↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大賢者と16人の落ちこぼれ弟子  作者: 伝説の男前
第一部 賢者塾開校編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/38

第7話 「力と体力」

一


九月の朝。


気温が、秋へと向かい始めていた。


塾の訓練場。


ガルド・バルガスは、大賢者の前に立っていた。


二十歳。


体格は、かなり良い。


筋肉質。


しかし、その顔には、不安が浮かんでいた。


「では」


大賢者は言った。


「これからの修行について、説明する」


「はい…」


ガルドは答えた。


彼は、この一か月、何もせずに、レオンとミアの修行を見守っていた。


自分の番が来たのだ。


「君の欠点は、『体力がない』こと」


大賢者は言った。


「しかし、これを、別の角度から見てみよう」


「別の角度…ですか」


「そうだ」


大賢者は続けた。


「君は、強い力を持っているが、すぐに疲れる。つまり、一撃に全ての力を集約させることで、複数回の攻撃を必要としない、『一撃必殺』の戦術が可能になるのだ」


ガルドは、その言葉を聞いた。


一撃必殺。


それは、彼が夢見ていた戦い方だった。


二


修行の最初の段階。


大賢者は、ガルドに、「拳を握る」という、最も基本的な動作から教え始めた。


「まず、君の拳を見せなさい」


ガルドは、右拳を握った。


大賢者は、その拳を見つめた。


「力が入りすぎている」


大賢者は言った。


「ほぼ全身の力を、その拳に注ぎ込もうとしている。これでは、効率が悪い」


「え…?」


ガルドは戸惑った。


全身の力を、拳に注ぎ込むことが、良いのではないのか。


「ではだ」


大賢者が続けた。


「一撃必殺を実現するためには、『不要な力を排除する』必要がある」


大賢者は、ガルドの腕に触れた。


「肩に、無駄な力が入っている。背中にも。脚にも。これらの力を排除し、純粋に『拳に集約させる力』だけを残すのだ」


「そんなことが…」


ガルドは呟いた。


「可能ですか」


「可能だ」


大賢者は答えた。


「では、試してみなさい。肩の力を抜く。背中の力を抜く。脚の力を抜く。そして、拳にだけ、全ての力を集約させるのだ」


ガルドは、その指示に従った。


肩を脱力させる。


背中を脱力させる。


脚を脱力させる。


そして、拳に力を注ぐ。


その動作は、思っていたよりも、はるかに難しかった。


肩の力を抜くと、その力が腕に移ってしまう。


背中の力を抜くと、その力が腰に移ってしまう。


一つの部位の力を抜くたびに、別の部位に力が移ってしまうのだ。


三


その修行は、一週間続いた。


毎日、朝から晩まで。


ガルドは、「拳を握る」という動作だけを、繰り返した。


何千回。


何万回。


その度に、大賢者は、彼の拳を見つめ、指導した。


「肩に力がある」


「背中に力がある」


「腰に力がある」


「脚に力がある」


「喉に力がある」


一つ一つ、不要な力を排除していった。


そして、一週間後。


ガルドの拳は、変わっていた。


何か、純粋な。


何か、完璧な。


そんな拳になっていた。


「いい」


大賢者は言った。


「これで、君の拳は、『一撃に全ての力を集約させるための拳』になった」


ガルドは、自分の拳を見つめた。


形は、変わっていない。


しかし、確かに、何かが変わっていた。


四


次の段階。


大賢者は、ガルドに、「呼吸」を教えた。


「一撃必殺には、呼吸が極めて重要だ」


大賢者は言った。


「正確な呼吸によって、全身の力が、一点に集約される」


「呼吸…ですか」


「そうだ」


大賢者は、ガルドに、呼吸法を教え始めた。


深くゆっくりした吸気。


全身に魔力・エネルギーを満たすその時間。


攻撃の瞬間の、完全な息止め。


その瞬間に、全ての力が、一点に集約される。


そして、攻撃後の、素早い呼気。


ガルドは、その呼吸法を、毎日、練習した。


何百回。


何千回。


その度に、大賢者は、彼の呼吸を聞き、指導した。


「もっと深く吸え」


