40.戦いが終わって
『はぁー、とりあえずこれで戦いは終わったかぁー』
俺は脱力して、その場に倒れ込む。
疲れた。もうめっちゃ疲れた。
早くダンジョン帰って、魔石食って寝たい。ゴロゴロしたい。
山の様に事後処理があるだろうけど、それはエリベルとかアンに任せればいいだろうし。
……ていうか、多分俺が中途半端に指示出しても、作業が遅れるだけだろうしね。
適材適所。任せられる奴に任せればいいのだ。
ふはは、他力本願と笑うがいいさ。もう慣れたわ。
『おい、相棒。いきなり気ぃ抜きすぎだ』
と思ってたら、もう一人の俺に注意された。
うーん、改めてみても、自分に注意されるって妙な気分だなぁ。
『……なんだよ、その微妙な顔は?』
『いや、だって、お前も俺なわけだし……ねぇ?』
『あー、まあそうだよなぁ……うん』
『やっぱ変な気分だよなぁー』
『だよなぁー』
「おーい、二人とも。そこで妙に意気投合してるんじゃないよー」
二人で頷いていると、レーナロイドからツッコミが入る。
意気投合も何も、俺達元は同じだからね。
「まだ気ぃ抜いてちゃ、困るよ。アジルを倒したと言っても、まだそれだけなんだからね」
そうだな。戦いは終わった。
アジルは気絶してるし、ここからはいわゆる戦後処理になるわけだが―――。
「―――おい、魔女」
なにやら苛立った声。
誰かしら?と思って見てみるとベルディーだった。
ああ、そう言えば居たなコイツ。
「いい加減どういう事なのか、説明しろ。なぜおまえが魔物と組んでいる?なぜ聖王国の聖女がここに居る?そもそも、あの魔物は何なのだ?それに、この黒蟻や、その後ろの控えている出鱈目な魔物達が一緒に居るのはどうしてだ?説明をしろ、説明を」
グングニルを握りしめながら、レーナロイドに近づいていく。
だが、
「…………」ヒュッ。
「あっ、おい!」
即座にレーナロイドはベルディーから距離をとって、俺の後ろに隠れてしまった。
……そう言えば、コイツ極度の人見知りだったな。
俺やエリベルとは普通に話せてたから、忘れかけてたけど。
『うわぁー、面倒くせー。そもそもなんでベルディーちゃんが、こんなところに居んのさ。あーやだやだ、殺気立っちゃってさー。ホント冒険者って血の気が多いよね。絶対友達になりたくないタイプだよ。ていうか、大量の魔物に囲まれたこの状況下で、あれだけ落ち着いてるってどうなのさ?グングニルの真の力を覚醒させたからって、調子に乗ってるんじゃないのかい。ふん、そんなの全然凄くないんだからね。うちのルギオスだって、その気になればその位朝飯前なんだからね。だから痛い目を見たくなければ、何も聞かずに、さっさとこの場から立ち去る事だよ!じゃないと、アース君や、その眷属達が何をするか分からないよ!この数を君一人で相手に出来る筈ないだろう?ふふふ、大人しく尻尾を巻いて逃げれば、見逃してあげよう!―――ていう感じに、ベルディーちゃんに脅しをかけてくれないかい、アース君?』
『……お前も大概だな、ホント』
思念通話がうるさいって初めての経験だわ。
コイツ人見知りのくせに頭の中ではこんな喋るのか。
完全な内弁慶だな。
『ベルディー、そこまでです。それ以上アース様に近づくことは許しませんよ』
「黒蟻……」
ベルディーの前に立ち塞がる様に構えるアン。
うん、相変わらずカッコいい。
更に他の眷属達も、ベルディーを取り囲む様に構える。
皆満身創痍の筈だが、その気迫はいささかも衰えていない。ぶっちゃけ、怖い。
「ちっ、流石にこの数を相手にするのは……」
厄災、災害級がゴロゴロいるこの状況下では厳しいと思ったのか、ベルディーは僅かに槍を下げる。出来れば、そのまま何も聞かずに帰ってくれればありがたいんだけどなー。
『ふははは、どうだい、ベルディーちゃん!これが私と君の“差”というものさ!いつの時代も、戦いとは数なのだよ!信頼できる仲間を得た私に死角なし!さあ、薄い本みたいな展開になりたくなければ、さっさと尻尾を巻いて逃げる事だね!……ホント、マジで、お願いします』
無言でベルディーを見つめながら、思念通話で喋るレーナロイド。
前々から思ってたけど、こいつも中々クズだよな。あと、薄い本って何?
