第14話【自分と向き合う為に】
王歴597年 夏期 27日
9時49分
ワネグァル王国西 イソルゼ
「十年ぐらい前になる」
チェドは指を交差させ、腕を机に置いた。両肘をつく形で前のめりになりながら、俯いて話し始める。
「俺と姉貴は、ワネグァルの王国兵だった。凶変個体の出現とありァ、真っ先に駆けつけなきゃいけなくてね。その討伐で、姉貴は俺を庇って死んだ。それだけだ」
チェドの握る両手は、震えていた。
「…………それだけ、で済ませられる事じゃないだろ」
十年たった今でも、その出来事を鮮明に覚えていることが、震える両手から分かった。
「別に姉貴が死んだ事を今も引きずってるわけじゃァないさ。ただ、あの時の気分を忘れない様にしてるだけだ」
顔には、一言で表せない表情が浮かんでいた。
「何ていうか……その……よかったら、もっと教えてくれないか? 今、あんたが凶変個体の魔物に挑もうとしてるのも、過去の後悔からなのか?」
マイケルは、慎重に話を続けようと努めた。やはり、今隣にいる男はまだ何か心の内に抱えている。そう確信して、真摯に向き合う。
「……覚えてないんだ。他の記憶は曖昧でねェ……当時死にかけの俺を庇って、姉貴は死んだ。それだけは覚えてる。庇った瞬間に、俺の傷を治して……治った後に、俺は何をしたのかが分からない。気づいたら、死体の回収に来た馬車に乗って眠ってた。その記憶から考えりァ、情けなく逃げたんだろうさ」
「……そうか」
マイケルは大きく息を漏らした。かける言葉が思いつかず、ただ相槌を打つことしか出来なかった。
「そんな間抜けに、悔やんでるなんて言う資格はない。いっそのこと、あそこで魔物に挑んで死んでたほうが……」
チェドがそんな事を口にすると、ベダルズが机を強く叩く。
「やめなさい。それは貴方のお姉さんに対する最大の侮辱ですよ」
「アンタに何が分かる? 姉貴の事知った風な口を利くなよ」
「何故身を挺してまで貴方の事を守ったのか、よく考えなさい」
「やっぱり、アンタは俺の事を相当な馬鹿だと思ってるらしいな」
二人の溝は深くなっていくばかりだった。ダベルズはチェドを咎める様に睨み、チェドはダベルズを怒りの眼差しで睨む。
「…………チェドは、死にたいと思ってるのか?」
心情が読み取れない。マイケルは自分がそうだったらと、立場を変えて思考を巡らせるが、やはり分からない。ただ理解し、寄り添おうとした結果、口から出た言葉は無礼極まりないものだった。
「ハッ。お前さんもそんな事言い始めるとはねェ。さっきも言ったが、断じて違う」
チェドは語気をさらに強くして、否定した。
「じゃあなんで一人で動いてたんだよ。調査は夜に一人でやって、この町の誰にも気づかれないようにしてた。仲の良い知り合いにすら、何も言ってなかったじゃないか。一人で何かしようとしてるやつの動き方だ。それで信じられると思うか?」
しかしそれでも引かず、マイケルは自分達が見たままのチェドを本人に伝える。
「そりァお前さん達が来る前の話だろ。今はちゃんと協力者を集めようとしてる。それにお前さん達は手伝ってくれるんだろ? だったら、一人じゃァない」
「それは……そうだけどよ……」
「確かに、昔はそんな気があった。自分が何もできない無力なヤツだって知ってから、随分と落ち込んだもんさ。ただ、今は違う。キチンとアイツを殺す算段がある」
チェドは自信に溢れた表情に変わり、ベダルズに視線を向けた。
「列車を動かしたいってのもそうだが、アイツと戦えば、何か思い出せる気がするんだ」
先程まで睨みつけていた相手に、帽子を取り頭を深く下げる。
「チェド……」
「頼む。後は馬車と人さえ動かせれば、この町を救える。アンタが俺を信じてないのは分かるが、今回だけは、頼む」
精一杯の誠意を、ベダルズに向けた。今出来ることを最大限やろうとするその男の姿勢に、町長は改めて考える。
