2部 スペルブースト 編 7章 魔法のデバッグ 2話
そして翌日、午後1時25分頃に多香子と野間君が下宿にやって来た。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
多香子はささっと玄関に上がり靴を揃えた一方で、野間君は少し緊張している。まあ仕方無いと思う、ここは女子専用の下宿なのだから。
「野間君も中に入って、華英さんには許可貰って居るから」
すると、華英さんが台所から顔を出した。
「まあまあいらっしゃい、貴方達が浩子ちゃんのお友達ね、話しは聞いているわ、中に入って、浩子ちゃん、後で飲み物を持っていくね」
「あ、はい、分かりました」
「では、お邪魔します」
野間君も玄関に上がり靴を揃えた。
「ここが私の部屋ね、ちょっと散らかっているけど」
「分かった」
私の住んでいる下宿は1階は食堂や台所、お風呂など設備と大家さんで在る華英さんの部屋が有り、私達下宿人の部屋は2階に合計6部屋在る。その内1部屋は今倉庫になっていて、残り1部屋は空きになっている。
「お邪魔しまーす」
その内の1部屋が私の部屋で、その部屋に招き入れた。多香子は私の部屋へ物怖じせずに入っていったが野間君は緊張している様に見える。
「うわー」「うわー」
そして2人はうめき声を上げた。
「どうしたの?」
「前来たときはこんなの無かったよね?どうしたの?それにどう見ても女の子部屋じゃないよ」
多香子は部屋を見回しながらぽつりと言う。
「そんな事ないよ、可愛い物も沢山有るでしょ?」
私はベッドの横に並んでいる縫いぐるみを見せた。
「違うわよ、こっち」
多香子が指を指す方向の先に有るのは、タワー型でさえ私にとっては不十分な事から腰迄の高さが有るPCラックに組んだサーバー型のパソコンを指した。
「ああそれね、前はまだ再セットアップが済んでなかったの、やっと先週セットアップが済んだの」
サーバーPCからは外部の記憶装置や端末に繋げる為のコードが縦横無尽に伸びていてそこからディスプレイが3台繋がっている。
「どうなってんだ、このパソコン」
野間君がパソコンを覗き込んでいる。
「それ?CPU6個付けてハードディスク4台付けてるだけよ?」
「それ、普通のパソコンではそんな事しないから」
「えぇ?で、でもこれくらいないとデジタル魔法のプログラム作成とか出来ないでしょ?」
私は正直驚いている。これが普通だと思っていたからだけど。野間君はまだ私のパソコンを覗き込んでいる。
「ゲームでもここまでのパソコンは使わないね」
「浩子が自分でデジタル魔法のプログラムを作ったって言ってたの、分かった気がしたわ」
「多香子まで・・・」
そんなにこのパソコンがおかしいのか?そんな時にドアをノックする音が聞こえた。
「浩子ちゃん、入るわよ?」
「あっはい」
華英さんが麦茶の入ったピッチャーとグラス3個、それとチョコレート菓子の乗った盆を持ってきてくれた。
「何の話し?」
華英さんが私に尋ねた。
「私の部屋のパソコンがおかしいって、女子の部屋には合わないっていうの」
「あのコンピューターね、浩子ちゃん前までずっとそれ1人で作っていたのよ?凄いよねー、私あんまり機械の事詳しくないんだけどなんて言うの?ほら、コンピューターのプログラム作る人の事?」
「プログラマーですか?」
「そうそう、プログラマーみたいで格好いいじゃない、機械の事分かる人って素敵よ」
華英さんは部屋の中央に有る1人用の小さな座卓にお盆を置いた。
「でもディスプレイ3台はやり過ぎでしょ」
多香子が華英さんに言った。
「でもこれくらい有った方がいろんな事が出来て良いじゃない、それに出来る女は少なくとも男よりも良いのを持ってる物よ」
多香子は何となく華英さんに論破された様な感じだった。
「まあ、初めて見たよこんなパソコン、所でこれ何?」
野間君はパソコンの1部を指した。
「それはLTOよ」
「LTOって何だ」
「LTO-9って磁気テープよ、私の作った魔法のプログラム量が多くて入りきらなかったからバックアップに取ってあるの」
華英さんも私の話を聞いている。
「もしかしてこれか」
野間君は机の横に有る本棚から四角い箱を手に取った。
「そう、それ」
私は野間君から箱受け取るとケースを外しドライブにLTOを入れた。
「ちょっと待ってね」
私はまだC言語のプログラムを起動させてLTOのデータを呼び出した。
ジーガチャン、ジーガチャンと音を鳴らしながらデータを呼び出していくと同時に画面にものすごい勢いで文字が下から上に流れていく。
「うわー」
野間君は思わず悲鳴を上げた。華英さんは「これは何のデータ」って聞いてきた。
