生徒会長と魔王
友人では無いが、まるで知らないわけでも無い。要は知り合いだ。俺には、苦手な事がやたらと多いが、その中でも、微妙な知り合いと会話して場を繋ぐのは、苦手な事ランキングで五本の指に入る程である。
レヴィア、何を悩んでいるんだ。ラーメンでもカレーでもかつ丼でも良いから早く選んで帰って来てくれ。お前は、会長と顔見知りだっただろう。場が持たなくなっても知らんぞー!
俺の心情を知ってか知らないでか、俺の目の前の席に腰かけた真理川マナ会長は、自分から話題を切り出してくれた。向こうから喋ってくれるなら、こちらは営業モードで対応するだけだ。
「桐嶋君、最近、授業に出てないでしょ?」
「あ、はぁ…… 少し自分の研究に専念したくて」
嘘は言っていない。ここ数日大富豪したりとか、観月さんがお酒に酔ったりとか、それ以前に俺に全く魔術に関する知見が無いとか、問題点は多々有るが、研究会を立ち上げたのは、本当だ。
「レヴィアが嬉しそうに生徒会室に研究会発足嘆願書を持ってきたよ」
「たまたま目指す方向性が一致したんですよ」
その内、魔術の方向性の違いとかで解散するかもしれませんが、俺達の魔術はロックなんで。もちろん嘘だ。
「あの子はああいう性格だから、中々友達も作れないんだよね」
「そうでしょうね。何となくそんな気がしていました」
「キミや観月君と仲良くやっているようで安心したよ。この前の顔合わせの時もあの子、無茶苦茶したからね」
「確かに……殺されかけましたし」
「気を悪くしないで欲しい。あの子、不器用だからさ。キミ程の魔術師ならば、当たるはずがないってのは、計算していたはずだよ」
……それは普通の営業マン(26)に当たる事が無いと計算していたのか、この世界に名を轟かす天才魔術師『混沌の支配者』に当たる事が無いと計算していたのかで、意味合いが大きく変わり過ぎますけどね。
「…………」
そこで一旦会話が途切れた。真理川会長は口元に笑みを浮かべながら、俺の方をじっと見ている。まるで品定めされているかのようだ。余り気分は良くない。
あと、品定めも良いですけど、何か喋って下さい会長。言っておきますが、俺は自分からは中々会話振りませんよ。
こういう沈黙が発生するから、中途半端な知り合いと二人きりで喋るのは嫌なんだよ。
「キミって不思議な目をしているよね」
「そうですか? 初めてそんな事言われました。目付きが悪いとは良く言われますけど」
真剣に授業聞いていただけなのに、教師に「何だ、桐嶋!その目は!」とか言われるレベル。 しかし、ただ目付き悪いだけで、ヤンキーと思われて畏怖されるとかは、別に無いです。おかしいよな、ただ目付き悪いだけで、何のスキルも備わって無い眼とか……キレたら眼の色が紅くなるくらいのギミックは欲し……これじゃあ、観月さんの事笑えない。
「うん、確かに余り目付きも良くないね。だけど、『魔王』と一緒にいるにはそれくらいがちょうど良い」
「はは……それじゃあ、俺があいつの部下の魔族みたいじゃないっすか」
何てズバスバ言う人だ。傷付くぞ、おい。自虐ってのは、人に欠点を指摘されて傷付かないためにやっているんだよ!
