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地龍のダンジョン奮闘記!  作者: よっしゃあっ!
第十章 魔王と三人の転生者

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25.VS魔王軍 その六



 ―――舞台はダンジョンより別の場所へと移る。


 アースのダンジョンより北東に位置する鉱脈。

 ボルヘリック王国エルド鉱山。

 そこはかつて、大陸最大の魔石産出場所として、知らぬ者はいない程の鉱脈だった。

 ここで産出した魔石は高純度、高品質であり、大陸中……いや世界中に輸出されていた。その上、魔石が出来上がるサイクルも非常に短く、大量の魔石が産出された。

 それがもたらす莫大な富により、ボルヘリック王国は大陸でも有数の国家にまで成り上がったのだ。


 だが、それはもはや過去の話。


 今から三年ほど前から、その産出量は極端に減り始め、原因不明のまま、エルド鉱山は廃鉱へと徐々にその姿を変えつつあった。

 更に鉱山を取り仕切っていた宰相エクレウスの急死もそれに拍車をかけた。その為、現在エルド鉱山は、ほぼ閉鎖状態となっている。


 そこにずかずかと足を踏み入れるのは三人の男。

 三人は悠々と鉱山の中を闊歩し、時折壁や地面を触って何かを確かめている。


「うん……やはり、間違いない。リアスの言ってた通りだ」


 そう言って地面を触るのは三人の中でも一際小さい少年のような姿の男―――皇獣アジルだ。

 

「……星脈が書き換えられてる。ここは本来、星に溜まった魔力を排出する“こぶ”の役割を果たしていた筈なのに、それが今では正常な状態に戻ってるようだ」


「新しい“こぶ”の位置は分かんのか?」


 そう問うのは金髪の目つきが鋭い男―――天龍ヤムゥだ。


「詳しい位置までは無理だね。ただ、まあ、まず間違いなく息子の所だろう。彼を生み、育てる為に、ギブルは星脈を―――星の魔力を改変したんだ」


 星脈、それは文字通り、この星を巡る魔力の流れのようなモノだ。

 ギブルとその眷属達が住む星脈のダンジョンとは、この魔力の流れを管理するためにとある龍が作ったのが始まりなのである。


「……ったく、あの野郎が……星脈をテメェの都合で改変しやがって」


 忌々しげにヤムゥが吐き捨てる。

 

「まあ、星脈の力でも借りなきゃ、ギブルは子を産むことなど出来なかったんだろうね。……ましてや“彼”との間に出来た子だ。相当なエネルギーが必要だっただろう。もっとも、そのとばっちりを食った僕らにしてみれば、ふざけるなと言いたいところだけど……」


 そこでアジルは手を止め、もう一人の男―――アオバの方を見る。


「どうしたんだい、浮かない顔をして」


「……いや、何でもない」


「そんな顔をしないでおくれよ。この戦いは、僕達の為でもあるし、君の為の戦いでもあるんだ。全てが終われば、君の望みは叶う。同郷の人間に遭える。……それは、約束しよう」


「……ああ、分かってる」


 アオバの声は震えていた。

 彼の脳裏によぎるのは、死んでいった仲間たち。

 ラウ・ランファン、スイレン……みんな、死んでいった。

 自分の都合で、彼らを死なせてしまった自責の念が、アオバを苛んでいるのだ。

 そんなアオバにアジルは冷ややかな視線を向ける。


(……予想よりも、早く精神と肉体の乖離が進んでるか。まあ、元々があり得ない存在だから、仕方ないっちゃ仕方ないか……)


 それよりも今はこっちだ。

 アジルは背負っていた物を手に取る。

 ハウロトが帝国より盗み出した武器―――魔剣グラムを。


「ともかく、早く始めよう。もうすぐダンジョンの方も、決着がつくだろうしね」


「大丈夫なのか?テメェの部下共はよ?」


「問題ないよ。それに……」


 そこで、アジルは言葉を区切る。


「―――どうやら、モルダが無事に任務をやり遂げてくれたようだ」


 にやりと笑いながら、彼の視線はここではないどこかを見つめていた。



◇◆◇◆◇



 アースのダンジョン深層にて―――。


『どうやら、殆どのエリアで決着がついたみたいだな』


「そうね」


 俺とエリベルは、モニターに映し出される各エリアの状況を眺めていた。

 結果を見れば、ほぼどのエリアも苦戦しつつも、予想よりも遥かに少ない損害での防衛に成功した。


『後はエルジャのエリアだけか』


「そうね……あ、ちょっと待って、エルジャちゃんからだわ」


 エリベルが通信魔石を手に取る。

 エルジャから?なんだろうか?


