ヒーロー
買い出しに出たロイドとキースが戻り、4人はサイモンの部屋に集まった。
分厚く輪切りされたサーモンステーキは食べ応えたっぷりで、濃厚なバター味だ。
「くーっ、ビールに合うなあ。みんなは飲まないのか?」
瓶ビールを手酌しながら、キースが言った。
「俺は遠慮しとく」
「私もいいわ」
「付き合い悪いなあ、コップ一杯ぐらいは?」
「じゃあ僕はコップ一杯」とサイモンがグラスを手にした。
「って、コップ一杯で潰れるんかーい!」
数十分後、壁際の椅子にもたれて、こてんと寝落ちているサイモンに気付き、キースがつっこんだ。
「お酒弱いのね」とメリルも目を丸くした。サイモンが口にしたのは、小さなコップ一杯のビールだ。
「疲れてたんだろう。寝かせとこう」とロイドが言った。
「でもこのまま椅子で寝ると体が痛くなるし、歯磨きしないと虫歯になるわ」
「寝るときに声かけするよ」
メリルの心配にロイドが答えた。
寝るときにはここから移動しなくてはならない、メリルと同室だと思うとキースの緊張は増した。
その緊張をほぐし、なるべく自然に振る舞うためにビールを少し嗜んだのだが、それに付き合ってサイモンが潰れてしまうとは。
「それにしても、こいつ……」
サイモンの寝顔をじっと見つめ、キースが言った。
メリルはドキリとした。サイモンの無防備な寝顔が子供みたいで可愛いなと、眺めながら思っていたからだ。
「なんか怪しくね?」
「えっ?」
「たまたまあの場に居合わせて、たまたま水の使徒で、めちゃくちゃ親切じゃん。高校卒業以来だから……7年ぶりか。7年ぶりに会った、ただの元クラスメイトがさ。何のメリットもないのに、危険を顧みず、自分のばあちゃんにも掛け合って、悪魔の指輪を何とかしてくれるって。指輪が外れたら、ぶんどるつもりかもよ? 実はそれが狙いとか」
「そんなことっ」とメリルは反論が口をついて出た。
「そんなことないわ。サイモンはもう『ただの元クラスメイト』じゃないわ。行動を共にしている仲間だし、信頼してる。本人を前にして、そういうこと言うの良くないと思う」
「本人のいない場で言う方が良くないだろ。陰口になっちまう」
「寝てるときに言うのも同じことよ」
「起きてるよ、サイモン」とロイドが指摘した。
「えっ!」
2人はばっと顔を向けた。椅子の背にもたれて寝ているサイモンが、ぱちっと目を開けた。
「ロイドには気配でバレちゃうね」
「おまっ、狸寝入りかよ!」
「違うよ、ついさっき目が覚めたんだ。そしたら僕の話をしてるから、起きるタイミング失くしちゃって」
サイモンはばつが悪そうに弁解した。
「どうやら不信感を抱かれてるようだから、説明しておくよ。確かに、僕は悪魔の指輪が外れたら欲しいと思ってる。安全に管理するために。君たちが持っていても危険だ。ペレス元大佐や悪い人間に狙われ続ける」
「お前なら撃退できるって? だけどわざわざ好き好んで、厄介事を請け負う必要はあるのかよ」
「使徒の長老のおばあ様が、指輪をどこかに隠すのかしら? 昔、結界を張り巡らせた神殿に納めていたように」
「ばあちゃんには指輪を外す協力をしてもらうつもりだけど、外した指輪を管理するのは、ばあちゃんには荷が重い。悪魔の指輪は僕のボスに引き渡すつもりだ」
「誰だよ、ボスって。信用できるのか?」
キースが眉をひそめた。
「素性は明かせないけど、私設のヒーロークラブを創設して、世界のミステリーを追ったり、世界を救うことを趣味にしている、とんでもない大金持ちだよ。僕も彼に雇われているヒーローの1人だ」
サイモンのカミングアウトに3人は面食らった。
『ヒーロー』が目の前にいるという事実が、にわかには受け入れがたい。
「私設ヒーロー? はぁ? なに中学生の戯言みたいなことを」
「信じても信じなくても、どっちでもいいよ。ただ僕はちゃんと真実を説明した。メリルから指輪が外れた後、それを持て余すようなら僕に預けてほしい。悪いようにはしない。ロイドの話では、軍さえ信用できないんだよね? 僕はボスをとても信頼しているから。今の僕があるのもボスのお陰だ」
どこか遠い目をして、見たことのない熱を帯びた瞳で語るサイモンに、皆は少し唖然とした。




