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三姉妹。美香と光子と優子の物語  作者: リンダ


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227/230

春介とはるみのお泊まり会。そして環奈と塁の結婚式

玄関でアキラと美香が手を振る。

美香「ほんなら、春介・春海は今夜おねえさんちにお泊まりね」

春介「おとまり しゅる〜!」

春海「しゅる〜!」

アキラ「暴れすぎたら即・ビデオ通話やけん」

二人「はーい!」


――(お風呂はぱぱっと終わりました)――


パジャマ姿でリビング再集合。髪はタオルでくるん。

優子「ドライヤー選手権、はじめます!」

光子「ぶおーの音が小さい方が勝ち」

春介「ぶおー(小声)」

春海「ぶおぉ〜(でかい)」

優子「それは台風。減点」

光子「でもかわいいけん加点」

二人「やったー!」


次は歯みがき。

優子「上・下・奥、しゃかしゃか〜」

春海「しゃかしゃか できた〜」

光子「春介、鏡見て“キラッ☆”」

春介「きらっ☆(どや)」

優子「合格。口、ぺー」

春海「ぺー!(なぜか拍手)」


布団を二部屋に敷く。

光子「こっちは“みつこ&はるすけチーム”」

優子「こっちは“ゆうこ&はるみチーム”」

春介「こっち チャンピオン!」

春海「あっち も チャンピオン!」

優子「平和に二チャンピオン制採用」


絵本タイム。

光子「今日は“さんらいず列車”の絵本」

春介「がたんごとん!」

優子「ページめくるたびに効果音は一回だけね」

春海「いっかい!(二回言う)」

優子「可愛いから無罪」


電気を暗くして、「おやすみ」を言う……はずやった。

春介「おやすみ ぎゅー」→光子にぎゅっ

春海「おやすみ ちゅっ(エア)」→優子にエア投げキッス

優子「命中〜。ありがとう」

光子「うれし泣き警報、発令」


――十分後。


春介、縦寝から横寝へワープ。

光子「え、回転早すぎん?」

ドーン! 小さな足がほっぺに着地。

光子「ふごっ(でも笑顔)」


同時刻。

春海、布団エスケープ→逆さま寝→星型。

優子「ちょ、待って、顔にドーンは反則!」

春海「どーん!(満面)」

優子「いったぁ……でも優勝可愛い」

(危ない蹴りはお腹あたりでセーフ。股間はガードしとるけんご安心を)


夜更け。

光子「春介、あったかいね」

春介「おねえしゃん ふかふか」

優子「春海、手ちっちゃ……反則級」

春海「はんそく ちゅよい」

優子「それは違うけど合ってる」


ふと静かになる。

窓の外の風が、カーテンをちょいと揺らす。

光子は小声で「おやすみ、明日も楽しかごと」

優子も小声で「うん。お泊まり、最高やね」


最後に、二部屋から同時くしゃみ。

春介&春海「へっくちょ!」

光子「シンクロ率100%」

優子「全国レベルのくしゃみ」


——こうして、ちびっ子の足ドーン攻撃とエア投げキッスに挟まれながら、

おねえさんコンビは頬っぺた痛いのにしあわせ満タンのまま、ゆっくり眠りに落ちた。




夜中。

豆電球がぽわっと灯っとう部屋で、ふとんの山がむくっと動いた。


春介「おねえしゃん……おちっこ〜」

春海「おちっこ、もれりゅ〜……はやく〜」

優子「起きたと? よしよし、いこいこ。急ぐけん手ばつなご」

光子「はい、みつこの“夜勤隊”出動〜。スマホの灯りつけるけん、足元気ぃつけてね」


廊下にちょこちょこ足音が二つ。

トイレの前で、二人がぴたっと整列。


光子「よし、順番ね。しゅんすけが先、春海があと」

春介「せんせい(←先頭)だいじょうぶ!」

優子「足台ここ置くよ。あ、スリッパ左右逆やけど、今は“急患”やけんセーフ」

春海「きゅうかん! ぴーぽー(小声)」


——ちょろろ……(がんばった音)


春介「でた〜!」

光子「えらかね〜。じゃ、紙びりっとして、ポイ。はい、流します——ピッ」

春海「つぎ、わたち」

優子「はいどうぞ。春海も上手よ。ゆっくりでよかけん」


——ちょろ……ちょろちょろ……(がんばった音・小)


春海「できたー!」

優子「上出来! スタンプ3個分!」

春海「さんこ!(ガッツポーズ)」


優子「はい、手ば洗お。上・下・あいだ、しゃかしゃか〜」

光子「泡流して、タオルでトントン。指の間までよ」

春介「きらっ☆(手、見せる)」

春海「きらきら〜」


帰り道。

優子「寝ぼけ顔がかわいすぎて反則やん」

光子「ほんとね。ほっぺ、白玉やもん」

春介「しらたま すき」

春海「あした たべる」

優子「はいはい、まずは寝てからね」


ふとんに戻って、毛布を肩までかける。

光子「春介、ぎゅっとする?」

春介「ぎゅー(小)……ねむねむ」

優子「春海も、ここ。ほら、手つないどこ」

春海「て、あったか」


豆電球の明かりがやわらいで、呼吸がゆっくりそろっていく。

光子「夜の“救急トイレ作戦”、無事完了」

優子「よか仕事やった。じゃ、おやすみ」


春介「おやすみ……おねえしゃん、だいすき(むにゃ)

