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第十二節.反撃の狼煙 前編

「王サマ、来てくれたんだ。」


 霞坂市西区の端にある、冷たい潮風が容赦なく吹きつける廃工場の屋根。月明かりが、二つの影を映し出している。


「あぁ、公安の増援が向かってきている。凖特務二名、特等が三名だ。合流される前に、撤退をと思ったのだが」


 王と呼ばれた黒い影は、静かに辺りを見つめる。


「……久遠は、どうした。」


「ここに、残るって。まだ見たいものがあるとかなんとか。」


 一拍置いて、対面する女は答える。


「そうか、そしたらもういくぞ。久遠は、生きていれば、監獄破りで回収する。」


「……うん。」


 屋根に映る二つの影は、潮風と共に散っていく。



「……また、だ。」


 守れなかった、失敗した。あの時の誓いは、決意はなんだったのか。今度こそは、目の前で誰も死なせないようにと、大切な人を守れるようにと習得した力。この力が、あったのにも関わらずまた失敗した。

 激しい自己嫌悪と、守れなかったことへの後悔。そして、小泉を避け続けた過去への懺悔。背負いきれないほど重い感情が、のしかかる。


「素晴らしいだろ、東雲くん!見てくれ、特にこのボディ!」


「東雲くん、あまり自分を責めないで。」


 そんなこと、できるわけがないだろう。まだ、伝えられてない言葉が、やりたかったことが残っていんだ。なのに、全部壊れた。

 

 目線は、久遠織へ。


「そんなに、睨むなよ。」


「――す。」


 枯れ果てた声帯を引き絞り、掠れた声を溢す。


「絶対に、ぶち殺してやる。」


 背負いきれない感情を、怨嗟の炎へ。


「……変、そく。」


 バコンと鈍い金属音が部屋に響く。何度も、何度も、下がっては鎖が伸び切るまで踏み込む動作を繰り返す。

 腕が限界を迎えるか、鎖が引きちぎれるか、どちらであろうと関係ない。目の前の、敵を殺し自分も死ぬ。空っぽの器に、熱いスープを満たすように全身を今までよりも多くの魔力で満たしていく。


「東雲楓くんさあ、もう諦めなよ。君たちの、()()なんだからさあ。」


 この男から、薄ら笑いを引き剥がす。絶対に、許さない。


「よく考えなよ、この状況を作ったのも君のせいだよ。」


「東雲くん、聞いちゃダメ!」


「あの時、君がもっと速く動けてたならこんな状況にはなっていなかったよね。少なくとも、小泉くんだけでも助けられたはずだよ。」


 うるさい。

 もう聞きたくない。そんなことは、俺が一番よくわかってるんだよ。


「現実から目を逸らすなよ。精神と力の釣り合いが取れていないからこうなるんだ。力は、それに見合った精神を持っていないと意味がない。君はの()()確かに優秀だ。でも、君の精神は未熟すぎたんだ。だから見誤った。」


「絶対に、ぶっ殺す!」


 一際大きく、鈍い音が空気を揺らす。縛りから放たれた豹は、憎悪を握り眼前の久遠織(えもの)へと飛びかかる。それよりも速く、久遠織は自身の造り出した小泉颯(さいこうけっさく)に指示を出す。


――殺せ、と。


 勝負は、一撃でついた。小泉の圧倒的なまでの膂力による裏拳が、俺のこめかみに直撃し体は大きく宙を舞う。


「東雲くん!」


「……うっ……ぁ、あう……」


 意識は、まだある。衝撃で、思考が安定しない。立ちあがろうにも、全身に力が入らずに情けなく地面にひれ伏すままだ。


「……こんな、ところで。」


 無様な俺を見下ろす小泉。その瞳に光はなく、ただただ機械的だった。頭部から伝う血の感覚だけが、自分が()()生きているという実感を俺に与える。


「か、ぇで。」


 刹那、確かに聞こえた小泉の声。それを理解する時間すら与えない、容赦ない一撃が振り下ろされ俺の意識は再び機能停止した。



「東雲くん!」


 目の前で、繰り広げられる光景にただただ圧倒されていた。

 何もできず眺めることしかできない自分。何のために、戦うのか、何のために執行官として今まで戦ってきたのかわからなくなった。


「……いくぞ、小泉。」


 久遠織の後を追うように、小泉くんは去っていく。

 蝶番(ちょうつがい)が鳴らす甲高い金属音と共に、扉の閉まる鈍い音が部屋に響く。


「……私が、やらなくちゃ。術式、起動。」


 術式、感覚拡張。

 それは、自身の視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感だけじゃなく自身の直感、そして魔力探知を強化する術式。魔力を込める量に比例して感覚は強化される。しかし、強化される毎に脳への負担も大きくなっていき程度によっては深刻な後遺症や、最悪死亡してしまうこともある。


「でも、強化する感覚を絞れば。」


 強化する感覚を視覚と直感に限定する。空間の歪み、暗い空間にある情報を余すことなくインプットしていく。


「……見つけた。」


 ラストピース。それは、鎖の脆弱性と先刻小泉くんの体から分離した外殻の破片であった。

 自分の目の前で横たわっている東雲くんのすぐそばに落ちている破片。それを、なんとか足で引き寄せ握りしめる。自身のありったけの魔力をこめ、同時に見つけた鎖の脆い部分へと思いっきりぶつける。

 それを、二度三度繰り返すとようやく左手の拘束具が外れた。


「後は、右手。」


 先ほど左手の拘束具を破壊した時と同じように、拘束具を破壊する。破壊したと同時に、外殻の破片はポロポロと朽ち果てるように手から崩れていった。


「外れた。」


 ようやく自由になり、立ち上がるり横たわっている東雲くんへと歩み寄った。意識はないが、ちゃんとまだ生きていた。幸い、気を失っているだけだった。頭の傷を、治癒魔術で治し体を揺さぶる。


「東雲くん!起きて!」


 何度か体を揺さぶると、東雲くんは目を覚ました。


「三輪さん?」


「行くよ。」


「どこに」


「決まっているでしょう。」


 ――みんなを救いに。

こちらの作品は、現在公開されている

『【通常版】アカシックテイル〜正義と魔術が交錯する現代魔導戦記〜』のエピソードを分割して公開している作品です。


【通常版】も一緒に、よろしくお願いします!

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