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第12話【銃なしガンマン】

王歴597年 夏期 26日

17時29分

ワネグァル王国西 イソルゼ


「はァ……?」


 チェドと思しきガンマンは、テンガロンハットを浅くかぶり直し、椅子の前足を床に付けた。ジョンは前のめりになったチェドを見ると、酒瓶をデスクに置く。チェドはその酒瓶を片手で持ち上げ、ラベルをじっくりと眺めた。


「……一杯だけだ」


「グラスはないんでね。用意してくれると助かる」


「気の利かねェ野郎だ」


 チェドは慣れた手つきで瓶を開け、魔法で小さな石のグラスを作り出す。そこへ瓶を傾けて琥珀色の液体を注ぎ込み、勢い良く飲み干した。


「……バーボットの紹介ってのは嘘じゃないらしいな」


 瓶をデスクに置き、ガンマンはふっと笑った後に二人へ尋ねた。


「用事ってのは何かな」


 マイケルは二人が話始めたのを見て、デスクに近寄る。


「列車を動かしたい」


「……ほう」


 フェイスラインに沿った焦げ茶の髭と、長い口髭。綺麗に揃った髭とは言えず、手入れが雑なことが伺える。目は鋭く、睨みつけられれば緊張感が走った。


「ついてきな」


 ガンマンは酒瓶を持って立ち上がり、部屋の左手にある階段を登っていった。マイケル達はそれに遅れぬよう歩く。階段を上がった先にある廊下から、一番右手前にある部屋へと入る。小ぢんまりした部屋の中央には横長の机と、四つの椅子が置かれていた。部屋の隅にはガラス窓のついた棚があり、そこの一番上の段へ酒瓶をしまった。チェドはその流れで奥の椅子へ遠慮なく座り、二人へ手前の椅子に座るよう手で促した。


「お前さん達、ここまで来るってことはお急ぎかな?」


 二人は椅子に座り、鞄を床に置く。それをみたチェドは、はやくも本題を切り出した。


「いや、別に急いでるわけでもねぇんだが……厄介事ははやく終わったほうが良いだろ?」


「ハッ! なんとなくで列車を動かせって言うのかい」


 一音だけの大きな笑い声を上げ、信じられないという表情で二人に問い直した。


「そんな理由で、バーボットが俺に仕事を渡す訳が無い。率直に聞こう。アンタら、何がしたい」


「マイケル、手紙出してくれ」


 マイケルは鞄から手紙入りの封筒を取り出し、机に置く。チェドは机に置かれた封筒を丁寧に開け、中の手紙を読み始めた。


「異世界からのお客人とはねェ。こいつは驚きだ」


「預言の内容が書いてねぇみてぇだから説明するが、俺等は世界に平和を届ける為に旅してんだ。最初の町一個で足止め食らってちゃ、平和に出来るもんも出来ねぇ」


「酔っぱらってるなら、近くに宿があるぜ」


 チェドは小馬鹿にしながら、真剣な表情を作った。


「アンタらが考えてる程、事は単純じァない。列車が動かない理由は二つある。一つはこの町に張り付いてやがる凶変個体。もう一つは列車がそもそも壊れてるって話だ。アンタら二人が首を突っ込んだ所で、どうにもならないさ」


「壊れてるだぁ? マイケル、列車が壊れてるって話、あの町長から聞いたか?」


「いや、そんな話全く……」


「あの老いぼれが隠してんだ。ありァ言いふらしてほしくないんだろうさ。町の連中から怒りを買いたくないからな」


 ジョンはなんとか目の前の男を説得しようと、考える。マイケルはジョンの言葉から不穏な気配を感じ取り、表情を歪めていた。


「やっぱ、さっきの急いでないって言葉、撤回させてもらうぜ」


 ジョンは一つ、身の上話を始めた。


「俺等は望んでこの世界に来たわけじゃねぇ。気づいたらこの世界にいたんだ。最初異世界だなんて聞いた時は、そりゃあ驚いたぜ。ありえねぇ話だってな。それと同時に、不安な事もあった。俺は母親を向こうの世界に残してきちまったんだ。寿命が近いってわけでもねぇが、ちょっと有名な病気にかかっててな。一人にするには不安なんだ」