春海「だいすき(小声)」


二人のすうすうが重なったころ、廊下の空気もすっと落ち着いた。

ドアがコトと閉まる音だけが、やさしく夜に溶けていった。





朝六時の「めざまし作戦」—足裏こちょこちょ大作戦


朝六時のカーテンのすき間は、静かに白く光っていた。休日の朝を満喫するつもりだった光子と優子は、布団に顔までうずめて、二度寝の甘い沼に沈んでいた。ところが、春介と春海は、きっちり朝の鐘に合わせて目を覚ました。二人の瞳は、狩人のようにきらきらしていた。今日の獲物は「まだ寝ているおねえさん」である。


まず、春介は光子の部屋へ忍び込んだ。彼は小さな足音を音符みたいに落としながら、ベッド脇に近づいた。

「おねえしゃん、まだねとる……」と囁いた春介は、そっと光子の肩を揺らした。


光子は、夢の国から名残惜しそうに寝言を持ち帰った。

「う〜ん……ラーメン大盛り……替え玉お願い……」


春介は眉を八の字にして首をかしげた。

「おねえしゃん、ここラーメン屋やなかよ」


それでも光子は、麺の湯切りをする手つきで、枕をふにふにしている。春介は作戦会議を一秒で終えた。彼は布団のはしをめくり、光子の足の裏に指先をそっと差し入れた。

「めざましさくせん、かいし! こちょこちょ〜!」


光子の笑い声は、目覚まし時計より効果的だった。

「きゃははははっ! ちょ、や、やめて! 起きる起きる!」

春介は満足げに胸を張った。

「ミッション、せいこう!」


同じころ、春海は優子の部屋で、慎重に枕元をのぞいていた。

「ゆーこおねえしゃん、まだねとるね〜」

彼は小さな頬をふくらませ、優子の耳にふーっと息を吹きかけた。優子は夢の中で仙台の屋台へ寄り道していたらしい。

「ふにゃ〜……笹かま、うまいにゃ〜……」


春海は両手を腰に当てて、優しい叱責を与えた。

「おねえしゃん、笹かまやなかよ」


それでも優子が“ずんだ無限大”の国へ帰ろうとするので、春海は決意した。

「おねえしゃんめざまし さくせん、かいち!」

彼は布団の端からするりと入り込み、優子の足の裏に指をすべらせた。

「こちょこちょ〜!」


優子はベッドの上で見事な前転を決めた。

「ひゃはっ! ちょ、待って、笑う、笑うってば!」

春海は胸を張って宣言した。

「おきたら やめる!」

「言い分が正しすぎる!」と優子は笑い泣きで白旗を上げた。


廊下には、左右の部屋から「きゃはは」がシンクロして飛び出した。光子は息を整えて、春介の頭をわしゃっとなでた。

「おはよう、春介。朝から元気やね」

「おはよ〜。きょう なにたべる?」と春介は期待に満ちた声で尋ねた。

「替え玉じゃなくて、ホットケーキにしよ」と光子は即答した。

春介は星を数えるくらい真剣に頷いた。

「さんまい!」

「二枚から相談しよ」と光子は妥協案を提示した。


一方、優子は春海を抱き上げて、すべすべのほっぺをむにっとした。

「おはよう、春海。目がきらきらで反則やん」

春海は即座に本日のトッピング方針を通達した。

「ほっとけーきに ばなな のっける!」

「採用。顔洗って、“朝チーム”集合ね」と優子は親指を立てた。


洗面所では、歯ブラシの「しゃかしゃか」が合唱になった。キッチンでは、ボウルの「ぐるぐる」とフライパンの「じゅう」が即興セッションを始めた。光子は春介に粉まぜ隊長を任命した。

「春介、まぜまぜ、頼んだ」

「まぜまぜ〜、ぐるぐる〜」と春介は円の中に夢を描いた。


優子は春海にフルーツ部隊長のバッジを渡した。

「春海はバナナ担当。のせてから食べるやけんね」

「のせてから たべる!」と春海は口を半開きにしながら自制心をがんばった。


こんがり焼けたホットケーキが皿に並ぶと、部屋は一気に甘い朝へと切り替わった。バターはやわらかく溶け、メープルは日の出みたいに広がった。春介はフォークを握って、じっとホットケーキを見つめた。彼は、一番初めの一口を慎重に選んだ。春海は、バナナの半月をきれいに並べてから、満足げに頷いた。


「いただきます!」と四人は同時に声を揃えた。最初の一口は、表彰状みたいに誇らしく、次の一口は、仙台の風みたいにやさしかった。


光子は、焼き色の端っこをかじりながら言った。

「朝から“金賞級”やね」

優子は、メープルをすこし追いがけしながら笑った。

「笹かまは夜のごほうび。今朝は甘さで優勝」


春介は満足げにお腹をポンと叩いた。

「おねえしゃん、おきて よかった?」

光子は、うん、と大きく頷いた。

「うん、こちょこちょで起きる朝、さいこうやん」


春海は空になった皿を大事そうに抱えて言った。

「あした も、ほっとけーき?」

優子は首をかしげて、いたずらっぽく微笑んだ。

「明日は“おにぎり優勝”かな。起き方しだいやけどね」


このようにして、二人の「めざまし作戦」は見事に成功した。休日の寝坊計画は笑い声の中で解散になったが、甘い朝は、きっちり全員で山分けできた。カーテンのすき間の光は、四人の食卓に丸い輪っかを落とし、家の中の「おはよう」を、金メダルみたいにきらっと輝かせていた。





