17.宴と少しだけ近づいた距離感
第四章エピローグになります。
ついに、ダンジョンが完成した。
正確には全てのフロア、入口、表層、中層、深層、最下層に至るまでの全てのダンジョンに転移門が設置されたという意味でだが。
後はただひたすらトラップや、改良を進めるだけだ。
とりあえずは、完成と言っていいだろう。
その日の夜、最下層ダンジョンの最も深いエリア――――通称『深淵の間』―――には、眷属達や森の魔物達が大勢集まっていた。
ダンジョンの完成を祝う為だ。
宴だ。宴。
アンやぷるる、ウナ、ドス、トレスの他にも、サイのゴンゾーを始めとする動物型のゴーレム・ホムンクルス達も大勢いる。
ゴンゾーとかタマン(猫型のゴーレムホムンクルス)と久しぶりに見たな。
彼らも、ダンジョンを作るために、素材集めや、魔物の勧誘などをしてくれていたらしい。
あ、ちなみに動物型はゴンゾーがリーダーで、鳥型のメイちゃんが副リーダーらしい。
そのゴーレム達の総括をしているのはウナだ。
森の魔物達は、四長に連なる各種族の幹部クラスに、それ以外の種族の魔物達も集まっていた。
どうやら、アンがユグル大森林を完全に制圧したらしい。
ダンジョンの製作と共に、アンは森の魔物達の元を訪れ、次々とその傘下に収めて行ったようだ。
まあ、これには四長の助けもだいぶあったらしいが。
それでもとんでもない事だ。
何せ、傘下に収めた魔物の数は数万を超えるらしい。
流石に全員は来ていないが、それぞれの幹部クラスや族長は来ている。
見ればオークやゴブリン、コボルトやスライムと言った多種多様な魔物達がいた。
これだけの魔物達が“共生”出来るってのも、すごい事なんだよな。
それに加えて、ウナやドス、トレスなんかが勧誘した湿原や砂漠、雪原の魔物達もちらほらいる。
特にトレスとぷるるが勧誘した雪うさぎと雪ネズミがめっちゃ可愛い。
ぷるるを抱えているトレスの頭に二匹そろって乗ってる姿なんて最高に癒される。
らぶりーさいくろん。
癒し効果が止まらない。止められない。
ともあれ、『深淵の間』には、多くの魔物達がごった返していた。
かなり広い作りになっているのに、さながらパーティー会場のような有様だ。
はぁ……この大勢の前で、挨拶するのか……。
気が重たいなぁ。
俺そう言うの苦手なのに……。
エリベルは目線で、さっさと挨拶をしろと訴えてくる。
うわぁ……。
わかったよ。やればいいんでしょ、やれば。
俺は一段高く作られたステージに上り、皆を見る。
…………威圧感半端ない。
特に森の魔物達の視線が怖い。
今にも襲い掛かってきそうな雰囲気の奴までいる。
彼らの前に立つアンは、実に堂々としている。
その脇に控える四長も実に風格が漂っている。
これ、俺、場違いすぎない?
とりあえず、気を取り直して思念通話を発信。
『えーっと、今日皆に集まって貰ったのは他でもない。先ほど、深層エリアの転移門設置が終了し、ダンジョンを完成させることが出来た』
おぉ、とどよめきが走る。
『これからは本格的なダンジョンの防衛に移るわけだ。すでに、ユグル大森林、アッド山脈の表層第一層には冒険者達がちらほらやって来ている。とはいえ、彼らを相手にするのは、第二層以降だ』
既にユグル大森林や、アッド山脈の入口は冒険者たちに見つかっている。
まだ彼らも本格的な攻略には入っていない。
第一層を少しずつ調べているといった感じだ。
転移門を潜り、他のエリアや第二階層以降に彼らが向かうのは、まだ先になるだろう。
戦力の配置などは、エリベルがすでに決めている。
眷属や四長たちもすでに承知だ。
『明日からは更に忙しくなると思う。俺達は冒険者達から身を守る為に、更に力をつけなきゃいけない。今日はそのための宴だ。皆存分に食べて、力を養ってほしい』
一歩前に出て、俺は高らかに宣言する。
『ダンジョンと、俺達の繁栄の為に!!』
うおおおおおおおおおおおおおおおと言う、喝采が沸き起こる。
うわー、声がデカい。耳が痛い。
ついでに俺のお腹も痛い。ストレスで。
エリベルに胃薬みたいなの作って貰おうかな。
そうすれば“暴食”の効果でこの先も胃が痛くなくなるだろうし。
あ、ちなみにこのセリフ、昨日エリベルが考えてくれたものを丸暗記したものです。
鱗一枚で引き受けてくれました。
感謝。
喝采の中、『深層の間』の地面に巨大な転移陣が現れる。
地面が転移陣で眩く光る。
眷属や四長たちは、何が起こるか知っているが、他の者は警戒もあらわに身構えている。