「……チェド。貴方のことを誤解していました。まずは、謝らせてください」
チェドが顔をあげると、今度はベダルズが頭を下げた。
「分かってくれるならいいさ。俺も……勝手な行動して悪かったよ」
ベダルズも顔を上げ、双方が向かい合う。視線は穏やかで、そこに負の感情は無かった。
「今町の為に努力してくれているのは、よく伝わりました」
「じゃあ」
「ですが、まだ馬車を出すと決めた訳ではありません。その作戦とやらを聞いてからです」
「……あぁ。良いぜ。アンタが感動のあまり、ぽっくり逝っちまうような作戦だ」
二人は何処か晴れやかな気持ちで、会話を始めた。表情に曇りは無く、互いに理解を示した状態での会話は、以前よりもずっと心地の良いものだった。
その傍ら、ジョンはマイケルを肘でつつく。何故か姿勢を低くしながら、ベダルズとチェドの顔色を伺っていた。
「なんだよ? 今良いところだったろ?」
「……二人が何言ってたのか分かんねぇんだよ……ちょっと今軽く教えてくれ」
ジョンは声を潜め申し訳なさそうに助けを求めた。
「そうだったな……チェドは昔、お姉さんと一緒に王国兵をやってて……」
マイケルはジョンにネックレスがないことを思い出し、チェドの話を簡潔にまとめて伝えた。するとジョンは驚きながらも、今の状況を理解した。
「なるほど……んなことがあったのか」
ジョンへの説明が終わると、丁度チェド達の会話も終わり、ベダルズが一考していた。
「ふむ……確かに、現実的な作戦ではあります。ですが、いささか貴方達の負担が大きくありませんか? お二人様に関しては、この世界の人間ですらないのでしょう? 何故命を張ってまで……」
やはりというべきか、作戦の要になる二人のことを憂慮するベダルズ。しかし、マイケルは要らぬ心配だと胸を張る。
「俺達には、帰りたい場所があるんです。それに、一応自分の身を守る手段はあるので」
「そうは言っても、相手が相手なので……」
それでもベダルズは眉をハの字にしていた。
「任せときな、ジイさん。俺が責任持って守ってやるさ」
「……チェドがそう言うなら、任せましょう」
ベダルズはゆっくり頷き、渋々了承する。
「馬車の使用を許可します」
「本当か?」
「ですが、必ず協力者を募って下さい。もし作戦実行に際して不備があれば、その時は私に相談して下さい。出来ることがあるかは分かりませんが、私も町のために少しは動きたい」
「分かった。なら早速だが、アンタにやってもらいたことがある」
「なんでしょう?」
「町全体に張り紙出すように言ってくれ。内容はこうだ。町の用心棒チェドゴリオン、凶変個体に討伐に向け、情報求むってな」
「わかりました。それなら協力者も募集していると、書いておきますよ」
「助かるぜ、ジイさん」
二人は握手を交わした。握手が終わると、ベダルズは次にマイケルへ手を差し出した。
「見ず知らずの町の為に、ありがとうございます。感謝してもしきれません」
「別にいいさ。俺達がやりたくてやることだ」
マイケルが差し出された手を握ると、町長は力強くその手を握り振った。その握手が終われば、次はジョンへ。
「貴方も、本当に感謝します」
「感謝してるってさ」
「あー……? どうも?」
マイケルから翻訳され、なんとなく感謝を受け取る。手を握り、力いっぱい手を上下させると、握手を終えた。
「それじゃァ、言いたいことはこれで全部か?」
「ええ。改めて、ありがとうございます。こんな情けない私に代わって、町へ貢献してくださって」
ベダルズは、三人へ深く頭を下げる。
「いいですって」
「それじゃあな、ジイさん。ゆっくりコルフィでも飲んで休んでな。次に会う時は、列車が動いた時だろうさ」
三人は頭を下げるベダルズを背に、家から出た。外にいる人々はすっかり解散しており、出入りに苦労はしなかった。