来週土曜は“けっこんちき”?—ちびっ子参列ミッション準備会


リビングのカレンダーに、光子は赤い丸をつけた。

「春介、春海。来週の土曜、なんがあるかわかる?」


春介は首をかしげて、胸を張った。

「けっこんちき?」

春海もすぐさま追随した。

「けっこんちき、いく〜」


優子が微笑みながら頷いた。

「正解。お母さんのお友達の“環奈お姉ちゃん”と“塁お兄ちゃん”の結婚式よ。二人も来てくださいって招待きとるけん、おめかしして行くばい」


春介の目がきらっとした。

「おめかし、する! ぼうたい つける!」

春海はくるっと回ってポーズ。

「わたち、きれい する。きらきら する」



ミッション①:あいさつ訓練


光子「まず、“おめでとうございます”の練習ね。ゆっくり、はっきり」

春介/春海「おめでとーございましゅ!」

優子「“ましゅ”が愛おしかけど、本番は“ます”。“おめでとうございます”」

春海「おめでとうございまつ……ます!」

春介「おめでとうございます!(ドヤ)」


光子「上手。次、“よろしくお願いします”」

春介「よろしく おねがいしましゅ!」

優子「かわいさ合格、発音は要修正」



ミッション②:行進&おじぎ訓練


廊下をバージンロードに見立てる。絨毯の端にテープでスタートとゴール。

優子「ここを“とことこ”歩いて、ここで“ぺこり”」

春介「とことこ。ぺこり!」

春海「とことこ。……ぺこり(角度90°)」

光子「角度がプロやん。60°でよか」

春海「ろくじゅっど!(なぜかもう一回90°)」



ミッション③:手はこう! 口はこう!


優子「新婦さん見たら“わぁ〜”はOK。でも“うぃんく×3連射”は禁止。ハイパー誘惑ウィンクは1発まで」

春介「いっぱつ!(指を一本)わかった」

光子「投げキッスはエアで“ちいさく”。会場が沸くけん」

春海「ちいさく、ちゅっ(エア)」


優子「**ブーケは見て楽しむもの。振り回さない」

春海「ぶんぶん しない(真顔)」



ミッション④:リング運び(模擬)


光子は小さなクッションに輪っか(紙リング)を置いた。

「落とさんように、ゆっくり歩くよ」

春介「はこぶ!(一歩ずつ、真剣)……せいこう!」

春海「わたちも!(二歩目で紙リングをつまみ食いしそうになる表情)……たべない」

優子「自制、えらい」



おめかし計画


優子「春介は白シャツ+サスペンダー+蝶ネクタイ。靴はピカピカに磨く」

春介「ぴかぴか する! つやつや する!」

光子「春海はワンピースにカーディガン。髪はちょい三つ編み」

春海「みつあみ、くるくる(自分で空を編む)」


優子「二人とも、“披露宴ひろうえん”って言える?」

春介「ひろうえん!」

春海「ひろう……え、えん!(がんばった)」

光子「乾杯はジュースでね。“かんぱーい”は大声OK」

春介/春海「かんぱーい!」



予行演習・総仕上げ


廊下の端からとことこ行進→ぺこり→小声で“おめでとうございます”→ちいさく手を振る→退場。

春介は胸を張って敬礼も足す。

光子「敬礼は可愛いけど、今日は“紳士モード”で」

春介「しんし!(背筋ピーン)」


春海は仕上げにちいさなエア投げキッス。

優子「良い角度。気持ち100、動き15%」

春海「じゅうごぱーせんと!(覚えたての単語を喜ぶ)」



カレンダーに星マーク


光子は赤丸の上に星シールを一枚貼った。

「二人が立派にできたら、星をもう一枚。帰ってきたら“ありがとう”のモナカもある」

春介「やる! ほし、にまい!」

春海「もなか、はんぶんこ」

優子「約束。半分こね」


春介が春海の手をつないで、満面の笑みで宣言した。

「はるみ、けっこんちき、たのしみ!」

春海も力強くうなずいた。

「たのしみ! きらきら、する」


リビングの窓から差し込む昼の光が、カレンダーの星をきらりと光らせた。

結婚式ミッションは、すでに半分成功している。

本番の日、二人の「おめでとう」は、きっと会場のいちばんやわらかい場所に、そっと着地するはずだ。





晩秋の白い約束—宗像塁と橋下環奈の「おめでとう」作戦


晩秋の空は薄いガーゼみたいに白かった。光子と優子は朝いちばんで美容院に入り、鏡の前で静かに息を整えた。スタイリストの手がすべって、前髪がやわらかく光る。仕上がりを確認した二人は、黒の礼服に袖を通し、胸元のコサージュをまっすぐに直した。