「これはナイチンゲールAと言って治癒魔法のデータです。大体5Tb 位かな」
「5Tbってどれ位?」
訪ねる華英さんにDVDを見せて説明する。
「このDVDの・・・まあ1100枚分のデータかな」
難しい事はなかなかちゃんと説明が出来ないから大雑把な数字を出した、でも大方間違っていない。
「それって何だかどれ位?」
「うーん、1Mb で便箋およそ600枚だから・・・その・・・」
手近に有ったメモに“0”を並べていく。その数12個、そこから便箋1枚を400文字として出すと・・・さらに“0”を4つ書き足して16個並んだ。
「わー」
華英さんは驚きの余り身を退いた。それを見ていた野間君は口を開いた。
「これだけのデーター量でバグとか大丈夫なのか?」
「うーん、今の所バグは出てないけど今、デバッグソフトを作っている所なの、もう少しで完成するわ」
「デバッグのソフト、そんな物まで作ってるのか」
華英さんは少し後ずさりして身を返した。
「私には無理だわー、それより美味しい晩ご飯作らなくっちゃ」
華英さんは部屋を出て行った。
「そうよ、作りかけだけどこのソフト使えばデバッグが出来るから」
私はそう言いながら私のDMOS端末をパソコンに接続した。
3台有るディスプレイの1台にDMOS端末から抽出した魔法のプログラムと多香子から貰ったときに直ぐバックアップして置いたプログラムと比較する。
「これが最初貰ったときのプログラム。これと変異してなければ感染していない可能性が高いのだけど、最初からウイルスに感染していた場合は1つ1つ順番に調べる事になるわ」
私はENTERキーを押す。すると2つのディスプレイにプログラムが下から上に流れ、3台目のディスプレイの画面が真っ黒のままになっている。
「どうなの?」
多香子が訪ねる。
「多分、大丈夫だと思う。試しにちょっとやってみる」
私は、DMOX端末側に入っていたプログラムにあえて一文を追加して再度、デバッグプログラムを実行する。
すると、途中追加した一文以降のプログラムがエラーとして検出された。
「うん、大丈夫よ、ちゃんと機能してる」
「へー、凄いな」
野間君が驚いている。私は追加した一文を削除してプログラムをもう一度実行して。エラーが消えている事を確認した。
「そのデバッグプログラム貰えるか」
「いいよ、ちょっと待ってね」
USBメモリーにプログラムをコピーして野間君に渡した。
「その中にEXEファイルが有るから、パソコンにインストールしてから実行して」
「分かった、やってみるよ」
「私も自分でやってみるわよ」
「ちょっと待って、使い方を説明するから、野間君も良い?」
私はデバッグソフトの使い方を説明した。その例で多香子の持っていたデジタル魔法のプログラムのデバッグをした。
「なるほど、こうやって使うのね」
「そう、こうやって・・・と、あれ?」
3つ目のプログラムのデバッグをすると、エラーを検知した。
「浩子、このエラーが出たけど」
「ちょっと待って」
出てきたエラーのプログラムの解析を始める。
「多香子、このプログラムを実行した事は有った?」
「いや、無いけど」
改変されているプログラム部分だけを別のファイルに写し取っていく。
「なんでコピペしないんだ?」
「いちいち、マウスカーソルでコピペするより、文字入力でコピペしていく方が早いのよ」
「それにしても、早いな」
キーボードを叩くスピードに驚く野間君
「このファイルはウイルスに感染しているよ。まだどんなウイルスか分からへんけど」
「ウイルス?」
「うん、ウイルスの性質は後で調べておくけど、とにかく、ウイルスを駆除して置くけど他のエラーが無くても使うのは注意して」
「今コピーしたのがウイルスって事か?」
「ええ、今度はこのウイルスのプログラムで検索かければ元から感染しているプログラムを探す事が出来るようになるわ、ここから変異したウイルスを探す事が出来るしね、それに今回は直接駆除したけど、ワクチンプログラムを作る必要もあるし」
「それでどんなウイルス?」
野間君が訪ねる。
「まだどんなウイルスなのかは分からへんね、ただ、この前みたいなウイルスでは無いと思う」
「と言うと、どう言うウイルス?」
「このデーター量だと、使用者を監視するプログラムの様ね」
「監視?」
野間君が訪ねる。
「元々、デジタル魔法はキングローズ社に使用者や状況を監視しているのよ」
「え!?そうなの?」
「なんでそんな事知ってるんだ?」
多香子が驚き、野間君が私に尋ねる。
「デジタル魔法のプログラムを解析すればそんな事分かるじゃない」
「なんで?」
