第34話 「三日と、二日」
作戦会議は、夜明けまで、続いた。
そして、朝。
バルドが、八百七十五人の前に、立った。
「……作戦を、説明します」
彼は、言った。
「……目的は、一つ」
バルドは、続けた。
「……第一師団を」
彼は、言った。
「……東の道に、行かせることです」
「……」
「……戦いません」
バルドは、続けた。
「……村も、守ります」
彼は、言った。
「……そのために」
バルドは、続けた。
「……嘘を、つきます」
### 二
「……嘘?」
ジャンが、聞いた。
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……どんな嘘だ」
彼は、聞いた。
バルドは、答えた。
「……『この村は、堅い』という嘘です」
「……」
「……第一師団の、指揮官は」
彼は、続けた。
「……村に、着く前に」
バルドは、言った。
「……斥候を、出します」
「……ああ」
ジャンは、頷いた。
「……当然だな」
「……はい」
バルドは、続けた。
「……そして、その斥候が」
彼は、言った。
「……村を、見ます」
### 三
「……そのとき」
バルドは、続けた。
「……村が、どう見えるか」
彼は、言った。
「……それが、すべてです」
「……なるほど」
ジャンは、頷いた。
「……堅く、見せるのか」
「……はい」
バルドは、答えた。
「……でも」
彼は、続けた。
「……堅すぎては、いけません」
「……なぜだ」
ジャンは、聞いた。
バルドは、答えた。
「……堅すぎると」
彼は、続けた。
「……『本気で、潰そう』と、思われます」
### 四
「……つまり」
トムが、言った。
「……微妙な、堅さが、必要なんだ」
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……『潰せるが、三日かかる』」
彼は、続けた。
「……そう、見せます」
「……難しいな」
ガルドが、言った。
「……はい」
バルドは、答えた。
「……だから」
彼は、続けた。
「……役割を、分けます」
そして、バルドは、指示を、始めた。
### 五
「……レンさん」
「……はい」
「……柵を、作ってください」
バルドは、言った。
「……何メートル?」
レンが、聞いた。
「……村の、北側だけで、いいです」
彼は、答えた。
「……北側?」
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……斥候は、北から、来ます」
彼は、続けた。
「……だから」
バルドは、言った。
「……北側だけ、作ります」
「……他は?」
レンは、聞いた。
バルドは、答えた。
「……作りません」
### 六
「……いいんですか」
レンは、聞いた。
「……はい」
バルドは、答えた。
「……見えない場所は」
彼は、続けた。
「……作っても、意味が、ありません」
「……なるほど」
レンは、頷いた。
「……で」
彼は、聞いた。
「……どんな柵を?」
バルドは、答えた。
「……頑丈に、見える柵です」
「……見える?」
レンは、聞き返した。
「……はい」
彼は、頷いた。
「……実際は、どうでも、いいです」
### 七
レンは、その指示に、しばらく、考えた。
そして、言った。
「……わかりました」
彼は、続けた。
「……それなら」
レンは、言った。
「……得意です」
「……え?」
リナが、聞いた。
「……なんで」
レンは、答えた。
「……僕の建物」
彼は、続けた。
「……傾いています」
「……はい」
「……でも」
レンは、言った。
「……倒れません」
彼は、続けた。
「……つまり」
レンは、言った。
「……『弱そうに見えて、強い』が、専門です」
### 八
「……今回は」
彼は、続けた。
「……その、逆です」
レンは、言った。
「……『強そうに見えて、弱い』」
彼は、続けた。
「……同じ技術です」
十六人は、その説明に、笑った。
「……レンさん」
バルドは、言った。
「……はい」
「……お願いします」
「……はい」
