高速三段突き
「皆さんには今日中に上級職へクラスチェンジしてもらいます」
杉並ダンジョン内の林で、俺の言葉を聞いたサナたちは明らかに困惑した表情になっていた。まあ、詳しいことを知らされずに、こんなことを言われたら不安にもなるわな。大丈夫、おじさんの説明を聞いてほしい。そうすれば、きっと分かってもらえると信じてる。
「皆さんには金属スライムという魔物を狩ってもらいます。非常に素早く、非常に硬い魔物ですが、倒すことができれば莫大な経験値を手に入れられる。そんな相手です」
「な、なるほどぉ。私たちはその魔物を倒して一気にレベルアップということですね? おじさん」
「サナさん、その通りです。レベルアップして上級職にクラスチェンジするまで、今日は頑張りましょう!」
「……お、おー!」
サナは拳をかかげて声を上げてくれたけど、ハルカさんとウイカゼさんは互いの顔を見合わせている。どうしたものかと、不安そうな感じだな。今、無茶を言われてるように感じているのだろう。でも、俺は絶対にできないことを、彼女たちに強要したりはしない。俺はそこまで鬼じゃない。
ハルカさんがスッと手を挙げた。うん、なんでも答えるよ。君たちの不安が解消できるように、俺もできる限りのことをしたい。
「あのさ、おじおじ……金属スライムってのはめちゃ硬くて、めちゃ素早いんだろ? 経験値が莫大なのは分かったけど、そもそもハルカちゃんたちに倒せる相手なのか」
そうだそうだといった感じにウイカゼさんが頷いた。彼女も言いたいことがあるようだな。うん、ぜひ聞かせて。
「私も、そこが不安ですの。金属スライムといえば、並の冒険者には、倒すことは不可能だと言われている魔物ですわ。そんな相手が私たちに倒せまして?」
ふむ。金属スライムは並みの冒険者には倒すのが大変な相手だけど、決して倒せないというわけでもない。ま、気持ちは分かるよ。俺も駆け出しの頃は金属スライムには手こずってた。
「皆さんの不安は分かりました。ですが、安心してください。まずは俺が手本を見せますし、秘密兵器もあるんですよ」
「「「秘密兵器!?」」」
秘密兵器という言葉に、サナたちの目が輝く。お、良い反応するね。やっぱり、この言葉には若者のハートを掴む魅力が詰まってるんだなぁ。
「金属スライムは、決して、倒せない相手ではありません。そして、倒した時の経験値は莫大です。俺は皆さんなら、できると思ってます。できないと思っていたら、こんなことをやらせません! そのための秘密兵器もあるんです」
「「「お、おお!?」」」
「というわけで、皆さん! 頑張りましょー!」
「「「おおー!」」」
皆やる気になってくれたな! であれば俺も気合いを入れて頑張らないと! そうして、皆で今日の配信準備を始めた。
少しして……準備完了! サナが撮影機に向かって元気よく挨拶! 俺たちも後に続く。これ、いつも少し気恥ずかしいんだよね。でも、配信を見てる皆と繋がった感じがしてワクワクもする。
※こんサナー
※こんサナー
※いつもの挨拶
※こんサナー
※挨拶は大事、古事記にもそう書かれている
いつもの挨拶が終わり、サナが今回の企画の意図を説明する。うちの姪っ子がワクワクした様子で話す姿に叔父さんは、ほっこりする。
「今日はまず新たな武器を試しに使ってみようと思います! 昨日、私やハルカちゃん、ウイカゼちゃんのメイン武器を新調したんです!」
※新武器!
※おー!
※あ、魔石がついてる
※ハルカちゃんたちの武器にも魔石ついてる?
※魔石武器とかスゲー!
「えへへ。私たち三人の武器にはホブゴブリンの魔石がついてます。これで、小鬼特攻? の効果がつくそうです! 今回挑むダンジョンは小鬼も出てくるそうなので、新たな武器が活躍するのが今から楽しみ!」
※俺たちも楽しみ!
※凄そう
※昨日も強かったのに今はもっと強い!?
