発動する力
言うまでも無く俺の趣味は、アニメ鑑賞だ。
漫画やライトノベルも大好きだ。二十六歳になってもそれは変わらない。
そして、当然これらの中には妹萌えと言うジャンルが存在する。
俺自身も創作の中の『妹』に対しては多かれ少なかれそういう感情を持った事がある。
お兄ちゃんの事を恋愛レベルで大好きな妹と言うのは実に可愛いものだ。創作ならば。
俺は、観月ガロウと言う、リアルにも妹萌えを持ち込んだ変態極道をやり過ごすために
俺自身も同レベルの変態だと奴に認識させた。それが……こんな結果を生むなんて……
「観月エリナさんだよね。一年生の」
「は、はい……始めまして。お兄さんには何時もお世話に……」
「気安くお兄さんとか言うなー!」
「ふぁ!?す、すいません。桐嶋さんには何時もお世話になってます」
ユキコはさっきから悪い絡み方を観月さんに実施している。
確かに俺とユキコは仲が良い兄妹だったと思う。
喧嘩をする事は多々有ったが、すぐに仲直りをしてきた。
少なくとも「お兄ちゃんのパンツを一緒には洗わないで」とか「友達来るから、部屋から出てこないで」みたいな
妹に言われたら死にたくなる言葉ベストテンに入るような台詞はを吐かれるような関係にはなった事が無い。
そうは言っても、普通の兄妹レベルを逸脱するような事は無かった……
あくまで親戚や友人から、「ユキト君とユキコちゃんは仲が良いねぇ」って言われる程度だ。
「観月ちゃんさぁ……同じ代表メンバーの上に、年下だからって私よりお兄ちゃんの妹に相応しいとか思ってないよね?」
「ど、どうしてそういう発想が……」
観月さんは困惑した表情で、俺の方に助けを求めている。
すまない、多分一番困惑しているのは俺なんだ。
俺の人生は平凡だと思っていた。しかし、どうやら俺が気付いていなかっただけで
爆弾はごく身近なところにも仕込まれていたらしい。俺の妹がこんなにヤンデレなわけがない……マジで……
そう言えば、ユキコは俺と違って、異性にも、もてていた。シュウなんかも昔はユキコに惚れていたはずだ。
にも関わらず、ユキコは俺の知る限りでは男の影は一度も無かった。
そう言えば、ちょっと前に酒を一緒に飲んだ時……
『お前ももう二十五だろ。早く良い奴見つけといた方が良いぞ。あんまり言いたくないが、絶対に男は若い子のが好きだぞ。』
『うわー……そういうの女の子に言うと引かれるよ』
『う、うるせぇ』
『そういうユキトはどうなのー?』
『はぁ?俺がもてない事くらい知ってるだろ。それに今は仕事が忙しいんだよ』
『それ言い訳っしょ。ユキトは挑戦すらしないじゃん。傷つくのにびびってるだけ』
『ぐっ……お、俺の話はいい。男はあれだよ。年取っても何とかなるんだよ。年収上がるし』
『私の年収、ユキトより大分上だよ』
『そうだったね……それは関係無いだろ!』
『だからー、ユキトに心配されなくても私は私で今好きな事やってるから良いの』
『はぁー、そりゃそうかぁ。好きな事やって成功してるんだし……もういっそ俺もお前に養って貰おうかな。ニートになっても良いですか?』
『本気?』
『……冗談に決まってるだろ』
『そっかー……そうだよねぇー……』
……今、思い出すとあの時の会話も……あの時の表情も……
俺が……あんな事をしてしまったから、隠していたはずの感情を暴発させてしまったのか。
だとしたら……やってしまった。ユキコが俺の事を好きと言ってくれるのは素直に嬉しい。
俺だって好きだ。だが、俺のその感情は兄妹の範疇を出ていない。
しかし、今や俺の不用意な行動のせいで、ユキコは俺と相思相愛だと錯覚してしまっている。性的な意味でっ!
一難去ってまた一難とはこの事だ。他所の家の変態兄貴を撃退したら、ウチの家の妹がヤンデレ風味になっていたなんて……
「もしも、あなたが……『碧き光を纏いし虚空の姫君』 だとしても……妹の座を奪おうと言うならば戦わなければならない」
「わ、私はそういうつもりは一切有りません」
「そんなつもりは無いって……まさか……つ、付き合ってるとかじゃないよね……?」
「ち、違いますってば!」
「じゃあ、何で学校サボってまでウチに来たりしてるの?打ち合わせは学校で出来るよね?むしろ打ち合わせなんかしなくても良いんじゃない?二人とも強いんだし。」
ユキコその辺にしておくんだ。
このパターンはヤバイ。このまま尋問を続けていけば『私、桐嶋さんのことなんて何とも思ってないです。むしろキモイです』とか言われかねない。
そんな事になろう物ならば、俺は多分、この命を投げ出す事になってしまう。
手作りクッキーと言う女神のアイテムで得た幸福感からのギャップに耐え切る自信がまるで無い。
と言うかさっきから妹の思考パターンがおかしい。ほぼロウガと変わらないじゃねーか。
あの野郎が変な魔術を残していったんじゃないだろうな……
「桐嶋さん……妹さんの兄妹に関してだと話が、全く通じない所がウチの兄にそっくりです……」
「ああ、とても奇遇な事に、俺もそう思っていたところだ」
「観月ちゃんもお兄さんいるの?」
「はい……はっ!」
何かを思いついた表情をする観月さん……!そ、それはまさか……
「そ、そうです!私も兄が居るんです。すっごく格好良いんです。何時もクールで……部下達にも信頼されてて、とっても強くて!」
図らずとも、観月さんは俺と同じ選択をした。
ヒートアップしてるヤンデレ兄貴にしろ、ヤンデレ妹にしろ、取り敢えずは敵対の意思が無い事を見せようと言う訳だ。
良いのか!?それで良いのか観月さん!兄の本性を知っている上で、お兄ちゃん大好きアピールして心が持つのか!?
