↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地龍のダンジョン奮闘記!  作者: よっしゃあっ!
最終章 星脈の守護龍と地龍のダンジョン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

261/292

3.霧の行方



 ゆっくりと、ジョーカーはダンジョンの中を進む。

 しばらく進み続けて、彼は異変に気付いた。

 おかしい。これは一体どういう事だ?


(……魔物やトラップが一切見られないッス)


 いや、正確に言えばゴーレムらしき魔物は何体もいた。

 だがそのどれもが、自分へ攻撃を加えてこなかったのだ。

 まるで“居ない者”として扱っているかのようだ。


 トラップにしても同様。

 明らかにここに罠ありますよー的な罠も、巧妙に隠した罠も、そのどれもが自分が通り過ぎても、うんともすんとも言わない。


(……確かに魔力や気配は極限まで消してるッスけど、こうまであからさまに気づかないもんッスかね……?)


 気付いていない―――いや、もしかして“認識”すらしていないのか?


(……まさか……)


 ジョーカーはおもむろに自分の仮面を外し、地面に落としてみる。

 トランプの道化を思わせる白い仮面は、カランカランと音を鳴らした。

 

 するとゴーレム達は一斉にこちらを向いた。


 彼―――ではなく、落ちた仮面に向けて。


 そして訝しげに首を傾げた後、再び周囲を徘徊した。


(……本当に、僕の事を“認識”していないんッスね……)


 でもどうして?

 自分にこんな特性があったか?

 答えは否、だ。

 彼の下位種族に当たる“道外し”ならば、特定条件を満たした者のみしか認識できないという特性があるが、それは彼には無い。

 そんな特性が無くとも、霧で自分の存在を認識できなくさせてしまえばいいのだから。

 だが、今彼はその霧の能力も使っていない。


(一度死んだ……というか、死にかけた影響で、僕自身にも何かしらの変化があったと考えるのが妥当ッスね)


 今のジョーカーの魔力は全盛期には遠く及ばない程に弱まっている。

 ならば認識されないというのは、今の状況下ではかなり助かる。

 このままダンジョンを抜けてしまおう。

 そう思い、ジョーカーはダンジョンの中を進む。


(……それにしても)


 ふと、ジョーカーは気になった。


(……さっきから僕、全然迷ってないッスね……)


 こっちを行けばいい、こう進めばいい。

 そう“頭の中”に入っているかのようだ。

 

(ファーブニルの深層は、僕も知らない筈なんッスけど)


 まるで進むべき道が“分かって”いるかの様に、ジョーカーの足は止まらない。

 最初からどこか一点を目指して進んでいる様な感覚だ。

 やがて、彼の目の前に開けた空間が広がった。


(……ここは?)

 

 キョロキョロと周囲を見渡す。

 そして、そこに鎮座する“それ”を見た。


(アレは―――)


 その瞬間―――彼の意識は暗転した。



◇◆◇◆◇



 恐ろしく不毛な戦いを終えて数分後、エリベルとレーナロイドが目を覚ました。


「うぅん……なんか体が随分痛むわね……何でかしら?」


 自分の頭を押さえながら、エリベルが呟く。

 どうやらエリベルは、ここ数分の記憶を失っているようだった。

 ブレスによって頭を強く打ち付けたのが原因だろうか。

 まあ、何にせよ覚えていないのなら、その方が良い。

 あんな出来事さっさと忘れてくれ。


『アース君、アース君』


 などと思っていたら、レーナロイドから思念通話が来た。

 ……あれ?というか、この人も俺のブレスの余波多少は喰らってたよな?

 相当血を流してたみたいだし、大丈夫なのだろうか?


『レーナロイドか?体は大丈夫なのか?』


『……正直、めっちゃギリギリだけどね。一瞬、綺麗な川の向こうに死んだ隊長格の連中が見えたよ……』


『そ、そうか……』


 やっぱりヤバかったらしい。


『それはそれとしてさ。もしかして、エリちゃんが記憶を失ってるの、偶然だって思ってるかい?』


『え?』


 という事は、まさか……。

 レーナロイドはこくりと頷く。


『正確に言えば、記憶に“蓋”をしただけだけどね。何がきっかけで、思い出すか分からないから、君もエリちゃんの前でうかつな発言はしないようにね』


 しーっと言う様なジェスチャーで笑うレーナロイド。

 

『忘れてるかもしれないかもしれないけど、私は認識操作や認識阻害の術式が得意なんだよ?ほら、大陸会議の時もルギオスが仕事する時にサポートしてたじゃんか』


 そんなことあったっけ?