「もっゆっくり吐け」


「攻撃の瞬間の息止めを、長くしろ」


五


呼吸法を習得するのに、二週間かかった。


その二週間の間、ガルドは、もう何もしなかった。


ただ、呼吸法を練習した。


木刀を握らず。


敵と戦わず。


ただ、呼吸法だけを。


それは、不思議な修行だった。


しかし、その修行の結果、ガルドは気づいた。


呼吸によって、自分の身体が、完全に統制されるのだと。


呼吸によって、力が、一点に集約されるのだと。


六


次の段階。


大賢者は、ガルドに、実際に拳を握らせた。


「では、その拳で、この木を殴ってみなさい」


大賢者は、訓練場に、太い木を立てた。


ガルドは、拳を握った。


肩の力を抜く。


背中の力を抜く。


脚の力を抜く。


拳に、全ての力を集約させる。


そして、呼吸法を開始する。


深くゆっくりした吸気。


全身に力を満たす。


そして、息止め。


その瞬間。


ガルドは、拳を突き出した。


木に当たった。


音が響いた。


木が、微かに揺れた。


しかし、割れなかった。


ガルドは、落ち込んだ。


「駄目です…」


彼は呟いた。


「まだ…力が足りません…」


「いや」


大賢者が言った。


「見てください。木の表面」


ガルドは、木の表面を見た。


そこには、彼の拳の形が、完璧に刻まれていた。


「君は、木に、完璧な痕跡を残した。これは、君の力が、完璧に集約されたことの証だ」


「でも…割れなかった…」


「そうだ」


大賢者は続けた。


「今は、割れない。しかし、毎日、君がこれを繰り返せば、やがては、木を割ることができるようになる」


ガルドは、その言葉を聞いた。


毎日、繰り返すことで。


力が、積み重ねられていくのだ。


七


その後の、一か月。


ガルドは、毎日、この木を殴り続けた。


朝。昼。晩。


何百回。


何千回。


最初は、わずかな痕跡だけだった。


しかし、一週間後。


二週間後。


木には、深い傷がついていた。


三週間後。


木の一部が、割れ始めた。


四週間後。


ガルドの拳が、木を、完全に割った。


その時、ガルドの顔には、涙が流れていた。


「できた…」


彼は呟いた。


「俺…できた…!」


大賢者は、その様子を見て、笑った。


「素晴らしい」


大賢者は言った。


「ガルド。君は、『一撃必殺』の基本を習得した」


八


次の段階は、複数の木を殴ることだった。


一つ。


二つ。


三つ。


四つ。


ガルドは、連続して、複数の木を割った。


しかし、三つ目の木で、彼の呼吸が乱れた。


四つ目の木は、割れなかった。


「これが、君の限界か」


大賢者は言った。


「ではだ。呼吸法を改善することで、複数の連続攻撃が可能になるだろう」


大賢者は、ガルドに、新たな呼吸法を教えた。


「一撃ごとに、完全に呼吸をリセットする」


その呼吸法によって、ガルドは、複数の連続攻撃が可能になった。


最初は、三つまで。


やがて、五つ。


十個。


十五個。


二十個の木を、連続して割ることができるようになった。


九


十月の初め。


大賢者は、ガルドに言った。


「では、実際に、敵と戦ってみなさい」


「敵…ですか」


「そうだ」


大賢者は、他の弟子たちを呼んだ。


レオン。ミア。


そして、他の弟子たちも加わった。


「では、ガルド。君は、この敵役たちと戦うのだ」


ガルドは、深呼吸をした。


肩の力を抜く。


背中の力を抜く。


脚の力を抜く。


拳に、全ての力を集約させる。


そして、呼吸法を開始する。


最初の敵が、向かってきた。


ガルドは、拳を突き出した。


その敵は、ガルドの拳に当たった瞬間、吹き飛ばされた。


次の敵。


また、吹き飛ばされた。


次の敵。


また、吹き飛ばされた。


五分間。


十人の敵は、全て、ガルドの拳によって、吹き飛ばされた。


「素晴らしい」


大賢者は言った。


「ガルド。君の『一撃必殺』は、実戦で通用する」


ガルドは、その時、初めて感じた。


自分の力が、本当に、一撃必殺なのだと。


十


その夜。


食堂で。


ガルドは、他の弟子たちと、夕食を共にしていた。


