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遊ぶ悪魔

 休憩中、俺はクニハラが淹れたお茶を飲んでいた。クニハラ探偵事務所まで来た時も淹れてもらっていたが、こいつが出すお茶は何度飲んでも美味いのだ。


 お茶を飲んで一息ついてから、会長の細かい情報を確認していく。どんな情報が白漂会長の弱点に繋がるか分からない。少しでも多く情報は欲しい。


「じゃあ、調べた範囲での細かい情報を出していくっすよ」

「頼む」

「白漂デイモン四十六歳独身。結婚歴は無し。十三年前から、冒険者協会の会長の座についています」

「なるほど?」

「冒険者協会の会長として、数々の業務をこなしているかたわら、新人の発掘や教育にも、力を入れているようですね。会長に気に入られた冒険者の多くがAランクまで昇格しています。白漂会長の非公式な親衛隊ができるくらいには、慕われている。みたいですよ?」


 へえ? あの会長が……人は見かけによらないな。それとも……なんらかの、魅了系のスキルでも使ってる可能性はあるかもな? 俺が初めて白漂会長に会った時なんらかのスキルを使われたのを覚えている。それは俺には効かなくて、会長が焦っていた姿は印象深い。確か、あの時の会長は俺と一緒に食事がしたいとか、なんとか話していたな。


「会長が、特定の人間に魅了系のスキルを使ってる可能性はあるかな?」

「俺も、アキヤ先輩と同じことは考えているっす。でも、魅了状態の人間って判別が難しいんすよね。もしかしたら、本当に尊敬されてるのかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「まあ、人間の内心はそう簡単に分からんわな」

「でも、アキヤ先輩の予想はあっているかも、しれません。どうも……白漂会長に気に入られた人物たちは、それまでとは人が変わったかのようになっているらしいんすよね。なんか言い方は悪くなるっすけど、カルト染みてて怖いっす」

「ふむ……」


 俺にも、気味が悪く聞こえるな。


「白漂会長の人間関係で、他にも分かっていることはあるか?」

「顔は結構広いみたいっすね。財界や政治家、警察や軍人、大学教授……他にも技術者とかアスリートとも関わりがあるみたいです。二年ほど前から配信界隈にも興味を持っているとか」

「……本当に顔が広いんだな。なんでもありかよ」


 ん、二年前……確か、魔導ドローンが出回り出したのも、その頃だったか? 冒険者協会の会長が配信に興味を持ってから、ダンジョン配信をサポートするためのガジェットを出したのか? 話の流れとしては、変ではないが……ガジェットの開発速度がやけに速いな?


「やつは二年前に配信に興味を持ち、同じ年にダンジョン配信を撮影するための魔導ドローンを開発した?」

「なんか速いっすよね。でも、まあ実際はもっと早くから会長が配信への興味を持っていたというだけの話かもしれねーっす」

「ああ、なるほど?」


 そうだろうか? 疑問に思う俺に対し、クニハラは肩をすくめる。


「もしかしたら、冒険者協会には驚異のメカニズムがあるかもしれません。何せ多くの学者や技術者を囲っていますからね」

「そういえば、今聞いたみたいな話を以前にも聞いたことがあるな」


 その話を聞いたのはドブログさんの店でだったか。魔石を扱う技術を持つ職人たちを、買収して囲っているだとか、なんとか。その話を俺からクニハラにしてみる。クニハラは少し考えた後「俺の推理、聞いてもらって良いすか?」と言ってきた。良いよ。クニハラの推理、聞かせてほしい。


「アキヤ先輩。これは俺の突飛な推理だと思って聞いてほしいんすけど」

「うん。聞かせてくれ」

「白漂会長は、彼の必要なものを……欲しいものを、すぐ入手できるように、学者や技術者を囲ってるんだと思うっす。動悸としては非常にシンプルってことっす」

「自分が欲しいものを作ってもらいたいから、それを作れる能力を持ってるやつらを囲ってるってのか?」

「そうっす」

「なんつーシンプルな……」

「これはあくまで俺が、個人的にそう考えたって話ですからね。アキヤ先輩」

「ああ、そうだな」


 でも、クニハラの話は、信憑性があるように思える。そういう理由ならば……ずいぶんと自分勝手な話だが……理解はできる。人様に迷惑かけてまで技術者を独占するなよって文句は言いたくなるけども。