「もっともキミの器はそんなところに収まらないだろうけどね」
「いや……そんな事も無いと思いますけど……」
実際は魔王どころか、会社にこき使われる社畜ですから。
「謙遜は美徳だけどね。過ぎた謙遜は嫌味になるよ」
随分と過大評価されたものだ。 実際にこの世界の俺はそういう人間として生きていたのだろうけど。せめて、この世界の俺が、持っていた能力の一部でも残して行って欲しかった。普通はそういうのでチートするもんじゃないの? 片手落ちも良いところだ。
逆にこの世界に元々居たはずの天才魔術師としての俺は、社畜をやっている俺の体に魂が宿っているのだろうか? 最強の魔術師は、現代日本でどのように生きていくのか……それはそれで悲惨な事になっていそうなので、考えるのをやめた。
「余り、自己主張しても敵増やすんで」
「アハハ、良く言うよ。あれだけの事をしてきといて」
朗らかに笑いながら、真理川会長は言う。どうやら俺がジョークでも言ってると思っているようだ。
ジョークでも何でも無いのだけどね……『混沌の支配者』のやった事を『今の俺』がやった事とされるのは、辛い。
魔術結社を壊滅させたとか、そういう話は聞きたくない。過去からは目を背けて生きて行きたい。
「おっ、話題の魔王様がご帰還みたいだよ」
食事を受け取ったレヴィアと観月さんがこちらの方に歩いてきている。
レヴィアは結局、大盛カツカレーにしたようだ。ちなみに観月さんは、大盛牛丼……二人とも小柄な割りに、何でそんな男らしいセレクトなんだ……! ちなみにウチの学校の学食の大盛りは、物凄いデカ盛りと有名だ。普通、女子は食べない。
これ……この前、約束した焼肉、随分と危険な香りがしてきたんだけど。この子達、凄い食べるんじゃないの。絶対に食べ放題にしよう。
それは置いておいて……これで、俺もソロで会長と話す必要が無くなる。四人以上の飲み会では、基本的にニコニコしているだけと言うのが俺スタイル。
「こんな所で何をしているんだ、マナ。生徒会長とはよっぽど暇と見える」
「レヴィア、今はお昼休みだし! こんにちわ会長」
「やぁ。代表選手のみんなと親睦を深めようと思ってね」
「別に私は、貴様とこれ以上、親睦を深めよう等と思っていない」
開口一番で、悪態をつくレヴィアと、レヴィアを嗜めつつ挨拶する観月さん。
会長は、レヴィアの悪態にも動じる様子は無く、さっきまでと同じ調子で返している。
会長とレヴィア……どういう関係なのだろうか?
今の会話を聞く限りだと、レヴィアは割と会長の事を邪険に扱っているようだが……
会長自身は、随分とレヴィアの事を気に掛けているように思う。
「相変わらずレヴィアはつれないな。でも、珍しいね、レヴィアが昼間に魔王室から出てくるなんて」
「ふん、ただの気紛れだ。たまには凡俗共の食事を口にしてみようと思っただけだ」
魔王室のキッチンには、やたらとカップ麺やレトルト食品が充実していたが……あれは凡俗の食事じゃないのだろうか。もしかして、歴代魔王様ご用達のレトルト食品?
「でも、折角食堂に来たのだから、もう少しバランスを考えて食事するべきだね。普段から不摂生してるんだからサラダつけるとか……」
「お、お前は私の母親かっ!」
「レヴィア、私のサラダ少しわけてあげる」
「いや……良い……」
「まさか、お前野菜嫌いとか小学生みたいな事言わないだろうな」
「ふぅ~、レヴィアは、好き嫌いも、発育も小学生並みなんだよねぇ……」
「は、発育は……関係無いだろう……ッ!!!」
レヴィアが黄金の魔力を開放する。
おおーい!ロウガとガチで殺し合いした時並みに光ってるぞっ!!