当然と言わんばかりに私は言うと多香子は不思議そうに、そして驚きと不安げに聞い手来る。そして野間君も「監視ってどういう事?」と訪ねてきた。
「まず、魔法を使えるようになるにはキングローズ社のサーバーにDNA登録が必要でしょ?」
「ああ、そうだな」
「もしかして、その時点で監視されてるって事」
「そうよ、使用者のDNA情報を読み取ってるの、そして魔法の発動時にキングローズ社からデーターをダウンロードしているの」
「ダウンロードって既に魔法のデーターは俺等の端末に入っているだろ?」
「それは、個別プログラムって言うか個々のプログラムの事ね、それだけでは魔法は発動せえへんよ、魔法を使う度に主軸になるプログラムをダウンロードしてるのよ」
「主軸のプログラム?」
「そう、多分この部分」
私はナイチンゲールAのプログラムを呼び出し、基幹プログラム部分を呼び出した。
「これが主軸のプログラム?」
多香子はもはや別の世界を見ている様な目でディスプレイを見ている。
「このデーター量って一体どれ位有るんだ?」
「大体3Tbくらいかな」
「3Tbも、それで全体のデーター量は?」
「これは5Tbくらいね、私が作った中では2番目に少ない方よ」
「それで、なんで主軸プログラムが有るんだ?」
「探しているうちに見付けて自分で解析して使いやすい様にいじったの、それでわかったのが、このプログラムが有れば後はどんな物でも後からくっつければ良いって事、だから私が作ったデジタル魔法はこの部分はそのままにして後から付け足して使ってる。例えばこんな風に・・・」
私は作りかけのプログラムを呼び出し実行した。すると、私の右人差し指が光り出した。
「こんな感じかな」
「へえー」
「でもそんなデーターがネットに落ちてる物なの」
「最近は見ないわね、私が見付けたときも3時間位探したら有ったのよね」
「何処で見付けたんだ?」
「えっと、どっかの企業のサイトだっと思うけど小6の時だったからあんまりちゃんと覚えてへんね」
「企業ってキングローズ社だったんじゃ・・・それじゃハッキング?」
「さあ・・・、でもそれだと掴まるよね?掴まってないから多分大丈夫だったんだと思う」
なにげに怯え気味な野間君だったが、意を決した様に声を出した。
「岡本」
「はい?」
「そのデータ、俺にくれ」
「良いけど、多分使えないよ」
「なんでだ?何が問題なんだ」
「だって、このデーターは本来使わなくても良いのよ、キングローズ社から使う度にダウンロードするんだから、それをしないと言う事は、ダウンロードしなくていいように個々のデジタル魔法のデーターを作り替えないといけないし、魔法発動時に主軸のデーターも計算しないといけないから時間掛かるし、試しに使ってみる?」
「ああ、使ってみる」
パソコンから野間君のスマホにはデーター量が多すぎて入らない為、DMOS端末にコピーした。
「出来たわ」
「じゃあ早速やってみる」
野間君が魔法を発動させた。が、なかなか発動しない。
「浩子、そう言えばさっきの、魔法陣が出なかったね」
「うん、主軸のプログラムを使うと魔法陣が出ないのよ」
「そうなんだ。それにしても野間君?」
「ちょっと黙って」
既に実行してから10秒以上の時間が経っているが未だに発動していない。
「ううっ」
うなり声を上げてようやく右指に光を点させた。発動までおよそ35秒、やっと発動した魔法を野間君自身が見て魔法を解いた。
「確かに俺には無理だわ、岡本みたいに直ぐにできない」
「ちょっと私もやってみる」
多香子も同じ魔法をやってみたが30秒程掛かって発動した。
「よく浩子はこんなの直ぐに発動できるわね」
「多分、魔法のデーターの中身をよく分かっているからだと思う」
「それでもそんな数秒で発動出来るなんて、これが他の魔法だったらもっと時間が掛かるんじゃ無いの?」
「多分、さっきので10Gb程度だから通常の魔法だったらもっと時間が掛かると思う」
「そうよねー、私にもこれは無理」
多香子も音を上げた。
「じゃあ、ちょっとデバッグは浩子に任せようかしら」
「良いわよ、元々そのつもりだったし、明日から追試だから時間有るから出来るしね」
「俺は少し自分でやってみるよ、勉強になるし、貰ったあのプログラムでもうちょっとやってみたいし」
「分かったわ、じゃあ後は任せて」
私は胸を張って見せた。
LTOとは磁気テープの事です。
昔のル○ンのテレビスペシャルではよく出て来てましたね。
磁気テープは現在でも大量の記録が可能で読み書き速度が遅いと言う欠点を除けば今でも使われている記憶媒体です。
恐らく10年後(作中の時代)もこの健在です(多分)