「ジョン……」


 チェドは表情一つ変えず、その話を聞いていた。


「確かに、俺等はこの世界に来たばっかで、魔法も使えねぇ。ただ、神様からの贈り物か、こういうもんがある」


 ジョンはショットガンを机に出し、チェドに見せつける。


「知り合いから聞いた話だが、こいつは魔物をぶっ殺すのに十分な火力があるって話だ。やれることは少なくとも、多少の足しにはなるはずだ。それに、こっちも多少だが、列車の知識もある」


 ジョンは畳み掛けるように話を続けた後、一呼吸置いて、願いを口にした。


「だから、協力してくれ。アンタ一人でどうにか出来んなら、余計なことせずに大人しくしてる。ただ、人の手が借りたいなら、手伝わせてくれ」


 ジョンは心の内をさらけ出し、目の前の男へとぶつけた。チェドはそれを聞いて何を思ったのか、小さく笑い始める。


「フフ……話は最後まで聞くんだな。俺は断るって言ったか?」


「断らねぇのか?」


「待ちな。話は最後まで聞けって言っただろ? 確かに、列車を動かすのは難しい。ただ、やれないわけじゃァない。俺も、丁度列車を動かしたいと思ってたとこなんでね」


「てことは、手伝ってくれんのか!?」


「ああ。お前さん達は運が良い」


「マイケル! 手伝ってくれるってよ!」


「本当か! 良かった。俺たちだけじゃ無理だっただろうしな」


 ひとまず腕の立つ協力者を得ることに成功する二人。しかし、問題はここからだった。


「それじゃあ、作戦とか聞いてくれよ。俺達じゃ何も思いつかない」


「そうだな。なぁチェド、列車を動かすまでの作戦とか、段取りとか決まってんのか?」


「一つずつだ。まずは列車がイカれちまってるって話だが、正直なところコイツは問題ない。修理に時間はかかるが、俺達が凶変個体討伐にかかる時間のほうが長い。となりゃァ、後はヤツの話だが……」


「今んとこ姿が見えてねぇって話だろ?」


「いいや、俺はそうじゃない。一週間前からちと調べててねェ。ある程度はヤツの習性がわかってきた所だ」


「マジか! 流石町で有名なだけあるぜ」


「ただ、例外が一つあるんで、まだ確実とは言えないな。こっちに来る列車を襲ったことがどうも引っかかる。ヤツはこの町から出ていくものだけを襲ってるはずなんだがねェ……」


「……マイケル、魔物の話だ。ちょっと代わってくれるか?」


「了解」


 ジョンは町長からより詳しく話を聞いていたマイケルにネックレスを渡す。マイケルはジョンに代わり、チェドと会話を始めた。


「俺は、町長のベダルズから色々話を聞いた。魔物について多少情報がある」


「ほう、そいつァ遺物か? 随分と便利なもん持ってるじゃないか」


「知り合いの物だ。そんな事より、さっきの話をもう一回頼む」


 チェドは頷き、話を戻した。


「俺は一週間前からあの魔物について調べててね。一つ分かったことがある。ヤツはデカい音を出してこの町から出ていくやつを狙ってるってことだ。馬車と列車なんざ、格好の的だな」


「待ってくれ。空に飛んでる鳥も落としてる可能性があるって、知ってるか?」


 町長のベダルズから聞いた話を思い出し、例外になりそうな話を持ち出す。


「そういうのが問題だ。この町に来る列車を襲ってたことと、空に飛んでる小鳥を襲う事。これはヤツの行動から外れ過ぎてる。俺達がヤツをブチのめしに行くとなった時に、異常事態発生なんてごめんだからな。もっと調べる必要がある」


