第十二話 ある厨二病患者の暗躍
"俺"は学校が嫌いだ。有象無象の些細な事で馬鹿騒ぎする連中と肩を並べて50分耐えなきゃ行けないと思うと現実というものの理不尽さに怒りが収まらなくなる。昼休みになったらなったで、銘々友人たちと昨日のテレビが面白かっただの化粧品の新作が出ただのくだらない話に盛り上がる。聞き苦しい話から逃れるように安息地に行き朝コンビニで買ったおにぎりに貪りつく。具は梅干し一択、異論は認めない。
全く本当に───女子中学生というものはくだらない。俺こと、西川悠は毎日それを考える。
「それでさー」
物思いにふけていると俺のオアシスに招かれざる客が来る。俺は顔を顰めつつも大人はこういう時落ち着くものだと、過度に騒ぐ事なく彼女たちが去るのを待つ。
「"え?オウジョなのにパン2つも食べんの?"じゃないわよ!せっかくの合コンだったし2個でも我慢した方よっ!」
「男子って女子校の女の子に変な妄想持ってるよねー」
「何が"黄苑おうえん女子学園の女の子はトイレも行かないし、運動して汗かいた後でもいい匂いがしそう"よ。トイレなんかバリバリ行くし、汗かいたら自分でも引くぐらい臭いわよ!」
「やっぱあそこの男子だめだねー。そう言えば、ミキが紫高のサッカー部との合コン取り付けたんだって」
「え!?もしかして遠藤先輩!?ちょ、ちょっと詳しく聞かせてよ!」
「いいけどご飯食べながらねー」
そんなやり取りが聞こえて、やがて入口のドアが閉まる音が響く。はぁっとため息をつくと食事を再開する。
「何が合コンだ‥くだらない」
わざわざ男子が居ない女子学園に入ったというのに、男子との交流を求める女子どもの矛盾に目も当てられない。別に誘われたことが無いのを羨んでるわけでは無い。ただ、ほら、なんだ、人生経験として参加してみてもいいんじゃないかと思わなくは無いことも無くはないとは思わない。俺のSNS知識を持ってしたら相手の趣味嗜好は勿論、これまでの人生で何があったかありとあらゆる情報を手に入れられる。あとはそれを披露したら簡単に男子は俺に惚れるに決まっている。『君が5年前の8月13日午後1時16分48秒に食べていたボリボリ君タピオカミルクティー味だが、俺も2年前の7月29日午前10時34分12秒に食べたんだ。俺たち気が合うな』ってね。
いつかの予行練習をしつつ、俺はスマホゲームを起動する。フレンドリストの1人がログインしているのに気付きチャットを打つ。
Luca:やあ、ツー。
すぐに返事が来なかったためバックグラウンドで喋ったーなどを見てると通知音が鳴る。俺のフレンドリストはスクロールの必要なくたった1人分の名前しか書いてないから、相手は決まっている。
Tsumaki:やほ、ルカ。珍しいねこんな時間に。
ネ友である彼からのメッセージにニヤけそうになる口を必死に堪え返事を打つ。
Luca:珍しいなら君もだろう。今は平日の正午過ぎ、ツーのような忙しい人間がゲームで時間を浪費する無駄をするなんてな。
Tsumaki:忙しいってほど忙しくもないけど。昨日作業やりっぱなしで寝落ちしたからそれだけ終わらせたくて。
確かに昨日彼は寝落ちしていた。急にチャットが返って来なくなったから恐らくだったがやはりそうだったらしい。一定時間無操作だったため彼が強制ログアウトしてから俺も程なくしてログアウトした。大した話はしてないが、急に話が止められたためモヤモヤしたまま寝たのを覚えている。
Tsumaki:ルカも昼休みか?
Tsumaki:っと身バレ質問ダメだよね。忘れてー。
Luca:この程度で身バレも何もないだろ。ご想像通り俺も昼休みだよ。
Tsumaki:そっか、ほらルカって個人情報とかめちゃくちゃ気をつけてるだろ。
ツーの言う通り、僕は個人情報はほとんど言わなようにしている。雑談程度の内容なら普通に話すが、本名は言わずもがな年齢も性別も職業も何も彼には教えていない。恐らく彼が知っている俺の情報は、性格や趣味嗜好ぐらいだろう。もしかしたらログイン時間で学生であることぐらいは察してるかもしれないが。
勘違いして欲しくないのは、俺が別に彼を信用してないわけじゃないということだ。むしろ、今まで知り合ったネ友の中ではトップクラスに信用していると言っても過言じゃない。知り合って5年未だに会ったことはないが、親友だと思っている。単純に、単純な話、極々単純なことに俺が俺の姿を見せるのが怖いだけだ。
そんな思考はおくびにも出さず俺はチャットを打つ。
Luca:確かにその通りだが、君はこれだけの情報で俺の正体を探るつもりかい?なら、お手並み拝見だが。
Tsumaki:無茶言うなよ。そんなのできたらストーカーだ。
Luca:残念。君の特定力を測りたかったんだがな。
そりゃそうだ。5年の付き合いとはいえ、関わりはアカウント名を介したチャットだけだそれで特定しろなんて無茶が過ぎる。
俺ですらツーについて知ってることと言えば、本名が飛川真月で年齢が24歳、身長は178センチで体重は70キロ、◯◯会社の◯◯部所属でデスクは東の窓から3番目、住所は静岡県◯◯市◯◯町123-45、黒縁眼鏡に黒髪で普段は黒のスーツ、ネクタイは使用頻度が高い順に青黒ボーダー紺のベースに白ドットピンクと白のストライプ、好きな食べ物は甘いもので最近はエイトトゥエルブのシュークリームにハマっている、嫌いな食べ物はコーヒーで初めて飲んだ時はあまりの不味さにもう飲まないと決めたはずなのに何か悔しくてたまに飲んでは不味いってなるのを繰り返している。独身で彼女も居ないし親しい女性も配信関係を除けば全くと言ってもいいほどいない。
まあその程度の知識だ。特定厨を名乗るからにはさらに精進が必要だと思う毎日である。
と、予鈴が響く。次の授業は社会科か、サボりたい。
Luca:さて、そろそろ現実に戻るか。お先失礼するよ、ツー。
Tsumaki:おー。あ、そう言えばルカ。
Tsumaki:あ、やっぱいいや。
Luca:なんだい?口に出して置きながら引っ込められたら、気になって午後に支障が出るのだが。具体的には眠くなる。
Tsumaki:それ僕関係ある?いやさ、ルカを巻き込むのはって思って。
Luca:なら、話を聞いてから判断するにしよう。ほらほら早くしないと俺が遅刻してしまうぞ。
Tsumaki:わかったわかった。ルカに頼みがあるんだけどさ‥
ツーからの頼みはある意味意外で。
そして、俺は二つ返事でそれを受けるのだった。




