第84話 クレーンゲーム②
「なんでゾンビがゴスロリなんだよ!おかしいだろ!」
血が滴るような赤字でゲームオーバーと表示された画面を見て叫ばずにはいられなかった。
あんなキャラは、コンシューマー版にはいなかった。アーケード版だけのレアキャラか?いや、ボスならまだしもゴスロリゾンビである必要性とは……まさか開発者の性癖?
そう思い至ると急に馬鹿らしくなり、力が抜けてしまった。いつまでもここに居座るのはマナー違反だ。さっさと出てしまおう。
今、俺がいる全方位がモニターで囲まれている特殊な筐体は、大人気シリーズ『Surrounded by death』の3作目だ。半年前に最新作もリリースされているが、個人的にはこちらの挙動の方が性に合っている。
望とかんぱねら近くのゲームセンターの片隅で久しぶりに見かけたため久しぶりにプレイしてみたのだが、アーケード版の操作感と硬い敵に四苦八苦する結果となった。
世紀末的な荒廃感とシリアスな雰囲気が好きで、かなりやり込んだゲームだが、これは別物と言って良いだろう。
重い腰を上げて筐体から出ると、自分が騒がしいゲームセンターにいたことを嫌でも認識させられる。丁度、隣の筐体からも望が身を乗り出していた。
「少しはスッキリしたか?」
「んー……スッキリしたかなぁ?でも、楽しかった。付き合ってくれてありがとな」
最近、咲良と会えていないことでフラストレーションが溜まっている俺を見かねて、大学の帰り道に望が連れ出してくれたのだ。
「ま、あんまり気にすんなよ。俺なんかしょっちゅうだぜ?電話がなかったくらいで気にすんなよ」
「それ励ましてくれてる?」
「もちろん」
「……一応お礼言っとく。次行こうぜ」
数打ち当たるタイプの望と違って、俺は一旦集中型なのだ。意中の相手から反応が薄いことが、こんなにも辛いことだと思い出してしまっていた。
今日は思いっきり楽しんで、次に電話する時まで引きずらないようにしなければ。どうせスマホは鳴らないんだ。パーっといこうじゃないか。
「おい、待てって」
望が何か言っているが、俺の歩みは誰にも止められない。今日は財布の中身を空にする勢いで、景品の乱獲をすると心に決めたのだ。
「そっちはプリクラコーナーだぞ」
「……知ってるよ!」
それはもう少し早く教えてほしい。このゲームセンターも例に漏れず男性だけでの撮影はNG。
男女平等とうるさいこの時代にと思うが、圧倒的マイノリティだという自覚はあるので口をつむぐ。そもそも禁止されていなくても男だけで撮るなんて考えたこともなかった。
そうでなくても、今はカップルの巣窟には足を踏み入れたくないのに。
「清隆、こっち見てみろよ」
「ごめん、今そういう気分じゃないんだ」
気不味い雰囲気を和ませようとしたのか、望がひょっとこのようなおどけた顔をして見せる。
望は全く悪くないのだが、苛立ちを隠し切れない。我ながら子どもが駄々をこねているのと同じだと自覚はしているのだが、内から湧き上がる感情を発散させないとどうにかなりそうだった。
青春の波動から逃げるようにクレーンゲームのコーナーに移動する。今話題のアニメキャラのぬいぐるみが充実して、子連れの女性が熱中していた。
よく見ると男の子が着ている服の模様とクレーンに吊られているキャラクターの服の模様が同じだ。
あと1歩のところでゲットはならなかったが、余程好きなのだろう、男の子が目を輝かせている姿が微笑ましい。
俺もあの精神を取り戻さなければならない。今一度純粋無垢な心で世界を見渡すことが必要だ。不貞腐れていたって醜いだけなのだから。
俺が目をつけたのは、定番駄菓子が詰められた商品が並べられた筐体だ。
1つ30円で売られているポテトフリスビーは、手のひら程の大きさの円形スナック菓子で、俺が生まれる前から売られている人気商品だ。しかし、俺が知る四角のパッケージとはサイズが余りにもかけ離れている。とにかくデカいのだ。これは挑戦する甲斐がある。
「これ懐かしいなぁ」
「だろ?望やってみるか?」
「いや、俺、こういうの苦手なんだよ。見てる方が楽しい」
「ふーん?じゃあ、俺が取ったら半分やるよ」
「……あんまし期待しないでおくわ」
望の反応は不本意だが、早速100円を入れてプレイ開始。
軽快な音楽と共にクレーンが俺の指示によって動く。よし、ここだ。アームの右側で掬い上げるイメージだ。この手のプライズは持ち上げることよりも位置をずらすことを念頭においた方が良い。
狙いどおりのベストポジション。しかも俺の予想よりアームの力が強く、ポテトフリスビーが宙に浮いている。これは図らずとも1発ゲットしてしまうかもしれない。
「もう少し……もーちょい……ああっー」
プライズを持ち上げて数センチ動いたところで、下に落ちてしまった。期待を持たせておいて、結果がこれとはタチが悪い。
「惜しかったな」
「惜しかったのかなぁ?……もうやめとく」
この調子では、獲得するまでいくらになるか分からない。早々に手を引いた方が身のためだろう。
「もう一度チャレンジしてみたら、意外とすんなりかもよ?」
「いや、いいんだ。手応えないから。やるとしたら、簡単に取れそうな方が良い」
「清隆がそう言うなら良いけどさ。あっちも行ってみようぜ。クレーンゲームならお菓子よりぬいぐるみとかの方が醍醐味だろ」
望の後に続いて移動する。流行り物か往年の人気キャラばかりが並び、俺の興味をそそるプライズは見当たらない。可愛らしいぬいぐるみを俺の部屋に連れ帰っても、可愛そうなことになるだけだ。
ましてや胸の谷間がはっきり見えている美少女フィギュアなんてもってのほか。そんな物を飾るスペースがあるのならば神棚スペースを拡張したい。
「こ、これはっ!き、清隆!見てみろよ!」
このコーナーに見切りをつけてメダルゲームがある方面へ進もうとした時、望が興奮気味に肩を叩いてきた。痛い。何をそんなに興奮しているのやら。俺はもうクレーンゲームはやらないぞ。
そう思いながら、振り返る。その途端、コントロール出来ない内から湧き上がる興奮が、言語となって解き放たれた。
「うぉおおぉい!?まじか!?」
「な?な?な?ヤバくねぇか!?」
思わず望とハイタッチを交わす。どうやら神様は俺のことを見放してはいなかったようだ。
片隅に追いやられた小さめの古い筐体の中には、ハロファクとこのゲームセンターのキャラクターがコラボしたアクリルスタンドが入っていた。
ファンの中で緩やかな争奪戦となり、早々と姿を消したはずだったが、こんなところに生き残りがいたのか。プレミアがついてしまって、ネットオークションに頼らざるを得ないと思っていたところだったが、ありがたい。やはり、俺とびっきーは強い糸で結ばれているのだ。
しばらく、この店から遠ざかっていたことを後悔しつつ、俺は財布から硬貨を取り出した。
さぁ、ゲームの始まりだ!
次回更新は、12月2日(金)の予定です。




