水中戦・犬飼颱VS出美亜丹
全長約百七十センチ。太さ約百センチ。
そんな巨体がぎゅうう……と。
締めつける。
しだいに痛みも薄れてくる。
「ぐうう……」
それでも、骨が折れないように反抗する。
「うぬうっ!」
血管を浮かべながらの必死な抵抗も、まるで暖簾に腕押しだった。
「ふんっ!」
犬飼颱はカマイタチで外側を、それを身にまとわせて内側を切り裂いた。頑丈な怪物にはほとんど効果がないようだったが、それでも締めつけの力が弱くなった。
彼はあわてて、束縛から抜け、距離をあけた。
腕は神経がマヒしているのか、動かせなかった。
「化け物め……」
毒づいて、河原へ走っていく。
「ふーっ……」
水辺から離れて、ため息をつきながら、
「この状況、どうしたものかなあ」
と、思案してみる。
化け物は追ってこないが、のんびりもしていられない。なにか仕掛けないと、たちまちやられてしまいかねないからだ。
石ころでもぶつけてやろうか。
そんな遊び心も芽生えたが、逆上されて襲ってこられても困る。
まだ相手は悠々としているのだ。この間に作戦を練らないといけない。
さて、どうしたものか。
まず、相手は蛇だ。
――人間に擬態もできる悪魔的な蛇。
では、ふつうの蛇を相手にしたときには、どう対処すればいいのか……。
尻尾を持って振り回す。そうすれば咬まれずにすむらしい。
しかし、今回は無理がありそうだ。
出美亜丹の身体が大きすぎる。
では次の案。
蛇は獲物に巻きついて全身の骨を砕いてから、被食者を丸飲みにするという。ときには自分よりも体格の勝るニワトリすらも飲み込んでしまうことがある。
犬飼颱も全身の骨を壊されそうになったばかりだ。
だからこそ、だからこそ。
巻きつかれて。
抱きつかれて。
壊されてしまおう。
相手が、
巻き疲れて。
抱き疲れて。
壊されてしまうまで。
耐久勝負を挑むのだ。
勝ち目は逆境を乗り越えた先にある。
風は、水に沈むことがないのだから。