「……ええ、分かったわ。大丈夫、今回は遠慮なく使って構わないわ」


 そう言って、エルジャは通信魔石を切る。


『どうした?』


「エルジャちゃんから、例の新術を使わせてくれって要請があったのよ」


 例の新術……?

 そう言えば、エルジャがちょくちょくエリベルの研究所に出入りしてたな。


『確か……“龍装変化”だったっけ?』


 エルジャの聖龍としての力を、人型へと圧縮する能力。それが“龍装変化”だ。

 ダンジョンの中でも全力が出せる様にと開発した術式らしい。


「そうよ、良く覚えてたわね」


『まあ、俺も何度も研究所に出入りしてたからな。でも、アレって使用禁止にしてなかったか?ほら、表層での戦いの時に』


「あの時はまだ序盤だったからね。敵に知られたくなかったのよ。使うべき場面でも無かったしね。……でも、今なら問題ないわ」


 モニターに目を移すと、エルジャの姿が変化していた。

 画面越しでも感じる程の凄まじい魔力。

 これなら援軍は大丈夫そうだな。

 他の聖龍達も、魔王軍相手に奮闘しているみたいだし……。


『…………』


 順調だ。極めて順調に戦況は推移している。

 でもなんだろう。この拭い去れない違和感は?

 なにか……重大な何かを見落としている様な……。


『なあ、エリベル。確認だけど、ダンジョン内では、敵は転移術式を使えないんだよな?』


「ええ、そうよ。ダンジョン内は、敵に対して常に対転移術式が働いてるわ。その証拠に、さっきのぷるるの戦いの時、連中は転移による逃亡じゃなくて、火力による逃亡を図ったじゃない」


『だよな……』


 以前、ヴァレッドとの戦いの際に現れた鬼族の老人。

 突然現れ、突然消えたあの術式。

 ああいう類の術式を警戒して、ダンジョン内の対転移術式や、ダンジョン破壊術式には常に対策を立ててきた。

 だが、なんだろう、この不安は……。



『―――鬼族固有の術式は多いんですよ。この“眼”だったり、方角を決める占いや、個人の転移術式。あと呪術、呪いの類なんかも得意です。……まあ、最後のは使ったら死にますけど』



 ふと、先程の鬼族の言葉が脳裏をかすめる。


 ――。

 ――――。

 ――――――。

 あ……あああああ…………ああああああああああ!!

 マズイ!!ヤバい!

 もし、俺の考えてる通りだったら―――。


『エルジャ!今すぐ攻撃を止めろ!撤退するんだ!』


「ちょっ、いきなりどうしたのよ、アース!?」


 混乱するエリベルをよそに、俺はエルジャに思念通話を送る。

 ……駄目だ!届かない!あの鬼族め!エルジャが“龍装変化”を展開した瞬間に、なにか仕掛けやがったな!

 通信魔石も―――駄目だ。くそっ!


『エリベル、今すぐエルジャを転移させるんだ!じゃないと、取り返しのつかない事になる!』


「え?」


『いいから、早く!転移門を開いてくれ』


「え、ええ、分かったわ!」


 俺の様子が尋常じゃない事に気付いたのか、即座にエリベルは、転移門を開こうと端末を操作する。

 だが、エルジャは既に攻撃に移っていた。

 

 駄目だ、間に合わな―――。



◇◆◇◆◇



 アースのダンジョン中層第六エリアにて―――。


“龍装変化”を行ったエルジャは、モルダへと攻撃を仕掛ける。

 そのスピードは、先ほどまでとは比べ物にならない。

 音速を超えた速度で、彼女は手に持ったレイピアを撃ち込む。


 そして―――勝負は一瞬で決した。


「なっ!?」


 その結果に、エルジャが驚きの声を上げる。


「……どうしたんですか?そんなに……驚かれて……がはっ」


 モルダの口から血が溢れる。

 それがエルジャの頬を伝った。

 