「“穿界”様、槍を引いて下さい。少なくとも、今我々が争う事に意味など有りません」
緊張感漂う中、ベルディーとアンの間に割って入ったのは、聖櫃の聖女オリオン・カーラーだった。隣には、ウナとドスが付いている。
「“聖櫃の聖女”……。それに“烈風”と“水姫”か。お前らも、この件に一枚かんでいるのか?」
「……いいえ。ですが、魔王と言う共通の敵を前に、我々人族だけでは抗えなかったのもまた事実です」
「……魔王、だと?」
「ええ、実は―――」
ベルディーは黙って、オリオンの言葉を聞いてくれた。
やはり聖女と言う存在は、人間にとっては大きいのだろう。
内容に関しては、事前にウナやドスから聞かされていたらしく、オリオンは淀みなく説明してくれた。
「……成程、そう言う事だったのか」
うんうん、と頷くベルディー。
「納得して頂けましたか?」
「ああ、納得した―――って、なるかぁ!なんだそれは!?意味が分からん!魔王が皇獣で星脈の守護者であの神災龍王に反乱だと!?どういう事だそれは!?一体私は、何に巻き込まれているというんだ!?もう、ホントに、どうなっているのだ……」
めっちゃ混乱してるようだ。
うん、気持ちは分かるよ、ベルディーさん。
若干、キャラが崩壊してなくもないが、そこは置いておこう。
……ていうか、これくらいが普通の反応だよな。
エリベルやアンみたいに直ぐに順応して対応できる方がおかしいんだよ。
いや、頼りになるけどさ。
『ふっ、無様ですね、この程度の事も理解できないとは』
「黒蟻ィ……!」
はいそこ、煽らない。
なんかアンの奴、コイツ相手だと妙にムキなるよな。
もう面倒くさいから、転移門で強制的にこの場からご退場願おうかな。
と思ったその時だった。
「―――“影縫い”」
突如、地面から現れた黒い何かが、俺達の体を包み込んだ。
『―――っ!?』
俺だけじゃない。
他の皆も黒い何かに巻きつかれている。
これは―――影?
「ハァハァッ……ご無事ですか、アジル様……」
声のした先。
そこには、レーナロイドに負けず劣らずの地味な女性が立っていた。
でも人間って感じじゃない。魔族か?
「アンリちゃん!?どうしてここにむぐぐっ―――!?」
レーナロイドが何かを言おうとするが、すぐに口を塞がれる。
知っているのか?
この人数を相手にこれだけの拘束術式を使えるなんて、かなりの使い手―――おそらくは魔王軍の幹部クラス。
だが、その姿はボロボロだ。ここの来る前に、すでに誰かと戦ったのか?
「うぅ……アンリ……かい?」
あ、まずい。
気絶してたアジルが目を覚ました。
「アジル様!お待ちください、今助けに―――」
『―――いかせねぇよ』
ブチブチッともう一人の俺が、影を引き千切って、無理やり拘束から抜け出した。
おお、凄い!俺なんて、全然千切れそうにないのに!
そのままアンリと呼ばれた少女の前に立ちはだかる。
「ぐっ、地龍アースですか。邪魔を―――」
『悪いが、戦いはもう終わったんだよ。お前らの主のアジルは負けた。大人しく降伏しろ』
「なっ……!?」
アンリと呼ばれた少女は驚きの表情を浮かべるが、すぐに冷徹な表情になる。
「……そんな事、出来るわけないでしょう。私達は負けられないんです!ここへ送る為に、殿を引き受けてくれたハルさんに報いるためにも……アジル様を救いだし、宿願を達成する!」
ハルさんって誰だよ?
影に拘束されて、ミノムシの様にゴロゴロ転がりながら、事の成り行きを見守る俺。
『ハルさん……ああ、ハルワタート君の事だね。水藻の魔物で、アンリちゃんと同じ魔王軍の隊長格だよ。向こうのダンジョンの防衛に残ってたんだけど、この感じだと、アンリちゃんをここへ送り出すために、銀鬼やベルクを一手に引き受けたんだろうね。あ、それとアンリちゃんは影や闇を操る魔物だよ。階級は厄災級。多分、隊長格では最強クラスだろうね』
と、レーナロイドさんから思念通話でさらっと補足が入った。
ああ、そっか。そう言えば見ないと思ったけど、ベルクってコイツ助ける為に、向こうのダンジョンに行ってたのか。
『ぐ……こんな拘束―――はぁッ!』
あ、アンも拘束から抜け出した。
ホント、便利だな、魔術無効化。
「……ふん、何だこんな拘束」
ベルディーもあっさりと抜け出す。
すげーなグングニル。
「ふん、ござる」
「中々きついが、これ位なら……」
他にもラセツやらロブンやら、何体かは彼女の拘束から抜け出している。
「なっ……!?ば、化け物どもめっ……。私の拘束をこうも簡単に……」
忌々しそうに顔を歪めるアンリさん。
すいませんね、うちの眷属たちが化け物で。(一名を除く)
『……その化け物たちの筆頭みたいな君がそれを言うのかい?』
