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02

 放課後、部活動が終わり校内に人気がなくなった時間に私は体育館にいる。


 顔が汗まみれで、半袖Tシャツは半分以上の色が変わり、パンツも汗で濡れて気持ち悪い。どうしてこんなに全身汗まみれかといえば、私が生まれもって魔力を宿した能力者だからなのだ。まったく、どうして私なんだろ。


 突然ですが、この世の中には魔法というものが存在します。でもまあ、この世の中に生きている人のとっては魔法や能力者のことは常識だと思うので長々と説明する気はありません。しかし、魔法というものは科学を超越する事ができるものというのは相変わらずですけど、科学の進歩でその優位性は下がっているようだ。それでも魔法で出来ることはすごい事なのに変わりがないみたい。


 いきなり緊張の糸が切れて、全身の力がフッと抜けてしまい、あまりの疲労感から床に膝と手をついてしまう。呼吸は苦しいほどに乱れ息が弾み、全身からは汗が噴出し、鼻やあごからポタポタと汗が床に滴り落ちる。


「はい、今日はこの辺でお仕舞い。だけど美咲ちゃん、今日は全然集中できてなかったけど、体調とか崩していませんか?」


 四つん這いのまま顔を上げると、画面だけのタブレットパソコンにタッチペンで何かを書き入れながら歩いてくる、白い半袖シャツに黒いスラックス姿の中井由貴奈さんが目にはいる。


「別に体調は悪くないです。ただ、お昼に友達と喧嘩しちゃって、その事が頭から離れないだけですから」


「そうですか。それじゃ、その友達と早く仲直りできるといいですね」


 中井さんは笑顔で私の前に立つと、タッチペンを端末に収納してしゃがむ。


 この中井由貴奈さんは、私の魔力を上手にコントールできるように指導してくれている、魔法協会の準魔法師なのだ。そして私のような素人能力者の指導員でもあるのだ。身長は私より少し高く、訓練中は長い髪は後ろでまとめている。指導中はときどき笑顔をみせたりしてくれ、親しみやすい人だと思う。しかし、私の指導中にはそんなことないが、聞いた話によれば、訓練中に手を抜いたりしたら思いっきり頬をビンタしたり、厳しい一面もあるそうだ。


 ちなみに、魔力制御訓練を受け始めて二ヶ月くらいになるけど、私はまだ中井さんに叩かれたことはない――と言うより、手の抜ける程の域に達していないというのが事実だったりする。毎日、精一杯訓練している状態なのだ。


「ですが、明日も今日みたいな事では困ります。できるだけ早くその胸のつっかえを取り除きなさいね。魔力を使っているのですから、集中力を欠いていては怪我をしますよ」


「はぁ、はぁ、はい。努力してみます」


 返事しつつ息を整える。


「でもまあ、美咲ちゃんの年の頃は友達と喧嘩するのもいい経験かもね。どう、そろそろ立てる?」


「あ、はい。立てます」


 私がゆっくり立ち上がると、中井さんはタブレット端末を足元に置いてスラックスのポケットから銀色のリング状の物を取り出す。


「はい右腕出して、コレ付けるから」


 中井さんの右手には指輪くらいの銀色のリング。


 中井さんはそれを手の平の上に置くと、リングが緑色に輝く。するとリングの大きさは腕輪くらいになり、それを中井さんは私の手首のあたりに通す。ただ、その銀色のリングは私の手首より大きく、すぐに手をすり抜けて落ちそう。しかし、中井さんが触れるとリングはもう一度緑色の光を放つ。するとリングは私の手首に合わせるように縮まっていき、最終的にはちょうどいい具合に手首にフィットする。


「よし、っと。きつくない?」


「大丈夫です」


「それじゃ、今日はここまででお仕舞いね」


 私は一歩下がり姿勢を正すと、「ありがとうございました」と言いつつ頭を下げる。


「はい、お疲れさま。車とかに気をつけて帰ってね」


 中井さんはそう言うと、三脚に載ったカメラ等の測定装置の機材を片付けはじめる。


「では失礼します」


 そう言いつつ軽く頭を下げて私は、身体のだるさを覚えながら体育館のホールを出る。


 魔力制御訓練は私の通う高校で行っている。どうして高校の体育館かといえば、訓練場所の確保と、能力者の理解のための広報活動という一面もあるみたい。とりあえず魔法協会の施設には訓練場も広報施設もあるのだけれど、私みたいな覚醒したての能力者にはそんなに訓練場の広さは必要とはしないらしく、私の負担とかを考慮した結果、協会と学校とで話し合い、部活動の終った後に体育館を使ってもいいという事になったらしい。


