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極めし者

「やばいー!遅刻遅刻ーー!!」

「遅れるなよ。ユキコ」

「あっ!今日も重役出勤なのユキト!」

「フッ、選ばれし魔術師に与えられた特権を行使しているだけだ」

「もー!腹立つなぁ!っとやばいやばーい!」


 転移魔法陣のお陰で、ギリギリでも間に合うはずなのだが、

 既にHRまで後一分と言うところか……流石にこれはアウトかもしれないな。

 優雅にコーヒーを啜りながら、俺はそんなことを思っていた。

 今日も授業はサボリだ。

 

 何故ならば、今の俺にはやらねばならない事が有る。そう、部屋の徹底清掃だ!

 人が女の子を家に呼ぶ時と言うのは、何を気にするべきなのだろうか?

 やはり清潔感は最低限必要だろう。お洒落な部屋作りはその次だ。


 二十六歳の俺は、有る意味その辺を完全に諦めてしまっていた。

 部屋には、捨てていないゴミ袋が溜まり、無造作に本は積み上げられ

 アニメのフィギュアやプラモデルが開封もせずに積み上げられている。

 はっきり言って、自分でも判っている。これはもてない男の部屋だと……

 だが、今回は運が良かった。十年前の実家ならば……親に煩く言われるためそこまで散らかっていない。


 昨日、魔王室に出向く前に数時間掛けて行った大掃除も効いている。

 見られたら拙い物は全て、昨日の時点で纏め終えている。

 あとをこれらを、我が宝物庫(庭の倉庫)にしまえば完璧だ。

 親は仕事、妹は学校。俺は今日も授業には行かない。準備は整った……!

 

 そう、今日は……観月さんがネットでの情報収集のために俺の家に来るのだ。

 レヴィアのような瞬間移動で何時でも何処でも登場をされると準備もクソも無くなるが

 今回は事前に判っていただけに準備は万端だ。エロ本等発見される恐れも無い!


 ◆◆


 ピンポーン

 

 俺が、危険物を全て宝物庫に運び終えたのと時をほぼ同じくして玄関のチャイムが鳴った。

 約束の時間よりも少し早い。

 落ち着け。何時もの感じで行こう。変に気負うと挙動不審になる。

 何時ものちょっと弄り入れて行くくらいの感じがベストのはずだ。

 よし!行くぞ……!


「いらっしゃー……」

「ふぅ~ん……ショボくれた拠点だな。おい」


 ピシャッ ガチャッ


 速攻で玄関の扉を閉め鍵をかける。

 ふー……ちょっと気負いすぎだったな。

 居るはずの無いものが見えてしまった。

 まさか、変態任侠の人が俺の家にまで現れるはずが無いよな。

 

「何、締め出してるんだコラァ!」


 気のせいだ。玄関前で叫んでいるのは近所の変なおじさんだ。

 決して俺の事を殺しに来たヒットマンなんかじゃないはずだ。

 もう一度だけ確認してみよう。


「よう。『混沌の支配者』」


 残念。ヒットマンだった……


「何の御用でしょうか。俺は用事有りません。では……」

「俺には有るんだよ……クソガキ」


 み、観月さん……変態兄貴は何とかしたんじゃなかったんですか。

 最悪だ。最悪の状況だ。今までで一番最悪な状況だ。

 浮かれすぎてて、何時もなら絶対に反応するはずの危機察知能力が機能してなかった。

 これまで、この変態兄貴観月ロウガと対峙した時は、ロウガと互角以上のレヴィアや

 有無を言わさずロウガをノックアウト出来る観月さんが一緒だった。

 まさか……ソロでこいつに出会うハメになるなんて。しかも家突き止められてる……

 もう絶対にお父さんに頼んでウチの結界強化しよう。

 不法侵入者は魂魄が消滅する勢いの強烈な結界に変えて貰おう。


「今日、エリちゃんが、てめぇのきたねぇ部屋に訪れるそうだなぁ?あ?」


 観月さん……話を通してくれたのは良いけど、逆効果だったみたいですよ。

 もう今にも腰にぶら下げた日本刀を抜刀して来そうだ。洒落にならん。

 観月さんはまだ来そうに無い。それに仮に観月さんが今来てくれてこの場を凌げても

 既に、俺の家はこの変態に知られてしまった……その内、確実に消される。

 何とか……何とかしなければ……俺の持ち得る能力を総動員して!


「何、黙ってやがる。ネタはあがってんだ。一分時間をくれてやる。最期の言葉でも考えろや」


 余り時間は無いようだ。

 この窮地を逃れるには……考えろ。脳をフルで回転させろ。

 こいつは危険なクレーマーと同じだ。どうすればクレーマーの怒りは収まる!?

