1章・普通症候群2
僕はマンション暮しだ。学校に徒歩で通学できるほど近くにあるマンションだ。
僕はいつもの『普通』の通学路を下校していた。
いや。僕らは…が正しいな。
「ねぇねぇ!この前貸したラノベ読みおわった?」
ブロンドのロング髪を携えた彼女は
小鳥遊 遊。
身長は僕より5センチほど小さいが、胸は……まあ、その…そこそこあった。
「読み終わらないよ…だって借りたの昨日の夜だぞ?」
彼女と下校するのは付き合ってるからとかじゃない。
彼女も僕の住むマンションに住んでいるのだ。
「そうだっけ?…じゃあ…どこまで読んだ!?」
大きなかわいらしい目をこちらに向けながら、覗き込むような姿勢で見つめてきた。
「まだ読んでないよ。今日、早帰りだし読むよ」
「はやく読んでよ〜〜」
やたらとくっついてくる彼女は、僕を男として意識してないのだろう。
幼なじみが言うのも…アレだが…。
遊は学年でもかなり可愛いほうの女子だ。ブロンドのロングというところもポイントは高い。
しかし、どちらかと言えば女子と話すのが苦手な僕も、彼女とは普通に喋れる。
これは幼なじみ故の慣れと彼女の親しみ易い性格のおかげだろう。
時々、女性として意識してしまうが。
僕にとっては良い友達だ。
「ラノベの推理モノだからって嘗めないでよ!すんごい仕掛けがあって…」
熱弁する遊は、僕が殆ど聞いてないこともわかってない。
「あ!それ知ってる!それ1巻?あれでしょ、あの居酒屋のおっちゃんが犯人だったっていう奴でしょ!!?」
彼女の隣にいた瀧澤はここぞとばかりに、空気を読まずに、会話に入ってきた
「ネタバレしてんじゃ……ないわよッ!!」
遊の綺麗な足から、すさまじい威力の蹴りが繰り出された。
「あべしっ……!」
太股を抱え悶絶している瀧澤
「お前ホント…残念なイケメンだよな」
マンションにたどり着くと、遊とふたりきりになっていた。
いつものことだ。
小、中、高校といつも繰り返していたことだけあって、何も感じない。
瀧澤とはマンションに着く少し前に別れた。これもまたいつものことだ。
ふたりきりでマンションに入り、エレベーターに乗り、降りる。
僕と遊は8階の住人なので、そこで降りる。
僕は自分の部屋の鍵を開けてると、
隣の部屋の住人の遊は先に鍵を開けたらしい
「じゃあ、ご飯になったら呼びに行くから。お母さんとこきてね」
「あいよ。いつも、ありがとうな」
適当に返した返事だったが遊にはそう受けとらなかったらしい
「べっ…別にいいわよそんなの。そ…そもそも私がつくったんじゃなくてお母さんがつくったものだし……ありがとうならお母さんにいって!」
なにか不自然な遊の挙動。
「なに焦ってんだよ…?」
「あっあ…焦ってなんかないわよ…。ただ。太郎がありがとうなんて珍しいから……」
遊はどうやら普通にもどったらしい。
「…そうだっけ?いつも感謝してるぜ、お前んちにはな。」
小鳥遊家にはかなりお世話になっているのだ。ホントに感謝している。
「じゃあね」
遊が部屋入ったあとも、しばらく僕は廊下にいた。
小さい頃からここで育ってきた僕には、余り意識しなかったが。周りをよく見てみるとこのマンション。『普通』に入居したら、かなりのお金がかかる物件だろうと思った。
寒さも感じられ、ドアを開けて僕も部屋に入っていった
そこで
もう一つある人生最大の悩みにぶちあたる。
「ただいま〜」
返事は無い。
一人暮しだから返って来るわけない?
いや、僕は一人暮しではない。
玄関から真っ直ぐ廊下を進んで左をむく。すると二つの部屋のドアがある。
左側、つまり玄関側のドアには
《ユウハの部屋》
という札が垂れ下がっている。サッカーボールが描かれており、男の子の部屋なんだな とすぐにわかるようになっている。
左隣の部屋は
《ゆあのへや》
とかわいらしく、ウサギさんなんかといっしょにかかれた札が垂れ下がっている。
「おーい。生きてるか〜?」
ふざけ調子で言ってみた。が部屋からは生き物がいる気配がない。
「……お兄ちゃん……?……お帰りなさぁい…」
《ゆあのへや》
からはか細い、妖精のような声が聞こえた
しかし
《ユウハの部屋》からは何も聞こえない
よく耳をすますと
カタカタカタカタと機械的な音が聞こえる
この二人は僕の妹と弟だ。二人は二卵性双生児なのだが、性格は……うーん。似てなくはないか…。
今日は早帰りで、下手をすれば小学生より早く帰れたんだが。
二人はココにいた。
別に熱があるわけでも、学校がインフルエンザで休校してるわけでもない。
つまり
僕の悩みはそこなのだ。
二人はこのまま行けばニート確定の『引きこもり』なのだ。
溜め息をつきながら廊下を抜けリビングのコタツの電源をいれ、カーテンをしめる。
8階となると眺めはいい。
といっても、都会というより田舎なこの普原町の夜は真っ暗。
普原町の隣、芝川を挟んで向こうにはでかいビルが建ち並んでいて、ほのかに夜景が綺麗ではあるが。
いつもは帰ってくると夕方で、面白いテレビをやっているのだが。
今日はまだ3時にもならない。テレビを回してもなんだかアンティークな番組ばかりだ。
いつもなら、こんな気は起きないが。
返事の無いユウハの部屋がすごい気になる。
というより
普通の人は普通に学校に行ってこんなメランコリィな気分になっても、宿題だなんだ って立派に苦しむのに…
妹と弟は…そういう苦しみをショートカットしてるようで、なんだか 悔しかったのだ。
「今日こそは言ってやる。いや言うだけじゃたらない、明日から…学校に行かせよう。」