 ぐしょぐしょのシャツや下着を気持ち悪いと思いながら更衣室に向かおうとすると、体育館の出入り口のほうから呼び止められる。


「美咲ぃ」


 振り返るとそこには私より身長が高く、髪が肘くらいある女子がいた。


 まあ誰かといえば、十年来の付き合いになる幼馴染の高橋美佳子だったりする。


「なんだ美佳子か。なにか用?」


 私がそう言うと、美佳子は開いていた携帯電話を閉じて、床に置いてあった鞄を持ち、携帯をスカートのポケットにしまいながら私のほうへ近づいてくる。


「せっかく待っててあげたのに、その言い方はないでしょ、普通」


 そう言いながら美佳子は私の前まで来ると、痛くない程度に私の両頬を掴んで引っ張る。


「それと、疲れてるのは分かっているけどさ、そんな鬱陶しそうな顔をしないの。美咲はすぐに感情が面に出るんだから気をつけないと」


 美佳子は笑顔で私の頬を伸ばしたり縮めたりしながら言う。


「待っていたのは美佳子の勝手でしょ。まあいいや、それで何か用ですか? 幼馴染殿」


「見事な棒読みだね」


 私の頬から手を放すと、美佳子はニッコリ笑顔になる。


「ケーキを食べに行っこ、最近駅前にできたとこに」


「ケーキ? ケーキなら食べたいなぁ。うん、行く行く。んじゃ着替えてくるから、ちょっと待ってて、急いで着替えちゃうから」


「おっ、いい笑顔になった。それじゃ、体育館の入り口らへんで待ってるから」


 いったん美佳子と別れて更衣室に向かう。


 体育館の更衣室は普段あんまり使われる事がない。体育は教室で着替えるし、部活動のときは各部室で着替えるみたいで、体育館の通路の奥にあるこの更衣室は、取り立てて使われてはこなかった。だからなのだろう、中身不明のダンボールがドンドンと積み重なっていたりする。たぶん、この部屋はここ数年間、物置として使われてきたんだろうと推測できる。


 更衣室に入ると、扉近くの蛍光灯のスイッチを押して更衣室に明かりを灯す。


 そんな更衣室には真新しい縦長ロッカーが一台と、こっちも真新しいベンチが置いてある。これらは魔法協会の備品らしい。これも学校側と協会で話し合った結果なのだろうけれど、私なんかのために色んな人が動いてくれたんだろうと想像すると、何となく申し訳なく思ったりする。


 更衣室の扉の鍵を掛けてロッカーを開けると、その中には、私のハンガーに掛かった高校の制服や教科書とかが入った鞄、着替えとかが入ったスポーツバッグがある。


 スポーツバッグを取り出すと、バッグの中から着替えと大きめのタオルを取り出し、汗で濡れたシャツや下着を脱いで、タオルで体の汗を拭う。これで少しスッキリする。そして着替えの下着やシャツを身につけ、その上に夏服の制服を着る。


 うちの高校の制服は、下に紺色のスカート、上に白いブラウスに赤いネクタイというもの。あと、本来なら夏用のジャケットがあるのだけれど、ほとんどの生徒は着てはいなく、着ているほうが珍しいくらいだ。


 よし、っと。


 脱いだ汚れ物をビニール袋に入れスポーツバッグに仕舞うと、バッグを肩に掛け、ロッカーから鞄を取り出す。そしてロッカーを閉めて、明かりを消して更衣室を出る。


 靴を履いて体育館を出ると外は暗くなっていた(まあ、暗いのはいつもの事だけどね)。昼間の真夏のような暑さがまだ残り、梅雨独特の湿った空気が合わさって外に出た瞬間、じんわり汗ばんでしまう。


「おまたせ」


 壁に寄り掛かって携帯をいじる美佳子にそう声をかけると、すぐに顔を上げた。


「はい、ずいぶんと待たせてもらいました。じゃあ、行こうか」


 人をからかうような笑顔で言うと美佳子は携帯をスカートのポケットに仕舞い、地面に置いてある鞄を持って歩きはじめる。


「ちょっ、まってよ。荷物、結構重たいんだからさ」


「あーあ、美咲はちっちゃいうえに歩幅もなくて大変ですなぁ」


 小走りで追いつた私に対して、にこやかな表情で美佳子さんはそんな事を言う。


「ちっちゃい言うな、バーカ。いつか絶対に追い抜いてやるんだから」


「えー、美咲はちっちゃいほうが可愛いと思うけどなぁ」


 美佳子は私の頭をポンポンと軽く叩きながら言った。


 私の身長が百五十センチくらい(正確には百四十八センチ)なのに対し、美佳子の身長は私よりも二十センチも高い百七十センチくらいだから、美香子のほうが二十センチ大きい。小学校の頃までは同じくらいの身長だったのに、中学生になったら一気に身長が伸びちゃって、胸も適当に出て、まるで雑誌なんかで見るモデルさんみたい。正直、すこし羨ましいく思うところである。


 そんな美佳子だけど、魔法関連のことは能力者である私よりも詳しい――魔法オタクといってもいいくらいに詳しい。それは小さい頃――美佳子の家族が私ん家のお向いに引っ越してくる前のことだから、約十年前、美佳子が四歳頃の出来事が原因らしい。美佳子の話によれば、当時住んでいたアパートが火事になり、炎や煙に取り囲まれ逃げ遅れた美佳子を魔法師が助けてくれた。その時の記憶は美佳子自身あまり憶えてはいないらしいが、救出してくれた魔法師は女性で、炎の中を抱かれて救出されたときに何となくいい香りがしたのは憶えているそうだ。で、そういう経験が最大の要因となって、気がつけば私の幼馴染は魔法オタクとなっていましたとさ。


 まあ、美佳子が魔法関連のことに興味があること、その理由も私が能力者だと判る前から教えてもらっていたから今さら言わなくてもいい事だけどね。ただ、美佳子は私が能力者だと判った後に喜んだりもせずに、いつもと変わらない態度で接してくれたことが、今現在、私が普通に生活を送れている大きな助けになっている。たぶん、美香子にはだいぶ気を遣わせちゃったんだろうなぁ、と思ってたりする。


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