「凄かったな、ガルド」


レオンが言った。


「あの拳、本当に強い…」


「ありがとう…」


ガルドは答えた。


「でも…」


「でも…?」


「まだ、もっと強くなれる気がする…」


ガルドは続けた。


「大賢者は、『これが全てではない』みたいなことを言ってた」


「へえ」


トムが言った。


「ガルドも、レオンやミアみたいに、まだ上があるってわけか」


「そうだ」


ガルドは頷いた。


「きっと、もっともっと強くなれる」


その言葉には、確信があった。


十一


翌日。


大賢者は、ガルドに言った。


「では、次の段階に進もう」


「次の段階…?」


「そうだ」


大賢者は答えた。


「これまで、君は、『力を一点に集約させる』ことを学んだ。しかし、まだ、『敵の弱点を狙う』ことを学んでいない」


「敵の弱点…?」


「そうだ」


大賢者は、エマを呼んだ。


血が怖くて、気絶してしまう医者。


「エマ。敵の弱点について、説明してくれ」


エマは、緊張しながら、説明した。


人間の身体には、弱点がある。


首。


心臓。


腹部。


その他、様々な弱点。


その弱点を狙うことで、最小限の力で、最大の効果を生み出すことができるのだ。


ガルドは、その説明を聞いた。


「つまり…」


ガルドは呟いた。


「俺の『一撃必殺』と、エマの『敵の弱点を知る』を組み合わせれば…」


「そうだ」


大賢者が答えた。


「二人の組み合わせによって、真の『一撃必殺』が完成するのだ」


十二


その後の、二週間。


ガルドとエマは、一緒に訓練した。


エマが、敵の弱点を指摘する。


「右肩の関節です」


ガルドが、その弱点に、一撃を放つ。


敵は、動けなくなった。


別の敵。


エマが、敵の弱点を指摘する。


「左膝です」


ガルドが、その弱点に、一撃を放つ。


敵は、倒れた。


その連携は、完璧だった。


一撃で。


敵を倒す。


それが、本当の「一撃必殺」だった。


十三


十月の中盤。


大賢者は、ガルドに言った。


「では、本当の敵と戦ってみなさい」


「本当の敵…?」


「そうだ」


大賢者は、訓練場に、複数の相手を用意した。


三人の敵役。


ガルドとエマは、その三人に対抗することになった。


ガルドが、敵に向かう。


エマが、敵の弱点を指摘する。


「頭頂部です」


ガルドが、その弱点に、拳を叩き込む。


一撃で、敵は倒れた。


次の敵。


エマが、敵の弱点を指摘する。


「腹部の左側です」


ガルドが、その弱点に、拳を叩き込む。


一撃で、敵は倒れた。


最後の敵。


エマが、敵の弱点を指摘する。


「両足の関節を同時に狙ってください」


通常の敵なら、両足を同時に狙うことは不可能だ。


しかし、ガルドの一撃必殺なら。


ガルドは、両足の関節に向けて、拳を放った。


確かに、それは一撃ではなく、二撃だったかもしれない。


しかし、ほぼ同時に、両足の関節に衝撃を与えることで、敵は倒れた。


「素晴らしい」


大賢者は言った。


「ガルド。君と、エマ。君たちの組み合わせは、完璧だ」


ガルドは、その言葉を聞いて、再び確認した。


自分は、一人では、完璧ではない。


しかし、誰かと組み合わせることで、完璧になるのだ。


十四


その夜。


ガルドは、自分の部屋で、自分の拳を見つめていた。


太く。


強い。


しかし、これは、もう、ただの「力」ではない。


この拳は、敵を正確に倒すための、「技術」に変わっていたのだ。


「ありがとう…」


ガルドは呟いた。


「大賢者…」


「エマ…」


「そして…レオン…ミア…」


自分一人では、ここまで到達できなかった。


仲間たちの支援があってこそ。


自分の力が、本当の力に変わったのだ。


十五


十月の終わり。


塾の食堂。


ガルドは、他の弟子たちと一緒に、夕食を食べていた。


「ガルド、本当に強くなったな」


ミアが言った。


「魔法を放つと、敵がいなくなる」


「あ…すまん…」


ガルドは謝った。


「一撃必殺だから…」


「いや…いいんです…」


ミアは笑った。


「むしろ…頼もしい…」


レオンも言った。


