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「じゃあ、どんな人を好きになったかとか、聞いてます?」
「……うん」
「言える範囲でいいから、知りたいです」
「…………太陽、みたいやなぁって。めっちゃキラキラしとって、青春を具現化したみたいな人」
「へぇ……」
「俺……あ、いや、その友だちにはないもんばっかり持っとるらしい」
太陽とか、青春だって?
絶対、俺じゃない。自分のイメージとはかけ離れた言葉にイライラする。百パーセント違うって分かるから、心臓の奥にどんどんどす黒い重しが溜まっていく。俺とは正反対の人を好きになったのなら、勝ち目なんてない。ぽろっと零された「俺」という言葉もすり抜けていった。
……聞かなきゃよかった。そんな後悔に襲われて、手のひらをぎゅっと握り締める。失恋確定、告白するまでもないじゃん。
「蒼人くん……?」
「なんですか」
「なんか、怒っとる?」
「…………」
「っ、そうやんな。やっぱり気持ち悪かったやんな。こんな話して、ごめん。頑張って無くすから、今の話は全部忘れて」
「無くす……?」
「あっ……、ちゃう、なんでもない……」
勢いのままにぽろっと零れ落ちた言葉に反応すれば、みるみるうちに顔を赤らめた獅子道くんが必死に首を横に振る。その反応の仕方がやっぱり変で、本音を見極めようと思考がぐるぐると回っている。
本音で話している今なら、進路のことも確認できる気がして、獅子道くんを落ち着かせるために話題を少し変える。
「そういえば、本当に関西に戻る気でいるんですか?」
「わからへん……。まだ親にも言うてへんし。でも、そうしたいなぁって思っとる」
「……もしかして、俺から離れようとしてますか?」
「そんなこと……」
「はい」
「……ない、とは言い切れへん」
面と向かって言われると、さすがにショックを隠せない。俺から逃げるために関西に戻るという選択肢が出てくるなんて、そんなに本気で俺から離れたいんだ。
あからさまに落ち込む俺を見て、獅子道くんまで傷付いた顔をする。どうして貴方の方が辛そうなんだ。まるで失恋したみたいに、切なそうにして……。泣きたいのは、俺の方なんだけど。
「……俺、迷惑でした?」
「ちゃうよ! 迷惑なんか、思ったことない。全部、俺が悪いだけやから……」
「獅子道くんには何も悪いところなんてないでしょう」
「蒼人くんがそうやって俺を甘やかすから……。もう、いっぱいいっぱいで辛いねん。あかんって何回も言い聞かせてるのに、どんどん欲が出てきて、こんな浅はかな自分が嫌になる」
涙を耐えながら訴える獅子道くんの声を聞きながら、心の中で「もしかして……」と淡い期待が浮かんでくる。
ごめんね、獅子道くん。
もう、吹っ切れちゃった。気になっていることは全部、聞いてやる。今日の俺は後には引けないんだ。
「獅子道くんの中にある、俺に対しての欲って何ですか」
「っ、言えへん。こんなん言うたら……、全部、終わってまう」
うるっと涙が浮かんでいる瞳が嫌だと懇願する。だけど、その瞳が孕む熱の意味を、確かめる時が来たのだ。追究の手は緩められない。もう俺は確信してしまったから。自惚れなんかじゃないって、断言できる。
終わりじゃないよ、獅子道くん。今ここで新たな始まりにしよう。貴方にはいつだって優しくしてあげたいけれど、今回ばかりは獅子道くんファーストの紳士でいられない。
「……優しくするの、今だけやめてもいいですか?」
「っ、いやや……」
「ねぇ、獅子道くん、」
「あかん、言わんといて」
「……俺のこと好きですよね?」
俺の言葉を聞いたその顔が絶望に染まる。どうして言ってしまうのと、縋るように視線が訴えてくる。ぽろりと、遂に溢れてしまった宝石の粒が地面に吸い込まれていくのを、俺はただ見つめていた。