玄関では、優馬(お父さん)と美鈴(お母さん)が最終チェックをしていた。

お父さん「うん、よし。姿勢も顔も“お祝い顔”やね。気ぃつけて行きなさい」

お母さん「塁くんと環奈さんに、よろしく伝えてよ」

優子「了解。写真もいっぱい撮ってくるけん」

光子「“おめでとう”の角度、研究してくる(にやり)」


足元では、蝶ネクタイをつけた春介と、白いカーディガンの春海が、ピカピカの靴先を交互に見せ合っていた。

春介「きょう、けっこんちき! しゅんすけ、しんし!」

春海「わたち、きらきら!」

優子「二人とも、完璧。行こっか」



式場到着—“おめかし部隊”上陸


式場のロビーは、白と金の飾りが落ち着いた光で揺れていた。受付の花は小さなベルみたいにうつむいて、いい匂いをこぼしている。


スタッフ「本日はようこそ。ご準備はよろしいですか?」

光子「はい。宗像塁さん、橋下環奈さんのご招待です」

優子「こちら、春介/春海も同行です」

スタッフ「お二人、すてきなおめかしですね」

春介「ぴかぴか です(胸を張る)」

春海「くつ、つやつや です(足を出す)」


受付横で、二人は**“おめでとうボード”**に小さな星のシールを貼った。

光子「じゃ、練習通り。“おめでとうございます”を、ゆっくり、はっきり」

春介/春海「おめでとう……ございます!」

優子「合格。発音が“ます”で止まった。やればできる」



ドアが開く—静かな音楽と、はっきりした誓い


チャペルの扉がすべり、宗像塁と橋下環奈が、柔らかい光の中を並んで進んだ。空調の風がドレスの裾を少しだけ持ち上げて、鈴の音みたいに小さなざわめきが広がる。


光子(小声)「わぁ……きれいやね」

優子(小声)「塁くん、顔つきが“夫”になっとる」

春介(小声)「うぃんく、いっぱつ?」

春海(小声)「きょうは いっぱつ だけ!」

光子「ここは心だけ。目で“おめでとう”ね」

春介/春海「(こくり)」


誓いの言葉は、驚くほどまっすぐで、嘘が一粒もなかった。指輪が光って、ゲストの拍手が、秋の空気にきれいに溶けた。



ちびっ子の出番—“ゆっくり、はっきり、角度60°”


挙式のあと、ガーデンでのフォトタイムが始まった。

司会「それでは、新郎新婦へ、かわいいゲストからひとこと!」

優子「行ってらっしゃい。練習通りね」

光子「角度は60°、声は“やさしく大きく”」


春介と春海は、手をぎゅっとつないで前に出た。

春介「むなかた るい おにいちゃん、はしもと かんな おねえちゃん——」

春海「けっこん、おめでとう ございます!」

二人「いつまでも、なかよし でいて ください(ぺこり)」


環奈「もう、天使すぎて泣くやろ……ありがとう」

塁「今日いちばん効いた“おめでとう”やった」


ここで春介が、約束の**ハイパー誘惑ウィンク(1発)を小さく発射。

春海はエア投げキッス(超ミニ)**をそっと添えた。

会場「きゃ〜!」(拍手が可愛いの倍音で鳴る)


優子(小声)「規定内! ナイス運用!」

光子(小声)「動き15%、気持ち100%。完璧」



披露宴—「甘さは控えめ、祝福は大盛り」


披露宴会場では、テーブルの花がささやくように揺れていた。乾杯の声が重なって、グラスの縁が小さく震えた。

司会「ご友人代表で、小倉姉妹よりお祝いのことばを」

優子はマイクを両手で持って、ゆっくり笑った。

優子「塁くん、環奈さん。二人の“まっすぐ”に、何回も救われてきました。

今日は“ありがとう”を、おめでとうに包んで返しに来ました。

どうか、笑いの多い家を作ってください。

困ったら、うちら呼んで。出張で笑わせに行きます」

光子「追記:皿洗いと子守りもセットで行きます。料金は“楽しい思い出”で後払い」

会場「(どっ)」(いい笑いが丸く転がる)


乾杯は、ジュースで合わせた。

春介/春海「かんぱーい!」

光子「果汁100%の祝福、投下完了」

優子「甘さ控えめ、幸せ大盛り」



小さな事件—でも“角度60°”で解決


ケーキ入刀のあと、フォトラッシュ。

カメラマン「では、ご親族と——はいチーズ!」

その瞬間、春海がブーケに手を伸ばしてしまう。

春海「ぶんぶ……(ハッ)しない(自制)」

優子「自制、世界記録。えらい」

一方、春介は新郎の靴の紐がほどけているのを見つけた。

春介「るい おにいちゃん、ひも ほどけとう」

塁「ありがとう! 助かった!」

光子「“安全”も祝う、紳士のお手柄」



お開き前のサプライズ—“朝を置く”ミニ合奏


司会「最後に、ご友人から小さな贈り物があるそうです」

優子は指でテンポを作り、光子は掌で合図を送った。

二人は手拍子とハミングだけで、短い“朝のメロディ”を描いた。

(専門用語なし。ふんわり始まって、やさしくほどける)

春介/春海も、胸の前でぽん・ぽんとリズムを重ねた。

会場の空気が一瞬ふくらみ、静かに着地した。


環奈「朝が、ここに来たね」

塁「明日からも毎日、これを思い出す」



退場—“二王制”は最後まで崩れない


お見送りの列で、二人は再び角度60°のぺこり。

春介「きょう、しゅんすけ、しんし でした」

春海「わたち、きらきら でした」

環奈「最高のゲストやったよ。ありがとう」

塁「また遊びにおいで」


外に出ると、晩秋の風がコサージュを少しだけ揺らした。

光子「二人とも、ミッション完遂。星シール二枚、確定」

優子「“ありがとうモナカ”も、帰りに支給」

春介「ほし、ふたつ!」

春海「もなか、はんぶんこ!」


駐車場の影は長く伸びて、夕方の色を含んでいた。

今日の「おめでとう」は、ちゃんと届いた。

むこうの窓の向こうで、新郎新婦の笑顔が同じ角度で輝いていた。

角度60°の“ありがとう”は、だいたい世界を丸くする。





晩秋の祝奏


晩秋の光は、うすい金色の膜になって街を包んでいた。11月最後の土曜日、光子と優子は朝いちばんで美容院に入り、落ち着いた黒の礼服に身を通した。スタイリストが仕上げのスプレーをひと吹きすると、二人の前髪はきれいに弧を描いた。鏡の向こうで、二人の表情はほどよく引き締まっていた。


