スクリュー回転の理由
沈まないための更なる工夫は、結論からいえばスクリューの要領である。
全身を高速回転させて、水中に推進力を生み出し、その力によって浮いていたのだ。そしてその回転は武器にもなるし、防御にもなる。
これが犬飼颱が回転している理由。
だが――それでは出美亜丹に疑問が残ってしまう。
なんで遠距離戦をしないのか、である。
これは単純に、相手の頑丈なウロコにはカマイタチなど利かないと思ったからである。
カマイタチを使って、体力を無駄に消耗したくない――だから、賭けに出た。
賭博師の父親と同じように、賭けに出た。
ただし、わざと負けるつもりはない。
あのときと同じように――
負けたら、死ぬ。
死んだら、消滅する。
「ガリガリガリガリガリガリ……」
と、ウロコを削る音が響く。
独楽のように回転して、風力を増強させたまま。
犬飼颱は回り続ける。
ついでに水をまとわせて。
回転をより円滑にするため、水分を潤滑油としてまとわせて。
摩擦熱の発生を防ぎ、止まることも止められることもなく、高速回転を続ける。
「ガリガリガリガリガリガリ……」
ただし……。
削っているのは、犬飼颱だけではない。
出美亜丹も――相手の体力、気力、精神力を削っていた。
削ぎ落として、削減して……。
「…………なんか、回転力が、弱まってきたような……」
犬飼颱の脅威も軽減して――半減していた。
それは――彼女が削っている、心理的な作用も影響していたが、もっと明快に、物理的に回転を妨げられていたのだ。
いわゆる――抗力。
『エネルギー』には、ほぼ確実に抗力がはたらく。
自転車が一定のペースでペダルを漕がないと等速直線運動を持続できないように、磁石には反発する極と 引きあう極があるように……。
抗力は平等に、均等な力で発生する。
そしてこの場合の抗力。
――自然さえも見方につけたのに、なお抗う力。
それは……水である。
彼は決定的なミスをおかしていた。
水中戦において、出美亜丹は最強とうたわれている。その出美亜丹に水中戦を申し込んだのだ。勝ち目は薄くなろうというものだ。
いくら『水上』とはいえ、そんなことなど、彼女にとっては、ハンディキャップにもならないのだ。




