エミュリア女王記外伝その二~黒幕さんたちの事情その二~
エミュリア王女は権力者にはあまりよく思われていないようです。
今回も黒幕志願の権力者が、自分のしでかしたことと思惑を語っています・・・
ライガリス帝国と、自分たちの国をそう呼ぶ見栄っ張りの国と、話をつけるのには苦労した。我がマデレーナ王国の三分の一にも満たない国土の癖に、自国を帝国と呼んでいるおつむの足りない帝王とその臣民とかいう輩には、哀れさが漂う。いい加減にしろとは思うが、そういうことを表には出さないようにへりくだると、帝王は満足げに笑ったそうだ。私は行くことはできなかったが、贈り物を持って代理の者が参上したことで、マデレーナ王国の上位貴族が首を低くして臣従の意を示したことになり、帝王の気分はさぞかしよかっただろうと思う。
使者を送り出す前、私は使者に持たせる最初の手土産は何にしようかと思案を始めたのだが、少々帝王の思考を読むことができないために、贈り物の中身に迷ってしまった。正式に採用された軍の装備についての解説を贈ろうか、それとも国境の軍の配置と運用について機密文書を贈ろうかとも考えたのだが、前のものはすぐに知れてしまうと贈り物としては不向きだった。ならば後ろのものはと言えば、帝国がマデレーナを侵略しようと考えたときに有利に働く可能性があり、私が王位を持ったあと、帝国から奪われた領地を取り返すのに時間がかかってしまうのが嫌だったために、贈り物にするには少々難があった。私は帝国は潰すべきと考えていたので、これは当たり前のことだ。
しばらく悩んでいると、先日秘密裏に連絡がなされたことを思い出した。
以前、国王が子爵夫人と不倫をし、子を孕ませた。夫人が出産後、子を誰かに預けて隠したと言うことがあった。その不義の子についての話だった。
不義の子は辺境伯の元に預けられ、学園に入学できるまでに成長したと秘密裏に報告されていた。国王は近々その子を引き取り、王宮に住まわせるつもりらしい。
私はふと以前国王の評判が下がったことがあったのを思い出した。国王の不倫が国民に漏れたのだ。当時の私は噂を使って評判を下げることは実績がわかりづらいため、便乗はしなかった。しかし王になるためには失政などを狙うしかないと考えていた私は、国王が案外政治感覚に優れている事に気が付き始めていた。目に見える失政がないのだ。最近は、王になり替わるには時間が限られてきたことが分かり始めており、いささか焦りも出てきた。
私は、ほくそ笑んだ。四番目の王女が見つかったことを秘密裏に得ていた私は、この情報が使えると考えた。王女が居なくなれば、王位継承権も変動がないだろうし、何より辺境伯爵は国王の友人だ、友情にひびが入れば、緊急時にも動きが鈍いだろう・・・。
王女についての極秘情報を帝国に漏らせば、帝国が工作員を動かすだろう、私はそう読んだのだ。この話は主だった貴族には周知の事実となっていたため、私が贈り物としても私が噂の元とたどり着けないだろう。
こうして、私は帝国の工作員に、不義の王女の居場所を帝国に明かしたのだった。私は王女を誘拐して、帝国で成長させて、いざという時は王国の王位継承権を主張させれば、マデレーナの動きをけん制できるできるのではないかと言う言葉も、一緒に使者には言わせた。
果たして帝国は、私の言葉通りに動き、工作員が辺境伯の領都に潜んだ。王女を誘拐する手配を整えると伝えたのだが、帝国の工作員にとっては千載一遇の好機、そして王女は不幸なことに、領都で王女は誘拐されかかった。その時は、王女の側に、一人の幼き勇者が居るだけだったらしい。
ただ問題はこの好機に工作員は二人しかいなかったということだ。二人で誘拐を成功させようと臨んだらしいのだが、幼き勇者が二人の工作員を倒してしまい、誘拐は未遂となってしまった。
私自身は実のところ誘拐などは成功しないと思っていた。また工作員が誘拐に成功したとしても、帝国に向け出国できないだろうとも思っていた。追跡されて、包囲されたのち、王女を殺したあと、自分たちも死ぬだろうとの脚本を書いていた私には、工作員が二人とも子供に倒されたことが驚きだった。その幼き勇者が生きていれば、マデレーナ王国で指折りの英雄となっていただろうと思うと、残念でならない。
ただ、王女は誘拐未遂の後、精神を病んで、寝たきりとなったようで、国王がそのことに驚いて勅命を発し、王宮へと、予想より早いが引き取られてしまった。さらには仲の良い王女の幼馴染が五人も傍につき、四六時中、目を光らせるようになり、襲撃などもしようとしても出来ようもない状態となってしまっている、もちろん誰もやらないだろうが。
第四王女は精神を病んでいるが国王に王女として認知され、王位継承権を与えられた。私は国王に対し非常に腹立たしく思った。これでは私の継承権が、繰り下がってしまう。私は現状の王女の状態を国民に流し、精神を病んだ王女など、使い道に困るのみで王女として認められない、継承権をはく奪するようにと巷に噂させたのだが、国民の大半は王女に同情しているのか、思ったほどの効果は出なかった。
私のやり方は間違っていたようだ。少々遠回りになるが、精神を病んでいる者を王女の地位に据えた国王の横暴さを国内外に流し、国王の評判を下げることにしよう。さらに精神的に弱い王女の傍に誰かを置けば、いざという時に王女を操って色々できそうだ・・・。
黒幕その一と黒幕その二は別の人物です。
王女様はまだ自分の立場に思い当っていないのでしょう。だってまだ子供ですしね。
知ってたら、いつかやり返す!と、フンスと鼻息荒く息まくことでしょう。黙ってれば可愛い子なのですが。