レンは、頷いた。
そして、少し、笑った。
「……楽しそうです」
### 九
「……ドグさん」
バルドは、続けた。
「……おう」
「……鍛冶場で、音を、出してください」
「……音?」
ドグは、聞いた。
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……朝から、晩まで」
彼は、続けた。
「……武器を、作っている音を」
「……作らなくて、いいのか」
ドグは、聞いた。
「……作っても、いいです」
バルドは、答えた。
「……でも」
彼は、続けた。
「……大事なのは、音です」
### 十
「……なるほどな」
ドグは、頷いた。
「……鍛冶の音が、聞こえれば」
彼は、続けた。
「……武器が、あると、思う」
「……はい」
バルドは、答えた。
「……何人分の、音を、出す」
ドグは、聞いた。
バルドは、答えた。
「……できるだけ、多く」
「……よし」
彼は、笑った。
「……傭兵の、連中も、使うか」
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……お願いします」
### 十一
「……ポチさん」
「……おう」
「……犬を」
バルドは、言った。
「……村の、周りに」
「……何匹?」
ポチは、聞いた。
「……全部です」
彼は、答えた。
「……百匹か」
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……そして」
彼は、続けた。
「……足跡を、つけてください」
「……足跡?」
ポチは、聞いた。
「……はい」
バルドは、答えた。
「……たくさん」
### 十二
「……何のために」
ポチは、聞いた。
バルドは、答えた。
「……人数を、水増しします」
「……え?」
「……犬の足跡と」
彼は、続けた。
「……人の足跡を」
バルドは、言った。
「……混ぜます」
「……」
「……斥候は」
彼は、続けた。
「……足跡から、人数を、推定します」
バルドは、言った。
「……そして」
彼は、続けた。
「……間違えます」
### 十三
「……リナさん」
バルドは、続けた。
「……はい!」
「……村の外で」
彼は、言った。
「……爆発の痕を、作ってください」
「……爆発の、痕?」
リナは、聞いた。
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……いくつか」
彼は、続けた。
「……訓練したように、見せます」
「……なるほど!」
リナは、笑った。
「……つまり」
彼女は、続けた。
「……『爆発を使う奴がいる』って、思わせるんだ」
「……はい」
バルドは、答えた。
### 十四
「……ミアさん」
「……はい」
「……魔法陣を」
バルドは、言った。
「……地面に」
「……どこに、ですか」
ミアは、聞いた。
「……村の、入口に」
彼は、答えた。
「……使うんですか」
彼女は、聞いた。
「……いえ」
バルドは、首を振った。
「……描くだけです」
「……え?」
「……描いて」
彼は、続けた。
「……そのまま、放置します」
### 十五
「……意味が」
ミアは、聞いた。
バルドは、答えた。
「……魔法陣は」
彼は、続けた。
「……見ただけでは」
バルドは、言った。
「……何の魔法か、わかりません」
「……はい」
ミアは、頷いた。
「……専門家でないと」
彼女は、続けた。
「……読めません」
「……はい」
バルドは、答えた。
「……つまり」
彼は、続けた。
「……斥候は」
バルドは、言った。
「……『何か、やばいものがある』としか、報告できません」
### 十六
「……モモさん」
バルドは、続けた。
「……はい」
「……蔓を」
彼は、言った。
「……村の、北側に」
「……はい」
モモは、頷いた。
「……どのくらい?」
「……びっしり」
バルドは、答えた。
「……わかりました」
彼女は、言った。
「……あと」
バルドは、続けた。
「……あの、切ると伸びる蔓」
「……はい」
