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1人で呼び出し

1人、ホテルの部屋へ来たメリルは、まずはシャワーを浴びて身を清め、ショッピングモールで買った服に着替えた。


それからベッドに腰かけ、前と同じ要領で指輪の悪魔を呼び出した。

黒い石に触れて目を瞑り、念じるだけで良いのだ。


「願いごと決まった?」


現れた小悪魔は、相も変わらず願いごとを欲している。


「今晩は。あなたにちょっと聞きたいことがあるの」


「なに?」


「願いを叶えてもらう前に、周囲に事情を話して、失踪する期間を伝えておくことって出来ないのかしら? 5年待ってて、必ず戻るからって」


「願い事に関することは、人に話しちゃいけない。別の理由をつけて、待っていてって言うのは自由だけど」


「そうなのね……。だけど、ロイドを助けたときの私はそうしなかったのね」


「だね。かなり切羽詰まってたし、俺のことも幻覚か夢かと思って、半信半疑だったからね。指輪から悪魔が出てきて、時間と引き換えに願い事を叶えるよ、なんて普通すぐに信じられないよね。でも1度叶えた後だから、今は信じてるでしょ? この指輪があれば願いが叶う。そのことが知れ渡れば、君を殺して指輪を奪いたいと考える輩がわんさか出てくる。危険だよね、だから知られない方がいい。と言っても、もう遅いか」


悪魔ワガナオは首をすくめた。


「ペレス元大佐のことね」


「だけとは限らないよ」


ワガナオは意味深に笑い、メリルの不安を煽った。


「指輪を安全に外す方法が掴めそうなの。そうしたらもう命を狙われることもないわ。安全でしょ?」


「俺を手離しちゃうの? もったいない。せっかく願いが叶うのに」


ワガナオは心底残念そうな顔をした。


「願いごとの代償で時間を失うのに? ただで何でも叶えてくれる訳でもないのに、この指輪を欲しがる人の気持ちが、私にはよく分からないわ」


「俺にはその無欲さが分からないな。何も命と引き換えにって訳じゃない。数年かそこら俺にくれるだけで、自力じゃ手に入らないものが手に入る。こんなにいい話、そうそう転がってないよ。君は本当に幸運な人間だ」


悪魔の自信に満ちた口調に、危うく言いくるめられそうだ。

メリルは気持ちを引き締め直した。相手に呑まれてはいけない。


「俺は何一つ無理強いしないよ。全ては指輪の持ち主である、君が決めればいい。願いごとの内容によって、対価は変わる。願い事と対価を天秤にかけてごらんよ。納得できたなら契約成立だ」


ワガナオの言うことは分かる。

そうやってロイドの命と自分の5年間を天秤にかけた結果、メリルの今があるのだから。


「じゃあ例えば、一生遊び暮らせる大金を手にして、素敵な人と結婚して幸せになりたいっていう願いなら? どのくらいの対価になるの?」


「願い事の内容が抽象的すぎるよ。『一生遊び暮らせるほどの大金』って幾ら? 人によって違うから、どこの国の通貨で幾ら幾らっていう指定が欲しいね。『素敵な人』って言っても好みがあるでしょ。だからって好みをあれこれ並び立てて、そういう人を出してくれって言われても無理だよ。俺、神様じゃないから。人間は創れない。そういう人間を探してくれってのも無理。実在する『この人』ってのをちゃんと指定してくれたらいいけど。俳優の誰某とか。あと『幸せ』ってのも、何を幸せに感じるかは人それぞれだ。絵に描いたような仲良し家族に見えても、実際はどうか分かったもんじゃないし」


見た目年齢10歳くらいのワガナオだが、言うことがいちいち達観している。

確かにとメリルは唸った。


「もし、この指輪を着けたままで、一生何も願わないままだったら?」


「それでも別にいいよ。せいぜい長生きしたところで、人1人の寿命なんて、たかが知れてる」


まあ、出来たらまた何か願ってほしいねとワガナオは言った。


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