はい、そう言うツッコミは無しで。
多勢に無勢、囲まれたアンリさんの顔がみるみる青ざめていく。
だがまだ心は折れていないんだろう。
厄介だなぁ。
はぁ……どうしよう。もう戦いたくないんだけど。
「……アンリ……術式を解くんだ」
「アジル様っ!……しかし」
「構わない。もう僕に、戦う意思はないよ……」
それを聞いて、アンリさんは愕然とした表情を浮かべ膝から崩れ落ちた。
「……私達は、負けたのですか?」
「……ああ、そうだ」
「そんなっ……」
拘束が解かれる。
すぐさまラセツやロブン達が彼女を拘束した。抵抗する様子は無かった。
同じように、近くで気絶しているザハークにも拘束術式がかけられる。
『とりあえずは、拘束術式を何重にもかけて中層の結界に入れておくしかないな。この状態ならそれで十分だろう』
アジルは本当に抵抗する気がないようで、ただ黙って拘束を受け入れてる。
その後、尚もごねるベルディーの説得をオリオンやドス達に任せ、俺たちは一旦転移門を使いダンジョンへと帰還した。
◇◆◇◆◇
転移門の光が収まる。
目を開くとそこには、見慣れた土の壁があった。
ダンジョンだ。
ああ、帰ってきた。これぞ実家の様な安心感。
実際外に出た時間は一時間程度だったのに、もう何か月も帰っていなかったかのような懐かしさを感じてしまう。
「―――遅かったじゃないの」
『エリベル』
どうやら、待っていてくれたようだ。
『ただいま』
普通に挨拶すると、エリベルはふっと笑った。
「お帰りなさい」
うん、帰って来たって感じがする。
「エリちゃ~ん!ただいまぁー。私、ちょう頑張ったんだよー褒めて褒めてぶぎゅる!」
抱きつこうとしたレーナロイドを、無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きでぐるぐると簀巻きにする。
「むーむー!」
「うるさい、少しは静かにしなさいクソ婆」
指パッチンと共に転移門が開き、レーナロイドはどこかへ転送された。
『なあ、どこに送ったの……?』
余りにも流れがスムーズ過ぎて、思わず呆然としてしまった。
「……深層の治療カプセルよ。あのクソ婆、立ってるのもやっとの筈なのに、無理してんじゃないわよ……」
『へぇ……』
「なによ?」
『いや、別に。ちゃんと見てるんだなぁーって』
「……別に勘違いするんじゃないわよ。ただ、あのままクソ婆に倒れられたら、そっちの方が手間がかかるってだけの話よ。それだけ」
……こういうのってツンデレっていうのかな?
心なしか、ちょっと顔が赤いし。ほっこり。
「ああ、そうそう。向こうのダンジョンで戦ってたベルクにも連絡を入れたわ。アジルが敗れた事も伝えたから、降伏は時間の問題でしょうね」
おお、そりゃよかった。
つーか、向こうで一人孤軍奮闘してたベルク、マジお疲れ様。
これで魔王軍との戦いは一段落って訳だ。
『……ん?そう言えば、アン達は?』
いま気付いたが、ここに転送されたのは、俺ともう一人の俺、それとレーナロイドだけだ。
『ちゃんと深層の別の場所に転送されてるわよ。今のアンタの体のサイズ考えなさいよ。同じ場所に一緒に転送できるわけないでしょうが』
あ、それもそうか。
今の俺、成体サイズだもんな。
こんだけの大きさになると、深層で転送できる場所も限られちゃうか。
ま、あくまで一時的なもんだし、『聖域踏破』の効果が切れれば、元の大きさに戻るだろう。
うん、問題ない。問題ない。
さあ、魔石食って寝よう。
『寝るな』
『おうっふ』
後ろからもう一人の俺にド突かれた。
痛い。
『だから、そうすぐ休めるわけねーだろうが』
『えー、だって……』
『だってじゃない。そもそも、俺とお前の状態だって、今相当不安定なんだ。早くしねぇと……』
『早くって?』
俺がそう聞くと、もう一人の俺は、なにやら気まずそうに顔を逸らす。
『おい、どうしたんだよ?』
『………』
おいおい、黙ってちゃ分かんないぞ?
俺の視線を受けて、もう一人の俺は、はぁーと大きく息を吐いた。
『……もうそろそろ、俺がこうやって自由に出来るのも限界なんだよ』
『限界って……』
『お前の中に戻らなきゃいけないって事だ。元々、俺とお前は一つだ。そして魂の主人格がお前である以上、俺はそっちに戻らなきゃいけねぇ。ただ……その前にどうしてもやっておかなきゃならないことがある』
そう言って、もう一人の俺は自分の胸に手を当てる。
『―――勇者カディアス。俺の中に在るコイツの魂に、俺たちはケジメを着けなくちゃいけねぇ』
そんなシリアスな空気の中でアースさんは思った。
アース『(……つまり、まだ休んじゃ駄目なのか)』
エリベル「……コイツ」