「マイケル、後で色々聞かせてくれ。雰囲気だけでなんとなく内容を考えてが、やっぱわかんねぇ」
「あぁ。分かったよ」
外に出ると、ジョンは再びマイケルに助けを求めた。三人は目的地も決めずに道を歩き始め、会話をしながらこれからの行動を決める。
「ひとまず、馬車の件はこれでどうにかなった。後は人探しだが、張り紙を待ってるだけじゃァ遅い。俺達でも探すぞ」
「どうやって? 何かいい場所でもあるのか?」
「あぁ。集会所って知ってるか?」
マイケルは聞き慣れた言葉に驚いた。
「この町にもあるのか? いや、でも考えてみれば確かに、国は一緒なわけだしな……」
一度冷静に考えてみると、この大陸内全土はワネグァル王国である。そうであれば、集会所や駅家もあると考えるのが自然である。
「待てよ……なら俺達宿泊に金使わなくて良かったってことか……」
「ん? 何だって?」
ジョンはその言葉を聞き逃さず、マイケルに問い直した。
「泊まるのに金がいらなかったって、どういうことだ?」
「この町にも集会所があるらしいんだ」
「おいおいマジかよ。まぁでもよ、まだまだ金はあんだ。高々一泊程度大した出費にならねぇよ」
「そうかもな」
「終わったか? 行くぞ」
チェドが会話を断ち切り、目的を優先する。一人でツカツカと歩き始め、二人は遅れぬようついて歩く。しばらく歩き、着いた目的地は、二人が泊まっている宿だった。
「ここ集会所だったのか?」
「あぁ。言ってなかったか?」
「初耳だよ」
二人が城下町で泊まっていた集会所は、館のような見た目だった。今目の前にある建物とは、あまりにも外装が異なっており、気づけなかった。そんな驚きとともに、料金を負担しなくていいという安堵感に包まれる。胸を撫で下ろして直ぐに、三人は迷わず建物へ入り込む。
「邪魔するぜ」
「いらっしゃいませ」
入り口正面のカウンターへと近づき、受付嬢に話しかけた。
「こんにちは。本日はどういったご用件でしょうか」
「ようお嬢さん。依頼の張り付けを頼む」
「依頼の申し込みですね。少々お待ち下さい」
受付嬢はカウンターの下から一枚の紙を取り出し、目の前に置いた。その紙には文字がズラッと並んでおり、右下の方にはサインをするスペースがあった。
「こちらへ依頼の詳細をお願い致します」
受付嬢は羽ペンをチェドへ手渡す。チェドは慣れた様子で紙の記入欄へすらすらと文字を書いていく。
「なァお嬢さん、この町の列車が停まってるってのは知ってるかい?」
「……? はい。今大きな話題になっていますから」
「依頼遂行の報酬、ソイツが動くってのは、成立するかい?」
「ほ、本当ですか!? ……失礼しました。恐らく、形式上の扱いでは無報酬ということになりますが、可能だと思います」
チェドの一言に、受付嬢は一瞬酷く取り乱す。しかし直ぐに姿勢を正し、仕事を続けた。
「無報酬ね……そいつァちと味気ないな。なら、この集会所での食事と一杯、なんてどうだ?」
「良いと思います。達成報酬の欄には、そちらをご記入下さい。列車の稼働は、追加報酬の欄に記入していただければ」
チェドは紙への記入を再開し、最後に名前を書き記して終えた。書き終えたその紙を受付嬢へ手渡すと、受付嬢は丁寧に確認を始める。上から下へと視線を流し、最下部の名前に目を止めた。
「チェドゴリオン様ですね。その……職務中失礼します。もしかして、あのチェドゴリオン様ですか?」
受付嬢はトップスターと出会った様に目を輝かせ、目の前の男に質問した。
「さァ? あのってのはどれだ?」
チェドはしらばっくれて目をそらす。しかし、受付嬢は止まらず言葉を投げ続けた。
「わ、私ちょっと前までシャスプールに住んでて……! 家族からチェドさんは恩人だって昔から聞かされてて!」
子供のようにはしゃぐ受付嬢と対照的に、チェドは表情を曇らせた。
