新会長と戦後処理
五月、ゴールデンウィーク真っ最中。
冒険者協会、会長室。
俺はとある人物に呼ばれてここへ来ていた。その相手はだいぶお疲れの様子で、応接用の席に腰かけている。そうして、俺に紅茶を勧めてくる。いや、大丈夫かよクニハラ。俺はこいつに呼ばれて来たのだ。
「……まじで人間が足らないっす。前会長の白漂が最低限しか事務職や中間管理職の人間を置いてなかったせいですよ。あいつ個人の事務能力が化物だったんですね。まあ、実際に人間じゃなかったんだし、無茶な仕事ができても、おかしくはなかったのかな?」
「そうかもしれない。ん、事務なら、おまえの分身に任せるわけには行かないのか?」
「俺の分身は、俺一人の頭で命令を出してますからね。簡単な仕事なら任せられるっすけど、魔力も食うからなあ」
「あ、そっかあ」
「白漂会長、事務能力だけは、本物だったんでしょうねえ」
白漂会長、小悪党だったけど妙に仕事はできたというか、能力は高かったらしい。協会本部に最低限の人間しか置いてなかったのは、人間を信用していなかったからか。もしくは彼が、会長の仕事を、ゲーム感覚で楽しんでいたからかも。まあ、死んだ悪党のこととかどうでも良いんだが。
二人で紅茶を飲んで一息付いた後、クニハラが俺を見て楽しそうに笑った。なんだ? どうした?
「最近のアキヤ先輩はかなり楽しそうに見えます。良いことです。俺が、冒険者協会の会長を引き受けた甲斐があったというものですよ」
「そりゃどうも。でも、無理はすんなよ。一応は俺からの推薦って形にもなってるしさ。そうでなくても純粋に心配だ」
クニハラが無理をしてつぶれるのは避けたい事態だ。そうなると、俺も配信活動を楽しんではいられない。
「ま、一応こっちでスカウトしてる人間は居ますよ。近いうちに、労働環境はいくらかマシになると思うっす」
「頑張ってな。というか、俺に手伝えることがあれば言ってくれよ」
「先輩には、なるべく今の新しい人生を楽しんでほしいんですよねえ。ただ……」
「ただ?」
クニハラは何か言いたげだな? 何だって話してくれよ。俺とおまえの仲じゃん。
「アキヤ先輩には、冒険初心者に向けての解説配信や動画を協会からの案件として受けてもらいたいんすよね」
「あーそういうことね。俺も、そういうものの必要性は感じてた」
「お、話が早いっすね。流石はアキヤ先輩」
「どうも」
褒めてもらえるのは嬉しいよ。
「白漂のやつが倒されて、かつての記憶はこの世界に戻った。冒険者の中には、かつての動きや知識を取り戻した人間も多いそうだ。でも、それは長く冒険者として活動してた人たちの話なんだよな」
「そうなんす。今の若い冒険者は、知識や経験が足りていない子も多いんす。そんな子たちのために、知識を広めてくれる人が欲しいんす」
「そういうことなら、任せとけ。案件と言わず、俺個人でやっても良いぞ。まあ、ちょっとやることを考えるというか、準備期間はほしいが」
「それはどもっす。でも、協会からの案件って形でやってもらった方が、情報としての強度が増しますから。どうか解説配信や動画は案件って形で頼むっす」
……そういうことなら。クニハラの頼みを聞こう。俺は頷いて応えた。クニハラが頑張ってるんだし、俺もできることは頑張りたい。
「とにかく、今協会が優先すべきは人材の確保と、ダンジョンでの冒険者たちの安全性を高めることっす。そのためにも、いくつか、やっておきたいことがあります」
「やっておきたいこと?」
それは、なんだろうか? 結構気になる。
「まずは、冒険者たちの能力テストを行いたいんです。知識面のテストを作ってる余裕はまだ無いから、とりあえず、身体能力をテストしておきたい」
「あー、なるほどね」
「どうやら、白漂会長時代の協会では、金を積んでランクを買う。なんてことも、横行してたらしいっす。動画審査でのランク昇格も、結構適当にやってたって話だし、今一度冒険者たちの能力はチェックをしておきたいっす」
「それで、能力テストをして、場合によっては適正なランクに下げるってことか?」
「身体能力のテストをして、更に、これまでの活動も考慮して、冒険者の適正なランクを定め直します。一部の冒険者たちから反感を買うのは覚悟の上っす。それでも、必要なことだと、理解をしてもらいたい」
冒険者の実力は、身体能力だけで決まるわけではない。とはいえ、以前の冒険者協会の査定に問題があったというのならば、冒険者のランクは定め直すべきだろう。
「それと、能力テストは優秀な人材の発掘も兼ねてます。本部の事務員も足りてませんけど、教習所の教官や監視センターの警備も足りてません。そっちの人材も確保したいんです」
「なるほどねえ」
クニハラ考えてるね。っていうか、あちこち人材が足らなすぎるだろ。冒険者協会。なのに方々から、技術者なんかを引き抜いてたのは、バランスの悪さを感じる。
「そんなわけで、サナさんたちは一旦Bランク冒険者に昇格ということで、様子を見させてもらってます」
「あー、それサナとウイカゼさんが不満そうにしてたよ。クニハラの考えはもちろん分かるんだけど、彼女たちからすると、モヤモヤするんだろうな」
「すまねえっす。とはいえアキヤ先輩も分かっては居るっすよね。冒険者は、慣れてきた頃が一番危ない」
「分かってるよ。しかも、彼女たちは、大魔王を倒した経験で、だいぶ気が大きくなってる。彼女たちは、漆黒の騎士団という存在に憧れていて、特別な実績を得たばかりだ。正直、気が大きくなってないか心配してる」
「俺や先輩の心配しすぎなら、それで良いんすけどねえ。何かガス抜きの仕方とか考えてます?」
んー、俺が今、考えているやり方が、通用するかは分からないんだよな。でも、提案してみる価値はあるかな?
「クニハラ、身体能力テストって先に何人かで試す予定はないか?」
「試す予定……ああ、そういうこと。良いっすよ」
そうと決まれば……サナたちと、身体能力テストで勝負だ!




