真実を明らかにするために
サナたちに聞いたところ、どうやら今日は、二十七日の朝らしい。一週間近く寝ていたのか。それで、ここは武蔵野の病院内だとか。良いニュースではないね。
「スタンピードまで、もうほとんど時間がないってことか。それで……この病院には、どれくらいの人が残っているんだ?」
俺の問いに対して、その場の皆が困ったような顔をした。どうも状況は不味そうだ。そう思っていると、サナが問いに答えてくれる。
「病院には、まだ人が多く残ってる。どうしても、東京から離れられない人も居るんだよね」
「やっぱり、そうなったか」
ここの人たちが逃げられないのなら、誰かがここを守らなくてはならない。そういう場所は、東京中にあるのだろう。そんなところ全てを守るなんてのは現実的な案じゃない。では、どうすれば良いのか? 困ったね。
「サナ。ちょっとテレビをつけてもらっても良いかい? きっと渋谷の様子がどこかのチャンネルに映っていると思うから」
「うん」
サナが病室のテレビをつけてくれる。チャンネルを回す必要はなかった。画面には、渋谷のスクランブル交差点が映っている。交差点ではの中央にある空間の歪みが大きくなっている。あの様子だと、今夜にもスタンピードは起こるだろう。
交差点の辺りには何人も冒険者の姿がある。空間の歪みを包囲しているようだが……数が少なくないか? 精々が三十人といったところに見える。そんな数の冒険者で、押さえ込めるほどスタンピードは甘くはないぞ。
俺は画面から目を離し、クニハラの方を見た。彼は肩をすくめた。たぶんこいつも、俺と同じことは考えている。理解者が居るのは頼もしいが、それはそれとして、画面に映っている状況は、かなりヤバい。
「あいつら、あのままだと死ぬぞ」
「でしょうね。俺もそう思うっす。現場の近くじゃあ、白漂会長が指揮をとってるらしいっすけど、何を考えているのやら……」
死ぬ。という言葉に俺とクニハラ以外の全員が驚いている。姉さんや、サナたち三人はともかくドブログさんも驚くのね。まあ、彼は冒険者ではなくて職人だものな。
「冒険者協会は精鋭を集めたって言ってるっすけども、A級冒険者三十人程度で押さえられるほどスタンピードは甘くねえっす。俺も、昔のことを思い出してきたから分かるっすよ」
「スタンピードは多くの戦える人間を集めなくちゃならない。あれは戦争なんだ。B級でも、C級でも、数を集めなくては……とはいえ、今言った通り戦争に行くわけだから。半端な覚悟のやつは連れていけない」
それは、俺がサナたちをスタンピードへ同行させることを悩む理由だ。あのテレビに映っている冒険者たちは、これから先に起こることを正しく理解できているのだろうか? 彼らが、白漂会長に騙されたり、そそのかされているのだとしたら、放ってはおけない。夜までに渋谷へ行かなければ。彼らを安全圏まで撤退させることが……できるのだろうか?