「えっと、他に何か分かってることはあるかい?」

「ん、そうっすね。都市開発なんかにも積極的に関わってるようです。将来的には、東京デイモンランドを作りたいとか、過去の記事で発言してました」

「東京デイモンランド……」

「ま、かなりの権力者ってことっすよ。ダンジョンから採掘される鉱石はそれだけでこの国を支えられるほどのエネルギーを産み出せますし、そんなものが採掘できる場所の管理者ですからね」

「ダンジョン由来の植物から精製した薬はこれまで治せないと言われてた病をも治せるしな。それらが手に入る場所を、全て管理しているんだから、権力を持ってないわけがないわな」

「そういうことっす」


 まあ、白漂会長が権力者であることは知ってた。これは、あまり有力な情報ではないかもしれない。よし、次の情報を聞いてみよう。


「他には……」

「そうっすね……」


 その後も色々と白漂会長の情報についてクニハラと話し合う。だが、あまり良さげな情報とは思えないものばかりだ。食べ物の好き嫌いとかを聞いても、どうしろってんだよ……?


「まあ……あとは、ゲームが趣味だとか……今はまだこれくらいの情報しかねえっす。話の後半は、あんまり役に立たない情報ばっかで、すまねっす」

「一週間で、こんだけ情報を集めてきてくれたんなら上出来だよ」

「アキヤ先輩にそう言ってもらえると嬉しいっすね」

「にしても、ゲームか……会長が配信に興味を持ったのも、そういう関係なのかね?」


 サナたちが平日の夜にやっているゲーム配信のことを思い出しながら聞いてみた。おじさんは、まだ詳しくはないけど、配信とゲームってのは相性が良い文化のように思えるよ。なんとなく、白漂会長と配信との繋がりには、ゲームも関わっているような気がするんだけど。どうだろうか?


「……そこまでは俺もわかんねっす。んー、ゲームのことをもう少し深掘りするなら、白漂会長は、特にシミュレーションゲームが好きだそうっすね」

「ん、ああ信◯の野望とか?」

「あとシ◯シティとか、ファイ◯ーエ◯ブレムとかも好きらしいっす。あの会長」

「ふぅん……」


 シミュレーションゲームか。俺は特別詳しくはない。現実世界や仮想世界の出来事をゲーム内に再現して、体験できるとか……そういうジャンルだよな。戦場の指揮官になったり都市を建設したり、そういうジャンル……だ!?


 今、これまでの情報が繋がったような感覚が、俺にはあった。い、いや……そんなことのために、この世界は改変されたというのか? そんな、くだらないことのために……まさかだよな……しかし。


「……アキヤ先輩?」


 気が付くと、クニハラが、不思議そうな顔をこちらへ向けていた。ああ、悪い。ちょっと今ショックがでかかったんだ。


「クニハラ。これは、あくまで俺が、そうかもしれないと思った。それだけのことなんだ」

「ぬ? さっきの俺みたいなことを言うっすね?」

「もしかしたら、白漂デイモンが、この世界の改変をした理由が分かったかもしれない」

「――マジっすか!? 聞かせて欲しいっす!」


 クニハラが身を乗り出す。いや、俺はその思い付きを、まさかとは思ってる。でも、会長が自分の欲しいものを作らせるためだけに、能力のある人間を囲うような人物だとしたら……他人の都合を考えずに、世界を変えてしまえるような力を持ってる人物だとしたら……そういう可能性が考えられるのだ。まったく、馬鹿げてるが。


「やつは、シミュレーションゲームを遊ぶ感覚で、世界を改変したんじゃないか? ゲームの数値をいじるみたいに、自分に都合よく快適に遊べる世界を作ろうと、世界を改変したんじゃないか?」


 まるで神話に登場する神のようであり、同時にままごとで遊ぶ幼子のようにシンプルな理由だ。やつの動悸は……遊び……なんじゃないか? そんな問いにクニハラは絶句していた。


 話も終わり、一旦自宅へ帰ることにする。帰ったら、少し仮眠をとろう。ここ最近の疲れが心に残っている気がするから。

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