表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不良と噂の獅子道くんは、【完】  作者: 新羽梅衣
妬みと嫉み

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/54

6



 きっと、薫さんなら……。

 無意識にそう比較しようとして、脳内に最悪の考えが浮かんでくる。



 「獅子道くんは……」

 「うん?」



 本当に聞いてしまっていいものか、怖くなってちょっと躊躇ってしまう。もしも、そうだと頷かれたら……。想像しただけで、突然氷を放り込まれたみたいに心臓がきゅうっと冷える。だけど、答えを見ないようにするよりも、実際どうなのか、気になってしまう気持ちの方が強くて、深く息を吐き出してから再び口を開いた。



 「……獅子道くんは、あの人のことが好きなんですか?」

 「えっ、な、何でそんなこと急に言い出すん!」

 「……いや、少し気になったので」



 泣いていたことすら忘れて、顔を赤くしながらあたふたと慌てる獅子道くんを見て、やっぱりそうだったのかと落ち込んでしまう。あーあ、かっこつけて、いいところをみせようとしたって、そもそもスタート地点にすら立てていなかったのか。だせぇな、俺。


 カラカラになった喉奥から必死に声を絞り出して返事をすれば、獅子道くんがまっすぐに俺を見つめて言う。真剣な瞳に射抜かれて、情けない俺の顔がバレてしまう。



 「ちゃうよ。かおちゃんは昔から面倒見てくれとったお兄ちゃんってかんじで、そんな恋愛対象なんかやない」

 「……ほんとですか?」

 「ほんまに。お願い、信じてや……」

 「ふっ、分かりました。獅子道くんの言うことを信じます」



 縋るように訴えてくる獅子道くん。その姿があまりにも必死で、つい笑ってしまう。そんな俺を認めて、ほっと息を吐いた獅子道くんが、相変わらず人差し指に着けられたままのリングをくるりと回した。獅子道くんの指には少しぶかぶかのそれ。


 焦った時、落ち着かない時……。獅子道くんが自分を落ち着かせたい時に、無意識にリングを触る癖があるって、幾度となくその姿を見てきたから知っている。



 「それ……」

 「ん?」

 「指輪」

 「ああ、これ……」

 「薫さんに返しませんか?」

 「え?」

 「好きでもない人の指輪なんて、着けないでほしい」



 勢いのままに口から出た言葉。獅子道くんはハッと目を見開いていて、言ってから後悔が襲ってくる。すぐになかったことにしようとして取り消そうと口を開くけれど、獅子道くんの方が早かった。



 「そうやね……」



 一言だけ呟いた獅子道くんはリングを外して、音も立てずにそっとテーブルに置く。少しくすんだシルバーから解放された彼の人差し指が寂しそうに見えた。



 「俺、単純やからさ、これ着けてたらかおちゃんが守ってくれてるみたいで心強かったんやけど……、もう、頼りにしたらあかんね」



 さっき言われたことを思い出したのか、悲しそうな瞳をしながらも無理に口角を上げている。外してほしいと思ったのは事実だけど、それは俺の醜い嫉妬から生まれた押し付けで、そんな顔をさせたいわけじゃなかったのに。


 今日は空回りしてばかりだ。何にもうまくいかない。口下手なせいで、慰めの言葉ひとつ浮かんでこない。やりきれない悔しさで、じりじりと心が焦げていく。


 自分に対して悪態を吐きながら、唇を噛み締めてじいっと机に置かれたリングを見つめていると、突然ぴーんと閃いた。俺にしては名案だ、これしかない。ばっと立ち上がって、急にどうしたのかとこちらを見上げる獅子道くんに、既に一歩を踏み出しながら告げる。



 「獅子道くん、ちょっとここで待っててください」

 「えっ」

 「いいですか、誰に何を言われても着いていっちゃ駄目ですからね」

 「小さい子扱いせんといて。蒼人くんはどこ行くん? 着いて行ったら、あかんの……?」

 「っ、すぐ戻るので。ここから動かないでくださいね」



 迷子みたいに不安そうに見つめられて心がぐらっと揺れるけれど、どうしても連れて行くわけにはいかない。良心に傷をつけながら、ぽつんと座る寂しげな獅子道くんを残して俺は無心で走り去った。



 「……もう、ほんまに蒼人くんは勝手な男や」



 残された獅子道がそんな文句を吐き出して、苦い表情を浮かべながら甘ったるいココアを一口飲んでいたことなんて知らずに……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