 あっさりと―――エルジャの細剣はモルダの胸を貫いたのだ。



「な、何を……アナタは本当に何を考えているんですの!?」


 もはや本気で意味が分からなかった。

 散々自分を挑発し、全力を出させ、その挙句に何の抵抗もなく心臓を貫かれるだなんて。

 とてもじゃないが、正気とは思えない。


「もちろん……魔族の事ですよ。その為に私は……自分の使命を全うする……だけ……です」


 がしっとモルダはエルジャの腕を掴んだ。


「これが……私の成すべき事です」


「何を……?」


 その瞬間、エルジャの足元に転移門の光が現れる。


「これは……転移門!?」


「ほぅ……気付いた者が居ましたか……でも、もう遅い!」


 エルジャが転移する直前、彼女の体を黒いオーラが包み込んだ。



◇◆◇◆◇



『エルジャ!大丈夫か!?』


 監視室に強制転移させたエルジャに俺はすぐに近づく。


「あ、アース様?これは……一体どういう―――ぐああああああああああああ!!?」


 混乱した様子のエルジャが、突如胸を押さえて苦しみだした。

 その体からはどす黒いオーラが滲みだしている。


「これは……まさか呪い?」


 エリベルがすぐにそれに気付く。

 

『ハァッ……ハァッ……聞こえていますかー…?ダンジョンの奥に居る皆さん』


 監視室に声が響く。

 それはモニター越しに送られてくるモルダの声だ。


『おそらく、そちらには……エル…ジャ……さんが、居られるのではないです……か…?』


 胸を押さえ苦しそうなモルダの姿が映し出される。


『彼女には呪いを与えました。鬼族に伝わる秘術“鬼火・怨鎖”です。黒い魔力は決して消える事無く、彼女を徐々に蝕んでゆくでしょう……』


 見れば、黒いオーラがエルジャにまるで生き物の様に巻きついてゆく。

 そして、触れた箇所が、徐々に黒いしみのようになっていくではないか。


「ぐっ……こ、こんな呪い、直ぐに浄化して―――」


 エルジャはすぐに浄化を発動する。

 激しい光がエルジャを包み込み―――だが黒いオーラは消える事無く、彼女の体に纏わりついている。


「なっ……どうして…ぐああああああ!?」


 激しい激痛にエルジャが苦しみのたうつ。


『もし、浄化を試そうとしているなら、無駄な事です。仮にも私は隊長格……厄災級の魔物です。その命と引き換えに放つ呪いが、聖龍の浄化で祓えるはずがない……がはっ…!』


 説明を続けるモルダの顔がどんどん青白くなってゆく。

 胸の傷か、それとも呪いの反動か。その命が尽きかけているのだ。


「これが……望みでしたの?自分の命と引き換えに、私を殺すことが……ぐぅ!」


 エルジャが苦しそうにそう呟く。

 いや、違うぞエルジャ。

 アイツの狙いはそうじゃない。


「……っ!まさか、向こうの狙いって……」


 どうやらエリベルは気付いたようだ。


『良い事を教えましょう……この呪いを解けるのは……聖龍ハルシャ・ルードだけです……』


 にやりと、モニター越しにモルダが笑う。

 やっぱりか……。

 覚醒した龍王種。

 神災級の魔物。聖龍ハルシャ・ルードの浄化能力ならば、たとえ厄災級の呪いであっても消し去る事が出来る。

 だが、それには前提条件がある。


「……お、お父様は既に『聖域結界』を発動させています。もう、魔力が尽きるまで解除することは出来ませんわ……」


 そう。ハルシャの持つ固有術式『聖域結界』。

 あらゆる侵入を防ぐ最強の結界だが、一度発動すると、自身の魔力が尽きるまで解除できないという欠点がある。

 だが、まるでこちらの考えを見透かすかのように、モルダは首を振った。


『ふふ……『聖域結界』が発動しても……完全に安定するまでならば、解除は可能なんですよ。……時間的にはもう余裕はないでしょうが……まだ結界の解除は間に合うんです、はい……』


 どうしてそんな事を知っているのかは気になるけど、つまり今からこの事をハルシャに伝え、結界を解除すればエルジャは助かるという事だ。

 だが、それは同時に聖地を―――星脈のダンジョンを守る最大のカードを捨てると言う事だ。結界を強制的に解き、さらにエルジャの呪いを浄化すれば、おそらくハルシャには……再び結界を張る余力は残らない。


『エルジャさん……アナタを倒す事“だけ”ならば、私でも可能でした。……が、その先。深層までは……不可能だと……“視えて”しまった……』


 ぽつりと、彼は言う。

 おそらく彼は優れすぎる観察眼を持つが故に気付いてしまったんだろう。

 例えこのエリアを突破しようとも、その先に待ち受ける俺達を倒すことは出来ないのだと。

 ましてや、他の隊長格も敗れた状態では尚の事。

 ならば、どうすることが最善なのか。

 それを実行したのだ。だが、どれほどの覚悟があれば、自分の命を捨ててそんな選択を選ぶことができるのか。


『……“龍装変化”で強化されていない貴女では、私の呪いに耐え切れずにすぐに死んでしまいますからね……。強化された今ならば……あと数時間程は生きれるでしょう。これで……私の役目は……おわ……った……』


