プロローグ
淡く煌めく月明かりの下。
人の気配などあるはずのない廃ビルの屋上に、二つの影が立っていた。
黒いコートに身を包む長身の青年。
そして、夜風に長い髪を揺らす一人の女。
「公安から派遣された執行官、赤城晃一だ。お前が申請者の御門玲奈で間違いないな」
「うん、来てくれてありがとう。」
簡潔で、温度のない確認。
それに対して、あまりにも軽い返答。
そのやり取りは、この街の異常さとはあまりにも噛み合っていなかった。
――申請日:2020年1月11日
――申請者:御門玲奈
申請内容。
霞坂市全域にて、半年前より発生している霊獣の異常増殖。 その真相解明、及び霊獣の駆逐のため一時的協力を要請。
本来、この種の申請が即時に受理されることはない。 複数段階の審査と検証を経て、ようやく派遣が決定される。
だが今回、それらはほとんど省略された。
それが意味することは、一つ。
――それだけ、この案件は異常だということだ。
「まさか、申請から一ヶ月足らずで来てくれるだなんて思っていなかったよ」
「この件は、我々としても見過ごすことはできない。だからこそ、この件は早期に潰す必要がある。御門、お前にも引き続き協力してもらう。」
有無を言わせない口調だった。
「今回派遣された執行官は、俺を含めて二名。……余裕のある数じゃない。増援は当てにするな。この規模で動ける人員は限られている。」
「そう、わかった。で、そのもう一人は――」
御門の話を遮るかのように、勢いよく屋上の扉が開かれた。そこにたっていたのは、赤城と同じ黒いコートを羽織っている少女だ。茶髪のショートヘアを揺らし、息をあげている。
「三輪葵高等執行官、です!遅れてしまいました!申し訳ありません!」
勢いよく頭を下げる。
その動きは真面目そのものだったが、どこか空回っているようにも見える。
「声がでかい。それとお前は遅刻しすぎだ……これが派遣されたもう一人の執行官だ。」
「あなたが御門玲奈さんですか!?よろしくお願いします!」
一歩、ぐっと距離を詰める。
「よろしく、葵ちゃん」
間髪入れずに返す御門に、三輪はぱっと顔を明るくした。その反応は、場の空気を一瞬で塗り替えるほどに軽かった。
「我々はこれから二週間ほど調査の時間を頂く。二週間後の22:00に調査内容を共有したい。」
「わかった、いいよ。場所はこのビルでいいかな。」
そう言って踵を返す。
「えっ、もう行くんですか!? もうちょっとお話――」
「黙れ。遅刻したお前が悪い」
取りつく島もない一言。
三輪は不満げに頬を膨らませながらも、小走りで赤城の後を追った。誰もいない静かな屋上でただ一人。心を空にするように、御門玲奈は星空を眺めている。
――夜風は、微かに熱を帯びていた。
こちらの作品は、現在公開されている
『【通常版】アカシックテイル〜正義と魔術が交錯する現代魔導戦記〜』のエピソードを分割して公開している作品です。
【通常版】も一緒に、よろしくお願いします!