「……あれを、使ってください」
彼は、言った。
モモは、頷いた。
「……はい」
### 十七
「……ノアさん、シオンさん」
バルドは、言った。
「……はい」
「……斥候が、来たら」
彼は、続けた。
「……対応を、お願いします」
「……対応?」
ノアが、聞いた。
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……追い返すんですか」
彼女は、聞いた。
「……いえ」
彼は、首を振った。
「……では」
バルドは、答えた。
「……歓迎してください」
### 十八
「……歓迎?」
ノアは、聞き返した。
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……村に、入れるんですか」
彼女は、聞いた。
「……はい」
彼は、答えた。
「……危険では」
ノアは、言った。
「……危険です」
バルドは、答えた。
「……でも」
彼は、続けた。
「……見せないと」
バルドは、言った。
「……報告できません」
### 十九
「……なるほど」
ノアは、頷いた。
「……何を、見せますか」
彼女は、聞いた。
バルドは、答えた。
「……それを」
彼は、続けた。
「……ノアさんに、考えてほしいです」
「……私が?」
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……ノアさんは」
彼は、続けた。
「……人が、何を見て、何を思うか」
バルドは、言った。
「……一番、わかります」
ノアは、その言葉に、俯いた。
そして、頷いた。
「……はい」
### 二十
「……最後に」
バルドは、言った。
「……三十二人の、皆さん」
三十二人が、彼を、見た。
「……はい」
テオが、答えた。
「……お願いが、あります」
バルドは、続けた。
「……なんですか」
「……隠れて、ください」
彼は、言った。
三十二人は、その指示に、困惑した。
「……理由を」
テオは、聞いた。
バルドは、答えた。
「……あなたたちが、ここにいると」
彼は、続けた。
「……王国が、本気に、なります」
### 二十一
「……理解しました」
テオは、答えた。
「……ただし」
バルドは、続けた。
「……一つだけ」
彼は、言った。
「……お願いしたいことが」
「……なんですか」
テオは、聞いた。
バルドは、答えた。
「……観測を」
「……観測?」
「……はい」
彼は、頷いた。
「……斥候が、何を見て」
バルドは、続けた。
「……何を、記録するか」
彼は、言った。
「……それを、観測してください」
### 二十二
テオは、その依頼を、聞いた。
そして、頷いた。
「……可能です」
彼は、言った。
「……それは」
テオは、続けた。
「……私の、専門です」
「……はい」
バルドは、答えた。
「……お願いします」
そして、彼は、八百七十五人を、見渡した。
「……以上です」
バルドは、言った。
「……期限は、七日」
彼は、続けた。
「……お願いします」
「……おう!」
八百七十五人が、答えた。
### 二十三
作業が、始まった。
村の、北側。
レンとドグが、柵を、作った。
高さ、三メートル。
そして、太い、丸太。
「……頑丈そうだな」
ジャンが、言った。
「……はい」
レンは、答えた。
「……見た目は」
彼は、続けた。
「……中は?」
ジャンは、聞いた。
レンは、答えた。
「……空です」
### 二十四
「……空?」
「……はい」
レンは、頷いた。
「……丸太は」
彼は、続けた。
「……表面だけです」
「……」
「……中は、細い木を」
レンは、言った。
「……束ねただけです」
ジャンは、その柵を、叩いた。
そして、驚いた。
「……音が、違う」
彼は、言った。
「……はい」
レンは、頷いた。
「……叩けば、わかります」
彼は、続けた。
「……でも」
レンは、言った。
「……斥候は、叩きません」
### 二十五
「……なぜだ」
ジャンは、聞いた。
レンは、答えた。
「……叩いたら」
彼は、続けた。