「調べるって、どうやって?」


「コイツはちと危険な行為なんでね。町の連中にしれたら面倒だ。だから深夜にやる。お前達にもついてきてもらうが、今は休憩時間だ」


「了解。それまでにやれることは?」


「アイツに食われないことだな」


「ふっ。ジョン、深夜まで休憩だとさ」


「おい、いきなりだな。まぁ丁度良いか。今日もほぼ一日中歩き回って疲れたしな」


 二人は肩の力を抜き、椅子の上でリラックスした。


「それまで宿でも探すか。荷物も置かなきゃいけないしな」


「そうするか。さっきチェドが近くに宿があるつってたな。聞いてくれ」


 皮肉で言ったセリフのようでもあったが、実際にあるのならばそこへ行こうとジョンは考えていた。


「そんな事話してたのか? チェド、近くに宿屋あるか?」


「あるぞ。とびっきりの宿がな」


 とびっきりの宿とはどんな物かと想像したが、ただの誇張表現だと考え期待を薄めた。


「場所教えてくれ。俺達、荷物をおいてくるよ」


「こっから出てしばらく右に歩きな。分かれ道が見えた所に、バカみたいにデカい建物がある。一目みりァ、それが俺の言ってるもんだってわかるさ」


「どうも。ジョン、行くぞ」


 鞄を持ち上げ、席から立ち上がる。ジョンヘ一言かけて、自分と同じ動作を促す。


「了解。じゃ、また後でな」


「時間になったら、呼びに行ってやるよ」


 ジョンは伝わらない言葉を吐きながら、手を振った。チェドはそれに応えるように、人さし指と中指を立て、手を額から前に出した。二人はサインを見送ると、部屋の扉を開け廊下に出る。階段の方を探し左右を見渡すと、階段がある方向と反対の廊下に一人の子供がいた。


「なっ!!」


 時間帯もあり、マイケルは幽霊と見紛い大声をあげる。しかし、その声に子供も驚いたようで、小さく跳ねていた。


「ご、ごめんよ。子供がいるとは思わなくて」


 目を少し潤ませた子供に、謝罪する。


「お、お前ビビらせんなよ。いきなりデケェ声出すからビックリしたぜマジで」


 子供は灰色のパーカーを着た、長い黒髪に左右のおさげが印象的な少女だった。ショートパンツとタイツを履き、気怠げな目元をしている。そんな少女はマイケルの謝罪に小さく頷き、奥の部屋へ帰っていってしまった。


「チェドって子供いたのか」


「さぁな」


「デカい声が聞こえたが、どうした」


 流石に声が部屋に聞こえたのか、チェドが扉を押し開けて現れた。


「いや、チェドって子供いたんだな。今廊下に娘が……」


「いや、俺に子供は居ないぞ」


 マイケルは目を見開き息を飲み込む。ジョンは片眉を上げて口を開き、驚きの表情を全力で作っていた。チェドは二人の表情を眺めた後、間をおいて言葉を続けた。


「あの嬢ちゃんは、訳あって泊めてるだけだ」


「紛らわしい言い方するなよ!」


「ふざけんじゃねぇよ全く……」


 二人は息を思い切り吐き出し、緊張をほどいた。


「驚かせちまったみたいで悪いねェ。はやく宿に行って休むと良い」


 半笑いで二人をからかいながら、背中をたたく。


「全く。じゃあな」


「あばよ」


 見たものがそういった類いの物ではなく安心した二人は、チェドの家を出て町を歩く。言われた通り道を歩いて行くと、確かに大きな建物が一軒あった。そこはウエスタンサルーンに似た見た目をしており、二階の壁には小窓がいくつも並んでいた。スイングドアを押し開け中に入ると、予想通りの内装が視界に入る。丸いテーブルといくつかの椅子のセット。正面にあるカウンターのような所には受付嬢がおり、左右には恐らく宿泊部屋に続くであろう廊下と階段があった。二人は迷わず受付嬢のいるカウンターへと歩いた。


「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件でしょうか」


「部屋空いてるか? 一部屋借りたいんだが」


「宿泊ですね。二名様でしょうか?」


「あぁ。こいつと俺だ」


「かしこまりました。少々お待ち下さい」


 受付嬢は紙に書かれた何かを確認すると、首を傾げて二人に確認を取る。


「一部屋だけ空きがあるのですが、そちらのお部屋は少々高くなっておりまして……よろしいでしょうか?」


「大丈夫だ。そこで頼むよ」


「ありがとうございます」


 受付嬢はカウンター下から鍵を取り出し、マイケルに手渡した。


「こちら左手の階段から上がって、七番目右手のお部屋になります。セットでお食事などはいかがですか?」


「セットなら安くなるとか?」


「はい。宿泊とセットでお安くなっております」


「なら頼むよ」


「かしこまりました。お夕食はお好みの時間にこちらへお申し付け下さい。料金は退出時にまとめて精算致します。それでは、ごゆっくりどうぞ」


「どうも」


 二人は案内された部屋に向かい、廊下を歩く。ランタンがつるされた廊下は、明るく温かい。


「ここだな」


 指定された部屋の前で止まり、鍵を回して扉を開ける。部屋は想像以上に広く、集会所と似た大きなベッドが四つも並んでいた。ベッドと反対側の壁には、大きなクローゼットが一つあった。


