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解呪の嵐

 渋谷へ向かうための準備が進む。ハルカさんは新しく大弓を背負うようになった。大弓には緑色の魔石が輝いていてかっこいい。ドブログさんはサナやウイカゼさんの装備だけでなく、俺やクニハラの装備まで万全の状態にしてくれていた。ドブログさん。ほんと、ありがとう。


 短い時間で作戦を立てる。やがて出発の時間が来た。緊張はあるがやるしかない。主発前、姉さんたちに挨拶しておく。


「……じゃあ、行ってくる。サナたちのことは心配要らない。俺がついてるし、彼女たちはとても、強くなった」

「気をつけなさいよ。ほんと」

「ああ……ありがとう……!」


 姉さんや、ドブログさんに必ず帰ってくると約束をして、俺たちは行動を始めた。漆黒の鎧と、剣と盾を身に付けて、戦いに向かう準備は万全だ。絶対に、皆で無事に帰ってくるぞ!


 夕方も近い時間。俺たちは、渋谷のスクランブル交差点を目指して冒険者用の道路を走っていた。たぶん今はこれが一番早いし、確実だ。こういう時、道路のありがたさを感じるよ。


「おじさん。私たち、この一週間で毎朝の走りこみだけはしてたんだよ! きっと何かの役には立つと思って!」

「おじ様ほどではありませんが、私たちも少しは体力がついたのですわ。まあ、移動だけなら病院の方からヘリを飛ばすという手段もあったのですが」

「それは無しだぜウイウイ。病院のヘリは緊急時の移動手段だ。今は少しの余裕がある。それにヘリは目立つ」


 そう、ハルカさんが言ったように、ヘリでの移動は目立つ。それよりは、こうして走った方が良いと思う。とはいえ渋谷へ行くなら、どうしても白評会長の息がかかった警官や冒険者との衝突は避けられないだろう。まあ、なんとかするしかない。


「クニハラ。そろそろ頼む」

「うっす!」


 俺の呼びかけにクニハラが応えた。すぐに彼の影から大量の分身が現れる。クニハラの分身は俺たちに並走し、やがて前に出た。分身たちが前を走り、俺たちはその後をついていく形だ。クニハラの影分身は、かなり応用の効く使い方ができるので頼もしい。


「分身たちを渋谷に先行させるっす。こいつで多少の撹乱になれば良いっすけどね……どうなるかな?」

「自信がないのか?」

「先輩……そんなの、あるに決まってるじゃないっすか! さあ、行け! 俺の影たち!」


 おう、頼もしい返事だね。それでこそだ。影が高速で前方へ消えていく。撹乱作戦が上手く機能してほしいものだ。


「さて、走りながら作戦の確認だ。俺たちは、クニハラの分身が渋谷の警備を撹乱している隙にスクランブル交差点へ向かう。その道中で足を止められそうになれば俺やサナの使い魔で更に撹乱を図る。交差点についたら白漂会長小飼いの冒険者たちを説得する。もしくは、冒険者たちが魅了などの状態異常をかけられているのなら、その解除を試みる」


 俺の言葉に応えるように、ウイカゼさんが白い杖をぶんぶんと振った。彼女の高いモチベーションが伝わってきて、こっちのやる気も刺激される。


「状態異常を解除するなら私の出番でしてよ! 私の新しいスキルで、呪いなどの類いは解除できますからね!」

「ああ、ウイカゼさんを頼りにしてる」

「お任せくださいな!」


 病院で作戦を立てていた時に、ウイカゼさんが言ってくれたのだ。彼女が新しく覚えたスキルについて。作戦に使えそうだったので、期待させてもらうことにした。


「交差点の冒険者をどうにかしたら、近くで指揮をとっているはずの白漂会長の身柄を押さえる。そうして、スタンピードの魔物たちとも戦う。きっと、これが一番難しいところだぞ」


 白漂会長は現場の冒険者たちの指揮をとっているというは、クニハラからの情報だ。テレビのニュースでも、そのような話は出ていた。今はそれを信じて動く。


「それにしても……自分で言っててなんだが、どうにかして、だとか……きっと、だとか……フワフワした計画だ。だからこそ、皆がこの作戦についてきてくれて感謝してる」


 そう言った俺に「そんなこと」と応えたのはサナだった。彼女は、やる気に満ちている。というか、今も俺のことを信頼してくれているのが、しっかりと伝わってきて、嬉しい。


「アキヤおじさんとなら、どんなやつが敵でも、私は戦えるよ!」

「私もそうですわ!」

「ハルカちゃんも右に同じだぜー」

「あ、そういうノリなら先輩! 俺も、俺も居るっすよ! 俺も臨時でこのパーティに参加してるっす!」

「ああ……! そうだな!」


 皆、ありがとう! 本当にありがとう!