 お客様が何を求めているのか考えろ。俺に有るのは、営業として培ってきたスキルだけだ。


「フッ……こんな所で立ち話も何だ。上がれ、観月ロウガ」

「自分のテリトリーに誘い込もうって言う作戦ならのらんぞ」

「俺が妙な真似をするようなら、その瞬間切り捨てれば良いさ。だが、お前にどうしても見せたい物がある」

「……最期の望みがそれだって言うなら見てやる。だが、妙な真似すれば、死ぬ時間が早まるだけってのを心に刻んどけ」


 これは賭けだ。成功確率なんてどんなもんか判らない。

 だが、今は九十九%無理でも、どんなに分が悪くてもこれに賭けるしかない。


「着いて来い」

「チッ……」


 第一段階は成功。玄関前で斬り捨てれるのは回避した。

 後は……二階のあの部屋に誘導するまで斬られない事を祈るだけだ。


「しけた家だ。こんな所にエリちゃんをあげようなんざ万死に値する」

「あんたの家に比べられたら、しけて無い家なんて滅多に無いなだろうな」

「ケッ……エリちゃんが来るまでの時間稼ぎのつもりなら、もう斬るぞ」

「待てよ。ここだ。俺があんたに見せたい物ってのは……」

「この部屋の中に俺を仕留められるトラップでも仕掛けてあるのか?」

「そんな事は言っていない。見るが良い……!!」

「こ、これは……!」


 俺は両手で力強く、襖を開いた。

 こいつの襲撃が今日で良かった……普段だったらこの部屋は俺では開けられない。


 その部屋は、俺の部屋と同じように和風で有りながら、全体的にピンク色だった。

 俺の部屋との最大の違いはベッドが備え付けられ、大きな鏡がある事だろう。

 朝、慌てていた為だろうか、夜着ていたであろうジャージが、ベットの上に脱ぎ散らかされている。

 タンスも無造作に開いており、そこからは、可愛らしい下着が覗いている。

 そう……これこそが……俺の切り札っ!奴と戦うためのっ!


「この部屋は……!!」

「とっくに気づいているんだろう……ここが何の部屋か……」

「ま、まさか……貴様……!」

「我が名は『混沌の支配者』……そして、またの名は……」


「『妹萌えを極めし者 <<シスターマイスター>> 』」


 ……俺は高らかに宣言する。

 そして同時に弾ける様に、部屋の中に突撃する。

 脳のリミッターは既に振り切れているっ!


「うおおおおおお!!!!」

 

 俺はジャージを掴むと、顔に押し当てる。

 くんかくんかしながらのベッドの上ローリング!もちろん枕も既に俺の腕の中だ。

 奴を……奴の限界を超えろっ!!


「……………………!!」

 

 どれくらいの時が経っただろうか。

 観月ロウガは、沈黙を保ったまま俺の方を見ている。

 そして、ベッドの上で回転し続ける俺の方へ一歩ずつ近づいて来た。

 その目は一瞬たりとも俺の方から逸らさない。鬼気迫る迫力だ。

 ……き、切り札をしても……届かなかったか……俺は死を覚悟し枕に顔を埋めた。

 

 しかし、何時まで経っても奴の剣が俺を斬り捨てる事は無かった。

 俺は顔を上げ、ロウガの顔をもう一度見る。何時の間にか、奴の瞳には涙が溜まっていた。


「友よ……」


 ロウガは手を差し出した。通った……!

 俺は差し出された手を熱く握り返す。今までのいざこざ等関係無い硬い握手が結ばれる。


「判ってくれたか」

「ああ……見せて貰ったよ。お前の覚悟を」

「ガロウ!」

「ユキト!」


 男達は分かり合ったのだ。


「そんでー 何でユキトと知らないお兄さんが私の部屋で熱く握手交わしてるのかなぁ」

「妹の部屋こそが紳士の社交場だからに決まっているだろう?」

「その通りだ」

「紹介するよロウガ。彼女こそ、俺の最愛の妹だ」

「素晴らしい。我が妹には劣るが、素晴らしい妹力だ」

「ありがとう、我がと……も……よ…………お……おかえりー……は、早かったねユキコちゃん……」

「忘れ物しちゃってね☆」

「そ……そっかぁー」

「ハハハ、我が友の妹君はおっちょこちょいだな。ドジッ娘妹は+五点だな」

「そうなんですよー アッハッハッハ☆」

「は、ははは……」

「うん、それじゃあ…………まぁ、死ね☆」


 妹の笑顔が反転した。同時に拳から巨大な魔力の塊が放たれる……

 俺とロウガは為す術無くその魔力塊に巻き込まれ、壁を破り外の世界へダイブした。

 ああ……世界ってこんなに残酷だったんだね……


「大丈夫か、シスターマイスター」

「うっ、うう……さ、流石俺の妹だ……」

「妹の愛情表現とは何時の時代も過激なものさ。エリちゃんはもっと激しい」

「ああ、俺の妹がこんなに愛情表現が激しいのも困りものだ……」


 いや、本当に今までで一番死ぬかと思った。

 ロウガが張った防御フィールドの後ろに運良く俺も居た為に、命は助かったようだ。

 まさか、この男に命を救われる日が来るとは予想すらしていなかった。

 しかも、この世界に来て最大の危機が妹の手による物になるとも思っていなかった。

 

「すまなかったな。お前と言う漢を見誤っていたようだ」

「気にするな。俺達は同志なんだから」


 一応、弁明させてくれ。俺は三次元の妹になど萌えた事なんか本当は無いっ!!

 二次元の妹には、俺の歴代の嫁の中でも最強クラスのキャラにのみ与えられる称号の十傑嫁の中にも入る猛者も居るが、だからと言って実の妹に欲情する変態では無い。


 俺は、ただ単に観月ガロウと言う男に望む物を与えただけだ。

 『桐嶋ユキトと言う人間は、自分と同類の妹萌えで有り、観月エリナに対してやましい感情等持ち得ない』

 俺の事を同類と認識した、ガロウは今後も俺に突っ掛かってくる事は無くなる。

 俺は賭けには勝ち、安心して観月さんと会話出来る環境を構築出来たはずだったのに……


 絶対に今日家族会議だよ!!ユキコからとんでもない報告書が両親に入るよ!

 こんなもん始末書じゃすまねーぞ……もう死にたい。いっそ死ねば良かった……


「今日は良い日だ。俺は、この辺でお暇させて貰う。近い内に、杯を交わそう友よ」


 今日、俺が得た物 ……変態の友人

 今日、俺が失った物……妹よりの信頼


 等価交換成り立ってねーよ……コレ……

 悠々と立ち去っていく変態を見送りながら俺は涙を流すしか無かった。

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