「おいおいちょっと豪華すぎねぇか?」


「料金高そうだな……」


 一応限りのある金な為、慎重に使おうと考えていた矢先、酒に続き大きな出費が重なりそうだった。しかし後悔しても遅い為、二人はあまり考えずにこの部屋を満喫することにした。二人は大きな鞄を部屋の隅に置き、ベッドへ座る。


「なぁマイケル。ちょっと気になったことがあんだが。さっきの子供についてだ」


「どうかしたか?」


 一つベッドを挟み座って、遠目から話を始める。


「服装が俺たちの世界と似すぎてないか? なんつーか……あまりにも現代的だった」


「でも、他の奴らもそうだろ? 町のやつらは、みんな見たことのある格好してるじゃないか」


「いや、それにしたってあの子の服装はおかしい。今の時代感に合ってなさすぎる。町中にも似たようなやつはちらほらいたが、どうも気になる」


「確かに言われてみれば……現代的な服装した奴がちらほらいたな。あまりにも目に馴染み過ぎて気にならなかったが……」


「シャスプールってとこがああいう服装なのかね」


「確かに。あり得るな」


 列車が一本シャスプールから繋がっているとなれば、あの服装の発生源はそこだと考えるのが自然だろう。しかし、湧き上がった二人の疑問は尽きない。


「……ジョン、この世界、俺達の世界と接点が多すぎないか?」


「俺も考えてたとこだ。お前が婆さんから見せてもらったリモコンといい、この町の雰囲気といい、妙な接点が多すぎる」


「異世界から知識を身につけてたって伝承、本当かもな。今の服装やら建物やらが昔から受け継がれてるものなら、大分信憑性が高い」


 マイケルは老婆から聞いた話を思い出し、その話の信憑性を再確認した。しかし、ジョンはずっと抱いていた違和感の正体を、口に出す。


「マイケル、そこだよ。そこが気になんだ。俺たちの世界の知識を魔王が持ってきてるなら、割と最近まで魔王はこっちの大陸に来てたことになる」


「……どういうことだ?」


「俺等がこの世界に来て、四日が経った。時間の数え方も、一日の時間も一緒だ。だから同じ様に、俺たちの世界でも四日経ってんだろうと思ってた。ただ、実際は違うかもしれねぇ」


「なんでそう思うんだ?」


「矛盾してんだよ、俺等の今の考えは。お前が婆さんから聞いた話じゃ、初代魔王が異世界から知識を取り入れてたって話だろ? じゃあ初代魔王が死んだのは少なくとも何年前だ?」


 マイケルはワネグァル王国が出来たのは魔王が死んだ後だという話を振り返り、納得する。


「少なくとも五百年は……あぁ、なるほど」


「そうだ。西部開拓時代はたかだか百と数十年前の話だ。そんな前じゃない。つまり、時間の流れが違う可能性がある」


「初代魔王が異世界に行ってたとして、五百年より前にリモコンとこの文化は俺たちの世界に存在しない。今の魔王が現代の俺たちの世界を知ってたとして、閉じこもって誰も見たことがない奴から知識は教われない……ジョン、やっぱりこっちの世界はこっちの世界で、同じ様な思考に辿り着いたんじゃないのか?」


「それもありえる話だ。同じ人間だからな。ただ偶然の一致にしちゃ、それっぽいもんが多すぎる」


 二人は考え込み、部屋に僅かな沈黙が流れた。


「今考えても仕方ないな。この先の旅で何か分かればいいんだが」


「飯食いに行くか」


 二人は結論の出ない話を後にし、ロビーの食事場へ向かった。夕食を済ませ、しばらくテーブルで雑談をしていると、スイングドアを押し開きチェドが現れた。辺りを見回し二人を見つけると、テーブルへ歩いてきた。