「……見つかるからです」
ジャンは、その答えに、笑った。
「……そうか」
彼は、言った。
「……斥候は、隠れてるからな」
「……はい」
レンは、頷いた。
「……だから」
彼は、続けた。
「……見るだけです」
レンは、言った。
「……そして」
彼は、続けた。
「……見るだけなら」
レンは、言った。
「……これで、十分です」
### 二十六
三日目。
ポチの犬が、村の周囲を、走り回っていた。
百匹。
何度も。
何度も。
そして、地面が、足跡で、埋まった。
「……すごい」
トムが、呟いた。
「……これ、何人分に、見える?」
「……わからない」
ポチは、答えた。
「……でも」
彼は、続けた。
「……たくさんに、見える」
そこへ。
テオが、来た。
そして、その足跡を、見た。
### 二十七
「……分析します」
彼は、言った。
そして、しばらく、地面を、観察した。
そして、言った。
「……千二百人」
「……え?」
ポチが、驚いた。
「……この足跡は」
テオは、続けた。
「……千二百人分に、見えます」
「……本当か?」
ポチは、聞いた。
「……はい」
テオは、頷いた。
「……ただし」
彼は、続けた。
「……私なら」
テオは、言った。
「……犬の足跡に、気づきます」
### 二十八
「……まずいな」
ポチは、言った。
「……いいえ」
テオは、首を振った。
「……え?」
「……私は」
彼は、続けた。
「……観測特化型です」
「……はい」
「……普通の斥候は」
テオは、言った。
「……ここまで、見ません」
彼は、続けた。
「……そして」
テオは、言った。
「……犬の足跡に、気づいても」
彼は、続けた。
「……人数は、数えられません」
### 二十九
「……なぜ」
ポチは、聞いた。
テオは、答えた。
「……混ざっているからです」
彼は、続けた。
「……犬と、人が」
「……」
「……分離するには」
テオは、言った。
「……時間が、かかります」
彼は、続けた。
「……斥候は」
テオは、言った。
「……時間を、かけられません」
彼は、続けた。
「……見つかるからです」
### 三十
五日目。
村の入口。
ミアが、魔法陣を、描いていた。
大きな、魔法陣。
直径、五メートル。
「……でかいな」
ガルドが、言った。
「……はい」
ミアは、答えた。
「……これ、何の魔法だ」
彼は、聞いた。
ミアは、答えた。
「……何でも、ありません」
「……え?」
「……でたらめです」
彼女は、言った。
### 三十一
「……でたらめ?」
ガルドは、聞き返した。
「……はい」
ミアは、頷いた。
「……意味の、ない記号を」
彼女は、続けた。
「……並べました」
「……それで、いいのか」
彼は、聞いた。
「……はい」
ミアは、答えた。
「……むしろ」
彼女は、続けた。
「……本物より、怖いです」
「……なぜ」
ガルドは、聞いた。
ミアは、答えた。
「……解読、できないからです」
### 三十二
「……本物の魔法陣なら」
彼女は、続けた。
「……専門家が、見れば、わかります」
「……ああ」
「……でも」
ミアは、言った。
「……でたらめは」
彼女は、続けた。
「……誰にも、わかりません」
「……」
「……そして」
ミアは、言った。
「……わからないものは」
彼女は、続けた。
「……恐ろしいです」
ガルドは、その説明に、笑った。
「……お前」
彼は、言った。
「……悪いな」
「……はい」
ミアは、微かに、笑った。
### 三十三
七日目。
準備が、完了した。
村の、北側。
三メートルの、柵。
その手前に、蔓。
そして、入口に、巨大な魔法陣。
村の周囲には、無数の足跡。
そして、鍛冶場からは。
朝から晩まで。
金属を、打つ音が、響いていた。
「……どうですか」
バルドが、聞いた。
大賢者は、その光景を、見ていた。
そして、言った。
「……悪くない」
### 三十四
「……ただし」
彼は、続けた。
「……はい」
「……一つ、足りない」
大賢者は、言った。
「……なんですか」
バルドは、聞いた。
彼は、答えた。
