嗟嘆の恐怖⑪
「それよりさ。もしかして、一人じゃ怖くてお風呂にも入れない感じなの?」
【もしそうなら、やっぱり嗟嘆の能力は……】
「ああ、その通りだ」
きっぱりと断言する颱。
なぜか誇らしそうでもある。
「その通りだから、トーイを洗わせてくれないか?」
「一人じゃ無理、か……」
仕方がないわね。
彼女は腕を組みながら、
「とりあえず、服脱いで」
と、いった。
中二の女子が――
中一の男子に――
いけないことを……いった。
「忠告しておくけど、これはセクハラじゃないからね!?」
「お前は恥じではなく、恥じらいを知れ!」
案の定。
怒鳴られた舞子。
まあ、普通はこうなる。
「大丈夫。私も脱ぐから」
「はああ?」
「ただし……」
颱の視界が突然、なにものかで覆われた。目元を覆う遮蔽物はなんだかごわごわした手触りで……。
「タオルを巻くことが条件」
「…………っ!」
有無をいわさず、これからスイカ割りでもするかのように。
彼の顔面の一部に。
タオルが巻かれた。
巻かれた――。
あのときとはちがい――巻きつかれたのではなく。
無機物が巻きついた。
それは、蛇ではなくて、タオルだった。
「蛇……。蛇、亜丹」
蛇亜丹。
ふと――彼の脳裏を。
死という文字が通りすぎていった。
蛇亜丹と死が結びついたのだ。
そして。
過去編のときに付きあっていた彼女の姿が、鮮明に、繊細に、浮かび上がる。
血を抜かれて、解体される彼女の姿が。
真っ暗闇で。
「う……うわあーっ!」
颱はいきなり――
発狂し始めた。
「ぬぅわあ。怖い怖い怖い怖い……」
「どうしたの? 落ちついて……」
「うわあーっ! 殺される、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。うぎゃあぁあぁー!」
【…………まさか、トラウマが蘇ったの?】
【どうすればいい?】
【こんなときの対処法……は、なに?】
【思い出せ、思い馳せ、思い寄せ、思い出せ、思い馳せ、思い寄せ、思い出せ、思い馳せ、思い寄せ、思い出せ、思い馳せ、思い寄せ、思い出せ、思い馳せ、思い寄せ、思い出せ、思い馳せ、思い寄せ】
【思いを馳せて、思いを寄せて、思い出せ!】
【………………】
【思い出した】
【ゴールさんのいっていた言葉】
「待って下さい。自縛霊さん。今のあなたでは、戦わなくても勝てませんよ」
「戦うとか戦わないとか、そういう次元ではないのです」
【戦わなくても勝てないって、どういうこと?】
【戦わなくても……勝てない】
【戦っても勝てないではなく――戦わなくても勝てない】
【まるで――勝負ごとなんて、最初から存在しないみたいな言い方じゃない】
【勝ちも負けも、ない?】
【そういう次元では、ない?】