玄関では、**優馬(お父さん)と美鈴(お母さん)**が最終チェックをしていた。

お父さんはコサージュの角度を確かめてから、穏やかな声で言った。

「うん、よし。ふたりとも、立派や。気ぃつけて行きなさい」

お母さんは笑って頷いた。

「塁くんと環奈さんに、よろしく伝えてね」


足もとでは、春介と春海が、それぞれ蝶ネクタイと白いカーディガンを整えていた。靴は今朝磨いたばかりで、玄関の光をまっすぐ返している。

春介「けっこんちき、いく! しゅんすけ、しんし!」

春海「わたち、きらきら する」

優子「二人とも完璧。いこか」

光子「約束の“角度60°”も、覚えとってね」



式場のロビーには、白と金の装花が静かに並んでいた。受付のテーブルにはゲストブックと小さな星形のシールが置かれ、午前の光が紙の縁に薄く滲んでいた。

スタッフが柔らかい会釈をして言った。

「本日はようこそ。ご参列、ありがとうございます」

光子は招待状を示し、優子が二人の名を添えた。

スタッフは春介と春海に目を細めた。

「お二人も、とても素敵です」

春介「ぴかぴか です」

春海「くつ、つやつや です」


チャペルの扉が静かに開くと、オルガンの和音が空気を一段やわらかくした。宗像塁と橋下環奈は、明るすぎない白の光の中を、同じ歩幅で進んだ。参列者の視線は自然にその中心へ吸い寄せられ、息づかいは少しずつ揃っていった。誓いの言葉は飾りがなく、指輪の光は短く深かった。拍手が降り注ぐ瞬間、晩秋の空気はふわりと温度を上げた。



披露宴会場では、淡いベージュのクロスがテーブルをやさしく包み、花器のガラスが微かにきらめいていた。司会の紹介で、美香がマイクの前に立った。彼女は一度深呼吸してから、はっきりとした声で話し始めた。


「環奈、塁くん。ご結婚、おめでとう。

うちは福岡高校吹奏楽部の仲間で、環奈の親友です。高校の本番で、手が震えたとき、環奈が小さく『大丈夫、音は味方』って言ってくれた。あの一言で、うちは音だけやなくて、生き方まで前に進めたとよ。

今日、二人の門出に立ち会えて、胸が満タンです。困った日が来たら、遠慮なくSOS(スイート・音・サポート)出して。“笑わせ部”は出張可、皿洗いと子守りは標準装備。

どうか、笑いの多い家を。ほんとに、おめでとう。」


拍手は大きくないのに厚く、会場の空気はひとつ頷いた。環奈は目尻をぬぐい、塁は姿勢を正して深く頭を下げた。


続いて、司会がもう一つのプログラムを告げた。

「この日のための特別編成、ファイブピーチ★と小倉姉妹&春介・春海による祝奏です」


光子は仲間と目を合わせ、優子がそっとテンポを示した。ピアノのアルペジオが柔らかく広がり、前列の弦が薄いヴェールのように旋律を支えた。

一曲目はX JAPAN『Forever Love』。鋭さを少し丸めたアレンジは、今日の光に似合っていた。音は高く飛ばず、天井に当たってから、じんわり降りてきた。

二曲目は**『雪の約束』。冬の入口を思わせる和音に、春介と春海が胸の前でぽん・ぽん**と小さく手拍子を重ねた。ふたりのリズムは素直で、会場の表情はゆるやかにほどけた。


終止和音が消えたあと、短い沈黙が生まれ、すぐに温かい拍手が包んだ。

環奈「ありがとう。冬が、やさしく始まった」

塁「約束って、こういう音の形をしとるんやね」


司会は笑顔で次を促した。

「ここで、新郎新婦からのリクエスト。小倉家スペシャル余興をどうぞ」


四人はセンターに立ち、卓上ベルと紙リング、ミニブーケ(フェイク)を用意した。光子が口上を述べた。

「本日のテーマは“角度60°の幸せ”です」

優子が続けた。

「まずは挨拶デモ。ゆっくり、はっきり、短く」


春介は胸を張って言った。

「むなかた るい おにいちゃん、はしもと かんな おねえちゃん、けっこん、おめでとうございます!」

春海は角度60°でぺこり。

「いつまでも なかよしで いてください」

会場から「おお〜」という感嘆と拍手が起きた。


光子はいたずらっぽく笑った。

「つづいて、“やっていいこと・だめなこと”講座。“わぁ〜”はOK。でも**“ハイパー誘惑ウィンク三連射”はNG**。今日は一発だけ」

春介は人差し指を一本立てて、きゅるんと小さくウィンクした。

会場は一瞬で沸き、春海はエア投げキッスを“極小”で添えた。

優子は親指を立てた。

「運用、完璧」


最後に、紙リングの“ゆっくり運搬”をデモして、卓上ベルをチーンと鳴らした。音は短く澄み、笑いは丸く広がった。

塁「この授業、丸ごと持って帰る」

環奈「毎朝“角度60°”でいこ。……うん、いける」



お開きの時間が近づくと、テーブルの花は少し背を低くした。お見送りの列で、春介と春海はもう一度、角度60°で丁寧に頭を下げた。

春介「きょう、しゅんすけ、しんし でした」

春海「わたち、きらきら でした」

環奈は二人の手をそっと包んだ。

「最高のゲストやった。ありがとう」

塁は笑って言った。

「また、遊びにおいで」


外に出ると、夕暮れ前の風がコサージュの花びらを一枚だけ揺らした。駐車場の影は長く伸び、空は冬の色を少し混ぜた。光子はカレンダーの星シールを思い出して、春介と春海の頭を順番になでた。

