつけた。
「匕首……?」
なんでこんなものがあるんだと、首をかしげつつも、彼はそれを拾い上げる。
「血は――どうやらついていないようだ。使用されなかったのか?」
そんなことを口に出すうちに。
犬飼颱は重要なことを思い出したし、重大なことを思い出せなかった。
重要なこと――嗟嘆と戦っていたということを思いだし。
重大なこと――嗟嘆を打倒したということを忘れていた。
「そういや嗟嘆はどうなったんだ? それに傍観者である、第三者の三人はなんでぶっ倒れているんだ?」
部僂是武舞。
婀崇姆出嫗朱。
萬捫。
――第三者の三人である。
「わかんない、私はずっとピアノを弾いていたから」
そんな質問に対して。
桜乃舞子は曖昧な返事をした。
たしかに彼女は舞台袖にいたし、舞台裏にいた。
舞台裏にいながら秘密裏に、というか表沙汰になっていないだけだが、犬飼颱+婀崇姆出嫗朱のツーマンセルを相手に、かたちはどうあれ勝利しているのだが。
裏側に――悪くいえば裏技に徹しすぎたせいで、彼女はその事実を知らないのである。