 皆の協力に感謝しながら、俺は渋谷へ向かって走り続けた。


 日もだいぶ傾いてきた頃、俺たちは渋谷へと到着した。予想通り、そこに居た警察や冒険者たちは、クニハラの影分身によって撹乱され、混乱状態だ。何事もなく、誰にも気付かれずにスクランブル交差点まで到着できるのがベストだったが、どうやら、そうもいかないらしい。


「とまれ! 貴様ら! この先へは行かせないぞ!」


 周囲の警備をしていた冒険者だろうか。その制服を見れば、冒険者協会の直属であることが分かる。となれば、白漂会長の部下ということか。悪いが、おまえの相手をしてる暇なんかない。こいつとでも遊んでろ!


「影犬! やつと遊んでやれ!」

「ウォン!」


 俺の影から影の犬が現れ、冒険者に飛びかかる。冒険者はあわてふためいた。影犬に、良いように遊ばれている様子を見るに、良いとこC級冒険者か。


「――待て! 俺はB級冒険者だぞ! 無視すんじゃ――うわっ!?」


 え!? あれでB級冒険者なの!? まさかだよな。影犬への対応もできないのに……今のB級冒険者はここまでレベルが下がってたのか? それともピンキリなだけだろうか。


 その後も、俺たちを止めようとする冒険者は何度か現れたけど、影犬や影鳥をまともに対処できるような者は現れなかった。まじで……今の冒険者は平均レベルが下がってるんだな。そんなことを考えているうちに、俺たちはスクランブル交差点へ到着する。


 スクランブル交差点には、数十人の冒険者の姿があった。彼らは皆うつろな目をしている。近くで見て分かった。魅了系のスキルの影響下だ。向こうは、すぐには動いてこない。彼ら皆が、こちらに、うつろな目を向けてくる。


「おじ様――この方たちに必要なのは説得でして? それとも私のスキルでして?」

「後者だ」


 俺とウイカゼさんの会話に反応するように、冒険者たちは武器を構える。穏やかじゃないね。彼らの後方では空間の歪みが大きくなってるし、早くこの状況を何とかしないと。


「ウイカゼさん! 頼む!」

「了解ですわ! スキルの発動まで少し時間がかかりましてよ! 解呪の嵐!」


 冒険者たちが動き出す。俺はウイカゼさんを守るように、立ち塞がる。そんな俺のすぐ側にサナも立つ。そうだな。彼女は以前から、俺と並んで戦えるんだ。なら、心配は要らないな。


「サナ。ウイカゼさんを守るぞ!」

「うん!」


 迫りくる数十人の冒険者たち。その全てを俺とサナは盾だけで相手にする。正直、想像してたよりずっと楽だ。成長して強くなったサナが頼りになるってのも、あるけれど、冒険者たちがそれほど強くないのも理由だ。これが、白漂デイモン小飼いの、精鋭たちの実力か。


「――皆! ハルカちゃんが突発的に配信を始めてるぜ! 場所は渋谷スクランブル交差点! 今にもスタンピードが起きようって状況だ! 冒険者たちが問答無用でサナサナたちに襲いかかってて――」


 後方からハルカさんの実況が聞こえてくる。この状況はリスナーたちの目には、どう映っているだろうか? いずれにせよ、やることは変わらない。今は、サナと共に後方のハルカさんやウイカゼさんを守るだけだ。


「――先輩! 俺も! 俺も居るっすよ!」


 ああ、そうだったな。クニハラも居るんだった。専門は隠密と援護だろうにさ、拳一つで、前に出てもらって悪いね。そんな俺たちの守りを、敵対する冒険者たちは突破できない。そして。


「――解呪の嵐が、来ますわよ!」


 ウイカゼさんの声に合わせて、突風と大雨が同時にやって来た。

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