「……人だ」
「……人?」
「……ああ」
大賢者は、頷いた。
「……設備は、揃った」
彼は、続けた。
「……しかし」
大賢者は、言った。
「……それを、使う人間が」
彼は、続けた。
「……見えない」
### 三十五
バルドは、その指摘に、頷いた。
「……はい」
彼は、言った。
「……考えています」
「……どうする」
大賢者は、聞いた。
バルドは、答えた。
「……見せます」
「……誰を」
彼は、聞いた。
バルドは、答えた。
「……傭兵を」
十六人が、驚いた。
「……白翼団を、ですか」
エマが、聞いた。
「……はい」
バルドは、頷いた。
### 三十六
ヴェルナーが、前に、出た。
「……私たちを、使うのか」
彼は、聞いた。
「……はい」
バルドは、答えた。
「……どう、使う」
ヴェルナーは、聞いた。
バルドは、答えた。
「……歩いてください」
「……歩く?」
「……はい」
彼は、頷いた。
「……村の中を」
バルドは、続けた。
「……武装して」
「……それだけか」
ヴェルナーは、聞いた。
「……はい」
バルドは、答えた。
### 三十七
「……なぜ、それが、効く」
ヴェルナーは、聞いた。
バルドは、答えた。
「……白翼傭兵団は」
彼は、続けた。
「……有名だからです」
「……ああ」
「……斥候が」
バルドは、言った。
「……あなた方の、紋章を、見れば」
彼は、続けた。
「……こう、報告します」
バルドは、言った。
「……『白翼傭兵団が、村にいる』と」
### 三十八
ヴェルナーは、その説明を、聞いた。
そして、笑った。
「……なるほど」
彼は、言った。
「……私の、名前を、使うか」
「……はい」
バルドは、答えた。
「……嫌ですか」
彼は、聞いた。
ヴェルナーは、首を、振った。
「……いや」
彼は、答えた。
「……悪くない」
ヴェルナーは、続けた。
「……名前が、役に立つのは」
彼は、言った。
「……久しぶりだ」
### 三十九
八日目。
朝。
シルフィが、声を、上げた。
「……来ました」
「……何人ですか」
バルドが、聞いた。
彼女は、耳を、澄ませた。
そして、答えた。
「……一人です」
「……一人?」
「……はい」
シルフィは、頷いた。
「……北から」
彼女は、続けた。
「……馬です」
「……速度は」
バルドは、聞いた。
シルフィは、答えた。
「……ゆっくりです」
### 四十
「……ゆっくり」
バルドは、繰り返した。
「……はい」
「……なぜでしょう」
彼は、呟いた。
そして、ノアを、見た。
「……ノアさん」
「……はい」
「……どう、思いますか」
ノアは、しばらく、考えた。
そして、答えた。
「……隠れる気が、ないんだと、思います」
「……え?」
「……斥候なら」
彼女は、続けた。
「……夜に、来ます」
「……はい」
「……そして、隠れます」
ノアは、言った。
「……でも」
彼女は、続けた。
「……この人は」
ノアは、言った。
「……朝に、堂々と、来ています」
### 四十一
一時間後。
その男が、村の入口に、到着した。
若い男。
二十代。
そして、王国軍の、軽装。
彼は、馬から、降りた。
そして、周囲を、見渡した。
三メートルの、柵。
蔓。
そして、巨大な、魔法陣。
「……」
彼は、それを、見た。
そして、呟いた。
「……すげえな」
### 四十二
ノアと、シオンが、前に、出た。
「……こんにちは」
ノアは、言った。
「……あ」
男は、驚いた。
「……こんにちは」
彼は、答えた。
そして、慌てて、言った。
「……あの、俺」
男は、続けた。
「……斥候です」
十六人が、驚いた。
「……自分で、言いますか」
ノアが、聞いた。
「……あ」
男は、頭を、掻いた。
「……言っちゃ、まずいか」
### 四十三
「……いえ」
ノアは、答えた。
「……助かります」
「……そっか」
男は、笑った。
そして、周囲を、見た。
「……あの」
彼は、言った。
「……はい」
「……この村」
男は、続けた。
「……一年前と、違いますね」
ノアは、その言葉に、反応した。