「俺の転倒回避と、ガルドの一撃必殺。この組み合わせで、かなりの敵に対応できる」


「そうだな」


ガルドが同意した。


「俺たちは…本当に…仲間なんだ」


その言葉は、塾の中に響き渡った。


十六人は、もはや、単なる「同じ塾にいる者たち」ではなく、本当の意味での「仲間」になっていたのだ。


十六


その後の、数週間。


ガルドは、他の弟子たちとの組み合わせ訓練を続けた。


レオンとの組み合わせ。


ミアとの組み合わせ。


シルフィとの組み合わせ。


その度に、新たな可能性が生まれた。


ガルドの一撃必殺は、あらゆる敵に対応できるのだ。


十七


十一月の初め。


大賢者は、ガルドに言った。


「君の修行は、一段階完了した」


「完了…ですか」


「そうだ」


大賢者は答えた。


「君の『体力がない』という欠点は、実は『一撃必殺』という才能だった。そして、その才能を磨く過程で、君は『敵の弱点を知る者との組み合わせ』という、さらに高い才能も発見した」


ガルドは、その言葉を聞いた。


「そして」


大賢者は続けた。


「君が、誰かと組み合わせることで、一人では成し遂げられない力を生み出すことができることも、気づいたはずだ」


「はい…」


ガルドは頷いた。


「エマとの訓練で…本当に…感じました…」


「そうだ」


大賢者は答えた。


「これが、君たち全員が学ぶべき、最大の教訓だ。一人では弱い。しかし、誰かと組み合わせることで、最強になる」


その言葉は、レオンとミアが聞いた時と、同じものだった。


十八


その夜。


塾の屋上に、三人が立った。


レオン。ミア。ガルド。


最初に修行を始めた、三人だ。


「ここまで来たな…」


レオンが言った。


「最初は…本当に絶望していた…」


「私も…」


ミアが言った。


「魔力がなくて…本当に…」


「俺も…」


ガルドが言った。


「体力がなくて…本当に…」


三人は、月を見つめた。


十一月の月。


秋も深くなってきた。


「でも…」


レオンが言った。


「今は…違う…」


「本当に…違う…」


ミアが同意した。


「俺たちは…強い…」


ガルドが言った。


「一人では弱い…」


「でも…」


「誰かと組み合わせることで…」


「最強になる…」


三人は、その言葉を、月に向かって呟いた。


十九


翌日。


大賢者は、他の十三人の弟子たちを集めた。


「では」


大賢者は言った。


「これからの修行について、説明する」


十三人は、緊張して大賢者を見つめた。


レオン。ミア。ガルドの三人の修行は、既に終わった。


次は、自分たちの番だ。


「リナ。君からだ」


大賢者は、爆発を起こしてしまう少女に、指を向けた。


「はい…!」


リナは、飛び上がった。


自分の番が来たのだ。


二十


十一月の朝。


新たな修行が、始まった。


リナの修行。


その次は、ノアの修行。


その次は、ココの修行。


その次は、エマの修行。


その次は、ドグの修行。


その次は、シルフィの修行。


その次は、ポチの修行。


その次は、トムの修行。


その次は、ニナの修行。


その次は、シオンの修行。


その次は、バルドの修行。


その次は、レンの修行。


最後は、モモの修行。


十三人の弟子たちが、一人ずつ、自分たちの「欠点を才能に変える修行」を始めたのだ。


大賢者は、毎日、朝から晩まで、各弟子たちを指導した。


爆発を制御する修行。


無言で交渉する修行。


独創的料理を研究する修行。


血を見ずに診断する修行。


素材の限界を理解する修行。


目を閉じたまま狙う修行。


犬の群れを活用する修行。


普通さを万能性に変える修行。


未知の場所を発見する修行。


沈黙で相手を動かす修行。


予測不能な指揮を学ぶ修行。


傾く建物の構造を理解する修行。


植物が枯れる理由を学ぶ修行。


それは、大賢者にとって、最も忙しい時期だった。


しかし、その忙しさの中に、喜びがあった。


十六人の弟子たちが、それぞれの才能を、磨き始めたのだ。


二十一


第7話終了。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。