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さようなら

 目が覚めた時にまず目に入ったのは、煙草臭い奥様の頭だった。

 ゆっくりと体を起こしてみると、何故か豪華なベッドの上に寝ていた。

 何人寝れるのだろかというくらい大きなベッドに、賭け事明けの奥様が正に倒れ込んだ、というような姿で眠っている。

 おかしい。

 私は昨晩ソファで眠ってしまったはず。

 別にそこで眠ろうと思った訳でなく、睡魔に負けてのソファのはず。

 なのに豪華なベッドの上、しかも何故か服も違う物を着ている。

 まあそもそもよくあんなものを見て眠れたな、という自分に呆れてしまう。

 奥様を起こさないようにベッドから移動してソファの方に行くと、その机の上には朝食が用意されていた。

 私をベッドまで運んで着替えもさせてくれたと思われるフィリアさんは既にお仕事モードばっちりで。

 昨晩奥様が下さった服の内の1枚を当たり前のように差し出されて着替えることになり、まさかのこの朝食も私の分だとか。

 食欲がないから、なんて断れるような雰囲気ではなかったから食べるしかなかった。

 やっぱり高級宿の食事は美味しい。こんな時なのに。

 幸い奥様のお土産だという服はそんなに高そうでもなかったから良かった。

 家で着る気楽な服として選ばれたのかも。本当に助かります。

 朝食をしっかりと食べて、奥様に挨拶出来ないのは心残りだけども、向こうの宿の方も気になるのでそろそろ行こうとすると、フィリアさんにしっかりと奥様からのお土産を持たされた上、落ち着く場所が決まったら必ず連絡するように、と念押しされた。

 更にフィリアさんから帰って来た奥様から必ず渡すように、と言われたという包みを渡された。

 これは…お金、ですか。

 旦那様からも頂いているのに受け取れない、と断ろうとしたけども、強引な奥様に仕えるとだけあってフィリアさんもなかなかの強引な人で。

 奥様の気持ちは本物だ、と言われて受け取るしかなかった。

 ヤバい。

 本当に泣きそう。

 アースと泊まるはずだった宿屋はすぐ近くだったみたいだけど、送って行くと言われたのは流石に断った。

 どうやらフィリアさんもアースとは会いたくなかったようなのでそこはすぐに引いてくれた。


 宿に戻って部屋の前に来た所で、そういえばどうしてフィリアさんはこの宿のことを知っていたのか疑問になったけど、あんまり考え過ぎないことにした。

 フィリアさんがどうやって私をベッドに運んで着替えもさせてくれたかとか、不思議でない訳ではないんだけど、多分、彼女が有能なだけなんだろう。とか思うと自分の出来なさが浮き彫りになるだけだ。



 そっと扉を開けて中に入ると、部屋の中は静まりかえっていた。

 ベッドにアースの姿が見えない。どうやらアースも宿には帰って来ていないらしい。

 ちょっと面食らっていると、扉の下から入られられたのだろう手紙が床の上にあった。

 手紙を開いてみると、アースの字で何か書いてある。


 多分こう書いてある。

 ~~~に先に行くことになった。

 後から来るように。

 そして住所らしきもの。


 何々~の所、が読めないけど、アースは叔父さんの所に行くと言っていたから多分叔父さんの所、なんだと思う。



 私は大きく息を吸い込む。

 アースは、いない。

 もう目的地には到着した、ということは、私はお役御免なのでは?

 アースがその先をどうするつもりだったのかは知らない。

 けれど、もし、アースが船に乗るつもりで、もし、私も船に乗る予定だったなら。


 私は………あんなものを見ておいて、何も見なかったことにして船に乗って自分にはもう関係ないとばかりに知らないふりをすることなんて、出来ない。


 だから、これは、いいきっかけなのだ。

 アースと離れるには良いタイミング。

 私は、アースが示した場所に、行かない。

 私の家族がどうなったのか、確かめに行こう。

 それに………これ以上アースの側にはいられない。

 いくら言い訳したって、惹かれていっているのは、気付いている。

 まだ、大丈夫。

 今の内なら。

 これ以上好きになってしまう前に。


 部屋に残されていた大きな旅行鞄を開けて、奥様に頂いたものをしまう。料理長さんが入れてくれていた食べ物類がなくなったおかげで入れれる場所は十分開いていた。

 何だか、とても良いタイミングだ。

 アースの蜂蜜が、入れっぱなしなのは気になるけど。

 その蜂蜜の包みの下に、何かあるな、と気付いて出してみると、それはハンカチに包まれた青い石のペンダントだった。

 これ…見たことある。

 あの日、蜂蜜を買った後に雑貨店とか適当にお店を見ていた時に、ちょっと気になっていたやつ。

 買おうか悩んだけど、値段が気になって結局買うのは止めたやつだ。


 アースは、ちゃんと見ていてくれたんだ。

 本当はもう、アースが思っていたよりずっと優しいってこと、気付いてる。

 まあ今までされたこと全てはなかったことには出来ないけど。

 でも、アースは………

 アースは私をからかって遊んでいるだけなのは分かってる。

 だから、ね。

 私ばかりが好きになるのは辛い。

 このペンダントをいい思い出ということにして、もう離れよう。

 フフ。

 奥様にもらった今日の服と全然合わない。

 でも、嬉しい。

 さようなら、アース。

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