第四節.術式 後編
「どう、なんか変わった感じしない?」
「そうですね。背中全体に何か張り付いているような、ムズ痒い感覚がします。」
「そしたら、そこに魔力を流してみて。」
『多分できるから』と付け足し、御門さんは笑顔で俺の背中に指さす。
「やってみます。」
意識を、内側から背中へ向ける。全身を満たす熱を背中の異物に移すと共に段々と、身体が軽くなっていく。異物の熱を満たす寸前――何かが弾けた。
「えっ」
心臓の鼓動、身体を巡る血液、異物を満たしていく熱の全てが等しく加速している。背中の何かが熱を喰らって膨れ上がる。視界が、遅れる。
「楓、魔力切って!」
「え、待っ――」
一歩踏み出したと理解した時には、眼前の巨木を薙ぎ倒し、それと同時に意識を手放した。
◇
全身の痛みと共に目が覚める。目の前にあった巨木は自身の隣に横たわっている。
「え、なにこれ……」
「楓!大丈夫!?」
どうやら、気を失ったのは一瞬だけだったらしい。自分の身に何があったのかが思い出せない。背中の異物に熱を流した直後の記憶が曖昧だ。
「……楓、」
「御門さん、何が起きたんですか。」
「楓は、いきなり加速してあの木に激突したんだ。怪我、無いの?」
「痛みはありますけど、怪我は無さそうです。」
魔力強化が成功したのか、本当に怪我がない。
「怪我が無いのは良かったよ、でもやっぱり最初から加速は難しかったかな。」
「加速?遅くすることもできるんですか。」
「うん、変速は物体の速度操作。早くすることも、遅くすることもできるよ。一速が減速、二速から十速が加速だ。まずは、減速から始めて術式の制御を覚えようか。」
◇
慣れないベッドの上で赤城 晃一は目を開ける。時計は午前十一時を指している。昨日の疲れからか、遅い時間に起きてしまった。
昨日の夜は、控えめに言って地獄だった。溢れる霊獣と、三輪 葵の負傷が重なったことで苦戦を強いられた。この街に来てから討伐した霊獣は三十六体。特等に上がって二年だが、准特務へ昇格するのはほぼ確実と言って良いだろう。それも、生き延びればの話だが。
一旦三輪は三日ほど休養を取ってもらい、その間俺一人で霊獣を狩らなければならない。いや、御門が居るが頼りないため、情報共有以外であまり関わらないようにしているが、この際なりふり構っていられない。
「……今夜、様子を見に行くか。」
最重要は事件の解決。しかし、最優先事項は一般人へ被害を最小限にすること、魔術の秘匿だ。
――本当に、謎の方が多い事件だ。
わかっているのは半年以上前から霊獣の異常増殖と、それがこの霞坂市のみに限定されているということだけ。
それ以外は何も掴めていない。偶発的なものなのか、それとも人為的なものなのかすら分からない。
霊獣は人為的に生成することはできる。だが、その行為に意味は無い。霊獣の生成には、生物の魂を消費する必要があり、それに生成した霊獣に殺される危険すらあるのだ。
「つくづく、意味のわからない事件だ。」
――連続少年少女失踪事件――
この街に来る前に、一通り調べた資料の中にあったものだ。そして、霊獣は失踪事件が表面化してきた二ヶ月後から現れ始めている。無関係とは思えないが、動機が見えない。
こんな時に限ってなぜ、特等の俺と高等の三輪の二人しか派遣されないんだ。特務か准特務くらい寄越して欲しいものだ。公安の慢性的な人手不足に頭を抱えながら思考を続ける。
分からないのは、動機だ。
見えない答えを考えても無駄だ。公安に増援を要請し、夜に備えてもう一度眠りにつく。
意識は沈んでいき、途切れた思考は闇へと消えていく。僅かな疑念を残して。
こちらの作品は、現在公開されている
『【通常版】アカシックテイル〜正義と魔術が交錯する現代魔導戦記〜』のエピソードを分割して公開している作品です。
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