「よお。お前さん達、調子はどうだ」


「時間か? 丁度いいな」


「今からでもいけるぜ」


「ジョンも行けるって言ってる」


「いいねェ。ついてきな」


 チェドがはやくも踵を返し宿から出ると、二人も席から立ち上がり続いた。夜の町は暗く、肌寒い。空には月が一つと、満天の星が光っていた。


「綺麗だな」


「俺等が住んでたとこじゃ、こうは見えなかったからな」


 チェドは黙々と町の中を歩き進む。二人は目的地も知らずについていたため、不信感が募りどこへ向かっているのかたずねる。


「どこ行くんだ?」


「町の外だ」


「町の外出たらまずいんじゃないのか?」


「デカい音ださなけりァ平気だ」


 平気、と言われても魔物がいる夜道を歩くのは不安である。町で有名な男とはいえ、チェドの実力を二人は知らない。緊急時どれほど頼りになるのか分からない以上、信用しすぎるのも良くないだろうと、二人は考えていた。

 歩き続けてかれこれ数十分、町を出た。さらにそこから歩き続け、建物が指一本分ほどの小ささに見える距離まで町から離れた。


「さて、この辺でいいかな」


 チェドが地面を見ながら足で砂を払った。二人に視線を向け、調査の方法を伝える。


「ヤツはでかい音に反応する。それとは別に、大きな揺れにもな。地面が揺れれば、ヤツは姿を現すわけだが……当然ちょっとの揺れじゃァ本体は出てこない」


「本体?」


「ヤツは群れで暮らす小さい魔物の集合体だ。そのうち一匹が群れの長になり、全体をまとめる。列車を襲ったデカいヤツは、その長に回りのチビがくっついてまとまった姿だ」


「でも、巨大な目玉があるって話じゃ」


「魔物がまとまるってのは、ただ単にくっつくことだけを指すわけじゃない。完全な一匹として一時的に組織されることもいうんだぜ」


「なるほどな」


「今からそういうやつらの一部を呼び出す。ちょいと手荒な真似をするが、お前さん達に危険はないと約束しよう」


「了解だ。ジョンに伝えるから待ってくれ」


 マイケルは今話されたことを、ジョンに簡潔に説明した。


「魔物ってのは分裂したりくっついたりするのが好きなのか?」


「スライムもそうだったしな」


 チェドは二人が話し終えたところを見て、声を掛ける。


「どうだ? 準備はいいか?」


「準備万端だとさ。俺ももちろん大丈夫だ」


「それじゃァ、行くぞ」


 チェドは呼吸を整え始めた。チェドの全身がほのかにひかり、その光が足元へ集まり始める。やがて右足にすべての光が集まると、チェドは軽く足を上げ地面にたたきつけた。すると地面は微かに揺れ、足元には綺麗な靴の跡が出来上がる。


「す、凄いな」


「しっ。来るぞ」


 チェドが人差し指を立て、マイケルの方へ向ける。少しの沈黙が流れた後、地面から黒い影が現れた。荒野には影になるようなものはなく、地面の一部だけが黒い、不自然な影だった。チェドは人さし指と中指を立て、ピストルのような形を作りそれに向ける。黒い影は、三人の元へ徐々に近づいていく。残り三メートル程の距離になった瞬間、チェドは魔法を使い指先から小石を発射した。鋭く尖った小石は、凄まじい速度で影に打ち込まれ突き刺さる。影は地面から飛び出し、三十センチ程の黒いヘビのような生き物へと姿を変えた。


「うっ、気持ち悪いな」


「ミミズみてぇだな」


「今日は一匹か……」


 チェドが黒いヘビのようなものをつまみ上げ、二人に近づけた。


「よく見な。コイツが凶変個体の手下だ。コイツ自体は凶変個体じゃないが、群れの長に命令されて人を襲ってるんだ」


 ヘビ、というよりはウナギに近い光沢を持っており、体の先端部分には大きな目玉がついていた。反対の先端部分には口がついており、合理的とは言えない体の構造をしている。


「近くで見るとよりキモいな……」


「ちょっと……キツイな……」


「コイツは町中にもいる。それも無数にな。普段は建物の影に隠れ、その建物から誰かが出たら、ソイツの影に潜んで尾行する。ソイツが群れから外れた時、つまり一人になった時を狙って、外で捕食するって腹積もりだ。馬車やらデカいものに対しては、仲間を呼んでくっつく。自分もデカくなって食い散らかすのさ」