まあ、驚くよな。
そして光が収まると、そこには大量の魔石と魔物の肉、木の実や果物が至る所に置かれていた。
更に、光は断続的に続き、肉が、木の実が、魔石が、どんどんと湧き出る様に出現していく。
その光景を魔物達は信じられないような目で見ている。
『これは今日の宴のために用意した!!』
魔石はもちろん深層で掘ったものもあるし、他のエリアでダンジョンを作る際に発見された魔石もある。
果物や木の実は、同じくエルド荒野深層の森から取れたモノ。
エリベルに調べて貰ったら、毒性はなく、魔力も栄養価も高い非常に美味な食材であることが判明した。
俺もよく食べてるし、皆も好んで食べる上、次の日にはまた、たわわに実っているのだ。
深層の森すげぇ。
魔物の肉は、アンや四長が数日前に狩った巨大な龍の肉だ。
名前もまんま、“ジャイアント・リザード”と呼ばれる王級の魔物だ。
かなりの巨体で、このフロアにいる魔物全員で食べても、十分な量だ。
どうやら、ユグル大森林に迷い込んできた龍らしく、アンと四長でこれを倒したらしい。
話を聞かされた時にはかなり驚いたが、何とか勝てたとアンは言っていた。
結構ボロボロだったが、それでもすごい。
いつの間にか、アンは王級を仕留められる程になっていた。
本当に、俺の知らない間にどんどん強くなってゆくアン達であった。
ちなみに、この肉は結構美味い。
俺も頂いてみたが、中々噛み応えのある美味い肉だ。
肉食ってるって感じがする。
ここに出されたのは既に解体を終えた肉塊だ。
魔石を始め、皮や鱗、骨や目玉などの部位はエリベルが武器や霊薬作りの為に、すでに回収している。
俺も皮を多少頂いた。
ゴ-レムの素材ゲットだぜ。
後でさっそくゴーレム造ろう。
あっといかんいかん。
皆早く食べたそうな顔してる。
ウナなんて涎垂らしているのにも気付いていないし。
『さあ、みんな!思う存分食べてくれ!』
俺の合図とともに、魔物たちは一斉に肉や魔石をむさぼり喰った。
誰もが争うように、喰い散らかしてゆく。
森の魔物の中には涙を流しながら、食べてる者もいた。
相当腹減ってたんだな。
昨日まではいがみ合ってた者同士だが、これからは共にダンジョンの防衛に励んでもらうとしよう。
主に俺の安全の為に。
ユグル大森林の魔物達は、中層ダンジョンに構築した特殊環境森エリアに配置になる。
深層の森で取れたデータを元に、俺とエリベルで作り上げた特殊環境だ。
光魔石で光源もばっちり。
三層にまたがって作られた“森”は凄まじい再現度で、一瞬ホントに森に迷い込んだかと思う程の出来栄えになった。
これなら彼らも満足してくれるだろう。
ちなみに、このダンジョン。
フロアボスと言うのは存在しない。
普通のダンジョンで言えば、アンやぷるる、巨大なゴーレム達がフロアボスに該当するんだろう。
でも、ダンジョン内は、様々な場所に監視用の魔石が仕掛けられており、エリベルの研究室から、自由に見ることが出来る。
もし強力な冒険者や魔物が来た場合には、大量のゴーレムやトラップを使って可能な限り弱体化させたところで、転移門を使ってアンを筆頭とする眷属達や森の四長を投入するという形をとる事にした。
敵戦力の弱体化は基本だ。
わざわざ、ボス用の部屋を作り、一匹で待ち構えて冒険者を待つ必要なんてあるわけない。
様式美とか言うらしいが、そんなのは冒険者達の理屈だ。
俺には関係ない。
安全重視だ。
まあ、それでもアン達が存分に戦えるような大部屋はダンジョン内に、幾つも作っておいたけどね、
ちなみに、エリベルは『えぐい事考えるわねぇ』と笑っていた。
『………さてと、俺も何か食べるかな』
挨拶なんて慣れないことしたから、お腹空いたわ。
俺は近くにあった魔石を食べる。
ぼりぼりぼり………ごくん。
あぁ、美味い。
ダンジョンの完成とともに食べる魔石は最高だ。
『アース様!』
『ん?』
魔石の味に浸っていると、アンがやってきた。
二本の剣を下げ、俺の皮で出来たマントを羽織っている。
…………毎回思うけど、そのマントはどうかと思う。
なんというか、蟻がマントを羽織るって違和感が半端ない。
最近は慣れたけど。
『……アース様、隣宜しいでしょうか?』
一定の距離を保ちながら、アンは聞いてくる。
『ああ、いいぞ』
ポンポンと、俺は手で地面をたたく。
『では、失礼します』
そう言ってアンは、畏まった態度で俺の隣に座った。
それでも、俺から少し離れて座る。
