↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/100

夢の魔王リリス

 クニハラの事務所を出て……家に帰った。その後の俺は、一旦ベッドで横になって休んでいたはずだ……その先は目を閉じて、気持ちよく、うとうとしていたな?


 じゃあ、ここは夢の中……? 辺りには何もない。足元だけが雲みたいになっている。まるで、天国にでも来たみたいだな? 俺が想像する天国なのだとしたら、思ったよりは寂しい感じがする。


 なんとなく空を見た。宇宙でも広がっているのかと思ったが、そうではなかった。あれは……建物? 黄金なのだろうか? いくつもの黄金色の建物が頭上を埋め尽くしている。その時、背後に気配を感じた。危険を察知し、瞬時に振り返る。


 女が立っていた。彼女は顔の上半分を仮面で隠しているが、美人なのだということは、なんとなく分かった。味方ではないような、そんな気がする。美人さんが敵だとしたら残念だ。


「魔界は……心象世界の空にある」


 女が、頭上の建築群を指差した。魔界? ということは、あの上に見える場所は、こことはまた違う世界か?


「貴公。何も状況を理解していないのだろう? 簡単に説明してやる。貴公は今、深い眠りの中にある。我が貴公をこの場所、魔界の側まで呼んだのだ」


 女が黒いドレスをつまみ、カーテシーを決めた。彼女のピンク色の髪が揺れて、甘ったるい匂いが漂って来る。凄いな……夢の中でも匂いってのは感じるのか。いや、たぶんこれは、ただの夢ではないのだろうけど。


「ここで貴公が死ねば、肉体は永遠に目覚めることはない。私は白漂の頼みで、貴公の魂だけを、夢の奥地へと引っ張りこんだ。どんなに、強靭な精神を持っていようとも、眠る瞬間の魂を引っ張りあげるのは簡単……ではなかったぞ。何者なのだ? 貴公」

「いや、何者なのだと言われても……困るよ」

「あいや、質問に貴公を困らせる意図はなかった。のだが、貴公の魂を引っ張るのに苦労したから、何か特別な体質ではないかと気になってな。むぅ、我の思考を疲労させたな。許せぬ」

「さいですか」

「ゆーるーせーぬー」

 

 どうやら俺は、彼女に誘拐されたらしい。魂だけを夢の奥地に、ってことであってるよな? 俺は不思議とその話を受け入れていた。たぶん言葉ではなく心で、理解ができているんだろう。まあそれは置いといて、人を拐っといて、文句を言ってくるのは理不尽が過ぎるだろ。

 

「おっと、紹介が遅れたな。我の名はリリス。まあ、有り体に言えば、魔王と言うものになる。白漂とは古い馴染みと言ったところだな。個人的にアイツは好きじゃないが……あんなでも私とは同盟関係にある。やつには、貴公の誘拐、時間稼ぎ、そして、できれば殺害をして欲しいと頼まれた」

「はぁ……そっすか」

「貴公。我の話に興味がないな?」


 いや、興味がないわけじゃない。白漂会長も話に絡んでいるみたいだしな。とはいえ、いきなり魔界の話をされても、そっすか。としか、ならないよ。


「ま、話からして、白漂会長も、魔王とかいう存在なのか? ふぅん。人間じゃなかったんだな? まあ、納得か。世界を改変できるような力を持ってるなら、人外だとしても驚かない」

「ああ、やつも魔界の住人。というか魔王だ」

「へぇ……」

「貴公。やはり我の話に興味がないだろ?」

「そんなことは、ナイデスヨ」


 自分でも驚くほど、白漂会長が魔王だという話をされても驚きがなかった。むしろ、納得ができる。やつに関しては、人じゃないと言われた方が説得力がある。


「さて、貴公。無駄話をするのはやめにしようか。とりあえず、戦おうじゃないかっ!」

「いきなりかよ」


 リリスの周囲に、無数の剣が出現していく。数えきれないほどの剣は空中でクルクルと回転した後、急停止。そして一気に加速して俺に迫る。流石に、この数だと厄介だなあ。ま、なんとかなるだろ。


 飛んできた剣の一本をキャッチ。そのまま、次に飛んできた攻撃を、手にした剣で弾く! なぁに、簡単簡単! さらに飛んできた剣も、軽く弾いた!

 

「パリイイィ!」


 問題は、この攻撃をいつまで捌ききれば良いか。なんだよな。次々に剣を弾きながら、どうしたものかと考える。パリィの応用で弾いた剣をリリスの方へ飛ばしているのだけども、それは彼女へ到達する前に砂のように分解されて、消えてしまう。はあ~本当面倒。夢の世界だしやられて……はいけないんだったな。ここで死ぬと、永遠に目覚めることがなくなるんだったな?