 ……あ、思い出した。

 大陸会議の時、コイツの部下のルギオスって、帝都で活動してたんだったな。

 ウナやドスも巻き込まれてた。


『あん時はごめんねー。まさか、“烈風”君と“水姫”ちゃんまで巻き込んじゃうなんて、予想外だったからさー』


『……まあ、もう済んだことだし、いいけどさ……』


 結果的に二人は無事だったし、今回のアジルとの戦いでは彼女に相当助けられた。

 今更、あの件を蒸し返すつもりはない。

 

「あれ?そう言えば、なんでアンタとクソ婆が、私の研究所に居るわけ?」


 そこからか。

 俺はエリベルに、俺の現状について再び説明した。

 ちなみにバァルは既に避難済みだ。

 今は、別室でジュースとお菓子を堪能している事だろう。

 ちょっと今回の件がトラウマになったかもしれないが……。

 どうしても駄目な場合は、レーナロイドに頼んで記憶に蓋をしてもらおう。


「なるほどねー。魂の分離か。確かに、私が生前に倒した“深淵”のケースと似てるわね」


 紅茶をすすりながら、エリベルは頬杖をつく。


「んで、エリちゃん。彼を元に戻す妙案はあるかい?」


 レーナロイドが訊ねると、エリベルはんーと呻る。


「……結論から言えば、可能でしょうね」


『ッ!?ほんとか!?』


「ええ。いくつか方法はあるけど、一番確実なのは、アンタともう一人のアンタが魂を分離したという事実自体を“無かった事”にするって方法かしらね」


『無かった……事にする?』


 どういう事だ。


「正確に言えば、魂が分離する前の状態まで戻す。―――“聖域踏破”を使ってね」


『あ』


 そうか。その手があったか。

 エリベルの禁術“聖域踏破”は、対象の姿やスペックを、過去、現在、未来とあらゆる時点へ自由自在に変化させる魔術だ。

 対象の過去へ指定してエリベルが全盛期の力を取り戻したように、対象を未来に指定して俺を成体へ強制成長させたように、対象の姿を自由自在に変化させる究極の干渉術式。

 それが、“聖域踏破”だ。

 それを使えば、確かに俺たちの魂は元の状態に戻るだろう。


『そ、そうか。じゃあさっそく―――』

 

「といっても、これは無理な案なんだけど」


『無理なのかよ!?』


 あっさりと、俺の期待を踏み砕くエリベル。


「あくまで実行できればって話よ。“聖域踏破”の使い手が居なきゃ、所詮は机上の空論で終わっちゃうでしょ?」


 ああ、そっか。

 今のエリベルって魔術が使えないもんな……。

 あんなトンデモ術式、エリベル以外には使えないか。


『いや、でも……あ、そうだ。宝具ヴァジュラ!

 あれみたいに、なんか代用品で―――』


「あんな超高等魔導具、そうそうあるわけないでしょうが」

 

 だよなー。

 ヴァジュラそのものも、俺が成体になる時に、ボリボリかみ砕いちゃったし。

 せめて同じような魔道具があれば……ん、いや、まてよ、それなら―――。


「あー、ちょっといいかい?」

 

 レーナロイドが手を上げる。


「“聖域踏破”がエリちゃん以外に使えないみたいな前提で進めてるけど、もう一人居るじゃないか。エリちゃん以外にも、“聖域踏破”を使えるヤツがさ」


『もう一人……?誰だよ?』


「決まってるじゃないか、彼だよ」


 たっぷり間を開けてから、レーナロイドはその名を口にする。


「―――“皇獣”アジル・ダカール・レイノルズさ」


 その瞬間、場の空気が変わった。


「……クソ婆、アンタ遂にボケた?」


「ぐっはぁ!?」


 エリベルの容赦のないツッコミが刺さる。

 酷い言い方だが、言わんとしてる事は俺にも分かる。

 だってソイツ、ついさっきまで俺たちと殺し合ってた相手だぞ?


「べ、別にボケてないよ!?」


 心外だなと、レーナロイドは慌てる。


「純粋に魔術の腕前だけで言えば、アジルは多分エリちゃんに匹敵するだろ?実際に“聖域踏破”も使って見せたし、“もっと高度な魔術”だって行使しようとしていたしね」


 もっと高度な魔術……?