最近はこうしてアンが近づいてきても、抵抗感や嫌悪感と言ったものは殆どなくなった。
これも薬のおかげだな。
『…………素晴らしい景色ですね』
ぽつりと、アンが呟く。
『素晴らしいって、この宴がか?』
すっげー騒がしいけど。
あ、猿の長とゴンゾーが肉を奪い合ってる。
ゴンゾーのタックルが炸裂し、猿の長が吹き飛ばされた。
猿の幹部たちはそれを見て、げらげらと笑っている
トレスはぷるると、蜘蛛の長と共に何やら談笑しながら果物を食べている。
ウナは以前、表層を訪れた商人たちが置いていった積荷の酒を飲んでいる。
隣にいるのは、犬の長か。
ドスは蛇の長と共に壁に寄り掛かって、宴を眺めている。
エリベルはベルクやアンデッドと共に魔石を食べている。
……皆思い思いに、楽しんでいるように見える。
『私はキラーアントだった頃から、魔物達の“共生”は目にしてきましたが、これ程多種多様な魔物達が一堂に会する場面など、想像も出来ませんでした』
アンは感慨深そうに言う。
まあ、それは俺も思う。
エルド荒野にダンジョンを掘り始めた当初は、こんな大所帯になるだなんて考えもしなかった。
適当に魔石をつまみながら、宴を眺める。
『皆、アース様の存在があったからこそ、こうして一つにまとまることが出来たのです。これも、アース様の“御力”と言えます』
『そう言われてもなぁ……』
いまいち実感が湧かない。
実際に森を平定したのはアンだし、トラップやダンジョンの構成を考えたのはエリベルだ。
実際に俺が何かしたかと言われれば、特に思いつかない。
精々デッサン型を作って、魔力を提供した位だ。
あれ……?
もしかしなくても、俺そんなに役に立ってなくない?
いや、でも魔力が……魔力の提供だって大事な仕事の筈だ。
うん。
だが、アンは俺の動揺を察したのかどうか知らないが、不安そうな声を出した。
『アース様、一つだけ……。どうか一つだけ、私の願いを聞いて頂けないでしょうか?』
『ん、何だ?あんまり無茶なのは無理だぞ?』
少し間を開けた後、アンは決心したように口を開く。
『………どうか、私たちの前から居なくならないで下さい。アース様は、我々にとって、何よりもかけがえのない存在となっているのです。貴方様の代わりなど、どこにもいない。ですからどうか、これからも、わた……我々と共にあると、約束して頂けないでしょうか?』
何だそんな事か。
それなら、問題ない。
『居なくなるわけないだろ』
俺は迷う事無く答える。
『アン、俺の居場所は、ここ以外にはありえないよ』
誰が好き好んで外の世界なんていくか。
俺はのんびり引き籠りながら、楽して暮らしたいの。
『ここが、俺の家だ。俺の居場所は、ここだ』
俺の言葉に、アンは安心した様子だった。
『そうですね。………申し訳ありませんでした、愚かな事を言ってしまいました』
『別にいいって。気にしなくても』
そうだよ。居なくなるなんてあり得ない。
ダンジョン兼マイホーム。
此処こそが、俺の居場所だ。
『それと、アン。さっきのセリフだけどさ』
『はい?』
『“俺の代わりになるヤツなんていない”って言ってたけどさ。それは誰にだっていえる事だと思うぞ?』
『――――え?』
俺の言葉にアンは少し困惑した様な声を上げる。
『俺だって、ウナだって、ドスだって、エリベルだって、ぷるるだって、勿論アンだって、誰かが誰かの代わりになる筈なんてないだろ?』
『…………アース様』
代わりに勤まるなんてのは、会社の仕事位だ。
その人そのものの代わり何て、誰にも勤まる筈はない。
まあ、ダンジョン・マスターとか危なっかしい地位なら、いくらでも変わってもいいけどさ。
静かに生きたいし。
ぐぅぅぅ~。
あ、腹がなった。
そう言えば腹減ったな。
魔石食いたい。
向こうにまだ余ってるな。
『アン、向こうにまだ魔石が余ってるみたいだな。食べるか?』
俺はアンの方を見る。
さて、アンの返答は?
『――――はい!アース様!一緒に食べましょう!』
弾むような声が返ってきた。
もちろん俺も食べる。
まだまだ、食い足りない。
俺はアンと共に、魔石が置いてある一角へ向かった。
宴はどこまでも賑やかで、まだまだ、終わる様子を見せなかった。
第四章『二度目のダンジョン』 了
次章 第五章『貿易と防衛』編へ続く
………アースさんがまともな事言ってる。
偽物じゃないだろうか?
今後の予定については活動報告に載せておきます。
そちらにも目を通して頂けたら、幸いです。