 時間停止をして連続攻撃から抜け出すことも考えたが、まだ早い気がした。ただでさえ時間停止は魔力を大量に消費するスキルだし、ここは色々と未知数な精神世界だ。時間を止めるには、情報が足りない。ま、やってやるさ!


 それから、どれだけ剣を弾き続けただろうか。終わりは急にやってきた。リリスが「もうよい」と言うのに合わせて、剣が飛んでこなくなった。お、もう良いのかい? こっちはテンション上がってきてたところなのにさ。


「もういいのかよ。リリスさん?」

「……貴公とやり合っても千日手だ。無理に危険を冒す必要もない。ここまで、貴公を拐い、一戦交えたのだ。その事実があれば、白漂への義理は果たしたと言える。そうじゃないか?」

「ふぅん? あんた白漂会長の完全な仲間ってわけでも、ないんだな? てか会長の名前を出しちゃって良いのかよ? 今さらだけども」

「言ったろう。我は個人的には、あの男のことは好きじゃないのだ。これ以上、あいつのために義理を果たす必要はない。やつとは、単なる同盟関係でしかない」

「お互い、ここで手を退くかい?」


 俺が聞くと、リリスは頷く。そういうことであれば、俺も美人を殺す趣味はないからな。


「では、この辺りで互いの矛を納めるとしようか……しかし……敵にするには惜しいな。良い男だ。貴公が抵抗さえしなければ貴公の肉体も含めて魔界へ呼べるのだが、どうだ? 来ぬか? 永遠の享楽を、約束するぞ」

「いや、来ぬかと言われても……」


 それ実質的に、現実では死ぬみたいなもんじゃないか? それは、ごめんだ。数日だけ魔界の様子を見に行けるとかなら、面白いかもしれないけど。


「我と共に来れば、豪華な宮殿で我や、美しいサキュバスたちと甘美な日々を送り続けることができるのだがな? ほら、この子など、どうだ?」


 そう言ってリリスは、ホログラム映像みたいに女の子の姿を出す。可愛いドレスを着た黒髪のナイスバディーな美人さん。正直、興味は惹かれる。

 

「う……それは、男にとっては魅力的では、あるけれど……」

「……だが、貴公は高潔な騎士。色欲などには、なびかぬか」


 言うが早いかリリスは美人さんの映像を消してしまう。ああ、早いって。


 なんだか魅力的な条件を提示されて、勝手に無しにされた。凄くもったいないことをした気になるが、これで良いのだろう。今は、現実の方が大変な時だし。サキュバス相手に鼻の下を伸ばしてる叔父さんとか姪っ子からしたら幻滅もの、だもんな。


「……で、あんたは俺を元の場所まで返してくれるのか?」

「心象世界の、地上までは降ろしてやる。後は、自分の脚で自分の体まで帰れ」

「人のことを誘拐しといて、塩対応なんじゃあないか?」

「我は、白漂とは同盟関係だと言ったろう? 貴公の味方をしすぎるというわけにも行かぬのだ。しかし……そうだな……ふむむ、貴公を観察しているうちに少しだけ、気になっていた謎の正体が見えてきたぞ」


 リリスは少し考えるみたいに口元へ指を当てる。そんな彼女の姿は、神秘的にさえ見えた。ほどなくして、彼女は言う。それは意外なアドバイスだった。


「貴公は……病院を目指せ。そして、女の子を探すのだ。六歳くらいの女の子を……その子との会話が白漂を倒すためのヒントになるだろう。これは我からのサービスだ。良い男には親切にしておいて損はないからな」


 恩を売るってこと? 罠じゃないだろうな? と思うものの、彼女から俺を騙そうとするような意思は感じない。ここが夢の……というか心象世界だと、はっきり認識しているからか、嘘と本当が感覚で分かる……気がするのだ。


「貴公、現実世界へ帰るが良いよ。なに、心象世界は現実の誰かに繋がっている。それをたどれば、行き来するのは容易なこと」


 周囲の雲が濃くなっていき、気付いた時には、辺りは武蔵野の町中だった。ここは、現実の町では、ない。それが感覚で理解できる。俺が目指すべき病院も、感覚で分かった。


 リリスはそこに白漂会長を倒すためのヒントがあると言った。なんとなく、彼女のことは信じることができる。ならば俺は感覚にしたがい目的地を目指すとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「ゆーるーせーぬー」 秒でシリアス壊してて草
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。