「ミッション完遂。星は二枚、確定やね」

優子は笑ってうなずいた。

「“ありがとうモナカ”、帰って支給します」

春介「ほし、ふたつ!」

春海「もなか、はんぶんこ!」


そのやりとりに、環奈と塁がもう一度振り返って手を振った。二人の笑顔は、同じ角度で輝いていた。

晩秋の土曜日は、音と笑いと「おめでとう」を同じ温度で残して、ゆっくり夜へと滑っていった。明日の朝、今日の拍手は、きっと家の中で小さく、もう一度鳴るはずだ。





祝・新婚コント「角度60°の新生活マニュアル」


披露宴会場の照明が少しだけ明るくなり、ミニステージに光子と優子、そして蝶ネクタイの春介と白いカーディガンの春海が並んだ。

四人はそろって深くお辞儀をし、卓上ベルと紙リング、ミニほうきとちりとりを小道具として手に取った。



① 開会の宣言


光子にっこり「本日はご結婚、まことにおめでとうございます。ただいまより、新生活に役立つ“角度60°コント”をお届けします」

優子(落ち着いた声)「笑って学べる実用編です。新郎塁さん、新婦環奈さん、肩の力ば抜いて見てください」


春介(胸を張って)「けっこん、おめでとうございます!」

春海(角度60°でぺこり)「いつまでも なかよしで いてください」

会場には、さっそく柔らかい笑いが広がった。



② 「ありがとう」の最短距離


優子「新生活では、“ありがとう”の言い方が要です。長文の前に、まずは短く、はっきり」

光子「デモンストレーション行きます。塁くんがゴミ出しをしてくれました」


(春介がミニちりとりを持って“ゴミステーション役”でとことこ)

春海「ごみ、ばいばい」

優子(環奈役で)「ありがとう(角度60°)」

光子(塁役で)「どういたしまして(角度60°)」


優子「ポイントは角度60°と声量はやさしく。これで8割の不機嫌は消えます」

会場「(おお〜)」と納得のざわめき。



③ ちょいケンカ回避術「ベル・リセット」


光子「次は**“つい強めに言ってしまった”ときの平和手順**です」

(卓上ベルを中央に置く)


優子(環奈役)「『洗濯物、裏返しのまんま!』」

光子(塁役)「『ごめん! つい!』」

(同時にチーン♪)


優子「ベルが鳴ったら、リセット。言い直しタイムに入ります」

光子「『裏返しでも助かった。ありがとう。次は一緒に畳もう』」

優子「『了解。助かる』」

春介(親指グッ)「へいわ せいこう!」

春海(小さく拍手)「ちーん だいじ」



④ 家事の“見える化”くじ(笑って分担)


優子「続いて家事の見える化です。くじで“今日の当番”を決めます」

(紙リングの裏に“皿洗い/風呂掃除/ゴミ出し/買い出し”と手書き)


光子「せーの!」

— 優子:皿洗い

— 光子:買い出し

— 春介:ゴミ出し(見守り隊)

— 春海:風呂掃除(応援隊)


春介(敬礼)「しゅんすけ、みまもり!」

春海(拳をぎゅ)「おうえん、がんばる!」

優子「“やった人が偉い”より“見えるから助け合える”。これが丸い家庭のコツです」

会場から「わかる〜」の笑い声が飛ぶ。



⑤ “朝と夜”の合言葉


光子「仕上げは**“朝”と“夜”の合言葉**です」

優子「朝は“おはよう”でただいま。夜は“おやすみ”でありがとう。これで一日、だいたい丸くなります」

春介/春海そろって「おはよう!/おやすみ!」

(チーン♪)

