心を無に
「ふあぁ~……頭痛い……あれ……昨日、飲んだっけ……」
「それに……ここは……って何してるんですかっ!?」
「ふん、おはよう」
深い眠りから覚めた観月さんが、最初に目撃したのは、ボロボロになり
レヴィアの尻に敷かれる俺の姿だった。『混沌の支配者』弱すぎるだろ……
撫でろと言うから、撫でたのにこの仕打ちはあんまりだと思います。
しかし、朝から妹に吹っ飛ばされたり、レヴィアの魔術が直撃したり
何で、俺生きているだろう……耐久力が何時の間にか上がったのか?
魔術は使えないけど、耐久力は有るって……完全に盾役だな。
インペリアルクロスは、組みたくないものだ。
「それじゃあ……私、あの後、倒れてたんですね」
「時間を操る魔術を使ったそうだな?理論も確立もされていない禁術を無理やり使えばそうもなるだろう」
「わ、私全然記憶無いんですけど……そうなんですか?」
「う……そ、そうだと思う。俺も確信は無いけど……あの……それはともかくレヴィア退いてくれない。苦しいんだけど。思いのほか重いんだけど」
「なっ……!わ、私は重くなんかないぞっ!」
いや、レヴィアは小柄だし、軽い方だとは思うけど……
どんなに軽くても数十kgは有るだろ。その時点で、上に乗られたら重いんだ。
「でも、時間を操るって事は……どうなったんですか?」
「ウチの妹と、観月さんちのお兄様の記憶が巻き戻されたみたいだよ。お陰で、彼らの見た俺達の恥ずかしい姿は消え去ってくれたみたいだ」
正確には、ガロウは立ち去る時に俺の事を敵視せずに素直に帰宅した事から考えて
ユキコとガロウの記憶が一律同じ時間まで遡ったと言うわけでは無さそうだ。
それこそ……俺達に最も都合の良い形であの二人の記憶を遡行させた形だ。
「なるほど……記憶だけの遡行か。確かにそれならば、肉体その物を時間移動さえるよりは、容易に達成出来るかもしれない」
仮にそれが可能だとして、俺達が元の時代に戻るために全く意味が無いわけだが……
そもそも、単純に十年後に移動しても、この世界の十年後に行くだけじゃまるで意味無いんだよなぁ。
よくよく考えると単純な時間移動じゃなくて、時間+平行世界間の移動とかになるのだろうか。
「観月さんは、あの時……何か変な声とか聞こえた?」
「……良く思い出せません。あの時は、何とか兄の記憶を消す方法は無いかばかり考えてました。最悪、後ろ頭辺りを強打すれば……とか」
「あ、ああ……そう」
それは魔術では無くて物理だね。意外とアグレッシブな発想をしていらっしゃる。
あの時、時間を戻そうと言う発想をしたのは、俺だけと言う事か……?
