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3章・イジメ症候群

「………あの…これ、お菓子なん……です。……ゆあちゃんにあげて…ください。……あと……」


沈黙しきった空間。

昴の声だけが響いていた。

そしてだんだん涙声になってゆくのもはっきりわかった。


「……ゆあちゃんに……ごめんね……って……言って…おいて……ください」


いい終わると直ぐさま昴は部屋から飛び出した。


靴も履かずに。


「昴!ちょっとまッ…!」



昴は帰っては来なかった。


「聞いてたかよ?ゆあ。」


ドアは沈黙を保ったままだ。


「アイツ…泣いてたぞ。」



「…………お前も。…泣いてるのか?」



ドアからは何も聞こえない。

生物の気配すら、感じられない。



「なにもしらないくせに」



そう言ったのは

ユウハだった。



「なにも知らない…?僕が何か知ってると思ってたのか。」



「お兄ちゃんはな。お前らのこと、何も知らない。お前らも何も話さないしな。

けど。信じてたよ。人の思いを踏みにじるような人間じゃないってな」



「何も理解してくれないクセに。」


そうユウハは言い放ち、部屋に引きこもった。










昴の家は僕らのマンションとユア達の学校までの通学路上に位置しており、昔はよく待ち合わせしながらユアと昴は学校に通っていた。



「……。僕の……せいだ。あの頃に…帰りたい。」


公園のベンチに座って小学生五年にしては大人びた昴は、前方の池に向かって石を投げた。



ボチャン



石が池に落ちた音ではない。

蛙が池に飛び込んだ音だった。




石は、池に入る前に道に落ちていた。





「嘘つき。」






「よう。昴。」



話かけて来たのは、

昴と同じくらいの小学生男女8人だった。


「なにしてんだよ?

昴」

8人のうち一人の男子が代表して話した。

後ろで3人の女子がクスクスと笑っている。



「別に……。何も」



「もし暇?ならさ、俺らこれからユーマん家に“遊び”に行くんだけどォ。一緒に来ない?」




「……まだ………た……足りないの……かよ…。」




「ハァ?……ああ。コイツも…そうだったな」


芦原と呼ばれた、男子グループのリーダー格。

ソイツの目はからかう目から。

突き放す目にかわっていた。


「コイツも“UMA”だったな。」



「お前らが。そんなこと…いいださなかったら……ゆあちゃんは…」



「ゆあちゃん!!?アハハハハ!!5年にもなって“ちゃん”付けって、キモい〜」


女子の中の一人。志野と呼ばれた者が笑いを堪えられずに、吹き出した。


「“UMA”ってなにかしってる?未確認生命体なんだけど?わかるか未確認生命体?つまりお前らのことなんだけど〜」


男子のうち嶋田とよばれた子供は、偉く嫌みたらしく言った。


「キモい~何この珍獣~」

「双子の珍獣と一緒にどっかの研究所に売り飛ばそうぜ!」

「おい!日本語を喋るなよ。いや言語を使うなよ!人間の特権なんだぞ!」

「ていうか~。服着てるのとかも生意気じゃない?」

「おい脱がせ脱がせ!!裸で公園をウサギ飛びで一周させようぜ!!」

「あの双子…いやソーセージもつれてこいよ!並べてウサギ飛びで競争させようぜ!!」



そういいながら、先ずはと言わんばかりに昴を数人で囲み衣服を乱暴に脱がせて行く。


「やめろ!!さわるなあっ!!」




「きゃはははは!かっわいー昴君ホント雄!?」

女子の中の一人が揚々と言い放つ。







「いいねぇ。夕焼けの公園で小学生が仲良く戯れちゃってさあ!」







黒い髪。

白い肌。

黒いジャケット。

白いセーター。

黒いジーパン。



高校生くらいの男が彼らの後ろに立っていた。



「!!!」



集団で昴を囲んでいた彼ら全てが凍りついた。



見られたからじゃない。



「なんだよ…?なにしに来たんだよ!部外者は帰れ!!」


昴を含め、他の奴らは…突然現れた、

いや、今までもずっとそこにいたような…当たり前に居座るその男の存在感に気圧されていた。




「悲しいこと言うなよ。僕だって君みたいな部外者に声かけたんだからさあ!」




女子の一人が恐れをなして後ろに退がる。


「ほらあ。続けなよ!ほらほら!」





「ふざけんな!!!」

芦原は男の手元を指す。


「お前!録ってんじゃねーよ!!!」



その手に抱える家庭用ビデオカメラも、小学生たちの恐れる要因だった。



「え?ユーマとか言ってたからさあ!せっかくだし録画しとこーと思ってね!」




「だから!それを捨てろっつってんだよ!!!!」

芦原は足元の石をビデオカメラに投げた。

それは見事ビデオカメラのレンズを破壊した。


あーあ


と一呼吸入れて、壊れたカメラからメモリースティックを抜き出し、それを翳して笑みを浮かべた。


「でもさ、ちゃんと録れたよ!UMAが9体も!大漁〜大漁!」



一瞬。フリーズした空気。


9体という言葉の意味について、理解が追い付くのに時間がかかったらしい。


「お前こそユーマ通り越して不審者じゃねぇかよ!!オッサ…………」




バゴォンと


顎に一発高校生の本気の一撃がクリーンヒットした。



「………別に腹がたったわけじゃないよ?ただまあ。ユーマが人間みたくベラベラ言語を使用してることが許せなかったんだ。」



「ひっ…」


男の子四人、女の子三人は

足を針で縫われたように動けない。



芦原は3mほど飛ばされ木の下で横たわっている。


意識もはっきりしているし、強気にも睨み返していた。



「あー。そーいえばあ。なんで服着てるの??」




そういいながら男は動けずにいる女子三人の方に目を向ける。



「まあ。ユーマとはいえ。女だし、君達は強引に脱がすとかはしないさ。」




「その場で脱げ。自らだ。下着一枚でも許さない。さあ脱げ今すぐ。」




恐怖の余り、手足が自由に動かない。



そしてその女子を興味の視線で見つめる

男子四人。


「君達もだよ?脱ぎなよ。いいや、君達は僕が引き裂いてあげるよ。」



ビリビリィ




男は何もしていない。ただ男の子達の衣服がすべて散り散りになった。


倒れ伏している子を含め、五人の小学生男子が。だ。



「まあ、僕は男だし、こんなのは全く嬉しくも無いんだけど。……まあ、いいか。」



そして、今だに服を脱げずにいる女の子三人に目を向ける。





「なんで二足で直立してるの?」



その一言で、全員が四つん這いになった。


四つん這いになった男の子一人の上に座り、女子のひざまずく姿を眺める。



「こんなことして!ぴ…PTAに知らせてやる……。」

芦原は最後まで抵抗した。




「ユーマがどうやって知らせるの?言語は人間だけの特権なんでしょ?」


と自分の革靴の先を芦原の口の中に突っ込んだ。




ビリビリィ




その音と共に、女子三人の衣服は吹き飛んだ。



「きゃあああああああああああああ!!」




「女は無理矢理脱がせないんじゃ…!」


はじにいた昴が、やっと口を開いた。



「……人間以外の雄雌の判断とか、容姿だけじゃ出来ないんだよね。」






「………このあとの処分は…君に任せるよ。」

男は昴にいったらしい。

しかし昴はどうしたらいいか、わからない。




「大丈夫。君はアレと契約したんだからさ。」










数時間後。

男の姿はない。


昴の姿も。だ。



そこには裸で四つん這いになり、呻き声を上げながら戯れている人間の形をしたユーマだけが残った。


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