行間・『普通じゃない』事件
午後8時を回っていた。
深夜でも無いのに普原町は真っ暗だった。
商店街のむこう。
住宅街。ちょうど太郎達のマンションがある地域のとある路地。
その路地をあるっている男がいた。
男は先週彼女とも別れ、職の安定しない生活を送っていた。
「こんな時は、ビールでものまねぇと…やってらんないよなぁ。。」
人気の無い路地だからといって、愚痴が漏れてしまっていた。
最近新しく始めたバイト先の先輩について愚痴。うざい面接官についての愚痴。
大半は別れた彼女に対しての愚痴だった。
まだ酒も入ってないのに、もう酔っているようだ。
トボトボと歩くと、目の前に人影が見えた。
他人がいることを意識し姿勢を正した。
勿論お口にチャックもした。
酔いが醒めたようだった。
(やっべぇ…聞かれたかな…恥ずかしッ…まあそんなにボリュームでかく無かったし?あの距離なら聞こえてないよな…?)
そんなことを考えながら男は再度、むこうからくる人影の大きさを確認した。
この路地は電灯と電灯の間隔が広く、余り前がよく見えない。
だが、対向者との間隔が近づくにつれ、明瞭になってくる。
(…酔っ払いか…)
人影の正体は
フラフラと千鳥足で歩いてくるコートを着た中年くらい男だった。
背は猫背っぽいのでたしかじゃないが、170は軽くある。
(酔っ払いなら…全然大丈夫だな…)
実はまだ愚痴が聞こえたんじゃないかと気になっていた男は、ここにきてやっと安心した。
『ピロリロリロン』
メールだ。
ポケットの中にはいっていた。ケータイを取り出し内容を確認した。
《こんばんわ》
登録されていないアドレスからだった
(なんだこれ……???)
迷惑メールか間違いメールだろう。男は何かからかわれた気分になり、無愛想にケータイを閉じた。
「こんばんわ」
誰かが耳元で囁いた。
「……っひッ…!!!」
その声の持ち主が、先程まで50mほど離れた先にいた、あの人影のものだと即座に理解した。
帽子を深く被り、白いスケキヨのようなマスクをつけた。コートの大男の手には包丁があった。
「うわあああッ!!助けッ!!誰かッだれかァァ!!」
元々人気の少ない路地だ。助けは来るはずがない。
「さようなら」
その言葉とともに。
悲鳴は終わり、子供のような笑い声が始まった。