 それってもしかしてあの空に浮かんでいた魔術陣だろうか?

 ……あれって結局、どんな術式だったんだろう?


「んで、だからなんだってのよ?まさか、頭を下げて協力でも求めるっての?」

 

「うん、その通り」


 エリベルの冗談めかした物言いに、レーナロイドは素直に頷く。

 今度こそ、俺とエリベルは完全にぽかんとなった。


「……は?」


「アジルに“聖域踏破”を使わせて、アース君を元に戻せばいいんだよ。大丈夫、私が説得するから。何せ私は、かつて彼のパートナーだったんだからね!アース君やエリちゃんは、大船に乗ったつもりで良いんだよ!ハッハッハ」


 俺とエリベルは無言で目を合わせる。


(……不安ね)


(……不安だな)


 お互い思ってる事がすぐ分かった。


 これ多分、あかんパターンや。



◇◆◇◆◇


 

 一方その頃、


「ファルー、調子はどう?」


 ツムギはダンジョン深層にあるファーブニルの療養施設を訪れていた。

 

「おお、ツムギか。調子はいいぞ。迷宮核の方も、ここ最近はさらに大人しくなってきたからな」


「そっか、よかったー」


 元気そうなファーブニルの姿を見て、ツムギは安心する。

 迷宮核との分離と彼自身の延命を図る為、ファーブニルの身体にはいくつもの管が取り付けられ、彼自身も一切身動きが取れない状態だ。

 だからこそ、先程のアジル達との戦いで、この施設に異常がないかどうか不安で仕方なかったのだ。

 

(ホント、ファルが無事でよかったぁー……)


 はふーと大きなため息をつく。

 その姿を見て、ファーブニルの方が苦笑してしまう。


「それよりもツムギ、随分と大変だったようだな」


「あ、うん……」


 アジル達との戦いに参加できなかったものの、何があったかはファーブニル自身も知っている。ギジーを通じて、限定的だが戦場の様子も見ていたのだ。

 無論、ツムギが“夢霧”へと進化した事も知っている。

 それでもツムギは直接話しをしたかったのだろう。

 身振り手振りを交えて、どんな戦いだったのか、どんな活躍をしたのか、ファーブニルに説明した。


「そうか……強くなったのだな、ツムギ」


「うん!進化したし、もっともっと強くなって、ファルやみんなを守れるようになるんだ!」


 まだまだその力を扱いきれてはいないが、経験を積めば、その力は神災級の名に恥じないものとなるだろう。

 むふーと拳を握るツムギに対し、ファーブニルは僅かに尻尾を揺らす。


「……ツムギ、勘違いしているかもしれないが、お主はもう十分に強いぞ?」


「え?そ、そうかな?」


「ああ、強くなった。以前とは比べ物にならない程にな」


「え、えへへ……なんだか照れるなぁ……」


 ファーブニルに褒められて、ツムギは嬉しそうに笑みをこぼす。


「あ、でもでも私が強くなったのって、ファルや皆のおかげなんだよ?お父さんは優しいし、アンさんは頼もしいし、エリベルさんだって……ちょっと怖い時があるけど、色んな事知ってるし、トレスちゃんやぷるるちゃんは一緒にいて楽しいし。……私、このダンジョンが大好きなんだ。だから、私が強くなれたのは、皆のおかげだよ」


「ふふ、それを素直に言えるからこそ、お主は強いのだよ。その繋がりこそが、お主の力なのだからな」


「そう、かな……」


 照れて、ツムギの顔はますます赤くなる。


(あの弱かった子がここまで変わったか……。本当に、強くなったのだな)


 嬉しいような、寂しいような。

 子の成長を見守る親というのは、こういう気持ちなのだろうか?

 目を細め、ファーブニルは尻尾でツムギを撫でる。

 今の身体では僅かしか動かせなかったが、それでもツムギは嬉しそうに目を細めた。


「そう言えば、ツムギ」


「ん、なに?」


「先ほどから気になっていたのだが……その手に持っている“白い仮面”はなんだ?」


「え?」


 そう言われて、ツムギは自分の右手を見る。

 そこにはピエロを思わせる白い仮面が握られていた。


「……なんだろう、これ?」


 何でこんなものを自分が持っているのか?

 訳も分からず、ツムギは首をかしげるのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版8月8日GAノベル様より発売です
よろしくお願いします
iコード/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。