水上戦・犬飼颱VS出美亜丹
仮定だが、もしもこの作戦を出美亜丹が見破れていたのだとして、そしたら彼女はどこに着眼を置いていたのか。
それはマジックのような芸当、マジカルのような演出。奇跡のような奇術。いわゆる――水面歩行や水上浮遊のトリックであった。
ファンタジーのような能力が実在している以上、トリックだのレトリックだのと表現するのはあまり適切ではないが、あえてそう表現するならば、やはりトリックの種こそが彼の作戦そのものであった。
犬飼颱は短時間だけなら風と同化できるようになった。しかしそれでは、水上浮遊は出来ても水面歩行は難しい。
だから風になって歩いたのではない。
風を――それも人間一人が浮くほどの風力をつくり出し、奇術を成功させていたのだ。
局所的な突風、である。
自然界――霊界とは区別して人間界と呼ばれるが、そこには微風であれ、強風であれ、突風であれ、台風であれ、とにかく風が吹いている。
その風を取り込んで、集積して、圧縮して、つま先や土踏まず、それにカカトから放出し、浮いていたのだ。
が、それだけではない。
それだけでは浮かない可能性が残ってしまう。
ゆえに。
付加要素として。
回転を取り入れたのだ。
「なんかしゃべろや、忠犬蛇公があー!」
「(忠犬じゃないよ。蛇だから)」
爬虫類に退化したため、出美亜丹は声が出せない。だから頭のなかでツッコんでいた。
「忠犬じゃねーだろ、蛇なんだから!」
「…………」
それにしても、と出美亜丹は思う。
いや、さっきの自己完結型漫才のことではない。
――戦闘のことだ。
絡みついたところまでは良かった。だけど、締めつけがうまくいかないのだ。
「なんで、まわってるの?」
声にならない声で、独楽のように回転する犬飼颱に話しかける。
「たしかに巻きつきにくいけど、でもそれが嫌なら遠距離戦をやれば良かったはず。なんで、回ってるの?」
彼女は首を傾げることしかできなかった。