「うぷ……」
案の定、言ってて吐きそうになってる。そこまで嫌われているロウガも哀れだ。
「だ、だから……他所の兄に手を出すなんて有り得ません!だって……私……ううう……」
が、頑張れ観月さん!顔真っ青で、明らかに死にそうな顔色だけど、この場を収めるために頑張ってくれ!
「お、お兄ちゃんが大好きだからっ!」
「…………」
言い切った観月さんは、フルマラソンしてきたみたいにやつれている。
ユキコはその様子をじっと見つめている。この光景……デジャビュを感じる。
「良かったぁ!観月ちゃんも私と同じの兄萌えだったんだね」
「は、はは……そーなんです。そーなんですよ……ははは……」
力無く笑う観月さんが痛々しい。
でも、誇っくれ。観月さんのお陰でこの場は丸くおさまr……
そう思った時だった。俺は背後に、さっきまで無かったはずの気配を感じた。
嫌な……嫌な予感が……
「今日は何て日だい……同志が出来たと思ったら、その上エリちゃんが俺の想いを受け入れてくれるなんて……エリちゃんの姿が見えたから着いて来て良かった……」
す、ストーカー兄貴っ!?帰ったと思ったら最悪だよこの人。
この上話を混ぜっ返すな!もはや観月さんのライフポイントは完全に0なんだぞ。
「はっ!?さっき、私の部屋に居た変態……この人が観月ちゃんのお兄さん?」
「あ、あの……その……」
「なるほどー ウチの兄と一緒に妹の可愛さを談義してたわけかー!」
「ハハハ、やはり兄妹は愛し合うに限るからね」
「ですよね!」
「き、桐嶋さん……私……死にます……」
「ちょ、ちょっとーーー!!」
だ、駄目だ。観月さんが真っ青を通り越して真っ白になり掛けている。
しかも恐ろしいことにロウガと、ユキコが意気投合しそうな勢いだ。
ここからの逆転なんて俺には無理だ……そんな営業テクニックは無い。
しかし、何とかしないと、観月さんも俺もこの勘違いのせいで、貞操が危ない気がする。
時間を戻したい。こいつ等の記憶だけでも良い……時間を……!!
それはただの願望のはずだった。
その瞬間、目の前が真っ暗になる。何だ……一体どうなった?
まるで世界から、俺だけが隔離されてしまったかのようだ。
『やっとその気になったね』
どこかで、何時か聞いた声……それが俺の頭の中で響いた気がした。
声の主の姿はどこにも見えない。俺の見える世界は、暗闇のままだ。
『混沌の支配者、君は時をも支配するんだ』
思い出してきた。こいつの声は……夢の中で……
『さぁ、君が、君のために都合の良い世界を作るために!!禁忌を侵せ!!あの時と同じように!!何時もと同じようにっ!!』
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……………………………
…………………………
「う……なんだったんだ……」
頭が異常に痛い。さっきまで真っ暗だった視界は徐々に光を取り戻してきた。
「あれー?私なんで……ユキトの部屋にいるんだっけ?って……ぎゃー!もうこんな時間!?」
「おや?俺は何時の間にこの部屋に……?おおぅっ!?違うんだエリちゃん。俺はただの通りすがりだ!ストーキングしていたわけではないっ!さ、さらばっ!! 同志よ!間違いは起こさないようにな!」
「な、何……あの人……」
違和感。つい数分前と同じ部屋に同じ面子が居る。
だが、数分前とはユキコもガロウも態度が全然違う……
ユキコは何時ものユキコだ。俺のやらかしを目撃する前の……
ガロウも同じだ。観月さんのやらかしを目撃する前の……
「それにしても、ユキトー……女の子連れ込むなんてやるじゃん!」
「い、いや……これは」
「そっかー……そうだよねぇ……うん、じゃ、私行くから!帰ったら何してたか聞かせてね!」
そう言って部屋から出て行くユキコが少し寂しそうに見えたのは、気のせいでは無いはずだ。
そう思ってしまうのは、さっきまでユキコの感情発露を見てしまったからだろう。
間違い無い……ユキコとガロウの記憶が……過去に戻っている。俺たちに都合良く。
ピンチで俺の秘められた力が覚醒的な?本当に異名に相応しい感じになってるんじゃないか、俺!?
少しばかりピンチの質が、格好良い感じじゃないのが残念なところだが。
きっと観月さんも今の俺と同じようにテンションが……
「み、観月さん?」
「はぁはぁ…………」
観月さんの顔色は悪いままだ。それに息も上がっている。
彼女の様子は尋常では無い。
「っ………」
そのまま倒れこむ観月さんを何とか支える。何が……何が起こったんだ?
俺は、また……触れてはいけない物に、触れてしまったのかもしれない。




