episode 0 chapter 2
とりあえず今あるストックは12時間ごとに投稿します。今のままなら日曜日くらいまではいけるはず。
――曇り空と風がいささか強い日。浮遊大陸番号01番【拠点:楽園の地ラディウエス】
調査を終えた俺は巨大な鳥のお姿をした神使様がよりみちせずに運んでくださったおかげで、三日という速さで【拠点:楽園の地ラディウエス】に帰還した。
ひざまづき感謝の意をささげる。ありとあらゆる世界の存在が混在する我らの世界では、いずこの世界出身の天使様や神使様とて感謝と敬愛の存在である。
鷹揚にうなづかれた神使様は、再び大陸間移動船を引いて空へと飛び立っておいきになった。まったく勤勉で頭が下がらざるを得ない。
それを見送った俺は自分の体よりもはるかに大きな背負い鞄を背負って空港から街へと歩きだした。目的地は【場所:ラディウエス102番空港側探索者ギルド】だ。
それにしても相変わらずすごい賑わいだ。ひっきりなしに空港へ天使様や神使様とともに船が舞い降り、人と荷物が絶え間なく循環していく様はいつ見ても壮観である。お師匠がよく言っていた「休日の『シブヤノスクランブルコウサテン』を思い出す」という言葉の意味は今も分からないままだが、もしその『シブヤノスクランブルコウサテン』とやらがこのように人と物が盛んに行き来している場所だったとしたら、その世界はよほど恵まれていたのだと思う。我らのこの世界にはこの【拠点:楽園の地ラディウエス】以上に人が住み栄えた場所などないのだから。
開けた大通りを歩いているのだがなぜか行き過ぎる人みんなが俺のことをおかしなものを見る目でみて、そして遠巻きにして去っていく。まぁよくあることなので気にせず大通りから細い路地に入り、先ほどとは違う大通りに出ると目的の場所の看板が見えてきた。
【場所:ラディウエス102番空港側探索者ギルド】である。
近くまでたどり着いたところで何故だかドアが中から勢いよく開き、人が文字通り飛び出してくる。どうせ誰かが中で喧嘩したんだろうと道路に大の字で倒れこんでいるやつを無視して、いつも通り喧騒と怒号が入り混じるギルド屋内に入ろうとして、入れなかった。どうやら何かが引っかかっている。首だけ振り向くと背負った鞄が大きすぎて入り口に引っかかってしまっていた。そんな俺のお茶目な姿を見た顔見知りの自称【称号:ラディウエス102番空港側探索者ギルドの看板娘】ウティスが半目でこういってきた。
「おかえり、お間抜けさん」
「失礼な、誰が間抜けだ」
「あんたよ、あんた。誰がどう見てもね。さっさと裏に回って」
そういわれた俺は仕方なくさっきの路地に引き返し、裏口の荷物搬入口からギルドに入る。
そこには既に俺に先ほど大変に失礼なことをいったウティスのやつも来ていて、俺が鞄を下すなりこう聞いてきた。
「で、それが今回の成果ね。またずいぶんと詰め込んだものね。……で、中身は?」
「塩。岩塩だ」
その俺の言葉にウティスの目の色が変わる。
「うそ!?」
そういってウティスもう俺には目もくれず鞄の中身を確かめはじめる。泥がこびりついた石のかたまりがごろごろと入っているだけにしか見えないが、胸ポケットから【装備:エルバレン式魔法具・鑑定の片メガネ】を取りだし、みて、歓喜の声をあげた。
「でかした! さすがはあの人の弟子!」
そういってウティスは俺の背中をバンバン叩く。おい、うれしいのはわかるがそんなにバンバン叩かないでくれ。お前
【種族:エルバレン人】だろう? 身長が2アイメル(約二メートル)を超える力自慢のお前に叩かれると身長がお前よりはずいぶん低い俺ではさっき正面のドアから飛び出していった奴のようにぶっ飛びそうになってしまうから。だから、やめろバカ力。
「で、規模は?」
目に力を入れ上から聞いてくるウティス。現状正直目が血走っているので赤毛の美人だが怖い。
これは下手なことは言えないな、と思い低めの予想を答えることにした。ちなみに高めならあの浮遊島の地面の下全てが岩塩で出来ているというものなのだが、実は俺はこっちだと踏んでいた。たぶん我ながら大手柄である。