 説明途中、うなぎのような魔物は体の側面から細い腕を伸ばし、暴れ始めた。


「それでお前さん達を連れてきた理由は……」


 チェドはそれを掴んでいる手と反対の手を二人の影へ向け、魔法を使った。素早く二連続で小石を撃ち出すと、二人の影から黒く細長いソレが打ち上がる。


「こういう事だ。外で一人出かける時は気をつけな」


「嘘だろ……」


「つけ回されてたのかよ……」


 二人は信じられないという表情で、足元に転がるソレから離れた。


「恐らく町にいる連中全員の影にコイツらはくっついてる。絶好のタイミングを逃すまいと隠れてるのさ」


 チェドは地面でのたうち回るソレに対して魔法を使用し、体を二つに別れさせた。ソレはビチビチと体を跳ねさせた後、動かなくなった。


「一人ひとりこうやって処理してくのは、ちょいと手間がかかり過ぎる。かといって大勢で待ち構えれば、コイツは出てこない。馬車か馬でおびき出せば、馬達が食われちまう。お前さん達、何かいい案はあるか?」


 顔をしかめていたマイケルは、目の前の光景から目を逸らしジョンに翻訳して言葉を伝える。マイケルから話を聞いたジョンは、早速自信ありげに手を挙げた。


「マイケル、ネックレス」


「ほらよ」


「どうも……よし。俺にいい考えがある。俺等は出会った時に見せた通り、銃ってもんが出せる。コイツはすげぇ音が鳴るもんでな。ついでにアンタの魔法みたいな火力もだせる。こいつを地面に走りながら撃ち続ければ、そこそこの数が集まると思うんだが、どうだ?」


 チェドは頬の髭を撫でながら、ジョンの話を聞いていた。


「ほう。そいつは願ってもないもんだが、そんないたずらに弾を使っていいのかい?」


「安心してくれ。弾は俺等が死なない限り無限に出せる」


「なるほど。なら、明日試してみようかねェ」


 チェドは掴んでいた魔物を空中へ投げ、魔法で撃ち抜いた。二つに別れた体が地面へ転がる。


「今からやらないのか?」


「流石にお前さん達も疲れたろ。今日は魔物のお披露目だけだ。明日体調を万全にしてからのほうがいい。何より、俺はその銃ってやつを知らないんでね」


「そうだな。この場にいる全員がお互いに出来ることを知ってたほうがいい」


 マイケルはジョンの台詞から、なんとなく今は作戦を実行しないということを感じ取った。ジョンの肩を叩き、ネックレスを渡すよう求めた。


「ほらよ」


「どうも。ジョンの作戦はどうだ?」


「採用だ。明日実行に移す。詳しい話は明日昼メシでも食いながらしよう」


「了解」


 三人は町の方へと歩き出した。帰り道特に変わった事はなく、静かな夜道だった。しかし、マイケル達はさっき自分の影から打ち上がった魔物を思い出し、鳥肌を立てる。今も自分の影の中に潜んでいるのではないかと頻繁に影を見下ろすが、見ただけでは全く分からない。穏やかな道であるにも関わらず、二人は落ち着かない様子でキョロキョロと地面を見回していた。

 そんな心配は杞憂に終わり、何事もなく町へと帰ってきた。


「それじゃ、ゆっくり休んでくれ」


「あぁ。また明日」


 チェドとマイケル達は別れ、双方の寝場所へと向かった。

 チェドは家につき、いつも通り扉を開けて入る。すると一人の少女がデスクに突っ伏して眠っていた。


「ミナ、起きろ。風邪引くぞ」


 チェドは少女の肩を揺らして起こした。少女は眠気眼をこすりながら、目の前の男に視線を向けた。


「ちぇど……? おそい」


「悪かったな。知ってると思うが、今日からお客人の相手をすることになった。ちと家には居られなくなるが、大人しくしてるんだぞ」


 チェドは少し声音を優しくしながら、少女の頭をなでた。


「……」


「……たく、いい返事だ」


 しかし望んでいた返事は得られず、ため息をつく。


「ほら、部屋に戻りな」


 少女は椅子から立ち上がり、よろめきながら二階の寝室へと上がっていった。チェドは見守りながら階段を上がり、寝室に入っていく少女に手を振る。


「おやすみ」


「いい夢を」


 チェドは階段登ってすぐの、マイケル達を招いた客間の椅子に座る。帽子を深くかぶり、深呼吸して目を閉じた。最近の疲れが溜まっているのか、目を閉じて直ぐに意識が遠のいていく。

 男は寝言に、とある家族の名前を口にした。


「ミズリア……」

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