「……一年前を」
彼女は、聞いた。
「……知っているんですか」
男は、答えた。
「……はい」
彼は、続けた。
「……俺、あのとき」
男は、言った。
「……ここに、いました」
### 四十四
「……包囲軍に、ですか」
ノアは、聞いた。
「……はい」
男は、頷いた。
「……第一師団の、二番隊です」
彼は、続けた。
「……そして」
男は、言った。
「……武器を、置いた、一人です」
ノアは、その言葉を、聞いた。
そして、聞いた。
「……お名前は」
男は、答えた。
「……ダレン・コルトです」
### 四十五
「……ダレンさん」
ノアは、言った。
「……はい」
「……なぜ、堂々と、来たんですか」
彼女は、聞いた。
ダレンは、答えた。
「……あの」
彼は、続けた。
「……隠れて、来ようと、思ったんです」
「……はい」
「……でも」
ダレンは、言った。
「……なんか」
彼は、続けた。
「……嫌でした」
### 四十六
「……嫌?」
ノアは、聞いた。
「……はい」
ダレンは、頷いた。
「……なぜですか」
彼女は、聞いた。
彼は、答えた。
「……俺」
ダレンは、続けた。
「……一年前」
彼は、言った。
「……ここで、飯の匂いを、嗅ぎました」
「……」
「……三日間」
ダレンは、続けた。
「……毎日」
彼は、言った。
「……すごく、いい匂いでした」
### 四十七
「……そして」
ダレンは、続けた。
「……子供が、遊んでるのを、見ました」
「……はい」
「……で」
彼は、言った。
「……思ったんです」
ダレンは、続けた。
「……『ここ、いい村だな』って」
「……」
「……だから」
彼は、言った。
「……隠れて、覗くのは」
ダレンは、続けた。
「……失礼だと、思いました」
### 四十八
ノアは、その説明を、聞いた。
そして、しばらく、黙っていた。
そして、言った。
「……ダレンさん」
「……はい」
「……ご飯、食べますか」
ダレンは、その言葉に、驚いた。
「……え」
「……作ってあります」
ノアは、続けた。
「……いや」
彼は、言った。
「……俺、斥候ですよ」
「……はい」
ノアは、頷いた。
「……敵ですよ」
ダレンは、言った。
ノアは、答えた。
「……お腹、空いていませんか」
### 四十九
ダレンは、しばらく、黙っていた。
そして、言った。
「……空いてます」
「……どうぞ」
ノアは、言った。
そして、彼を、村の中に、案内した。
十六人は、その様子を、見ていた。
「……いいのか」
ガルドが、小声で、聞いた。
「……はい」
バルドは、答えた。
「……見せるんですよ」
彼は、続けた。
「……全部」
### 五十
村の、広場。
ダレンは、そこに、座っていた。
そして、ココの料理を、食べていた。
「……うまい」
彼は、呟いた。
「……ありがとう」
ココが、笑った。
「……本当に、うまいです」
ダレンは、言った。
そして、周囲を、見た。
八百七十五人。
いや。
三十二人は、隠れているから。
八百四十三人。
その全員が、普通に、暮らしていた。
### 五十一
「……あの」
ダレンは、言った。
「……はい」
ノアが、答えた。
「……この村」
彼は、続けた。
「……人、増えました?」
「……はい」
ノアは、頷いた。
「……何人、いますか」
ダレンは、聞いた。
ノアは、答えた。
「……八百人以上です」
ダレンは、その数字に、驚いた。
「……八百」
彼は、呟いた。
「……はい」
### 五十二
「……あの」
ダレンは、続けた。
「……はい」
「……なんで、教えてくれるんですか」
彼は、聞いた。
「……俺、報告しますよ」
ダレンは、続けた。
ノアは、答えた。
「……はい」
彼女は、続けた。
「……報告してください」
「……え?」
「……全部」
ノアは、言った。
「……見たことを」
### 五十三
ダレンは、その言葉に、困惑した。
「……なんで」
彼は、聞いた。
ノアは、答えた。
「……嘘を、つかないためです」
「……嘘?」
「……はい」
彼女は、頷いた。
「……あなたが、嘘の報告をすれば」
