《番外編:レイズ&ジーク&ガレット》
「──もう無理だ。レイズ、俺は限界だ」
私が病院の執務室で会議の資料を整理している時です。
扉を開けるなり、ガレットさんがふらふらとした足取りで私の座る机に手をつきました。
その後ろから来たジークさんも精根尽き果てたような顔。
「どうされました、お二人とも」
「どうもこうもあるかよ……」
ジークさんがげっそりした顔で長椅子に崩れ落ちた。
なにかあったんでしょうか?
「俺は新作の歩行器の納品に行っただけだぞ。それだけのはずだったんだ」
「俺は非番だから付き添っただけ……なのに、なんだあの空気は……!」
2人は、うんざりだという顔で、深いため息。
そして、さっと立ち上がると寸劇を始めました。
「セラフィー、今度の地方視察の時、そこにある別邸に泊まらないか?」
「えっ別邸ですか!?」
「あぁ。腕の良い料理人がいる。甘いもを作るのも大得意だ」
「わぁ、私その地方に行ったことがないので楽しみです!」
「満腹になってすぐに寝るなよ?夜、俺に寂しい思いをさせるな」
「もう、ヴァレン様!!」
ガレットさんがヴァレン様役で、ジークさんがセラフィー様ですね。
俯き加減で恥ずかしそうに頬に両手を当てるセラフィーに、ヴァレン様が髪に口づけを落とされています。
「つらい!つらい!独り身の俺にはつらすぎる!!」
「ほしい!俺も可愛い彼女が欲しい!ヴァレンの甘ったるい顔が憎い!」
「まぁまぁ2人とも、紅茶でも飲んで落ち着かれてはどうですか?」
紅茶の準備を始めると、なぜか2人が私に対して期待の眼差しを向けてきました。
きっと、仲間が欲しいんですね。
「なあレイズ、お前も大変だろ。甘ったるいあれを間近で見てるんだから」
「そうだぜ。あの変貌っぷり……お前もなにか言いたいことがあるだろ?」
「……いえ、私はむしろ、日々幸せな気分にさせていただいております」
「「は?」」
2人の声が、見事に重なりました。
信じられないようなものを見る目で私を見つめてきます。
「ヴァレン様が笑うようになられたのが、私はとても嬉しいんです。あまり感情を出さないタイプでいらっしゃるので」
そう、ヴァレン様は公爵家嫡男としての責務を全うしてまいりました。
ヴァレン様は成長するにつれ背も高くなり、それに加えあのご容姿──
女性達がほおっておくはずないですよね?
しかし、ぐいぐいくる女性たちにヴァレン様は少しもなびきませんでした。
……ドラヴェン公爵家の女性陣に囲まれて育ったヴァレン様。心中お察しします。
そんな時に出会われたのがセラフィー様です。
「お二人には申し訳ございませんが、私にとってあの光景は、何よりの癒やしなのです。そして、巻き込まれる貴方たちがいてこそ、あの微笑ましい光景が完成するのだと思います。感謝しております」
「お前、絶対いい性格してるよな……」
私が笑顔で返すと、ジークさんは遠い目をしながら、出された紅茶を飲み始めた。
ガレットさんは今後もこれが続くのかと、魂が抜けている。
「……まじかよ、いつまでこれが続くんだよ」
「ガレット、諦めろ。ドラヴェン家に巻き込まれたんだから、しょうがない」
今、頭の中にはきっと、エルヴィラ様の顔まで浮かんでいるだろう。
2人は諦めたようにため息をつくと、同情の眼差しをこちらに向けてきた。
「お前もあてられるだけじゃなくて、早く彼女ができるといいな」
「私、来月に入籍しますけど」
「「は?」」
再び叫び出す2人の光景を眺めながら、私は会議の準備を進めるのであった。
今日も平和ですね。