食堂に居た生徒達は、完全に避難モードに入っている。こりゃ、恐れられるわけだ……
「アッハッハ! ごめんごめん! 黒コゲにされる前に私は退散するよ。桐嶋君、観月君、ウチの魔王様を宜しくね!」
レヴィアの魔力に全く怯む様子も無く、会長は優雅に残りのコーヒを飲むと、その場より立ち去っていった。もう、この人が俺の代わりに、代表魔術戦出てくれれば良いんじゃないかな。そんな強キャラのオーラ出すなら。
「お前と会長ってどんな関係なわけ?」
「ふん、ただのおせっかい焼きだ、アレは」
それだけ答えるとレヴィアはカツカレーを頬張りだした。どうやら会長との関係については、余り喋る気は無いらしい。
生徒会長と魔王と恐れられる少女か……少なくとも俺の知る十年前では、真理川マナは普通の人だったはずだが……いや、そもそも本来の高校時代において、俺はあの人と喋った事もまともに無いから、そうとも言い切れないか。
一度、真理川会長とレヴィアの関係については、シュウ辺りにでも聞いてみよう。あいつは、生徒会だし、会長とも懇意にしているはずだ。
「それにしてもユキト……」
「ん?」
「貴様の肉団子美味しそうだな……」
「……食うか?」
「フフフ、お前が献上すると言うならば食べやろう」
何で素直に食べたいと言えないんだ、こいつは。
そう思いながらも、レヴィアのカレーに更に肉団子をトッピングしてやる。
「ほう……うむ…………中々美味だ」
「お肉ばっかじゃ駄目だよレヴィア」
「か、カレーには野菜も入ってる!」
アメリカンな人達が「フライドポテト食ってるからヘルシーだぜ」とか言ってるのとそう変わらんな。
「しかし、良く食べるな……」
「ユキトこそ、それだけで良いのか?」
「桐嶋さんのお弁当、男の人にしては小さいですよね?」
「そ、そうかなぁ? 普通だと思うけど……」
別に俺は、小食と言うわけでは無い。一般的な男性くらいは食べる。
我が校の学食のデカ盛りは、一般的な男性が食べる量を凌駕しているだけなのである。
「どうせ魔術を行使していれば、カロリー等すぐ消費し尽すのだ。食べておくに越した事は無い」
どうやら魔術を使うのは魔力以外にカロリーも消費するらしい。
世の中の女性大喜びだな。現に観月さんが、レヴィアの言葉を聞いた途端、目の色が変わっている。
絶対に、この人またオリジナル魔術作り出しちゃうよ……昨日のアレ以外にも。
そもそも、観月さんは全然太ってないですよ! 女性のダイエットにかける執念は、俺には理解出来そうにない。
俺の深夜アニメに対する執念を、多くの女性が理解してくれないように。
「さて、食事も終わったし……そろそろ戻るぞ」
「午後は、どうするんだ?」
「遊び呆けて我々の目標を忘れたのか?」
……遊び呆けていたのは主に、レヴィアじゃないだろうか。
「実は、昨日面白い魔術書の欠片を見つけた。 これは我々の研究を進める糧となるに違いない」
「あれ?レヴィア、昨日はあのまま不貞寝してたんじゃなかったの?」
「不貞寝って言うな! ふん、ちょっと夜中に目が覚めてな」
何はともあれ、ようやくレヴィアが真面目に研究を進めてくれそうだ。
非常に申し訳無いが、この研究の成否はほぼ完全にレヴィアに掛かっている。
俺も出来る雑用とかはやるからねっ! 取り合えず今の所は『混沌の支配者』モードで話を合わせよう。
「お前がそこまで言うからには、余程の物なのだろう。 俺達が時を支配する日も近いな」
「その通りだ。 では、早速ユキトとミツキにも見て貰うとしよう」
レヴィアは、俺には全然聞き取れない単語を高速で呟くと、何も無いはずの空間に手を突っ込んだ。そしてそこから数枚の紙切れを取り出す。どんどんレヴィえもん具合に拍車が掛かってるな……四次○ポケットかよ……
「見るが良い」
異空間より取り出した数枚の紙を、レヴィアは机の上に置いた。
俺と観月さんは、紙を手に取り、その内容を確認する。正直、判るともおも……え……………え……えぇ……
「一見稚拙にも見えるが、中々興味深いだろう? そこに書かれているのは時空間転移に冠する考察だ。どこぞの魔術師が書き記し……どうしたユキト?」
「桐島さん……この紙って……」
そう、この紙は別に魔術書なんて大それたものじゃない。ただの無造作に破られたノートの数ページ分に過ぎない。
そして……この稚拙な内容を書いたのは…………俺だ。
何コレ、死にたい。