俺とクニハラが二人で悩んでいたところに、サナが困ったような顔をしながら「おじさん」と声をかけてきた。ああ、悪い。俺たちだけで話を進めてた。
「……おじさんが裏で協会を調べてたことはクニハラさんから聞いてるよ。クニハラさんは眠ったままのおじさんを病院まで運んでくれたし、信用はしてる。でも私たちには分からないことだらけ。どうして、おじさんたちは私の知らないことを色々と知ってるの?」
それは……話すべきだな。ずっと隠し事をしているというのも後ろめたい気持ちがあったし、世界の改変については話しておくべきだ。
「話すよ。実はな……」
それからの、俺の話を皆は驚くほどあっさりと受け入れてくれた。現実が改変されているとか、白漂会長の正体が魔界から来た魔王だとか、かなり突飛に聞こえる話をしたと思うんだけど……よく信じてくれたね!? いや、話がスムーズに進むのは助かるけども! そんな風に思ってると、ハルカさんが笑った。
「おじおじ、私たちは、おじおじの話を信じるぜ。つーか、前から違和感はあったんだ。この前の杉並ダンジョンで私たちは一気にレベルが上がった。あれはゴブリンやホブゴブリンを倒しただけでの結果とは、どうも思えなかった」
ハルカさんの言葉に、サナとウイカゼさんがこくこくと頷く。そうか、あの件が彼女たちには違和感として残ってたのか。それなら、納得なの……かな? 姉さんやドブログさんも信じてくれて、ありがとう。
「アキヤ先輩……思うんすけど……」
俺の気持ちを察してくれたのか、クニハラが説明をしてくれる。それは、ありがたい。
「俺が思うにっすね……おそらく、ここに居る皆さんが先輩の話を簡単に受け入れられたのは、漆黒の騎士団の新しい噂が世間に広まっているからだと思うっす」
「噂の効果か?」
「はい。俺たちの目論み通り、新たに流した噂が世界の人々に強く影響している。その噂が俺たちの日々に感じている、ちょっとした違和感を強くして、真実を受け入れやすくしているんだと思うっす」
「……なるほどね」
俺たちのやっていたことは、効果があったというわけだ。そういうことなら嬉しいね。そう感じていた俺にサナが「ちょっと良い?」と声をかけてきた。ん、なんだろうか?
「私も、状況はだいたい分かったよ。そのうえでさ……おじさんに聞きたいんだけど」
「ああ。何でも聞いてほしい」
「アキヤおじさんが、私を助けてくれた黒騎士さんで、漆黒の騎士団のメンバーなんだよね?」
「その通りだ。間違いないよ。ただ、俺から、漆黒の騎士団について、サナへ伝えてないことがある」
「伝えてないこと……?」
サナは不思議そうにしている。なんだろう? という感じの顔だ。そんな彼女に、俺は感謝の気持ちを込めて、伝える。
「俺たちに漆黒の騎士団の名をくれたのはね。サナ、君なんだよ」
「え?」
「かつて、サナが俺たちに漆黒の騎士団の名をくれたんだ。そのことを、さっき思い出した」
「そう……だったんだ……」
俺は頷いて応える。サナの方は、俺の言葉が信じられない、というような様子だ。けれど、それが事実なんだよ。だから、俺はサナに感謝する。
「さっきの、クニハラの話も聞いて、考えたんだ。俺が持つ騎士の面影は、互いを覚えやすくする力。それだけだと思っていた。でも、それは、違った。違ったんだ……と思う」
「おじさん、それはどういうこと?」
「良いか。サナ、皆。聞いてくれ」
皆の注目が集まる。なんというか、緊張するな。それじゃあ、話すとするか。
「騎士の面影の本当の力は……互いの心を繋げる力なんだ。心で繋がっているから、お互いのことを忘れにくくなる。心で繋がってるから互いの存在を強くするんだと思う」
「ん……なんとなく、分かった。理解しきれた訳じゃないけど……アキヤおじさんが何を言おうとしてるのか……なんとなく分かる」
サナは少し考えて、俺の目をしっかり見た。彼女の強い意思が伝わり、それが嬉しい。
「ここまでの話の流れだと、騎士の面影は、皆の心を繋ぐ力なんだよね?」
「ああ」
「その力を……漆黒の騎士団の名前が、より強いものにした。んだよね? 間違ってたら、恥ずかしいけど……」
「間違ってはない……と思う。皆の心を漆黒の騎士団がより強く繋いでくれた。皆の思いが俺に……世界の真実を気付かせてくれた。同じ力が、皆に真実を教えてくれるはずだ。俺はそう信じてる」
だから、俺は行かねばならない。皆の思いに応えるために。後悔はしたくないから。
「俺は、渋谷へ行く。渋谷へ行って、真実を明らかにする……!」