「きちんと専門のチームを入れてみないとはっきりとしたことはいえない。いえないが、俺が見たところ少なくとも【領域:名称未設定】の中心部にある半径10エイラアイメル(約10キロメートル)ほどの丘一つまるごと塩のかたまりの可能性が高い」
「でかしたぁ!」
そういってひときわ力を込めて背中をぶったたかれた。当然俺は空を飛ぶ。受け身をとったからいいものの、この女いつもながら手加減を知らなさすぎる。ここのギルドの教育は教育ではなく¨狂¨育ではなかろうかとどうでもいいことを考えながら、ちょうどいいので床に座ることにした。
まぁ、これもいつものことである。
騒ぎを聞きつけたギルドの他の連中が目の前の岩塩のかたまりに群がる中、床にお師匠直伝の『サンカクズワリ』で座っている俺にさっきよりもものすごい高低差で自称【称号:102番街の一番の花】・自称【称号:ラディウエス102番空港側探索者ギルドの看板娘】がこういってきた。
「これであんた、四級昇格間違いなしよ。どうすんの? 壁の向こうに家でも貰う? それとも女? あんたの甲斐性なら6人までなら堅いし、子供株も5,6人までは許されるんじゃない? 何なら私も立候補してあげようか、旦那様?」
そんなウィンクをしながらの自称看板娘のひどい冗談に俺はいつものようにこう言った。
「そんなことよりも飯だ。俺はうまい飯を腹いっぱい食う」
あとそう口に出したらいてもたってもいられなくなって、床からとびあがって飯屋に向かおうとした俺の足は何故だか宙をきることになる。おかしい、俺は今【イセリアン式魔術:下位空中歩行】なんて使ってないのに。そうして何故か首が苦しいので上を見るとなぜだか顔を真っ赤にしてそして若干切れているウティスが俺の襟首をつかまえていた。
俺の猫じゃないという正当な抗議は、発言の機会を得る前にウティスの怒りに満ちた『このバカァ!』の一言によって発言権を失った。ついでにあまりにでかいその声はギルドの建物はおろか102番空港街全域に轟いたらしい。
体だけじゃなく声もでかいからな、自称【称号:ラディウエス102番空港側探索者ギルドの看板娘】は。あぁ、あと態度も。
まぁ、これも俺にとってはいつものことである。
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【イセリアン式魔術】について
【イセリアン式魔術】とは、【世界:イセリアン世界】にて一般的に使用されていた【技術:魔法・魔術】の総称であり、現在我らの世界においても一般的で汎用性が高いことで知られている。
元の【世界:イセリアン世界】では【種族:イセリアン人】の魔術文明が栄え、天を飛び越え宇宙までも支配するほどであったが、ある時そのあまりの文明の発展と傲慢が【世界:イセリアン世界】の管理者であった神の怒りにふれ、世界ごと捨てられ滅びた、らしい。正確な記録は残っていない。残っているはずもない。
その特徴は、【種族:イセリアン人】の血の中で生成される【力:イセリ】と呼ばれる魔力の一種を活性化させることで、体の内外に力を及ぼすことができ、身体能力の向上から発火、水生成から才能と熟練次第では重力操作に至るまで可能となり、その最大の特徴は、基本的に習得してしまえば己の意思のみで何のアクションも起こさず発動できる即効性と利便性にある。
一方、大規模かつ強大な【技術:イセリアン式魔術・上級】などに関しては魔術の発動にイセリアン人の血から精製される大量の【イセリ】を必要とする性質上、【種族:イセリアン人】としての血の濃さに左右されるため、その点では他の世界の【技術:魔法・魔術】に劣ることも多い。
また近年では【イセリアン式魔術】が一般的になるほどに諸人類種族間での混血が進んだ結果、純血の【種族:イセリアン人】が少なくなっており、純血の【種族:イセリアン人】の保護と積極的な純血の【種族:イセリアン人】の増加政策の必要性が【組織:ラディウエス諸人類種合同会議】にて叫ばれている。
【文書:探索者育成用教科書2-111】より抜粋
気が向いたら感想ください。誤字報告もできたらで。
それにしても今日は寒い。