 あの聖龍の娘への溺愛っぷりは周知の事実だ。

 ならば、ハルシャは必ず選ぶはずだ。

 使命よりも娘の命を。


『あとはあの方が……アジル様が……必ず我らの宿願を……果たしてくれる……』


 最後にモルダは満足げに眼鏡のズレを直す。


『さようなら……“守護聖龍”の御息女よ。……願わくば、アナタの呪いが解除されること……を……祈……って……』


 カクン、と。糸の切れたように、モルダは倒れ、死んだ。



◇◆◇◆◇



 そして―――。


「……む」


 聖地の最奥に備えられた台座の上で、彼は蛇の様にとぐろを巻きながら、結界の維持のみに意識を集中させていた。

 もし、それを妨げようものなら、たとえ同族であっても彼は容赦なく処断するだろう。

 それ程に、今の彼は気が立っていた。

 が、その表情に異変が起こる。


「これは……?」


 彼―――聖龍ハルシャ・ルードは直ぐにその異変に気付いた。

 結界のみに集中するはずの彼が唯一意識を向ける存在。

 それは何よりも愛しい愛娘。


「まさか…………エルジャッ!」



◇◆◇◆◇


 

 そして、エルド鉱山にて―――。


「さあ、どちらを選ぶ、聖龍ハルシャ。自らの使命か、それとも娘の命か……もっとも、君はとっくに答えを出しているだろうけどね。でなければ、娘を作ったりなどしないだろう」


 笑うアジルに対し、ヤムゥは露骨に顔を顰める。


「気に入らねぇやり方だな……子を盾に取るなんてよ」


 吐き捨てる様な口調。

 それは同じく子を持つ親としての意見なのか。

 アジルは苦笑を浮かべる。


「そう言わないでくれ。僕にだって余裕はないんだ。使える手段はどんな手段だろうと使う。だからこそ……次の一手だ」


 彼は手に持った魔剣グラムを地面に突き刺す。


「さあ、魔剣グラムに内蔵されている“ダンジョン破壊”術式よ……起動せよ」


 アジルがそう呟くと、魔剣グラムが光り輝いた。

 凄まじい地震が起こる。

 グラグラと揺れながら、周囲の壁や天井が崩れ出す。

 ブッシュゥゥ!と、ひび割れた地面から湯気のようなモノが噴き出してくる。

 それはラセツが発現したのと同じ、可視化される程の濃密な魔力だ。


「成功だ……星脈の一部を、書き換える事に成功した」


 星脈のダンジョンは、星脈の管理を行うために造られたダンジョン。

 それ故に、その構造は星脈と深く結びついてる。

 アジルは魔剣グラムに内蔵された“ダンジョン破壊”機能を使い、その一部に介入したのだ。

 

「介入出来たのは全体の一割以下だが、それでも十分だ。さあ、その莫大な魔力を貰い受けようか」


 アジルは口を開け、あふれ出た魔力を吸い込む。

 ―――ドクンと、彼の体が大きく脈打った。

 流れ込んでくる強大な魔力。

 それがウネリとなって彼の中で暴れているのだ。


「―――っ。凄まじい力だね……でも、これだけの魔力が無ければこれから行う術式は発動できない」


 アジルは全身を引き千切られる様な痛みになんとか耐える。

 それ程の魔力が無ければ、この魔術は発動できないからだ。


「感謝しなくてはいけないね……。彼女―――賢者エリベル・レーベンヘルツに」


 両の手を合わせる。

 すると、幾つもの複雑な魔術陣が彼の周りに展開した。


「彼女のもたらしたこの術式は、まさしく僕らにとっての福音だった……」


 その数はさらに増え、目を覆う程の光が彼を包み込む。


「さあ、僕の全盛期の力を取り戻そう。その力を持って、僕は聖地を……そして星脈のダンジョンを手に入れる。―――この世界を……あるべき姿に戻す!」


 彼は告げる。

 その術式の名を。

 

「―――“禁術・聖域踏破”発動」


 そして、エルド鉱山の崩壊と共に、巨大な獣が姿を現した。




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