※もう一人前の冒険者だねぇ
※なるほどな。この一週間、裏では魔石武器を準備してたか
サナの武器に取り付けられてる魔石は、元々武蔵野ダンジョンで手に入れたものた。ハルカさんとウイカゼさんの武器に付いてる魔石は俺がドブログさんの店で購入したものだ。壮絶なじゃんけん勝負の勝者はサナだった。あとの分は、初めてのボス討伐記念というか、おじさんからのお祝いってわけ。三人がモチベーションを高くして冒険を続けられることが、おじさんの望みなのだ。
「そして今回はなんと! 目玉イベントも用意してるよ! それは、このダンジョンに生息する、金属スライムを倒してみようのコーナーです!」
※え!? 金属スライムを!?
※めちゃ素早くて、めちゃ硬いと噂のやつ!?
※まじか。面白そうな挑戦だね
※やれるんですか!?
※できらあ!
「ふっふっふ! それじゃあ! 今日の冒険を始めていくよー!」
「「「おー!」」」
俺たちの掛け声に合わせ、撮影機が上向きになっていく。カメラには杉並ダンジョンの林から画面が動いていき、高くそびえる塔が映っている。杉並ダンジョン、通称は悪魔の空中庭園だ。さあ、冒険を始めるとしよう。今日もサナたちにかっこいいところを見せたいね。
林を進むこと数分、早速ゴブリンたちのお出ましだ。こん棒を振り回しながら迫ってくる数体の小鬼だが、もはやサナたちの敵ではない。ものの数秒で全ての小鬼がバラバラになった。良いね。サナたちの成長が感じられて嬉しいぞ。
「私たち成長してるね!」
「ああ、だが油断せずに行こうぜ」
「私でも、小鬼程度なら正面戦闘で倒せてしまえるのですね。強くなったと、感じますわ」
※サナ姫強すぎ!
※皆強い!
※すげー。ゴブリンを瞬殺だよ
※強いぜサナちゃん!
※こんサナー。なんか配信見に来たらゴブリンが瞬殺されてた
サナたちの戦闘に配信が盛り上がる中、林の向こうから、こちらへ走ってくる鬼の姿が見えた。ホブゴブリンだ。サナたちが身構える。今、彼女たちは戦ったばかりだし、ここは俺が出るか。というか、俺もかっこいいところを見せたい。
「皆さん、ここは俺に任せてください」
「おじさん!? 分かりました」
「かっこいいところ見せてほしいぜ」
「お任せしましたわ」
※黒おじ頑張れー
※ホブゴブリンは強いぞー
※おじさんなら、なんとかしてくれるはず!
※がんばえー
※やったれ! やったれ!
サナたちだけでなく、視聴者の皆も応援してくれている。それがなんだかムズムズするんだけど、凄く嬉しい! かっこ悪いところは見せられないな。なんて考えている内に、俺とホブゴブリンの距離が縮まる。
先制攻撃を仕掛けてきたのはホブゴブリンだ。俺はその攻撃を最小限の動きで回避して、刺突剣で首、喉、眼球を一瞬で突く。こいつは、ただの技術だ。ダンジョン由来のスキルですらない。技の派手さはないが、急所を三ヵ所も突かれて生きている魔物など、そうそう居ない。すれ違いざまの攻防でホブゴブリンは絶命した。
「はい。終わり」
振り向いて、サナたちの元へ歩いていくと、彼女たちは開いた口が塞がらない、ような感じになっていた。む、今やったのは地味な技ではあるが、やってることはレベル高いからな。ふ、おじさんのかっこいいところ見せちゃったな!
「お、おじさん!」
「はい!」
「い、今……おじさんは何をしたんですか! 速すぎて見えませんでした!」
「私も同じ感想ですわ! 何か、凄いことをしたのは分かりますけれども!」
あ、サナとウイカゼさんは俺が何をしたか分かってない!? しまった! 俺の動きが速すぎた!? そう思っていたところでハルカさんが口を開く。
「いや、おじおじは……」
おお! 特別に目の良いハルカさんなら、俺が今、何をしたのか分かってくれたんだな! ふぅ、安心。
※お、おじさん何をしたんだ!?
※速すぎ!?
※何も分からん
※とにかく凄いってことだな
※リスナーからも分からないほどの早業。俺たちでも見逃しちゃうね
コメントを見たハルカさんは、数秒何かを考えるように黙ってしまう。お、おぉ?
「……は、ハルカちゃんも、おじおじが何をしたか分かんなかったぜー! す、スゴイナー!」
あ、あぁ!? ハルカさん明らかに空気を読んでくれてるー!? な、なんかゴメンねー!? 皆に褒められているはずなのに、俺は、なんだか申し訳ない気持ちになってしまうのだった。




