5.作業に向けての最終打ち合わせ
転移門を潜り、アンがいる洞窟に出る。
洞窟そのものはそれほど広くなく、転移門からすでに外の景色が見えている。
そう言えばこの転移門、エリベル以外の者の魔力には反応しない様になっているそうだ。視覚的なカモフラージュも万全らしい。
だから、二百年以上もそのままの状態になってたんだな。
ちなみに、今は設定をちょっといじって、エリベル以外の、俺とその眷属達なら魔力を込めれば転移門を発動させることが出来る様になっている。
「ここはファウード大陸の西に位置するユグル大森林よ。二百年前は、この大陸で一番デカい森だったわ。面積は、確かエルド荒野の五倍位だったかしらね」
エリベルに次いで、俺も洞窟から外に出る。
再び絶景。
この世界の自然は本当に凄い。
アマゾンみたいだ。
いや、地球の木よりもずっとデカい。
木の一本一本の太さが、地球の木の数倍はある。
それに明らかに地球とは違う草や花が生い茂っている。
「懐かしいわねぇ、この森にはよくポーションの素材集めに来てたわ。……ベルクを使って」
あ、コキ使ってたんですね
ベルクってホント苦労人だな。
アンの気配は…………向こうか。
思念通話を送る。
しばらくして風の様な速さで、アンと子蟻達がやってきた。
『あ、アース様!御出でになるのならば一言仰って頂ければ、きちんとした出迎えをしましたのに!』
肩で息をしながら、アンはひどく慌てた様子で言う。
いや、別にそんなに気ぃ使わなくていいよ。
『別にいいって。それでどうだ、この場所は?』
実際にアン達の眼で見て、この森はどうだったか?
率直な感想が聞きたかった。
『中々に良い森だと思います。魔物の強さはそれほどではないですし、今のところは人間共の集落も確認できておりません。それに、食料や原料となる薬草や木の実も豊富にあります』
子蟻達がとってきた木の実や薬草を差し出してくる。
ほうほう。それは良いな。
「あら、この赤い実は、毒消し作用のあるラップルの実じゃないの。美味しいのよねこれ」
エリベルが子蟻達の持ってきた木の実の一つを指さす。
林檎に似てるな。食えるのか。
どれどれ………はむ………むぐむぐ、ごくん。
おぉ、シャクシャクした歯ごたえで美味い。
でも魔力は含んでないか。俺にとっては嗜好品みたいなものかな。
どれ、魔力感知を発動。
………うーん、広すぎるな。
けど、効果範囲内に王級以上の魔力は感じないな。
ちらほらと強い魔力は感じるけど、それでもせいぜい上級程度か将級程度だ。
アン達の敵じゃないな。
「二百年前は、この森で一番強い魔物は将級程度だった筈よ」
成程な。
『アン、先行して調べてくれるのもいいが、森の探索は子蟻達にさせろよ?万一お前に何かあれば大変なんだから』
これからの戦力が増えないし。
まあ、アン自身にも死んで欲しくないと、多少は思ってるけどな。
この辺りは、薬の後遺症か……。
『アース様……。そこまで私の事を……っ!。配慮の足らぬ行動、お許しください』
あー、そう言うのはいいって。
畏まられるのは疲れるから。
周囲を少し見て回った後、アンから記憶送信で現在のマップを見せてもらい、俺達は森を後にした。
アン達も再び探索を開始した。
さて、次の候補地を見に行くか。
その後も様々な候補地を見て回った。
その数、全部で十二か所。
湿地帯に、谷の底、馬鹿でかい山の頂上とかもあった。
全部見て回った後、エリベルに前から思っていた疑問を聞いてみた。
『なあ、エリベル?お前どうやって、これだけたくさんの場所に行ったんだ?』
転移門で移動した先は、ファーウド大陸だけじゃなく、別の大陸にある場所もいくつもあった。
実際エリベルのダンジョンは、四つの大陸にまたがって作られている。
この時代の文化水準からすると、これだけの距離を移動するだけでもかなりの時間が必要な筈だ。
だがエリベルは「何言ってんだコイツ?」みたいな表情を浮かべる。
「へ、何言ってるのよ?もちろん徒歩よ。あ、フライとかも使ったけど。転移門ってのは自分が一回行った場所じゃないと設置できないもの」
『徒歩っ!?嘘だろっ!?というか飛んで行ったって……』
フライって確か風属性の初級魔術だったよな?
