嗟嘆の恐怖⑩
いっていることのニュアンスなら、辛うじて伝わるが、それでもなにをいっているのか、颱にはわからなかった。
恐怖を具現化したとか、具体化はしてないとか、二律背反の事象を述べているようにしか聞こえないのである。
とにもかくにも意味がわからないのだ。
「煙に巻くなよ。もっとわかりやすく説明してくれ」
「そういわれても……。あっ、そうだ」
舞子はあることを思い出した。
それは、颱が萬捫との修行をしたときに。
辺流負壊寤唹瘻がいっていたこと。
『死の恐怖を味わい続けても平気なくらいの、壊れたメンタルをつくらないと、嗟嘆とは戦うことさえ出来ないわ』
【それは……】
【このときのための布石だったのではないか】
【最初から死ぬつもりで――残したヒント】
【だとすれば、】
【この考え方はまちがっていない!】
おおむね合っている、はず。
「俺に悟りを開けっていいたいのか? 死の恐怖を味わい続けるだのなんだのって」
舞子が辺流負壊寤唹瘻の遺言を教えると、颱は首をかしげた。
「うーん、なんだろ?」
舞子も仮説をたてることしか出来ていない。
「でもあいつは、幻覚でも幻想でも幻像でもなく、ちゃんとした登場人物として存在していたはずだぞ……」
「うん? なにか思い出した?」
「ああ。なんつーか、嗟嘆と会話した」
「会話? どんな会話?」
舞子は。
訊きながら思案する。
【もしも――嗟嘆が……】
【嗟嘆という登場人物が……】
【過去の過ちにまで言及していたのならば】
【トラウマを蒸し返したことになる】
【だから過去について、少しでも触れていれば、嗟嘆の能力は精神破壊とかになるのだろうが……】
【その真偽は……】
「貴様とは戦うまでもない。ただし能力は使ってやるとかいってたな……」
【過去、関係ない!】
【関係なかったよ!】
彼女は落胆しつつも、思案は続ける。
【でも――】
【戦うまでもないとか能力を使うとか――】
【戦わないで勝つということは……】
【精神的に相手を倒すという意味なのだろうか?】
【精神的に相手を倒すといっても、これまた意味がわからないのだが……】
【せめて姿形さえ、認識できていれば……】
【…………】
【………………】
【……………………っ!?】
【す……進んでない】
入浴どころか、脱衣所でめちゃくちゃ話し込んでいるままだった。
【たぶん十分くらい脱衣所で話しをしてた】
と。
いうことで。
「そろそろお風呂に入ったら?」
「脈絡ねえな。いきなり風呂の話かよ」
「期せずして長くなったけど、そっちが本題だからね」
「それもそうだが、そういえばいつから話が逸れたんだ?」
たしか。
トーイを洗う洗わないで、議論していて。
それから。
「まあまあ、そんなことはどうでもいいじゃない」
尺がもったいないから、巻いていこう。
と、
舞子は早々に切り上げた。