「そんなチェドさんが列車を動かしてくれるって言うなら、とても安心できます! あの凶変個体を一人で討伐するなんて」
言葉の途中でチェドは人さし指を立て、受付嬢へ見せつけた。それは元の世界と変わらず、静かにしろというジェスチャーだった。
「一人で、なんて言わないでくれ。あれは仲間達と掴み取った勝利だ。誰一人欠けても、勝てない勝負だった。それと、トドメを差したのは俺じゃない。ガルさんだ。讃えるなら、そっちを頼む」
「ご、ごめんなさい……でも」
「その気持ちは受け取っておく。だから、もうやめてくれ」
少女の善意に、チェドは困っていた。少女の向ける眼差しは、間違いなく称賛と期待の眼差しである。御伽噺のように家族から語られた経験を、信じて焦がれただけの少女。それにチェドは怒りも不満も向けず、ただ自分の小ささに嫌気がさしていた。
「……本当に、申し訳ありません。こちらの依頼受理致しましたので、掲示板へ貼付け致します」
少女は申し訳ないことをしたと、落ち込んでいた。そそくさと何処かへ姿をくらまし、
「チェド、トドメ刺したっていうのは……」
「嘘だ。当時援軍に駆けつけた内の一人に、ガルさんがいた。知ってるか? 北の王の、実の弟だ。ワネグァル王国最強と名高い彼が、援軍に来た。対して俺は、死にかけの一般兵さ。記憶が無くとも、どっちがトドメを刺したかなんて、明白だろ?」
「じゃあなんであんな話……」
「さァな。ガルさんは優しいお方だ。せめて手柄をと、譲ってくれたんじゃないか」
話で聞くだけでは、実際がどうだったのか分からない。マイケルは、黙るしか無かった。
「あの嬢ちゃん、なんか余計なこと言ったのか?」
ジョンは気まずそうにマイケルを肘でつついた。
「まぁ、チェドを一人でバケモノ倒した英雄だ何だって讃えてたんだ……」
「あぁ……なるほど……」
なんとなく事情を察したジョンは、小さなため息をついた。双方が何も悪くない出来事というのは、悲しい物である。
「ひとまず、これで人は集まるだろうな。後は馬車の調達だ」
「了解」
三人は気まずい空気を残した部屋から立ち去り、外へ出る。またチェドを前に三人で歩き、しばらく町を歩いた。またとある建物の前で止まり、その建物を見上げた。円柱状の屋根と、そこにくっついた三つの窓。馬小屋の隣接した、奇抜な建物。これは城下町にある物と同じ駅家だった。町並みから一つ浮いているこの建物は、目立って分かりやすい。そういった目的もあるのだろうと、勝手にマイケル達は納得しつつ、建物へ入る。内装も特段変わっている訳ではなく、見たことのあるものだった。
「え……? いらっしゃいませ……?」
男の店員が本を読みながら、カウンター奥の椅子に座っていた。カウンターから丸見えにも関わらず、男は堂々とサボりを働いている。しかし、チェドはそれを咎めない。何故なら、この建物の扉には休業の張り紙がされていたからである。それもそのはずで、今町全体に馬車や馬、列車と言った交通機関は、全て停止されている。当然そうなれば、店は閉める他無く、こうして休んでいるのも当然のことだった。
「よう。馬車を借りたいんだが」
「すみません、今は馬車の貸し出しが禁止されてまして……」
チェドはカウンターへ近寄り、肘を置いて店員と話し始めた。店員は妙な客が来たと、表情に出さないよう、心でため息をつく。
「いやァ? ベダルズから連絡が来てるはずだ。チェドゴリオンには、馬車を貸し出せってな」
「はっ? 少々お待ち下さい」
信じられない、という表情を見せた店員はカウンター裏の作業部屋へと消えた。店員が帰ってくるまで、マイケルとチェドは雑談を始めた。
「お前さん、ここは知ってるか? まァ、知って無けりァおかしいんだが」
「駅家だろ? 城下町の方と見た目が全く一緒だったからな。入る前から分かったよ」
「だろうな。お前さん達が使ったのは、国壁の前の駅家か?」