「ふーむ……何らかの因果が集まり……この事象が起きたと言う事か……」
腕組み、足組みをしてレヴィアが思案に暮れている。
いや、良いけど、そろそろ降りようよ。俺も何かどんな台詞言っても締まらないし。
「あの……私、倒れてたんですよね?介抱して頂いて、ありがとうございます」
「大した事はしていない。多少、魔力を分け与えただけだ」
「俺は、布団に寝かせただけで、本当に何もしてないよ」
「いえ……そんな。ご迷惑お掛けしました」
立ち上がり、頭を下げる観月さん、しかし、その足元は覚束ない。
「まだ、ふらふらしてるし、無理しなくて良いよ」
「な、何かおかしいんですよね……頭痛いし……酔ってるみたいな感じで……」
……極上のワインより上等とか言っていたが……まさかな。
「魔王の血をあれくらい摂取すればそうなるだろうな」
「お前の血、本当にアルコール含まれてるのっ!?」
「含まれるかっ!一度に過剰な魔力摂取はアルコール摂取以上の酩酊感を与えると言うだけだ」
「その副作用と言うわけか」
「私……結構お酒には強いはずなのに……」
立っていられなくなったのか、再び観月さんは布団の上にペタンと座る。
どうでも良いが、お酒には強く無いんじゃないかな。
俺が君を初めて目撃した時はグダグダに酔っ払って、大きな声で、中二病妄想を爆裂させてたよ。
同僚の女の子が完全に困惑気味だったよ。
「あの……とっても申し訳無いんですけど……少し……寝ても良いですか?」
「えっ!?いや、俺は全然構わないけど……」
「安心しろ。私が居るからこの男が獣になる事も無いだろう」
「ならないよっ!?俺、そんな事しないよっ!?」
「ありがとうございますレヴィアさん」
「さん付けなどいらない。レヴィアで良い。あと敬語も不要だ」
「ん……ありがと、レヴィア……」
「いや、レヴィア居なくても何もしないからね。本当に。神に誓って」
そのまま観月さんは眠りに落ちて言った。すぐに静かね寝息を立て始めた。
俺の部屋で、女の子が寝ていると言う光景が、何とも……
「何を興奮しているんだ変態」
「してないよっ!?」
「どうだか……」
懐疑の目を向けられる。いや、多少はね……男だからね。
それに肉体も若返っちゃってるわけだし……中高生って凄いから。
「それよりもいい加減降りろよ。もう反省してるから、二度と頭撫でたりしないから」
「……たまになら触らせてやっても良い」
「いや、別に俺は……」
「嬉しくないのか?」
どんな屈強な魔族でも平伏してしまいそうな程、鋭い瞳が俺を射抜く。
「う、嬉しいなぁ……わーい……」
「素直にそう言えば良いんだ」
ようやくレヴィアは俺の背中から腰を上げてくれた。
良かった。このまま金色の魔王専用の椅子にでもされてしまうのかと思ってた。
金色に塗られて肩に百とか書かれたらどうしようかと……
「研究会開始は十七時だ」
「……今日やるの?観月さんもそんな感じだし、休みじゃないの?」
もっとも、時間は無いのだから、レヴィアがやると言うならば俺は異存は無い。
今日の現象をもっと突き詰めれば、何かしらの光明が見えてくるかもしれない。
「ふん、数時間もすれば観月も体に私の魔力が馴染んで、動けるようになる」
「判った。今日も魔王室に行けば良いんだな」
「その通りだ……本格的なレベル5研究会(仮)の始動だ」
その名前、別に変えて良いからな。
早く、正式名称にして(仮)を取ってくれ。俺が恥ずかしい。
「さて……じゃあ……おやすみ」
「うん、おやす……って何でお前まで布団に入って行こうとしてるっ!?」
「私は基本的に夜行性なんだ……それにさっきの儀式で疲れて眠い……」
「じゃあ、自分の部屋に戻れよ!直通魔法陣あるんだろっ!」
「面倒臭い……」
「そもそも、俺が獣にならないように監視するんじゃなかったのか!?」
「おや?私が居ないと獣になるのか?私達を襲うのか?」
「いや、お前を襲う事はないわ、絶対に」
「……どういう意味だ」
自分の胸に聞いてみろ。色んな意味で。
「ふん、それにこの布団の周囲に結界を張った。そうだな……この結界を私が起きるまでに解除出来るなら、考えてやら無くも無いぞ」
「安心しろ。そんなつもりないから」
「つまらない男め……おやすみ」
そのままレヴィアは観月さんの隣に潜り込んで行った。
程無くして、レヴィアも寝息を立て始める。一見無防備過ぎる光景だ。
レヴィアの結界か……破ろうとしたら黒こげじゃすまないんだろうな。
……結界を一枚隔てた先で、美少女が二人寝息を立てている。
どうすれば良いんだ俺は……心を無にしよう。そして、宇宙の真理へと至るのだ。
俺は取り敢えず、考えるのをやめた。この状況で魔法使い見習いに出来る事など何も無いっ!




