おやすみなさい
晩餐会がお開きになり、メリルとキースは寝る部屋へ移動した。
キースが買い出しに行っていた間にシャワーを浴びたメリルは、もう歯磨きをするだけだ。
「じゃあ俺はシャワー浴びて来るわ。寝る準備できたら部屋暗くしていいし、先に寝てろな」
キースがギクシャクと言った。
サイモンと違いアルコールに強いキースは全く酔っておらず、逆に神経が冴え渡ってきた。
(落ち着け俺、意識するな)
少し時間をかけてシャワーを浴びて出て、普段なら下着一丁でウロウロするところだが、Tシャツと短パンを身につけた。
薄暗い室内を忍び足で歩く。メリルはベッドに入ってもう寝ているようだ。
キースも就寝準備を整え、横並びのベッドに静かに入った。
すると「ねえ」と隣から声がかかった。
「起きてたのか」
「うん。まだ寝れなくて」
「早く寝ろよ」
「ねえ、さっきのサイモンの話、どう思った? 指輪が外れたら、欲しいっていう話」
サイモンの申し出に対し、3人はいいとも悪いとも返事できず、結局保留になった。
サイモンが信用している『ボス』は聞くからに胡散臭い。
しかし、外れた後の指輪をどうすればいいのか、具体的な代案はなかった。
「うーん、分かんねえな。ロイが決めるだろ。元々指輪を拾ったのはロイで、メリルに返して欲しいって言ってたんだろ。メリルはロイに返せばいいんじゃねーか」
無責任なようだが、名案だとキースは思った。メリルが悩んだり、重大なことを決定して、その責任を取る必要はない。
ロイドは『指輪に関する責任は全て自分が取る』と宣言していたのだ。
ロイドなら正しく判断してくれるだろうという信頼もあった。
「そっか、そうね。私が着けているけど、ロイに返さなくちゃいけない物だったわ」
メリルも納得したように答えた。
「正直、これをずっと手元に置いて狙われ続けるのは嫌だし、でも悪いことに利用されるのも嫌だし。ちゃんとした人が平和的に保管してくれるのが理想よね。サイモンの言っていた『ボス』が本当に信頼できる人で、そうしてくれるなら、ありがたいけど……」
「だよなあ。本当に話の通りなら、渡していい気もするよな。俺らには荷が重いし。平和的に手離して、元通り平和に暮らせるなら、それが一番だよ。俺も新しい仕事始まるし、いつまでも変なことに関わってる余裕ないしな」
「う、ごめんね、本当に。仕事が始まるまでにこの件が片付きそうになかったら、キースはドノイに戻ってね。私と一緒じゃなければ、キースは大丈夫だと思うし、私も大丈夫よ。ロイとサイモンがいるから」
「大丈夫だろうけど、俺も行くよ。後2週間はあるし。俺がメリルを連れて帰るって、おばさんにも約束したしな」
また失言してメリルに気を使わせ、危うくお払い箱になりかけたキースは慌てた。
確かにあの2人がいれば十分だろうが、自分にしか出来ないこともあるはずだ。
多分それは戦力的なことではなく、今こうして話しているようなことで。
(ロイとはまだギクシャクしてる感じだし、サイモンはちょっと不思議系だしなあ。メリルが普通に気負わずに話せるのは、なーんも意識してない幼なじみの俺だよなぁ)
自分の役割を噛みしめ、キースは朗らかな声で言った。
「まっ、何事も何とかなるって。考えるより今はもう寝て、明日に備えようぜ。明日も行った先で美味しいもん食おう」
そうね、とメリルが頷いた。
「ありがとう。おやすみ、キース」
「おう、おやすみー」
(って言ったけど、眠れねーー!!)




