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第71話 夏祭り③

 屋台で買った戦利品をぶら下げ、メインステージが設置された広場までやってきた。立ち食いになってしまうがテーブルが多数用意してくれているのはありがたい。さっそく、綺麗にパックに詰められたたこ焼きを1つ胃袋へ入れた。屋台クオリティーのべちゃっとしたありきたりのものだが、この場の雰囲気が採光のスパイスとして旨味を引き立たせてくれる。


 メインステージでは、名の知れぬアイドル達が一心不乱にパフォーマンスを行っていた。照明も音響もあと1歩足りない印象を受けるが、今日という日の大舞台のために努力してきたことは伝わってくる。案外、数年後にブレイクしたりして。


「ねぇ、咲良はどう思う?」

「ふへ?」

「あ、ごめん」


 ステージから目を戻すと咲良は焼きそばをその小さな口に詰め込んでいるところだった。しっかり飲み込むまで待って、もう1度切り出す。


「あの、ステージの子たちさ。数年後にはデビューしてたりしてね」

「そうですね。衣装もかなり凝ってますし、周囲からも期待されているんでしょうね。案外、すぐにテレビで見るかもしれませんよ」

「ほう、衣装か。んー確かに生地感が良さそう。しっかし、どんな伝手で呼んだんだろう」


 この時、俺達はまだ知らなかった。アイドル達の1人が、このお祭りの実行委員会の長の孫娘であることを。そして、このお祭りの規模が大きくなったもの、孫娘のためにステージを用意してあげたかったからだということを。その事実を知るのは、彼女たちがデビューしてから偶然読むことになる雑誌のインタビュー記事になるのだが、そのことを知る由はない。


『実行委員会では、次年度以降も夏祭りを継続するために募金の協力をお願いしております。あなたの協力が花火となって、夏の夜空に咲き誇ります。募金箱の設置箇所――』


 事ある度に募金を呼びかけるアナウンスが場内に流れている。商店街だけで持ち寄れるお金には限りがあるだろうし、昨今の厳しい状況もあるのだろう。しかし、久しぶりの開催とはいえ、いささか気合が入りすぎているように思う。果たして、募金の額が大きくなるほど、花火が豪華になったりするのだろうか。

 将来の花火も大事だが、今は今夜の花火。そろそろ移動を始めるべきか。美味しそうに焼きそばを頬張る咲良が焦っていないところを見ると、そう遠くはなさそうだ。


「花火の時の穴場ってどの辺りなの?もう場所取りに行った方が良いかな?」

「清隆くんも知っているところですよ」

「えー?境内の裏方にある農道かな?でも、あの辺って結構蜘蛛いるけど大丈夫?」

「そ、そんな恐ろしいところに行くわけないじゃないですか!」


 この辺りで花火を打ち上げられそうな場所といえば、境内裏方にある農地くらいなものだ。そこへ行くには、必然的に草木の生い茂る道を行くことになる。そこは虫達の楽園だ。

 地元のお祭りでは、だだっ広い田んぼのど真ん中で打ち上げていたはず。近づきすぎて火の粉が降ってきたのもまた思い出。


「んじゃ、どこなわけよ?」

「行けば分かりますよ。そろそろちょうど良い時間ですし、行きましょうか。着いてきてください」

「どこに連れていかれるんだ?」

「ひ・み・つ、です!ほらほら、行きますよ」

「わ、わ、わ!」


 咲良が俺の手を掴んで、人混みの中を歩き出す。メインステージから聞こえる音が次第に小さくなり、会場の外に出る頃には聞こえなくなっていた。最後に聞こえたのは、場内BGMとしてかかっていたハロファクのデビュー曲だった。

 彼女の歩みに迷いはない。いくら事前に場所を聞いていたとはいえ、元々知っていたところなのだろうか。それに、この道。まさか、穴場って。


「な、なぁ咲良。もしかして大学に向かってる?」

「あ、気付きました?ふふふ、そうなんですよ〜。意外ですよね」

「大丈夫なのか?確か夜って校内に入らなくなってるんじゃ……」


 夜になれば不審者が入り込まないように門が施錠されるはずだ。まさか忍び込むのではないだろうな。そんな青春映画の1シーンのようなことを咲良とできるなんて、俺はどうしたら良いんだ。共通の秘密を持った2人は身も心も急接近ってやつか!?


「今夜は大丈夫なんですよ。会場に仮設トイレは有るんですけど、数が少ないので、夏祭りの時は大学側にお願いしているみたいです。ちょっと距離があるので、そんなに人は来ていないみたいですね」

「あ、本当だ。見たことある警備員さんもいるや」


 校門は開かれていて、傍には見覚えのある警備員さんが立っていた。俺のアウトローな思惑はここで終わり。咲良と共に門をくぐると学生で賑わっている時とは、異なる雰囲気の校舎が出迎えてくれた。

 明かりが点いているのは、外部の先生を迎え入れるために気合を入れて再建された1号館だけ。ちなみに、学長室もここにあるらしい。見たことはないが、それはそれは豪華絢爛な作りなのだろう。


「さぁさぁ清隆くん、こっちですよ」


 再び咲良に手を引かれて歩き出す。進路は1号館ではない。正直なところ、トイレに寄って行きたかったが、まだタンクに余裕はある。花火が終わるまで保つだろう。今は、この繋がれた手を維持することの方が大切だ。この悩みは未来の俺に任せることにした。


「すごく見覚えがある場所だなぁ。穴場ってここ?」

「ね?知っているところだったでしょ?」


 着いた場所は3号館前の広場。いくつかベンチが置かれていて、咲良と座ったことがある。既に先客もいるようで、空いていた最後のベンチに咲良と座った。

 ここで俺は気がついてしまった。耳をすませれば聞こえてくる学生カップル達の愛の囁き。まだ、咲良は気がついていないが時間の問題だろう。早く咲け咲け夏の花。2人の世界に夢中にさせてくれ。

 次回更新は、10月28日(金)の予定です。

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