光子「丸くなりました」

会場「(どっ)」



⑥ 祝福フィニッシュ


優子(新郎新婦へ向き直り)「塁くん、環奈さん。笑顔の分だけ、家はあったかくなります」

光子「困ったら呼んで。うちら“笑わせ部”は、出張可。料金は**“楽しい思い出”で後払いです」

春介(人差し指を一本)「うぃんく、いっぱつ!」→きゅるん**

春海(極小のエア投げキッス)「ちいさく、ちゅっ」


四人はもう一度、角度60°で丁寧に頭を下げた。

「ご結婚、ほんとうにおめでとうございます!」


拍手はやわらかく厚く、晩秋の会場にきれいに溶けた。

新郎新婦の笑顔は、さっきよりすこし丸く、そして確かに明るかった。



ありがとうの角度


照明が一段落ちて、会場がゆっくり静まった。

スクリーンの家族写真が最後の一枚で止まる。七五三の着物の環奈が、少しはにかんでいる。ピアノの伴奏が薄くほどけ、司会が短く会釈した。


「それでは、新婦・橋下環奈さんより、ご両親へのお手紙です」


環奈は白い花束を胸に抱え、マイクを両手で包んだ。深呼吸が一度、目線がまっすぐになった。


「——お父さん、お母さん。

きょうまで、ほんとうにありがとう」


声ははっきりしていたが、言葉の端が少しだけふるえた。


「小学校の運動会、朝から作ってくれたお弁当の卵焼きは、たぶん世界一甘かった。

中学の雨の日、びしょびしょで帰ったわたしに、タオルで頭ばわしゃわしゃしてくれた。

高校で音が出らんやったとき、夜中まで**“大丈夫、音は味方”**って、なんべんも付き合ってくれた。

——その全部が、わたしの背中を押してくれたと」


新婦の母が、ハンカチをそっと目元に当てた。新婦の父は背筋を正し、頷きを一度だけ深く落とした。


「お父さん。口数は多くなかったけど、家の電球も気持ちも、切れそうなときは先に気づいて、黙って替えてくれたね。

お母さん。わたしが“もう無理”って言った日でも、**『じゃあ、明日もう一回だけやってみらん?』**って、明日をくれた。

二人がくれた“明日”が、きょうに繋がりました。

どうか、安心してください。これからは——」


環奈は隣の塁に目を向けた。塁は小さくうなずき、右手で「大丈夫」の合図を作った。


「これからは、塁といっしょに、“ありがとうの多い家”を作ります。

つまずいたら、今日みたいに角度60°で頭を下げて、また笑います。

お父さん、お母さん。いままで育ててくれて、ほんとうにありがとうございました」


言い切った瞬間、環奈の目尻から涙がすっとこぼれた。拍手がゆっくり広がって、会場の空気が一度、大きく息をした。



美香は拍手をしながら、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。

(あぁ、少し前のうちやね)

あの日、自分も両親に手紙を読んだ。アキラの手が心臓の鼓動みたいにあったかくて、言葉が迷子にならんやった。

今は——隣の席には春介と春海がいる。

美香はふたりの頭に視線でキスを落として、心の中で小さくつぶやいた。

(いつかあんたたちが選ぶ“明日”も、全力で押すけん)


アキラがそっと指先を重ねてきた。

「……よかったね」

「よかったね」

二人の声は重なって、ちいさな合図になった。



光子は、環奈の「ありがとう」の行間に、将来の自分の影を見た。

(いつか、うちもお父さんとお母さんに手紙を書く日が来るっちゃろ)

練習室の夜、譜面の白地に書いた悔しさも、朝一番の「おはよう」でほどけた優しさも、ぜんぶ言葉にして渡したい。

隣で優子が、袖口をきゅっとにぎった。

「みっちゃん、うちらも、負けんくらい“ありがとう”言える人になろうね」

「なる。なんなら“毎日角度60°”でいく」

二人は目だけで笑い合い、同時に前を向いた。


前方のテーブルで、春介が小声で囁いた。

「おねえしゃん、かんな おねえちゃん、ないとる」

優子は春介の肩をなでた。

「うれしか涙やけん、だいじょうぶ」

春海は両手でハートを作って、そっと胸に当てた。

(だいすき、の印——その仕草が今日いちばん正しい言葉に見えた)



司会がマイクを受け取り、「ご両親へ花束と記念品の贈呈です」と告げた。

環奈と塁は一礼して、ゆっくり歩いた。花束が色の音を立てるみたいに揺れ、記念品の包み紙がしゃりと鳴った。

新婦の母は笑い泣きで受け取り、新婦の父は目を細めて娘の頭を一度だけ、子どもの頃と同じ角度で撫でた。


美香はまた少しだけ涙をぬぐって、アキラと目を合わせた。

光子と優子は、胸の奥で小さくうなずいた。

(今日の“ありがとう”は、明日の“おはよう”に続く。うちらの番が来たら、ちゃんと届けよう)


拍手がひと回りして、やがて静かになった。

晩秋の光は、窓の向こうで少し傾きを増す。

その斜めの明るさは、たぶん——角度60°くらい。

感謝の角度と同じだと思うと、四人はそっと肩の力を抜いた。

舞台の上でも席の上でも、「ありがとう」の輪郭は、今日、すごくはっきりして見えた。





晩秋の花道、角度60°の「いってらっしゃい」


扉がゆっくり開いて、橋下環奈と宗像塁がバージンロードを退場した。

白い花びらがフラワーシャワーになって舞い、拍手はほどよい波になってふたりの背中を押した。

チャペルの外へ出ると、晩秋のやわらかい光がロビーにすべり込み、ガラス面がきらりと短く光った。


ロビーには参列者が円を描くように集まっていた。

司会が小さくマイクを上げて、にこやかに告げた。

「新郎新婦の新婚旅行は、カナダの西海岸だそうです。」


「おお〜!」と歓声が上がる。

美香は手を叩きながら、少し涙目のまま笑った。

「絶対よか旅になるけん。写真、あとで山ほど見せてね」


光子は胸元のコサージュを整えて、ふたりの前に進んだ。

「環奈、塁くん。風、向こうは冷たかろうけど、二人なら大丈夫やね」

優子も軽く手を振って、いつもの角度で言葉を落とした。

「“ありがとう”と“おはよう”を、毎日60°で。そしたら、どこでも家になるけん」


春介は靴先をそろえて、きゅっと胸を張った。

「かなだ、いくと? ひこうき、ながか?」

塁は笑ってしゃがみ、目線を合わせた。

「ながいけど、環奈と一緒やけん、短く感じるばい」

春海はちいさな手を胸の前でぽんと合わせた。

「めーぷる、たべる?」

環奈は頷いて、指で輪っかを作った。

「たべるとよ。おみやげ、ちょっと持って帰るね」


ふたりの周りで、プチギフトのバブルシャワーがぱちぱちと弾けた。

アキラがスマホを掲げて、全員に声をかけた。

「じゃあ“いってらっしゃい写真”、撮るよー! せーの——」

全員「おしあわせにー!」

シャッター音がぱしゃりと鳴って、空気に丸い輪がひとつ残った。


光子はふと思いついて、卓上ベルを指で持ち上げた。

「最後に“旅の三箇条”、鳴らしてよか?」

会場が笑いながら頷く。

「其の一、さむかったら“寄り添う”(チーン♪)