滞空時間も移動もそう大したことは無い筈じゃ?
「嘘じゃないわよ。アンタ忘れたの?私生前は、全ての魔術を霊王級まで極めた最強の魔術師だったのよ?どんな場所だろうが行き放題だったわよ」
そう言えばそうだった。
普段の態度からは想像できないけど、こいつも結構な化け物だったんだ。
確か伝説上の勇者と魔王とほぼ同格だったんだっけ。
「まあ、今はかなり弱体化してるけどね。アーク・スケルトン程度だと、私の全盛期には遠く及ばないわ」
『どんぐらい?』
「多分一パーセント以下じゃないかしらね。あくまで魔力量や出力に関してはって事よ。演算能力や知識については以前と変わりないわ」
こんこんと骨の指で自分の頭蓋骨を叩く。
すご……。
アーク・スケルトンって将級魔物だよな。
それでも全然足りないのか。
「まあ、しばらくはこの状態で何とかしていくしかないでしょうね。急激に進化した後だから、まだ魂と肉体と魔力が完全に混ざり合ってないわ」
結構軽い気持ちで復活させたけど、こいつって本当に凄いやつだったんだなぁ。
改めてそう思ったわ。
というわけで、候補地を全て見終わり、再びダンジョンへと戻ってきた。
場所は深層。
ゴロンと壁際に寄り掛かって、寝そべる。
『ふぅー……知らない土地に行くのは疲れるな』
引きこもりに外出は厳しい。
いくら薬の副作用で、多少はまともになったとは言っても、俺の本質はそんなに変わっていない。
全部回ってたら、すっかり日が暮れてしまった。
頭上に空いた穴から無数の星々が見える。
絶景だなー。
動き回ってお腹もすいたし、とりあえず土を掘って魔石を食べる。
遅めの夕食だな。
ザクザクザクとここ掘れワンワン。
うん、美味い。
「んで、どこを使うか決めたかしら?」
エリベルが聞いてくる。
掘った魔石のいくつかをエリベルに投げる。
魔石を食いながらエリベルの質問に答える。
『んー、それなんだけどさ…………せっかくだし、全部使わないか?』
「え、全部?」
それはエリベルにとっても予想外だったのだろう。
けっこう驚いた声を上げる。
『そう。ここを拠点、というか入口にするんだろ?だったら全部の場所に行ける様にダンジョンを作れないかな?』
様々な場所を見て回って、俺は思った。
出来る事なら全部使い、ダンジョンにしたいと。
それで、俺は考えていたアイディアをエリベルに提案する。
先ほどの話し合いの時には思いつかなかったが、実際に現地を見て思いついたのだ。
エリベルはそれを黙って聞いていた。
そして、聞き終わった後で一言。
「…………いいわね、それ」
すっごく面白そうと、エリベルは笑った。
よかった。
どうやらエリベルは賛成みたいだ。
あとは他の奴らの意見か。
『とりあえず皆の意見も聞きたい。もう一回話し合いをするか』
「そうね」
再び思念通話を発して、皆を呼ぶ。
ダンジョンから出ていたやつらは、転移門の近くにいるゴーレム達に伝言を頼んで言って来てもらった。
うーん。ダンジョンの外に出ると思念通話が使えなくなるのも課題だな。
通信魔石は数が少ないし。
これもあとでエリベルに相談してみよう。
しばらくして他の奴らも深層に集まってきた。
『アース様、どうかされたのですか?』
アンが皆を代表して聞いてくる。
『新しいダンジョンで、ちょっと思いついたことがあってな。みんなにも聞いてもらいたかったんだ』
その後、もう一度みんなに俺の意見を話した。
あぁ、やっぱ人前で話すのって疲れるわ。
『―――――という感じのダンジョンにしたいんだが、どうだろうか?』
俺はみんなに確認を取る。
『私はそれでよろしいかと思います。素晴らしい考えです』
先ずアンが直ぐに賛成する。
ホントお前迷い無いな。
「私もアンさんと同意見です」
「……………いい」
「私もそれでいいよー」
次いで、ウナ達ゴーレム・ホムンクルス達も賛成。
「ぷる!」
…………多分、賛成だよな?声のトーンからして。
ちらりとトレスの方を見る。
「ぷるるも賛成だって」
通訳してくれた。
よかった。
「儂も賛成じゃ。しかし、お主からそのような考えが出るとは驚きじゃな」
ベルクも賛成の様だ。
これで全員賛成。良かったよかった。
ていうか、ベルク。俺だって、まともに考えたりするんだよ?