「いや、馬車は国王から借りたんだ。あんた、意外と城下町を知ってるんだな」
「俺は壁内出身だからな。王国兵をやってた頃は、あっちに住んでた」
「そうなのか。ここに馴染み過ぎてて分かんなかったよ」
「フン、そいつァどうも」
満更でもない表情で、鼻を鳴らすチェド。そうして数分もしない内に、店員がチェドを呼んだ。
「お客様、申し訳ありませんが、そのような連絡はなく……」
一度は、もしかして町長から遣わされた人なのかと考えた店員だったが、連絡がないのを確認すると、チェドを怪しみ始めた。
「……あのジイさん、連絡が遅いな。まァいい。そんな連絡が来たら、取り敢えず三台、馬車を押さえててくれ。第一、他に馬車を貸し出せるやつなんて、いないだろうがな」
「かしこまりました……」
店員は頭を下げ、カウンターへと戻った。目の前の三人の男達は妙だったが、念の為伝言をメモに残した。それが終わると、暇そうにカウンターで読み物をしていた。警備と掃除の為配備されているが、緊急事態などそうはおきない。実際の仕事は、ほとんどが掃除のみである。
三人は駅家を後にし、外へ出た。これからすることを、話し合う。
「後は夜の調査だけだが……お前さん達、ついてくるか?」
「勿論。ジョン、調査を夜にやるらしいが、行くよな?」
「あぁ。当たり前だ」
「ジョンも行くってさ。集会所にいるから、時間になったら呼んでくれ」
「あぁ。それじゃァ、また後でな」
一度マイケル達はチェドと解散し、集会所へと向かった。集会所に着くと、若干遅めの昼食を済ませ、部屋へ戻る。ジョンは鞄から魔法使いお手製の教科書を取り出し、言語の勉強を始めた。マイケルは邪魔をしないようにすると言い残し、ある程度の金を持って町へ繰り出した。各々がそれぞれの時間を過ごし、あっという間に約束の時間へと時は流れる。
「よう、迎えに来たぜ」
「どうも。ジョン、行くぞ」
「おう。ちょっとまってくれ」
ジョンは夕餉を済ませた後も、勉強を続けていた。ノートやペンをある程度片付け、肩を鳴らして部屋を出る。三人は再び町から遠く離れた位置へと向かう。外は暗いが、ほんのりと明るい。空を見上げれば、月が出来る限り夜を照らしていた。
「始めるぞ」
「了解。ジョン、準備しろ」
「了解」
以前に一度行ったように、チェドは呼吸を整える。次第に全身がひかり、足へとその光が集中すると、力いっぱい地面を蹴った。全員が周囲を警戒し、地面を凝視する。集中する三人を夜風が撫で、身を震わせた。その瞬間、全員が同時に声を上げた。
「正面だ!」
「正面にいる!」
「正面だ!」
マイケルとジョンは、素早く手元に銃をだす。三人が背中を預け、それぞれの方向をみていたにも関わらず、その全員から声が上がった。それが意味することはつまり、
「……囲まれてるな」
チェドは冷静に辺りを見回した。自分達三人を囲むように、黒い円状の影が出来ていた。
「毎度位置を変えて悟られないようにしてたんだが……随分と頭が良いじゃァないか」
「チェド、どうする?」
「クソ……マイケル、翻訳頼むぞ」
マイケルとジョンは焦りながらも、冷静でいるように努めた。しかし心臓の音はひたすらに大きく、状況の判断を鈍らせる。
「まずはお前さん達が落ち着くことだ。確かに囲まれちゃいるが、対処しきれない程じゃァない。数を減らすなら、絶好の機会だ。だが、お前さん達のそれを使ったら音で数が増える。だから、ここは俺に任せろ」
胸を張り、チェドは大見得を切る。
「……信じるぞ? ジョン、銃しまえ」
「はぁ? ……分かったよ」
ジョンは信じられないと思い、怒りが溢れそうになったが、隣で冷や汗を流しながら銃を消している親友を見て、冷静になった。
「俺の背中を見ときな」
チェドは二人を一瞥し、前へと歩いて行った。
「さァ、ぐっすり眠りたいやつから前に出な。俺が子守唄を歌ってやるぜ」




