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第九節.誤算

「小泉!」


 今まで呼ぶことの出来なかった、直視することの出来なかった顔が、鮮明に脳裏に浮かんでいく。

 霊獣が小泉へ到達する刹那。それを凌駕する速度で、想定した最悪を踏破する。


「!?楓、なんで。てか、えっ……何だよあれ。」


 焦りから、思わず加速を発動してしまった。しかし、初めて発動した時とは違い完璧ではないが制御はできている。減速を中心に特訓してきた甲斐があった。


 小泉を抱え、獣の到達予想地点から離脱する。霊獣から少し距離のあるところに小泉を避難させ短剣を構える。

 確認できる霊獣は一体のみ、やれる。


「説明は後だ、今は逃げろ……」

 

 小泉の返答は無い。


「東雲くん、うし――」


 三輪さんが言い切るよりも速く、視界の先――影が膨らむ。

 足元から、這い上がるように三輪さんを包んでいく。一瞬。本当に一瞬だけ、目が合った気がした。


「え――」


 巨大な影が、三輪さんを呑み込んだ。思考がフリーズする。三輪さんの足元から広がっていった影は何事も無かったかのように消えていく。

 影が消えても、三輪さんは戻ってこなかった。状況が整理できない。


 小泉を襲おうとした霊獣。それを防ごうと駆け出した俺。振り返ると、影に呑まれる三輪さん。


 今は、三輪さんを信じ目の前の霊獣を倒すしかない。俺一人で。


「あーあー、困るんだよねぇ。そういうの、私は計画が狂うのが、すこぶる嫌いなんだよ。わかるかい、東雲楓くん。」


 背後から突き刺さるように感じる、明確な殺意。後ろには、小泉が居た筈だ。


 振り返っても、いない。

 さっきまでそこに居たはずの姿が、跡形もなく消えていた。


「は、」


 空間を埋めるかのように、白衣に身を包む長髪の青年が立っている。


「あ、小泉くんだっけ。彼、非常に良いサンプルになりそうだから貰ったよ。」


 サンプル、まさか……霊獣にされる?小泉が。

 白衣の男は黙って近づいてくる。それに、合わせるようにもう一度短剣を構える。


「あ、それと君。後ろには気をつけた方がいいよ。」


「――っ!?」


 後ろを振り返る。そこには何もいない。先程まで確かにいた霊獣は完全に姿を消していた。


「は、なん――」


「だから言っただろう。後ろには気をつけろ、とね。」


 影は、静かに俺を包んでいった。



「御門、俺たちは見誤っていた……」


「みたいだね、まさかここまでとは……」


 展開した亜界の中、魔術師二人は思考している。眼前には三体の霊獣。それも、今まで見た中でもかなりの別格の。二足歩行型、身長は約三メートル程。

 攻撃は、その巨躯からは想像もできないスピードで繰り出される。剣状に歪められた両腕。とてつもない膂力。


「これは、俺達が対応していい案件ではない。准特務、いや特務案件だ……。しかも、注意すべきは霊獣じゃあない。」


「問題は今まで、触れることすらなかったどのように霊獣を放っているのか、だ。霊獣は基本的に近くに人間がいればそいつを襲う。」


 複数の霊獣を同時に相手にしながらも、赤城の放つ言葉は止まらない。目に見える焦りとは裏腹に、彼の言葉はどこか落ち着いていて、淡々としていた。


「そんなモノを、どうやって街に放っていた。答えは単純だ。」


「転送、またはそれに準じる魔導具の使用。もっと言えば、敵はカグヤレプリカを所有している可能性がある。」


 カグヤ、それは約2500年以上前に開発されたとされる魔導具。術式効果は、あらゆる物の格納。そして転送。


 現在、カグヤオリジナルと呼ばれる物は現存していない。その代わり、カグヤオリジナルの複製品カグヤレプリカが存在する。それは、世界に六つ存在する第一世代の複製品。第一世代のカグヤレプリカはオリジナルの性能と遜色の無いものとなっている。


 そして、カグヤレプリカの転送機能を消去したモデル、カグヤレプリカG2。それを元に量産を可能にしたモデル、現在公安の共通装備となったカグヤレプリカG3が存在する。


「カグヤ、レプリカ……ねぇ。そんなもの、持ってるわけ――」


 御門の視界の端。霊獣と赤城が交戦しているその影。ひっそりと佇む異質な魔力を、審判の魔眼は完璧に捉えていた。

 しかし、脳がその情報を処理する前に術式が展開される。


「持ってるんだなーそれが!残念でした!全部は私たちの掌の上!術式は発動済み、ここ一体の魔術師を転送する。」


「まじかよ」


 白衣に身を包んだ金髪ショートボブの女。彼女の手に持っている魔導具、それは紛うことなきカグヤレプリカである。ニヒルな笑みを浮かべる彼女の下、空間一帯に大規模な影が展開される。


「光矢!!」


 光の矢は彼女に到達しない。カグヤの術式が発動し影の中にいる全てのものを容赦なく呑みこんでいく。


「御門、すまない……これは我々の誤算だった。恐らく、三輪も東雲ももう……」


「……大丈夫、魔術師だもん。失うことは慣れている。」


「そうか、すまない……」


 影は、静かに広がっていく。逃げ場を与えないように、確実に、ゆっくりと。

 抗おうとする意思すら、踏み潰すように。

こちらの作品は、現在公開されている

『【通常版】アカシックテイル〜正義と魔術が交錯する現代魔導戦記〜』のエピソードを分割して公開している作品です。


【通常版】も一緒に、よろしくお願いします!

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