自分の命がかかってるんだし。
「となると、一番の問題は人手ね。かなり大規模なダンジョンになりそうだし、今のままじゃ、全然人数が足りないわ」
エリベルが言う。
確かに、そうだ。
この間の戦いでアンの子蟻達やゴーレム達はかなり数を減らしてしまった。
動物型のゴーレム・ホムンクルス達はほとんど残ってはいるが、それにしたって、数が足りない。
もう一度俺が作ってもいいけど、それにしたって限度があるし。
アンの子蟻達は、掘削などは出来ても、細かい作業は結構苦手だ。
表層や中層のトラップも、細かい部分は千手などの人型ゴーレムや、猿やゴリラなどの人型に近いゴーレム・ホムンクルス達に手伝ってもらってたみたいだし。
レイス達は、数は多いけど、基本的に物理的な作業が出来ない。
基本人を驚かしたり、せいぜい精神攻撃をするくらいが限度だ。
もっと階級が上がれば別だろうけど。
何かいいアイディアは無いかな……?
「お父様、それなら提案があります」
考えていると、ウナが手を挙げる。
『何だ?』
「エリベルさんは、冒険者や騎士の死体を使ってスケルトンを作りました。ならば、てっとり早くその数を増やすのでしたら、アグールの町に攻め込んではどうでしょうか?町一つ程度であれば、今の戦力でも十分に滅ぼせるかと」
町を攻めるか。
確かにてっとり早く死体が手に入る。
けど―――
『却下だ』
「どうしてですか?」
『向こうも戦争直後で気が立ってるだろ。その状態で、こっちから刺激する必要はないんじゃないか?』
エリベルの方を見ると、彼女も同意見の様だ。
「確かにね。付け加えて言うなら、こちらから攻める場合には、町の住民は必ず皆殺しにしなければいけないわ。もし、撃ち漏らしたりすれば、そこから私たちの情報が漏れる。そうなったら、逆にこちらが不利になるわ。ダンジョンから攻めるというのは、こちらの準備が万端でなければ、意味が無いのよ」
そもそもダンジョン側が攻めるという事自体滅多にないしね、とエリベルは言う。
「…………わかりました」
俺とエリベルに反論されて、ウナはしゅんとなっている。
『すまん、責めてるわけじゃないんだ』
「いえ、私が浅はかでした。申し訳ありません」
ウナは素直に頭を下げた。
『私からもよろしいでしょうか?』
次に手を挙げたのはアンだ。
『何だ?』
『数が足りないのであれば、外から魔物を招いては如何でしょうか?強大な力を持つアース様の庇護下に入りたいという魔物は大勢いると思います。特に私が視察に行った大森林にはかなりの数の魔物がいましたし、我々の傘下に入りたいという魔物もいるのではないでしょうか?』
成程、外から魔物を引っ張ってくるという手もあるか………。
確かアンも元々“共生”をする魔物だったな。
ていうか、俺普段はそんなに強くないよ?
アレは薬の影響だし。
『でも、実際仲間になりそうな魔物はいるのか?』
『最下級種であれば喜んでこちらに来ると思いますよ。私達もそうでしたが、最下級種は単独では生き延びる事が難しい種族ばかりですから。ただ、その分繁殖力に優れ、数が多いのです』
『ふむ……』
悪くないかもしれないな。
エリベルの方を見る。
「良いんじゃないかしら。私の居たダンジョンも半分以上は、外から連れてきた魔物だったし。外で“共生”出来ない魔物も、ダンジョン内でなら“共生”するってケースも多いわ」
エリベルも賛成の様だ。
最下級種って言うと、レッサーゴブリン、スモールトレント、スライムとかか。
戦力としては期待できないけど、その分他の分野でなら使えるかもしれないな。
トラップや階層の整備とか。
『わかった。それじゃあ、アンそっちの方は任せていいか?』
『勿論です。必ずや戦力となる魔物を連れてくると誓いましょう』
他の皆にもそれぞれやってもらう事を指示する。
『よし、それじゃあ皆、明日から行動開始だ!』
おぉーと全員が声を上げる。
本格的なダンジョン製作が始まった。
ちなみに、ラップルの実を食べた時、『暴食』の効果によって、毒に強い耐性を手に入れましたが、アースさんは気付いてません。
…………普段の彼はホント…。