其の二、迷ったら“ありがとう”(チーン♪)

其の三、メープルは“ほどほど”(チーン♪)」

優子がすかさず補足した。

「四つ目——“写真は多め”。帰ってきたら見せてもらうけん」

会場「(どっ)」


塁は花束を持ち直し、環奈と目を合わせた。

「角度60°、忘れんごとする」

環奈は潤んだ目尻で笑い、深く一礼した。

「みんな、ほんとにありがとう。行ってきます——」


ふたりがドアの向こうへ歩き出すと、ロビーの拍手はもう一段、あたたかい音になった。

春介は手を振り続け、最後にきゅるんと一発だけウィンクした。

「いってらっしゃい!」

春海は極小のエア投げキッスを空に飛ばした。

「ちいさく、ちゅっ!」


ガラス扉が静かに閉まる。

美香はその残り香みたいな光を見つめて、小さく息をついた。

「よか日やったね」

光子はうなずいて、胸の奥で言葉を一つ整えた。

「“おめでとう”は、ほんと旅立ちの言葉やね」

優子はロビーの天井を見上げて、目を細めた。

「次に会う時は、土産話が山ほどやね。……角度60°の“ただいま”待っとるけん」


晩秋の外気はひんやりしていたが、ロビーの空気はまだ温度を保っていた。

その温度は、たぶん拍手の温度で、ありがとうの温度でもあった。

新婚旅行の行き先がどれだけ遠くても、今ここで重ねた角度60°は、ふたりの足もとをまっすぐ照らしていた





フィナーレは“きゅるん無双”——ロビーのハート、総メロメロ


ロビーの真ん中に、自然と小さな輪ができた。

光子は春介の蝶ネクタイをそっと直し、優子は春海のカーディガンのボタンを一つ確かめた。二人は目で「GO」を出した。


春介は一歩前に出て、胸を張った。

「しゅんすけ、さいごのごあいさつ、します!」

春海も横に並び、手を胸の前で合わせた。

「わたちも、する!」


光子「フィナーレ特別許可。きょうだけ“ハイパー”解禁」

優子「全弾“エア”運用、やさしさ100%で」


春介は右手をぴっと上げ、合図を出した。

「はいぱー ゆうわく うぃんく——れんぱつ!」


— きゅるん①(右目・小)

— きゅるん②(左目・小)

— きゅるん③(ダブル瞬き・極小)


続けて、春海が呼吸を合わせる。

「きょくじょう なげちゅ——ちいさく、ちいさく、れんぱつ!」


— ちゅっ▲(上向き・極小)

— ちゅっ◆(右ななめ・極小)

— ちゅっ●(左ななめ・極小)


二人はくるりと半歩ターンして、角度60°でぺこり。

そして、最後の一発をそろえて放った。


「いってらっしゃい ちゅっ!」「おしあわせ ちゅっ!」


空気にきらりと見えない花びらが舞い、ロビーが一瞬やわらいだ。


反応は、ドミノ倒しみたいに広がった。

独身の女性たちは、両手を口元に当てて、目がハートになった。

「む、無敵……」「かわいさの暴風圧……」

独身の男性たちも、胸のあたりを押さえながら、同じく目がハートになった。

「今の破壊力、反則やろ……」「家、欲しくなる……」


美香は笑いながら、こめかみのあたりを軽く叩いた。

「規定外やけど、きょうは特別。うん、これは仕方ない」

アキラはカメラを構え直し、連写の音をぱしゃぱしゃと重ねた。

「記録は任せろ。のちほどアルバム納品」


光子は二人の肩にそれぞれ手を置いて、小さく頷いた。

「きゅるんの角度、満点」

優子は親指を立てて、結びの合図を出した。

「安全運用、完了。では、しめます」


春介は深呼吸を一回して、はるみに目で合図した。

「はるみ、さいご いくよ」

春海はこくりと頷き、二人で角度60°のお辞儀をそろえた。


「けっこん、おめでとうございました!」

「ずっと ずっと、なかよしで いてください!」


拍手はやわらかく厚く重なり、晩秋のロビーに丸い輪を残した。

独身勢のハート目はしばらく解除されず、

「今日から“角度60°”やろう」「朝“おはよう”、夜“ありがとう”な」という前向きな独り言が、あちこちで可愛くこぼれた。


光子はコサージュを指で押さえ、優子と目を合わせた。

「うちらの出番、任務完了」

「うん。“笑わせ部”、本日も勝利」


最後に、春介と春海が手をぶんぶん振った。

「ばいばーい!」「またねー!」


——フィナーレは、きゅるんとちゅっが織りなす、

無害で最強の祝砲やった。

その余韻は、窓の向こうの夕暮れへ、やさしく連れていかれた。





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