ノアは、続けた。
「……あなたが、罰せられます」
「……」
「……だから」
彼女は、言った。
「……本当のことを、報告してください」
### 五十四
「……でも」
ダレンは、言った。
「……本当のことを、報告したら」
彼は、続けた。
「……この村」
ダレンは、言った。
「……攻められますよ」
ノアは、答えた。
「……そうかも、しれません」
「……じゃあ」
「……でも」
彼女は、続けた。
「……本当のことを、報告したら」
ノアは、言った。
「……何が、伝わりますか」
### 五十五
ダレンは、その問いに、考えた。
そして、答えた。
「……えっと」
彼は、続けた。
「……柵が、あって」
「……はい」
「……蔓が、あって」
ダレンは、続けた。
「……魔法陣が、あって」
「……はい」
「……鍛冶の、音がして」
彼は、言った。
「……足跡が、たくさんあって」
ダレンは、続けた。
「……八百人以上、いて」
「……はい」
「……あと」
彼は、言った。
「……白翼傭兵団が、いて」
### 五十六
ダレンは、そこまで、言って。
止まった。
「……あれ」
彼は、呟いた。
「……どうしましたか」
ノアは、聞いた。
ダレンは、答えた。
「……これ」
彼は、続けた。
「……やばくないですか」
「……何がですか」
ノアは、聞いた。
ダレンは、答えた。
「……この村」
彼は、続けた。
「……堅すぎます」
### 五十七
ノアは、その言葉を、聞いた。
そして、微かに、笑った。
しかし、ダレンには、見えなかった。
彼女は、俯いていたからだ。
「……そうですか」
ノアは、言った。
「……はい」
ダレンは、頷いた。
「……これ、攻めたら」
彼は、続けた。
「……何日、かかるかな」
ノアは、答えなかった。
ただ、聞いた。
「……何日だと、思いますか」
ダレンは、少し、考えた。
そして、答えた。
「……三日は、かかります」
### 五十八
その夜。
ダレンは、村を、出た。
そして、北へ、帰っていった。
見送りに、ノアと、シオンが、立っていた。
「……ダレンさん」
ノアは、言った。
「……はい」
「……ありがとうございました」
彼女は、頭を、下げた。
「……いや」
ダレンは、首を振った。
「……こっちこそ」
彼は、続けた。
「……飯、うまかったです」
そして、彼は、馬に、乗った。
そして、言った。
「……あの」
### 五十九
「……はい」
ノアは、答えた。
ダレンは、しばらく、迷ってから、言った。
「……逃げた方が、いいですよ」
「……え?」
「……うちの師団長」
彼は、続けた。
「……厳しい人です」
「……」
「……たぶん」
ダレンは、言った。
「……三日でも」
彼は、続けた。
「……攻めます」
ノアは、その言葉に、動きを、止めた。
「……なぜ」
彼女は、聞いた。
ダレンは、答えた。
「……命令だからです」
### 六十
そして、彼は、馬を、走らせた。
北へ。
ノアと、シオンは、その背中を、見送った。
そして、シオンが、言った。
「……ノア」
「……はい」
「……嘘は」
彼は、聞いた。
ノアは、答えた。
「……ありませんでした」
彼女は、続けた。
「……あの人の、言葉に」
ノアは、言った。
「……嘘は、一つも」
そして、彼女は、村を、振り返った。
そして、呟いた。
「……バルドさんに」
ノアは、言った。
「……伝えないと」
第34話終了。
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## 次話予告
第35話「命令だから」
斥候の、報告。
「村を潰すには、三日かかる」
しかし。
第一師団長、ダグラス・ヴァインは。
それでも、村を、選ぶ。
理由は、一つ。
「命令だから」
そして、十六人は、知ることになる。
理屈が、通じない相手が、いるということを。
残り、二日。
八百七十五人の村に。
千人の軍が、迫る。
そして、そのとき。
一人の男が、静かに、立ち上がる。
「……私が、行こう」
大賢者。
初めて、彼が、自分から、前に出る。




